あなたも「第二の患者」かもしれない 精神障害のある家族を支える人が知るべきセルフケア

精神に障害のある大切な家族を支える中で、ご自身の心の健康を後回しにしていませんか? 「自分がしっかりしなければ」「この子のことを一番わかっているのは私だけ」と、一人ですべてを背負い込み、知らず知らずのうちに心と体が悲鳴を上げているかもしれません。
精神障害のある人を介護する家族は、その過酷な状況から心身の不調に陥りやすく、「第二の患者」と呼ばれることがあります。これは決して特別なことではなく、誰にでも起こりうる問題です。特に日本では、家族のサポートに頼る場面が多く、その負担は計り知れません。
この記事では、まず「第二の患者」とは何か、そしてヤングケアラーやきょうだい児といった若い世代が抱える問題にも焦点を当て、なぜ支える側が追い詰められてしまうのか、その背景を深く掘り下げます。
その上で、ご家族が自分自身を守るために今日から始められる具体的なセルフケアの方法や、利用できる公的な支援、そして私たち就労継続支援B型事業所がご家族の負担をどう軽減できるのかを詳しく解説します。この記事が、あなたの心を少しでも軽くし、「一人ではない」と感じるきっかけになることを願っています。
「第二の患者」とは 精神障害のある家族を支える人の心身の負担
「第二の患者(the second patient)」とは、病気や障害のある本人のケアに追われる家族が、まるで二人目の患者のように心身の健康を損なってしまう状態を指す言葉です。これは、献身的なサポートの裏側で静かに進行する、深刻な問題です。
介護者自身が心身の不調に陥るリスク
精神障害のある家族のケアは、終わりが見えにくいという特徴があります。症状の波に一喜一憂し、将来への不安を抱えながら、日々の対応に追われる生活は、介護者の心身に大きなストレスを与え続けます。
ある調査では、精神障害のある人の家族は、一般の人に比べてうつ病や不安障害を発症するリスクが高いことが示されています。具体的には、以下のような不調が現れることがあります。
【家族に現れやすい心身の不調】
- 精神的な症状
- 不安感、抑うつ、イライラ、不眠、集中力の低下、無気力、孤独感
- 身体的な症状
- 頭痛、肩こり、めまい、動悸、胃痛、食欲不振、原因不明の倦怠感
こうした症状は、単なる「疲れ」として見過ごされがちです。しかし、これが慢性化することで、介護者自身の生活の質(QOL)が著しく低下し、本来の日常生活を送ることさえ困難になってしまうのです。大切な家族を支えるためにも、まずは支える側が健康であることが何よりも重要です。
ヤングケアラーやきょうだい児が抱える問題
家族のケアを担うのが、子どもや若い世代である場合、その問題はさらに複雑化します。
ヤングケアラー
本来なら大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話などを日常的に行っている18歳未満の子どもを「ヤングケアラー」と呼びます。こども家庭庁の調査では、世話をしている家族がいると回答した中学生はクラスに1〜2人いるという結果も出ており、決して稀な存在ではありません。
彼らは、自身の勉強時間の確保が難しくなったり、友人関係を築く機会を失ったりと、子どもらしい生活を送ることができず、心身の発達やその後の進学・就職にも大きな影響が及ぶことがあります。
きょうだい児
病気や障害のある兄弟姉妹を持つ子どもは「きょうだい児」と呼ばれます。親の関心や時間がどうしても障害のある兄弟姉妹に集中しがちなため、寂しさや孤独感を感じやすくなります。また、「自分は親に迷惑をかけてはいけない」という思いから、甘えたい気持ちや辛い気持ちを無意識に抑え込み、聞き分けの良い「いい子」でいようと振る舞う傾向があります。
成長するにつれて、「自分の将来や結婚は、兄弟のことがあるから諦めなければいけないのではないか」といった、特有の悩みを抱えることも少なくありません。
ヤングケアラーやきょうだい児が抱える負担は、家庭内の問題として表面化しにくく、本人たちもSOSを出すことに慣れていないため、周囲がその困難に気づき、寄り添う視点が不可欠です。
なぜ支える側がセルフケアを後回しにしてしまうのか
多くの家族が、自分自身のケアの重要性を頭では理解しながらも、実際には後回しにしてしまいます。その背景には、単純な時間不足だけではない、深刻な心理的・社会的要因が存在します。
「自分が頑張らなければ」という責任感と孤独
「この子のことを一番理解しているのは自分だ」
「自分がしっかりしないと、この家族は崩壊してしまう」
こうした強い責任感は、家族を支える大きな原動力となる一方で、自分自身を追い詰める刃にもなります。特に、精神障害への社会的な偏見が根強い中では、「家の恥を外に晒したくない」「他人に話しても理解してもらえない」という思いから、問題を家庭内だけで抱え込みがちです。
誰にも相談できず、社会から孤立した状況では、「頼れるのは自分しかいない」という思いがますます強固になります。この責任感と孤独の悪循環が、外部の支援に助けを求めるという選択肢を遠ざけてしまうのです。
経済的な負担と将来への不安
精神障害のある家族を支える生活は、経済的な問題と切り離せません。
【具体的な経済的負担】
- 直接的な費用
- 医療費、薬代、カウンセリング費用など。公的な補助(自立支援医療制度など)があっても、負担がゼロになるわけではありません。
- 間接的な費用
- 介護のために家族が仕事を辞めたり、労働時間を減らしたりすることによる収入の減少。
- 将来への不安
- 本人の将来の生活費や、親亡き後のための資金準備など、終わりが見えない経済的なプレッシャー。
日々の生活費や医療費を捻出し、さらに先の見えない将来のために備えなければならないというプレッシャーは、精神的に大きな重荷となります。自分のためにお金や時間を使うことに罪悪感を覚えてしまい、「自分のことは後回しでいい」と考えやすくなるのです。
家族が今日からできるセルフケアの具体的な方法
追い詰められた状況から抜け出すためには、意識的に自分自身をケアする時間を作ることが不可欠です。ここでは、今日からでも始められるセルフケアの具体的な方法をご紹介します。
自分のための時間を意識的に確保する
介護から物理的・心理的に離れる時間を持つことは「レスパイト(respite=一時的中断、休息)」と呼ばれ、非常に重要です。
- 小さなことから始める
- まずは「1日15分だけ、自分の好きなことをする」と決めてみましょう。好きな音楽を聴く、ゆっくりお茶を飲む、読書をするなど、どんな些細なことでも構いません。意識的に「介護以外の自分」を取り戻す時間を作ることが大切です。
- 公的サービスを利用する
- 一時的に介護を代替してくれるサービスを利用するのも有効です。市町村の障害福祉課などに相談すれば、短期入所(ショートステイ)や居宅介護(ホームヘルプ)といったサービスを紹介してもらえます。こうしたサービスを利用することは、決して「介護の放棄」ではありません。家族が休息を取り、再びエネルギーを充電するための、賢明な選択です。
一人で抱え込まない 外部のサポートを頼る
家庭だけで問題を抱え込む必要はありません。客観的な視点を持つ専門家のサポートを積極的に活用しましょう。
【主な公的相談窓口】
| 相談窓口 | 特徴 |
|---|---|
| 精神保健福祉センター | 各都道府県・指定都市に設置されている専門機関。精神保健に関する幅広い相談に対応してくれます。 |
| 保健所・保健センター | より地域に密着した相談窓口。保健師などが個別相談に応じてくれます。 |
| 相談支援事業所 | 障害福祉サービスの利用計画(プラン)作成などを手伝ってくれる専門機関。利用できるサービスの情報提供も受けられます。 |
| 発達障害者支援センター | 発達障害に特化した相談機関。本人だけでなく、家族からの相談も受け付けています。 |
専門家に話すことで、具体的なアドバイスが得られるだけでなく、「話を聞いてもらえた」という事実そのものが、心の重荷を軽くしてくれます。
適切な距離感を保ち共倒れを防ぐ
愛情が深いからこそ、本人のことに過剰に関与してしまう「過干渉」に陥りやすくなります。しかし、良かれと思ってやったことが、本人の自立の機会を奪い、結果的に家族の負担を増やしてしまうことも少なくありません。
大切なのは、「これは本人の課題、これは自分の課題」と境界線を引くことです。本人が自分でできること、自分で決めるべきことには手や口を出さず、見守る姿勢も必要です。
冷たく聞こえるかもしれませんが、家族と本人がお互いに依存しすぎず、それぞれが一人の人間として自立した関係を築くことが、結果的に「共倒れ」を防ぎ、長く続くサポートを実現するために不可欠なのです。
家族と本人のための相談先と利用できる支援
セルフケアと並行して、家族と本人の両方を支える社会資源を活用していくことが重要です。孤立しがちな家族にとって、同じ悩みを持つ仲間や、日中の時間を安心して任せられる場所の存在は大きな支えとなります。
家族会や自助グループへの参加
同じ立場にある家族同士が集まり、悩みや情報を分かち合う場が「家族会」や「自助グループ」です。全国組織や、各地域の精神保健福祉センターなどが窓口となって活動しています。
【参加するメリット】
- 孤独感の解消
- 「悩んでいるのは自分だけじゃない」と感じることができ、精神的な孤立から抜け出すきっかけになります。
- 情報交換
- 利用できる制度や、評判の良い病院、本人への効果的な接し方など、当事者ならではの貴重な情報を交換できます。
- 気持ちの共有
- 専門家には話しにくい本音や愚痴も、同じ経験を持つ仲間だからこそ気兼ねなく話せ、気持ちが楽になります。
家族会は、頑張りを認め合い、お互いをねぎらうことができる、貴重な「心の安全基地」となり得ます。
就労継続支援B型事業所が家族の負担を軽減する役割
ご本人が日中を過ごす場所として、「就労継続支援B型事業所」の利用は、ご家族の負担を軽減する上で非常に大きな意味を持ちます。
B型事業所は、障害のある方が軽作業などを行いながら工賃を得られる福祉サービスですが、その役割はそれだけではありません。
- 家族のレスパイト(休息)時間を確保
- ご本人が日中に事業所へ通うことで、ご家族は物理的に介護から解放され、自分の仕事や休息、趣味のための時間を確保できます。この「自分の時間」が、心の余裕を取り戻す上で大きな効果をもたらします。
- 専門家による見守りという安心感
- 事業所には、福祉の専門知識を持った支援員が常駐しています。日中のご本人の様子を専門家が見守ってくれているという事実は、ご家族にとって大きな安心材料となります。何かあれば相談できる相手がいることも、精神的な支えになります。
- 家庭以外の世界との繋がり
- ご本人が家庭以外の場所で人間関係を築き、作業を通じて役割を持つことは、本人の自立心を育みます。本人が少しずつでも自立していく姿は、ご家族にとって何よりの喜びであり、将来への過度な不安を和らげることに繋がります。
このように、B型事業所は、ご本人への支援を通じて、間接的にご家族の生活全体を支えるという重要な役割を担っているのです。
ご家族だけで悩まずに関西の就労継続支援B型事業所オリーブへ
もしあなたが、ご家族のことで一人悩み、心身ともに疲れ果てているのなら、どうかその重荷を少しだけ私たちに分けていただけませんか。私たち「就労継続支援B型事業所オリーブ」は、大阪、兵庫、京都、奈良の関西エリアで、障害のある方の「働きたい」という気持ちをサポートしています。
私たちは、ご本人の支援はもちろんのこと、そのご家族が抱える負担や不安にも寄り添いたいと考えています。オリーブがご本人にとって安心して通える「日中の居場所」になることで、ご家族がご自身の時間を取り戻し、心に余裕を持って生活できるようになる。それも私たちの重要な役割です。
ご家族からのご相談も随時お受けしております。「本人が利用できるか知りたい」というご相談はもちろん、「家族としてどう接すればいいか分からない」といったお悩みでも構いません。見学も可能ですので、まずは事業所の雰囲気を感じてみてください。ご連絡を心よりお待ちしています。
