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メンタルヘルスの経済損失はいくら?市場データが示す心の病と生産性の関係

「メンタルヘルスの不調」と聞くと、個人の問題だと捉えられがちです。しかし、その影響は個人にとどまらず、企業、ひいては国全体の経済にまで深刻な影響を及ぼしています。うつ病などが原因で生じる日本の経済的損失は年間数兆円規模にのぼるとの試算もあり、企業の生産性を著しく低下させる要因となっています。

この記事では、メンタルヘルスの問題が引き起こす経済的なインパクトについて、国内外のデータをもとに詳しく解説します。また、世界的に拡大するメンタルヘルスケア市場の動向や、国や企業が取り組む「健康経営」、そして個人でできるセルフケアの方法にも触れていきます。

もし、心の不調を抱えながら働くことに不安を感じているなら、「就労継続支援B型」という選択肢が、新たな一歩を踏み出すための大きな支えになるかもしれません。自分のペースで心と体を整えながら、社会とのつながりを取り戻す方法について、一緒に考えていきましょう。

メンタルヘルスが経済に与える深刻な影響とは

メンタルヘルスの不調は、今や個人の健康問題というだけでなく、社会経済全体にとって無視できない課題となっています。心の健康が損なわれることで、医療費や福祉サービスのコストが増大するだけでなく、労働力の質が低下し、経済成長の足かせとなるためです。特に、働く世代がメンタルヘルスの問題を抱えることは、企業の生産性に直接的な打撃を与えます。ここでは、日本国内における具体的な経済損失の規模と、企業活動に影を落とす「アブセンティーイズム」「プレゼンティーイズム」という2つの概念について詳しく見ていきましょう。

日本の経済損失 うつ病などがもたらす社会的コスト

日本において、メンタルヘルスの不調がもたらす経済的損失は、非常に深刻なレベルにあります。ある研究では、うつ病による年間の社会的コストは、医療費、休職や生産性低下による労働損失などを合わせると、約2.7兆円にものぼると推計されています。この社会的コストは、大きく3つに分類されます。

直接費用
うつ病などの治療に直接かかる医療費や、関連する医薬品の費用を指します。
罹患関連費用(労働損失)
病気による休業や、症状を抱えながら働くことによる生産性の低下(プレゼンティーイズム)、さらには早期退職や失業による損失が含まれます。この労働損失が、社会的コストの大部分を占めているのが実情です。
死亡関連費用(自殺による損失)
うつ病などが原因で自ら命を絶ってしまった場合、その人が将来にわたって生み出すはずだった経済的価値が失われます。これは、社会にとって計り知れない損失です。

これらのコストは、個人の生活を脅かすだけでなく、企業の収益を圧迫し、国の社会保障費を増大させる要因となります。メンタルヘルス対策は、人々の幸福のためだけでなく、持続可能な社会経済を維持するためにも不可欠な投資と言えるのです。

企業の生産性を下げるアブセンティーイズムとプレゼンティーイズム

企業の生産性を考える上で、メンタルヘルスの問題は「アブセンティーイズム」と「プレゼンティーイズム」という2つの形で影響を及ぼします。これらは従業員の健康状態が企業の業績にどう関わるかを示す重要な指標です。

アブセンティーイズム(Absenteeism)
心身の不調を理由とした欠勤や休職のことです。勤怠記録で把握しやすく、目に見える損失と言えます。
プレゼンティーイズム(Presenteeism)
出勤はしているものの、うつ病や不安障害、アレルギー、頭痛といった心身の不調が原因で、本来のパフォーマンスが発揮できない状態を指します。

多くの企業は欠勤率の高さ(アブセンティーイズム)を問題視しがちですが、経済産業省などの調査によると、本当に深刻なのはプレゼンティーイズムによる損失です。周囲からは「仕事をしている」ように見えるため問題が表面化しにくく、気づかないうちに組織全体の生産性が大きく低下しているケースが少なくありません。ある試算によれば、プレゼンティーイズムによる企業の損失額は、アブセンティーイズムの数倍から数十倍にものぼると言われています。つまり、休んでいる従業員よりも、不調を抱えながら無理して働いている従業員の方が、結果的により大きな経済的損失を生んでいる可能性があるのです。

項目 アブセンティーイズム プレゼンティーイズム
状態 病気で欠勤している状態 出勤しているが不調で生産性が低い状態
可視性 勤怠データで把握しやすく「見える」 周囲から気づかれにくく「見えない」
影響 個人の労働力の損失 チーム全体のパフォーマンス低下、ミスの増加
経済損失 比較的小さい 非常に大きい

この「見えない損失」であるプレゼンティーイズムをいかに減らしていくかが、今後の企業経営における重要な鍵となります。

世界のメンタルヘルスケア市場とその将来性

メンタルヘルスの問題が世界的な課題となる中、その対策やケアに関連する市場は急速な成長を遂げています。テクノロジーの進化も後押しし、カウンセリングアプリやオンラインセラピー、企業の従業員支援プログラム(EAP)など、多様なサービスが登場しています。ここでは、拡大を続ける世界のメンタルヘルスケア市場の規模と、日本における現状と特有の課題について解説します。

拡大を続ける世界のメンタルヘルス市場規模

世界のメンタルヘルス市場は、近年目覚ましい成長を見せています。米国の市場調査会社Grand View Researchによると、世界のメンタルヘルス市場規模は2023年に4,352億米ドルと評価され、2024年から2030年にかけて年平均成長率(CAGR)3.7%で拡大することが予測されています。この市場拡大の背景には、いくつかの要因があります。

  • 意識の向上メンタルヘルスへの偏見が薄れ、心の健康をケアすることの重要性が広く認識されるようになりました。
  • デジタル技術の進化スマートフォンアプリやウェアラブルデバイス、AIなどを活用した「メンタルヘルス・テック」が台頭し、手軽にセルフケアや専門家のサポートを受けられる環境が整いつつあります。
  • 新型コロナウイルス感染症の影響パンデミックによる社会的な孤立や将来への不安から、世界的にメンタルヘルスの不調を訴える人が急増し、ケアの需要が一気に高まりました。
  • 企業の健康投資の増加従業員のメンタルヘルスが生産性に直結するという認識が広まり、企業が従業員支援プログラム(EAP)などに積極的に投資するようになっています。

このように、メンタルヘルスケアはもはや一部の人のための特別なものではなく、誰もが利用しうるサービスとして、巨大な成長市場を形成しているのです。

日本におけるメンタルヘルスケアの現状と課題

世界的に市場が拡大する一方で、日本のメンタルヘルスケアにはいくつかの課題が存在します。日本の市場も、矢野経済研究所の調査によれば、ストレスチェック義務化などを背景に従業員のメンタルヘルス対策関連サービスを中心に拡大傾向にあります。しかし、OECD(経済協力開発機構)の報告書では、日本のメンタルヘルスケアにおける課題も指摘されています。

  • 課題1:治療偏重の構造日本では、精神科病床数が他の先進国と比較して突出して多く、不調が深刻化してからの「治療」に重点が置かれがちです。一方で、問題が起こる前の「予防」や、不調の早期発見・早期対応への投資はまだ十分とは言えません。
  • 課題2:相談への心理的・物理的ハードル「精神科やカウンセリングに行くのは抵抗がある」という根強い偏見や、専門家に相談する文化が定着していないことが、支援へのアクセスを妨げています。また、都市部に比べて地方では専門の医療機関やカウンセラーが少なく、物理的なアクセス格差も問題です。
  • 課題3:担い手の不足公認心理師や臨床心理士といった専門家の数は増えているものの、高まる需要に対してまだ不足しているのが現状です。特に、学校や企業内で気軽に相談できるカウンセラーの配置は、まだ十分に進んでいません。

これらの課題を解決し、誰もが必要な時に適切なサポートを受けられる社会を築くことが、今後の日本にとって重要なテーマとなっています。

生産性向上の鍵 企業と個人ができるメンタルヘルス対策

メンタルヘルス不調による経済的損失を防ぎ、生産性を向上させるためには、企業と個人がそれぞれの立場で対策に取り組むことが不可欠です。企業は従業員が安心して働ける環境を整備し、個人は自分自身のストレスに気づき、適切に対処するスキルを身につけることが求められます。ここでは、企業が取り組むべき「健康経営」と、私たち一人ひとりが実践できる「セルフケア」の具体的な方法について見ていきましょう。

健康経営の推進と職場環境の改善

近年、多くの企業が注目しているのが「健康経営」という考え方です。これは、従業員の健康管理を経営的な視点で捉え、戦略的に実践することで、組織の活性化や生産性の向上、さらには企業価値の向上を目指す取り組みです。経済産業省では、特に優れた健康経営を実践している企業を「健康経営銘柄」や「健康経営優良法人」として認定する制度を設けており、社会的な評価も高まっています。

健康経営における具体的な取り組みには、以下のようなものがあります。

  • ストレスチェック制度の活用年に一度のストレスチェックを形式的に行うだけでなく、その結果を分析し、職場環境の改善に活かすことが重要です。高ストレス者が多い部署の原因を特定し、業務量の調整やコミュニケーションの活性化などの対策を講じます。
  • 相談しやすい体制の整備産業医や保健師、カウンセラーなどが常駐する相談室を設置したり、外部のEAP(従業員支援プログラム)を導入したりして、従業員が匿名で気軽に相談できる窓口を設けます。
  • 長時間労働の是正ノー残業デーの徹底や、勤務間インターバル制度の導入など、従業員が心身を十分に休ませる時間を確保するための制度を整えます。
  • 管理職への教育(ラインケア)部下の異変に早期に気づき、適切な対応ができるよう、管理職を対象としたメンタルヘルス研修を実施します。部下からの相談の受け方や、専門家へつなぐ方法などを学びます。

こうした取り組みは、従業員のエンゲージメント(仕事への熱意や貢献意欲)を高め、プレゼンティーイズムの改善、ひいては企業全体の生産性向上に繋がります。

ストレスと上手に付き合うためのセルフケア

企業による環境整備と同時に、私たち一人ひとりが自分自身の心の健康を守るための「セルフケア」を実践することも非常に重要です。厚生労働省のポータルサイト「こころの耳」などでも、様々なセルフケアの方法が紹介されています。日常生活の中で気軽に取り入れられるセルフケアの例をいくつかご紹介します。

  • 質の良い睡眠を確保する心と体の疲れをとる基本です。就寝前にスマートフォンを見るのをやめ、リラックスできる環境を整えましょう。
  • バランスの取れた食事を心がける特に、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの材料となるトリプトファン(肉、魚、大豆製品など)や、ビタミンB群を意識して摂ると良いでしょう。
  • 適度な運動を習慣にするウォーキングやジョギングなどのリズミカルな運動は、気分を前向きにする効果が期待できます。週に数回、30分程度から始めてみましょう。
  • リラックスできる時間を持つ仕事や家事から離れ、趣味に没頭したり、音楽を聴いたり、ゆっくり入浴したりと、自分が心から「ホッ」とできる時間を作ることが大切です。
  • 信頼できる人と話す悩みや不安を一人で抱え込まず、家族や友人、同僚など、信頼できる人に話を聞いてもらうだけでも、心は軽くなるものです。

大切なのは、「ストレスをゼロにする」ことではなく、「自分に合ったストレス解消法をいくつか持っておく」ことです。調子が悪いと感じたら早めにセルフケアを実践し、それでも改善しない場合は、決して無理せず専門家や支援機関に相談するようにしましょう。

心の不調を抱えながら働くことへの不安を感じたら

企業や個人での対策が重要である一方、メンタルヘルスの不調が深刻で、すぐに一般の職場で働くことに困難や不安を感じる方も少なくありません。「周りに迷惑をかけてしまうのではないか」「また体調を崩してしまうかもしれない」といった不安から、社会復帰への一歩が踏み出せない方もいらっしゃるでしょう。そのような時、無理に一般就労を目指すのではなく、一度立ち止まって自分のペースで再出発できる場所があります。それが「就労継続支援B型事業所」という福祉サービスです。

自分のペースで再出発 就労継続支援B型という選択肢

就労継続支援B型とは、障害や難病のある方が、一般企業で働くことが困難な場合に、生産活動を通じて就労に必要な知識や能力の向上を目指すことができる福祉サービスです。最大の特徴は、利用者一人ひとりの体調や障害の特性に合わせて、無理なく自分のペースで働くことができる点にあります。

  • 雇用契約を結ばない柔軟な働き方A型事業所や一般企業とは異なり、雇用契約を結びません。そのため、「週に1日、2時間だけ」といった短時間からの利用が可能です。まずは心と体を慣らすことから始めたいという方に最適です。
  • 体調に合わせた利用が可能通院や急な体調不良などがあっても、柔軟にスケジュールの調整ができます。「働かなければ」というプレッシャーを感じすぎることなく、安心して通うことができます。
  • 多様な仕事内容事業所によって様々ですが、データ入力や軽作業、部品の組み立て、カフェの店員、農作業、オリジナルグッズの制作・販売など、多岐にわたる仕事が用意されています。自分の興味や得意なことを見つけるきっかけにもなります。
  • 工賃(給料)の支給生産活動に対する対価として、工賃が支払われます。金額は高くはありませんが、働く喜びや社会とのつながりを感じる上で、大切な収入となります。

就労継続支援B型は、社会から離れてしまった状態から、もう一度「働く」ことを通じて社会との接点を作り、自信を取り戻していくためのリハビリテーションの場と考えることができます。

安定した環境でスキルアップを目指す

就労継続支援B型事業所は、ただ作業をするだけの場所ではありません。利用者が安心して過ごし、次のステップに進むためのスキルを身につけられるよう、様々なサポート体制が整っています。

  • 専門の支援員によるサポート事業所には、社会福祉士や精神保健福祉士などの資格を持つ専門の支援員が常駐しています。仕事でわからないことがあればすぐに質問できますし、仕事以外の生活上の悩みや将来についての不安なども気軽に相談できます。
  • 安心できる居場所としての役割同じような悩みや経験を持つ仲間と出会えることも、B型事業所の大きな魅力です。互いに支え合い、励まし合う中で、孤独感が和らぎ、安心して過ごせる「自分の居場所」を見つけることができます。
  • スキルアップの機会多くの事業所では、ビジネスマナーやPCスキル(Word、Excelなど)、デザインソフトの使い方といった、将来の就労に役立つスキルを学ぶためのプログラムを提供しています。働きながら、自分の可能性を広げることができるのです。
  • 次のステップへの架け橋B型事業所での経験を通じて自信をつけ、より本格的な就労を目指したくなった場合には、就労継続支援A型事業所や一般企業への就職(一般就労)に向けたサポートを受けることも可能です。B型事業所は、キャリアプランを再構築するための重要な通過点となり得ます。

もし心の不調を抱え、働くことに一歩踏み出せずにいるなら、まずは地域の就労継続支援B型事業所に相談してみることを検討してみてはいかがでしょうか。

関西で就労支援をお探しならオリーブにご相談ください

この記事では、メンタルヘルスの問題が経済に与える影響から、企業や個人ができる対策、そして不安を抱える方のための就労継続支援B型事業所という選択肢について解説しました。

もしあなたが関西エリア(大阪、兵庫、京都、奈良)にお住まいで、「自分のペースで働ける場所を探している」「社会復帰に向けて、まずは相談から始めたい」とお考えでしたら、私たち就労継続支援B型事業所オリーブにご相談ください。

オリーブでは、PC作業や軽作業、デザイン業務など、一人ひとりの興味や適性に合わせた様々なお仕事を用意しています。経験豊富な支援員が、仕事のことはもちろん、生活面での不安や将来のキャリアについても、親身に寄り添いながらサポートします。

見学や体験利用も随時受け付けておりますので、まずは事業所の雰囲気を感じてみることから始めてみませんか。下記サイトより、お近くの事業所へお気軽にお問い合わせください。あなたからのご連絡を、スタッフ一同心よりお待ちしております。

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