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なぜ障害者雇用は1年で半数近くが辞めるのか?法定雇用率の達成がゴールではない理由

障害者雇用促進法に基づき、企業は一定の割合で障害のある方を雇用することが義務付けられています。近年、企業の意識向上もあり、障害者雇用数は年々増加しています。しかし、その裏側で看過できない問題が起きています。それは、採用された障害のある方々の「早期離職」です。

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の調査によると、就職後1年で離職してしまう障害のある方の割合は、精神障害者で約4割にも上ります。企業は多大なコストと労力をかけて採用活動を行い、法定雇用率を達成したにもかかわらず、なぜこれほど多くの方が短期間で職場を去ってしまうのでしょうか。

この記事では、まず障害者雇用における高い離職率の実態と、特に精神障害のある方の定着が難しい背景をデータと共に解説します。次に、早期離職につながる具体的な理由を「仕事内容」「人間関係」「合理的配慮」の3つの観点から深掘りします。

さらに、企業が定着率を高めるために具体的に何をすべきか、そしてこれから就職を目指す障害のある方自身が、長く働き続けるためにどのような準備ができるのかを詳しくご紹介します。この記事を読めば、法定雇用率の数字を達成するだけでは見えてこない、障害者雇用の本質的な課題と、その解決策が見つかるはずです。

障害者雇用の実態 高い離職率の背景

障害者雇用は、法律で定められた企業の社会的責任であり、年々雇用者数は増加傾向にあります。しかし、採用数の増加という「量」の側面に注目が集まる一方で、採用された人が職場で長く活躍するという「質」の側面には、依然として大きな課題が残されています。

法定雇用率の達成と定着率の課題

障害者雇用促進法により、民間企業には従業員数に応じて一定の割合(法定雇用率)で障害者を雇用することが義務付けられています。厚生労働省の発表によると、この法定雇用率は段階的に引き上げられており、多くの企業がその達成に向けて採用活動を強化しています。

結果として、ハローワークを通じた障害者の就職件数は年々増加しており、一見すると障害者雇用は順調に進んでいるように見えます。しかし、その内実を見ると、採用後の「職場定着」に大きな問題を抱えていることがわかります。

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)の調査研究では、障害のある方が就職後1年以内に離職する割合が非常に高いことが示されています。採用はゴールではなく、スタート地点に過ぎません。採用した人材が安心して能力を発揮し、長く働き続けられる環境をいかに作るかという「定着率」の視点が、これからの障害者雇用における最大のテーマなのです。

精神障害者の離職率が特に高い現状

障害種別ごとに離職率を見ると、特に精神障害のある方の定着が難しい現状が浮かび上がります。

障害種別 1年後職場定着率
身体障害者 約6割
知的障害者 約7割
精神障害者 約5割
発達障害者 約7割

データが示すように、精神障害のある方は、他の障害種別に比べて1年後の職場定着率が著しく低い傾向にあります。これは、精神障害の特性が「外見から分かりにくい」「症状に波がある」「対人関係や環境の変化に敏感」といった点に起因すると考えられます。

職場の上司や同僚が障害特性への理解を十分に持てないまま、他の従業員と同じような対応をしてしまうことで、本人が過度なストレスを感じ、体調を崩して離職に至るケースが後を絶ちません。採用数を増やすだけでなく、特に精神障害のある方が安心して働ける環境をどう整備するかが、企業にとって急務の課題と言えるでしょう。

障害のある方が早期離職に至る主な理由

では、なぜ多くの方が短期間で職場を去ってしまうのでしょうか。その理由は一つではなく、複数の要因が複雑に絡み合っています。ここでは、代表的な3つの理由について詳しく見ていきます。

仕事内容や職場環境のミスマッチ

早期離職の最も大きな原因の一つが、入社前に聞いていた仕事内容や想定していた職場環境との「ミスマッチ」です。

仕事内容のミスマッチ
「簡単な事務作業と聞いていたのに、実際には複雑な判断を求められる業務や、頻繁な電話応対が必要だった」「自分のペースでできる仕事だと思っていたが、常に時間に追われ、プレッシャーが大きかった」など、本人の得意・不得意や能力と、任される業務内容が合わないケースです。
職場環境のミスマッチ
「静かな環境で集中できると聞いていたが、実際は周りの話し声や騒音が大きく、仕事に集中できなかった」「休憩室がなく、気持ちを切り替える場所がなかった」など、物理的な環境が障害特性に合わないことも、大きなストレス要因となります。

こうしたミスマッチは、採用段階での企業側の説明不足や、本人側の自己分析・企業研究の不足によって生じます。お互いの期待値がずれたまま入社してしまうと、本人は「こんなはずではなかった」と感じ、企業側は「期待したパフォーマンスを発揮してくれない」と感じるという、不幸なすれ違いが起きてしまうのです。

人間関係の悩みとコミュニケーション不足

仕事内容や環境以上に、離職の引き金となりやすいのが人間関係の問題です。障害特性への無理解からくる、心ない言葉や態度に傷ついたり、職場で孤立感を深めてしまったりするケースは少なくありません。

コミュニケーションの壁
「指示が曖昧で、何をすればいいのか分からない」「相談したいことがあっても、誰に、どのタイミングで話しかければいいか悩んでしまう」「雑談の輪に入れず、孤独を感じる」など、精神障害や発達障害のある方は、円滑なコミュニケーションに困難を抱えることがあります。
誤解や偏見
「やる気がない」「怠けている」といった誤解を受けたり、「障害があるから」と過剰に気を遣われ、重要な仕事から外されたりすることも、本人の自尊心を傷つけ、働く意欲を削いでしまいます。

職場での孤立は、本人が困りごとを一人で抱え込み、問題が深刻化するまで誰にも相談できない状況を生み出します。日頃からの双方向のコミュニケーションと、お互いを尊重し合う関係性の構築が、定着のためには不可欠です。

必要な合理的配慮が提供されない

2024年4月から、事業者による障害者への「合理的配慮」の提供が義務化されました。合理的配慮とは、障害のある人が他の従業員と平等に働けるように、個々の状況に応じて行われる調整や変更のことです。この配慮が適切に提供されないことも、離職の大きな原因となります。

業務の指示
口頭だけでなく、メールやチャットなど、テキストで指示を出す。
作業環境
聴覚過敏のある人に、ノイズキャンセリングヘッドホンの着用を許可する。
勤務時間
通院などに配慮し、時差出勤や短時間勤務を認める。
休憩
疲れやすい特性に合わせ、短い休憩をこまめに取ることを許可する。

しかし、現場では「どこまで配慮すればいいのか分からない」「他の社員との公平性が保てない」といった理由から、必要な配慮が提供されないことがあります。また、本人も「わがままではないか」「迷惑をかけるのではないか」と遠慮して、配慮を求めることをためらってしまうケースも多く見られます。本人と企業が対話を重ね、お互いが納得できる配慮の内容を見つけていくプロセスが極めて重要です。

定着率を高めるために企業ができること

高い離職率は、本人にとってキャリア形成の機会を失うだけでなく、企業にとっても採用や再教育にかかるコストの損失につながります。定着率を高めることは、双方にとって大きなメリットがあります。ここでは、企業が取り組むべき具体的な施策をご紹介します。

採用前の実習や面談による相互理解

入社後のミスマッチを防ぐためには、採用選考の段階で、お互いの理解を深めるプロセスを丁寧に行うことが最も重要です。

職場実習の実施
数日間~数週間、実際に職場で働いてもらう機会を設けます。これにより、本人は実際の仕事内容や職場の雰囲気を体験でき、企業側は本人のスキルや特性を実務の中で確認することができます。
複数回の面談
一度の面接だけで判断するのではなく、人事担当者だけでなく、配属予定部署の上司や同僚も交えて複数回の面談を行います。これにより、本人は様々な立場の社員と話すことで入社後のイメージを具体化でき、現場の社員も一緒に働く仲間として本人への理解を深めることができます。
支援機関との連携
本人が就労移行支援事業所などを利用している場合、その支援員も交えて面談を行うことも有効です。支援員は本人の障害特性や必要な配慮を客観的に把握しているため、企業と本人の間の「橋渡し役」となって、相互理解を円滑に進めてくれます。

相談しやすいサポート体制と環境の整備

入社後、本人が困った時に一人で抱え込まないためのサポート体制を、組織として構築することが定着の鍵を握ります。

メンター制度の導入
配属部署の上司とは別に、業務上の直接の利害関係がない先輩社員を「メンター」としてつけ、定期的に相談できる機会を設けます。「こんなことを聞いてもいいのだろうか」という些細な悩みも気軽に話せる相手がいることは、大きな精神的な支えになります。
相談窓口の明確化
困りごとがあった場合に、誰に相談すればよいのかを明確にし、本人に周知します。直属の上司、人事部、産業保健スタッフなど、複数の相談ルートを用意しておくことが望ましいです。
定期的な面談の実施
上司や人事担当者が、1ヶ月に1回など、定期的に本人と面談する時間を確保します。問題が起きてから話を聞くのではなく、定常的にコミュニケーションを取ることで、本人の様子の変化に早期に気づき、問題が深刻化する前に対処することができます。

障害特性への理解を深める社内研修

障害のある本人へのサポートだけでなく、共に働く周囲の従業員の理解を促進することも同じくらい重要です。特に、配属先の上司や同僚が正しい知識を持つことは、働きやすい職場環境の土台となります。

管理職向け研修
部下となる障害のある社員の能力を最大限に引き出すためのマネジメント方法、適切な業務の切り出し方、効果的な指示の出し方、面談のスキルなどを学びます。
全従業員向け研修
障害の基本的な知識や、コミュニケーションをとる上で配慮すべき点、合理的配慮の考え方などを学びます。「特別な誰か」の問題ではなく、「職場の多様性」という観点から、全社的な理解を深めることが目的です。
当事者による講演
実際に社内で活躍している障害のある社員に講師となってもらい、自身の経験や必要な配慮について語ってもらうことも、他の従業員の共感を呼び、理解を深める上で非常に効果的です。

長く働き続けるために必要な準備とは

企業の努力と同時に、これから就職を目指す障害のある方自身も、自分に合った職場で長く働き続けるために、事前の準備が大切になります。

就労移行支援や就労継続支援の活用

すぐに一般企業で働くことに不安がある場合や、働くためのスキルを身につけたい場合には、公的な福祉サービスである就労支援事業所を活用することが有効な選択肢となります。

就労移行支援
一般企業への就職を目指す方が、ビジネスマナーやPCスキルなどの職業訓練を受けたり、自己分析や企業研究、職場実習などを行ったりする場所です。2年間の利用期間の中で、就職活動をトータルでサポートしてくれます。
就労継続支援
現時点では一般企業で働くことが難しい方が、自分のペースで働きながら工賃を得られる場所です。特にB型事業所は、週1日・短時間からの利用も可能で、まずは働くリズムを整えたい、社会との接点を持ちたいという方にとって、安心して次の一歩を踏み出すための準備の場となります。

自分に合った仕事を見つける自己分析

ミスマッチによる早期離職を防ぐためには、何よりもまず自分自身を深く理解する「自己分析」が欠かせません。

得意なこと・苦手なこと
どのような作業なら集中できるか、逆にどのような作業をすると疲れやすいかを具体的に書き出す。
仕事の環境
どのような環境(静か・にぎやか、一人・チームなど)で最もパフォーマンスが上がるかを考える。
必要な配慮
どのような配慮があれば、安心して働き続けられるかを言語化する。
譲れない条件
給与、勤務地、勤務時間など、仕事を選ぶ上での最低限の条件を整理する。

自分一人でこれらを行うのが難しい場合は、前述の就労支援事業所の支援員や、ハローワークの専門相談員、家族など、第三者の視点を借りながら進めることが大切です。

就職前の準備なら関西の就労継続支援B型事業所オリーブへ

もしあなたが、「いきなり企業で働くのは不安」「自分にどんな仕事が向いているかわからない」「まずは働くことに慣れるところから始めたい」と感じているなら、ぜひ私たち「就労継続支援B型事業所オリーブ」にご相談ください。

オリーブは、大阪、兵庫、京都、奈良など関西エリアで、障害のある方の「働きたい」という気持ちを、一人ひとりのペースに合わせてサポートしています。週1日・短時間からの利用が可能で、データ入力や軽作業など、様々な仕事を通じて、働くことの楽しさや自信を取り戻すお手伝いをします。

経験豊富な支援員が、あなたとの対話を通じて自己分析をサポートし、あなたの「得意」が見つかるよう伴走します。オリーブは、あなたが安心して次のステップに進むための準備ができる場所です。まずは見学から、お気軽にお問い合わせください。ご連絡を心よりお待ちしています。

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