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ヘラルボニーとは?障害者アートを「知的財産」に変え市場価値を生む仕組み

障害のある人が描いたアート作品と聞くと、どのようなイメージを持つでしょうか。「福祉施設で作られたもの」「支援のために買うもの」といったイメージが、まだ根強いかもしれません。しかし、そうした固定観念を覆し、障害者アートを「知的財産」として捉え直すことで、新たな市場価値と作家への正当な対価を生み出している企業があります。それが、株式会社ヘラルボニーです。

ヘラルボニーは、アート作品そのものを販売するのではなく、アートデータを様々な企業の商品やサービスに活用してもらう「ライセンス契約」を軸としたビジネスモデルを構築しました。これにより、作家は原画を手元に残したまま、継続的な収入を得ることが可能になります。

この記事では、福祉の世界に革命を起こすヘラルボニーの仕組みや、なぜこれまで障害者アートが正当に評価されてこなかったのかを解説します。さらに、この動きが障害のある人の働き方や、就労継続支援B型事業所のあり方にどのような可能性をもたらすのかを掘り下げていきます。自分の「好き」や「得意」が仕事になる未来を、一緒に考えてみませんか。

福祉のイメージを覆す株式会社ヘラルボニー

株式会社ヘラルボニーは、従来の「福祉」の枠組みを超え、障害のある作家が描くアート作品に新たな価値を見出し、社会に発信している企業です。彼らの取り組みは、アート、ビジネス、そして福祉の境界線を溶かし、多くの人々の心を動かしています。

「異彩を、放て。」をミッションに掲げるアートライフスタイルブランド

株式会社ヘラルボニーは、2018年に岩手県で設立された企業です。彼らが掲げるミッションは「異彩を、放て。」この言葉には、一人ひとりが持つ個性や、一見すると普通とは違うかもしれない特性を、素晴らしい才能「異彩」として捉え、それが社会で輝く機会を創出したいという強い想いが込められています。

このミッションは、創業者である松田崇弥氏・文登氏の経験に深く根差しています。お二人には自閉症の兄がおり、彼が発する不可解な言葉や、独特のこだわりを持つ姿に、幼い頃はどこか劣等感を感じていたといいます。しかし、ある時、兄が書いた文字の独特なパターンにアートとしての面白さを見出し、「障害は欠落ではない、違いだ」と捉え直したことが、ヘラルボニー創業の原点となりました。

彼らは障害を「できないこと」ではなく「できること」に焦点を当てることで、その人の可能性を最大限に引き出そうとしています。ヘラルボニーは単なるアートエージェンシーではなく、障害のある人の持つ無限の可能性を信じ、社会の認識を変えることを目指すアートライフスタイルブランドなのです。

アート作品を知的財産としてライセンス契約するビジネスモデル

ヘラルボニーの最も革新的な点は、そのビジネスモデルにあります。彼らは、障害のある作家が描いたアート作品を「製品」として売るのではなく、アートの著作権を管理し、様々な企業にデザインとして利用してもらう「知的財産(IP)ビジネス」を展開しています。

具体的には、以下のような仕組みです。

作家との契約
ヘラルボニーは、日本全国の福祉施設や在宅の作家とアートライセンス契約を結びます。
アートデータの管理
契約したアート作品を高品質にデータ化し、知的財産として管理します。
企業へのライセンス提供
様々な企業に対し、商品デザイン、広告、店舗の内装、イベント装飾などにアートデータを利用する権利を許諾(ライセンスアウト)します。
作家への対価の分配
企業から受け取ったライセンス料の一部を、契約に基づいて作家本人や所属する福祉施設に分配します。

このモデルの最大のメリットは、作家が原画を手放す必要がないことです。一度描いた作品が、傘やバッグ、ホテルの壁紙など、様々な形で社会に広がり、そのたびに作家へ継続的に収入がもたらされます。これは、一度きりの売買で終わっていた従来の作品販売とは大きく異なります。

この知財を活用したビジネスモデルは、国際的にも高く評価されています。世界知的所有権機関(WIPO)もヘラルボニーの取り組みを特集し、知的財産が障害のあるアーティストに力を与え、社会の認識を変える力を持つ好事例として紹介しています。

なぜ障害者アートはこれまで正当に評価されなかったのか

ヘラルボニーが登場するまで、障害のある人が描くアート作品の多くは、その芸術的価値に見合った評価を受けているとは言えない状況にありました。その背景には、社会に深く根付いた「福祉」というフィルターの存在があります。

「福祉」や「支援」の文脈で語られる作品たち

これまで、障害のある人が制作したアートや製品は、どうしても「福祉作業所で作られたもの」「リハビリの一環」といった文脈で語られがちでした。作品そのもののクオリティや魅力よりも、誰が描いたか、どこで作られたかという背景が先に立ってしまうのです。

これにより、作品はアート市場ではなく、福祉バザーやチャリティイベントといった限られた場所で販売されることが多くなりました。そこでは、作品はあくまで「福祉活動の成果物」として扱われ、純粋なアート作品として評価される機会は極めて少なかったのです。

ヘラルボニーの創業者が感じたのも、まさにこの点への違和感でした。兄の作品に強烈な魅力を感じた彼らにとって、それが「障害者」というフィルターを通してしか見られない社会の現状は、大きな課題だったのです。作品に秘められた純粋なエネルギーや才能が、「福祉」という言葉の影に隠されてしまっていました。

アートとしての価値ではなく「かわいそう」という同情的な購入

「福祉」という文脈は、作品を購入する側の動機にも影響を与えてきました。「頑張っているから応援したい」「障害があってかわいそうだから買ってあげよう」といった、同情や哀れみに基づく購入が、決して少なくなかったのです。

もちろん、支援の気持ちから購入すること自体が悪いわけではありません。しかし、その動機が作品の芸術性への評価ではなく、同情心に基づいている場合、作家と購入者は対等な関係とは言えません。作家は「支援される客体」となり、その尊厳やアーティストとしてのプライドが傷つけられる可能性もあります。

このような購入のされ方では、作品に適正な価格がつくことも難しくなります。結果として、驚くべき才能を持つ作家が生み出した作品が、数百円といった安価で取引され、作家本人にはごくわずかな工賃しか支払われない、という状況が続いていました。ヘラルボニーは、この「同情」の経済から脱却し、作品の価値そのもので勝負できる市場を創り出すことを目指したのです。

ヘラルボニーが証明した「異彩」の市場価値

ヘラルボニーは、「福祉」というフィルターを取り払い、アート作品そのものが持つ力でビジネスの世界に挑戦しました。その結果、これまで見過ごされてきた「異彩」が、社会を動かし、経済を動かすほどの高い市場価値を持っていることを、見事に証明してみせたのです。

有名ブランドや企業とのコラボレーション事例

ヘラルボニーの成功を最も分かりやすく示しているのが、国内外のトップ企業や有名ブランドとのコラボレーション実績です。彼らのアートは、もはや福祉の枠を完全に飛び越え、ビジネスの最前線で「選ばれる」存在となっています。

企業・ブランド名 コラボレーション内容の例
JR東日本 山手線の車両ラッピング、駅構内のアート展示
ウォルト・ディズニー・ジャパン ミッキーマウスをテーマにしたアートグッズの共同企画
三越伊勢丹 全館の装飾、オリジナル商品の開発・販売
Microsoft 「Windows 11」の壁紙にアート作品が採用
LVMHグループ 世界的なイノベーションアワードで部門賞を受賞
その他多数 全日本空輸(ANA)、三菱地所、アシックス、スターバックスなど

これらの事例は、ヘラルボニーのアートが、企業のブランディングやマーケティング戦略において、重要な役割を果たすほどの訴求力を持っていることを示しています。企業側も、単なる社会貢献活動(CSR)としてではなく、自社の製品やサービスの魅力を高めるためのビジネスパートナーとしてヘラルボニーを選んでいるのです。この事実は、障害者アートが持つ市場価値の高さを何よりも雄弁に物語っています。

作品の魅力を最大限に引き出すデザイン展開

ヘラルボニーの強みは、単にアートを提供するだけでなく、その魅力を最大限に引き出すデザイン展開にもあります。彼らは、アート作品をファッション、インテリア、ステーショナリー、さらには建築物や公共交通機関に至るまで、多岐にわたるプロダクトや空間へと昇華させています。

例えば、ある作家の色彩豊かな抽象画は、美しいネクタイの柄となり、ビジネスパーソンの胸元を飾ります。また、別の作家の描く繊細な線画は、高級ホテルの客室を彩るアートパネルとなり、特別な空間を演出します。殺風景になりがちな工事現場の仮囲いが、街を明るくする巨大なアートギャラリーに変わることもあります。

このように、アートが持つ世界観やストーリーを大切にしながら、最適な形へとデザインし直すことで、作品は新たな命を吹き込まれます。アートに馴染みのなかった人々も、日常の中で自然にその魅力に触れることになります。このクリエイティブな展開力が、アートの価値をさらに高め、多くの人々を惹きつける源泉となっているのです。

作家本人への正当な対価としてのライセンス料

ヘラルボニーのビジネスが社会的に大きな意義を持つのは、その価値をきちんと作家本人に還元する仕組みを構築した点にあります。前述の通り、企業とのライセンス契約によって得られた収益の一部は、契約に基づき、作家本人や彼らが所属する福祉施設にライセンス料として支払われます。

これにより、障害のある作家が、自身の才能によって経済的に自立する道が拓かれました。従来の福祉作業所では月額数千円から一万円程度だった工賃が、ヘラルボニーとの契約によって、数十万円、あるいは数百万円といった収入に繋がるケースも生まれています。

これは、単に収入が増えるというだけでなく、作家が「プロのアーティスト」として社会に認められ、正当な評価を得ることを意味します。「支援される存在」から、自らの才能で価値を生み出し、対価を得る「表現者」へ。ヘラルボニーが築いたこの仕組みは、作家一人ひとりの尊厳を守り、持続可能な創作活動を支える、極めて重要な基盤となっているのです。

福祉から知的財産へ 変わる障害者の働き方

ヘラルボニーの成功は、単に一つの企業の成功物語ではありません。それは、障害のある人々の働き方そのものに、大きな変革をもたらす可能性を秘めています。「福祉」という枠組みから「知的財産」という新たなステージへ。この視点の転換は、多くの人にとって希望の光となります。

自分の「好き」や「得意」が仕事になる可能性

これまで、障害のある人の仕事は、企業から与えられた軽作業や単純作業といったイメージが強いものでした。もちろん、そうした仕事がその人の特性に合っている場合もあります。しかし、誰もが同じ仕事に向いているわけではありません。

ヘラルボニーの取り組みは、「絵を描くことが好き」「色を組み合わせるのが得意」「独特のこだわりがある」といった、一人ひとりの個性や「好き」が、仕事になり得ることを示しました。これはアートの世界に限りません。例えば、人並外れた集中力を持つ人がプログラマーとして活躍したり、記憶力の高さを活かしてデータ入力の専門家になったり、特定の分野への強い探求心を研究開発に活かしたりと、様々な可能性が考えられます。

大切なのは、障害を「できないこと」のリストとして捉えるのではなく、その人が持つユニークな特性、つまり「異彩」を「できること」「得意なこと」として発見し、それを活かせる仕事と結びつけることです。ヘラルボニーは、そのための道筋を、アートという分野で鮮やかに示してくれたのです。

工賃向上だけではない自己肯定感への影響

自分の才能や仕事が社会に認められ、正当な対価を得ることは、経済的な安定だけでなく、人の心に計り知れないプラスの影響を与えます。特に、これまで「支援される側」にいることが多かった障害のある人にとって、その影響は絶大です。

自分の作品が有名ブランドの商品になったり、街中で多くの人の目に触れたりする経験は、「自分は社会の役に立っている」「自分の力で価値を生み出せる」という確かな実感に繋がります。これは、工賃が上がるという事実以上に、自己肯定感を育み、生きる喜びや誇りをもたらします

家族や支援者も、本人が才能を認められ、いきいきと活動する姿を見ることで、大きな喜びを感じるでしょう。「かわいそうな人」ではなく「素晴らしいアーティスト」として社会と関わる。この変化は、本人だけでなく、周りの人々の意識をも変え、障害のある人に対する社会全体のイメージをポジティブなものへと転換させていく力を持っています。

就労継続支援B型事業所におけるクリエイティブ活動の重要性

ヘラルボニーと契約している作家の多くは、就労継続支援B型事業所などの福祉施設に所属しています。この事実は、B型事業所が障害のある人のクリエイティブな才能を発見し、育むための重要な拠点となり得ることを示唆しています。

B型事業所は、利用者が安心して過ごせる居場所であると同時に、それぞれの「好き」や「得意」を追求できる場所であるべきです。パン作りや部品の組み立てといった従来の作業だけでなく、アート、音楽、ハンドメイド、PCでのデザイン作業、動画編集など、多様なクリエイティブ活動の選択肢を提供することが、利用者の隠れた才能を開花させるきっかけになります。

事業所の支援員は、利用者の日々の活動の中から「異彩」の種を見つけ出し、それを伸ばすためのサポートをすることが求められます。ヘラルボニーのような外部の企業や専門家と連携することも、才能を社会に繋げるための有効な手段となるでしょう。クリエイティブな活動は、単なる余暇活動ではなく、利用者の自己実現と経済的自立を両立させる、新しい就労の形となり得るのです。

あなたの持つ「異彩」をオリーブで仕事にしませんか

ヘラルボニーが証明したように、誰もが自分だけの「異彩」を持っています。就労継続支援B型事業所オリーブは、あなたの持つ個性や「好き」という気持ちを大切にし、それを仕事に繋げるための場所です。

一人ひとりの個性や得意を伸ばす作業プログラム

オリーブでは、画一的な作業を押し付けることはありません。アート、デザイン、軽作業、PC作業など、多彩なプログラムの中から、あなたの興味や特性に合ったものを選んで取り組むことができます。スタッフが一人ひとりと丁寧に面談し、あなたの「やってみたい」という気持ちを尊重しながら、最適な仕事内容を一緒に見つけていきます。あなたの「得意」が、誰かの役に立つ喜びを実感できるはずです。

アートや創作活動に取り組める安心の環境

「絵を描くのは好きだけど、仕事にするなんて自信がない」「集中して作業できるか不安」そんな方もご安心ください。オリーブは、誰もが自分のペースで安心して創作活動に取り組める環境を整えています。経験豊富な支援員がすぐそばでサポートし、創作に必要な道具や場所も提供します。焦らず、あなたのペースで、あなたの持つ世界を表現することから始めてみませんか。

見学・体験利用で事業所の雰囲気を感じてください

コラムを読んで、少しでもオリーブに興味を持っていただけましたら、ぜひ一度、見学・体験利用にお越しください。事業所の温かい雰囲気や、実際に活動している利用者の皆さんの様子を肌で感じることで、きっと安心していただけるはずです。

あなたの内に秘めた「異彩」が輝く場所が、ここにあるかもしれません。まずはお気軽にご連絡いただき、あなたのお話を聞かせてください。スタッフ一同、心よりお待ちしております。

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