
「障害があること」に加えて、「性的マイノリティ(LGBTQ+)であること」。この二つの側面を併せ持つ人々が、就職活動やキャリアを考える上で、極めて大きな困難に直面していることをご存知でしょうか。ある調査では、精神・発達障害があるLGBTQ+の実に92.5%が、就職活動で不安や困難を経験したと回答しています。
この深刻な数字の背景には、「障害」と「セクシュアリティ」という二つの側面が複雑に絡み合い、どちらか一方の課題として語ることができない「二重の困難」が存在します。障害者雇用の枠組みだけでは、性のあり方に関する悩みが置き去りにされ、一方で、LGBTQ+支援の現場では、障害特性への配慮が十分でないケースも少なくありません。
この記事では、なぜこれほど多くの当事者が困難を感じるのか、その構造的な問題を「ダブルマイノリティ」という視点から解き明かします。そして、困難な状況の中でも、自分らしく、安心して働ける場所を見つけるための具体的なヒントや相談先について、詳しく解説していきます。
「ダブルマイノリティ」とは 障害とLGBTQ+が交差する困難
「障害者」であり、かつ「LGBTQ+」であることは、単に二つの悩みを足し合わせたものではありません。それぞれの属性が交差することで、より複雑で深刻な生きづらさが生まれることがあります。この状態は「ダブルマイノリティ」と呼ばれ、その構造を理解することが、問題解決の第一歩となります。
複合的な生きづらさを生むインターセクショナリティ
私たちの社会は、人種、階級、性別、障害の有無など、様々な属性によって成り立っています。これらの属性が複数組み合わさることで、単一の属性だけでは見えにくい、特有の差別や困難が生じるという考え方を「インターセクショナリティ(交差性)」と呼びます。
例えば、障害のある人が直面する困難(雇用の壁、社会の偏見など)と、LGBTQ+の当事者が直面する困難(アウティングのリスク、法的な保障の不備など)は、それぞれ別の問題として語られがちです。しかし、両方の属性を持つ当事者は、この二つの困難が同時に、あるいは複合的に絡み合った状況に置かれます。
「障害者雇用で応募したいけれど、履歴書の性別欄にどう書けばいいかわからない」「職場で障害のことはカミングアウトできても、同性のパートナーがいることは言えない」といった悩みは、まさにインターセクショナリティがもたらす困難の典型例です。
孤立しやすい当事者の現状
ダブルマイノリティの当事者が直面する深刻な問題の一つに「孤立」があります。多くの場合、支援制度やコミュニティは、属性ごとに分断されているのが現状です。
- 障害者支援の場での孤立
- 福祉サービスの相談窓口や支援機関では、障害に関する専門性はあっても、セクシュアリティに関する知識や配慮が十分でない場合があります。「障害の相談はできても、性の悩みは打ち明けにくい」と感じ、結果的に必要なサポートを受けられないケースが少なくありません。
- LGBTQ+コミュニティでの孤立
- 一方で、LGBTQ+の当事者が集まるコミュニティやイベントでは、障害特性への理解や物理的なバリアフリーが十分でないことがあります。会話のペースについていけなかったり、感覚過敏でイベントに参加し続けるのが辛かったり、といった理由で「仲間の中に入っていけない」と感じ、孤立してしまうことがあります。
このように、どちらのコミュニティにも完全には属しきれないと感じる当事者は多く、悩みを一人で抱え込みやすい状況にあります。
なぜ9割が就職活動で困難を経験するのか
認定NPO法人ReBitが2021年に行った調査では、精神・発達障害がある性的マイノリティの92.5%が、求職時に性的マイノリティかつ障害があることに由来した不安や困難を経験したと報告されています。この驚くべき数字は、現代の就職・労働市場が、ダブルマイノリティの当事者にとっていかに過酷なものであるかを物語っています。その背景にある具体的な要因を見ていきましょう。
カミングアウトの壁とアウティングのリスク
就職活動において、自身の障害やセクシュアリティについて「伝えるか、伝えないか」は、当事者にとって非常に重い選択です。
障害について開示すべきか
障害のある人が就職活動をする際には、障害を開示して「オープン就労」を目指すか、非開示で「クローズ就労」を目指すかという選択肢があります。オープン就労には、企業から合理的配慮を受けやすく、自身の特性に合った働き方がしやすいというメリットがあります。しかし、同時に「障害」に対する偏見や誤解に直面するリスクも伴います。どちらを選ぶかは、キャリアプランや心身の状態を左右する重要な決断です。
セクシュアリティを伝えることへの不安
障害の有無に加えて、自身のセクシュアリティを伝えるかどうかは、さらに大きな壁となります。最大の懸念は、本人の同意なく第三者に性的指向や性自認を暴露される「アウティング」のリスクです。アウティングは、人間関係の破綻や精神的苦痛だけでなく、生命に関わる事態にさえ発展しかねない重大な人権侵害です。
また、「カミングアウトしたら、採用で不利になるのではないか」「職場で好奇の目にさらされたり、いじめられたりするのではないか」といった不安から、多くの当事者が自身のアイデンティティを隠して就職活動をせざるを得ない状況に追い込まれています。
企業の理解不足とハラスメントへの懸念
多くの企業では、残念ながらダイバーシティ&インクルージョン(D&I)への理解が十分に進んでおらず、悪意のない無理解が当事者を深く傷つける場面が後を絶ちません。
履歴書の性別欄や面接での質問
トランスジェンダーの当事者にとって、履歴書に「男・女」の二択しかない性別欄を前にすることは、最初の大きな壁です。また、面接において「結婚の予定は?」「お子さんは?」といったプライベートに踏み込む質問は、異性愛を前提とした社会の無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)の表れであり、多くの当事者に強いストレスを与えます。
ReBitの調査では、面接官からのハラスメントや、性のあり方と障害の両方を開示して相談できる環境がなかったという声が多く報告されています。
男女別の服装規定やトイレの問題
入社後も困難は続きます。例えば、男女で明確に分けられたスーツの着用規定や、性自認に合ったトイレが利用できない問題は、当事者にとって日々の大きな苦痛となり得ます。こうした物理的・制度的な環境が、働く意欲や能力の発揮を妨げる大きな要因となっています。障害への配慮と、性の多様性への配慮が両立されて初めて、誰もが安心して働ける環境が実現します。
適切な相談先が見つからない
最大の問題は、これら複合的な悩みをワンストップで相談できる場所が極めて少ないことです。障害者雇用に関する相談はハローワークや地域の就労支援機関、LGBTQ+に関する相談は専門のNPO団体、というように窓口が分断されています。
「障害者向けの就労支援機関で、トランスジェンダーであることへの配慮がなく、苦痛だった」「LGBTQ+フレンドリーな企業を見つけたが、発達障害への合理的配慮は得られなかった」というように、どちらかの側面を諦めざるを得ない状況が、当事者を孤立させ、キャリア形成の機会を奪っているのです。
安心して働ける職場を見つけるためのヒント
多くの困難が存在する一方で、近年、ダイバーシティ&インクルージョンを本気で推進する企業や、専門的なサポートを提供する支援機関も少しずつ増えています。ここでは、自分らしく働ける場所を見つけるための具体的なヒントをご紹介します。
企業のダイバーシティ&インクルージョンへの取り組みを確認する
企業のウェブサイトや採用ページ、サステナビリティ報告書などをチェックし、その企業がどれだけ本気で多様な人材の活躍を推進しようとしているかを見極めましょう。確認すべきポイントは以下の通りです。
| チェック項目 | 具体的な内容 |
|---|---|
| D&I方針の明文化 | 経営トップが多様性を尊重するメッセージを明確に発信しているか。具体的な行動計画や目標値はあるか。 |
| LGBTQ+に関する制度 | 同性パートナーシップ制度(福利厚生の適用など)や、通称名の使用が認められているか。 |
| 採用情報の記載 | 募集要項に「性的指向・性自認に関わらず応募を歓迎します」といった文言があるか。エントリーシートの性別欄が任意回答になっているか。 |
| 情報発信 | 社内外のLGBTQ+関連イベントへの参加・協賛や、プライド月間での情報発信などを行っているか。 |
| 研修の実施 | 全従業員を対象としたアンコンシャス・バイアス研修や、LGBTQ+に関する研修を実施しているか。 |
アライ(Ally)の存在と当事者コミュニティ
アライ(Ally)とは、LGBTQ+の当事者たちに寄り添い、支援する人のことを指します。企業がアライの育成に力を入れていたり、従業員が「アライ」であることを表明できるステッカーやストラップなどを活用したりしている場合、インクルーシブな職場環境である可能性が高いと言えます。
また、企業によっては、LGBTQ+の当事者やアライが集まる従業員リソースグループ(ERG)などの社内コミュニティ活動があります。こうしたコミュニティの存在は、入社後に孤立せず、安心して悩みを相談できる仲間がいるという心強さにつながります。
障害者雇用とLGBTQ+支援の両方に詳しい支援機関に相談する
前述の通り、障害とセクシュアリティの悩みを同時に相談できる場所はまだ多くありませんが、専門的な知見を持つ支援機関も存在します。一人で抱え込まず、こうした専門機関を積極的に活用しましょう。
- 認定NPO法人ReBit「ダイバーシティキャリアセンター」
- 日本で初めて「LGBTQ+フレンドリー」を掲げた就労移行支援事業所です。障害とセクシュアリティの両方について安心して相談でき、専門のスタッフが一人ひとりに合ったキャリアプランを一緒に考え、企業とのマッチングまでサポートしてくれます。
- 障害者向け転職エージェント
- 民間の転職エージェントの中にも、dodaチャレンジのように、LGBTQ+当事者かつ障害のある方向けの専門サービスを提供しているところがあります。企業の内部情報に詳しいキャリアアドバイザーが、求人紹介から面接対策まで丁寧にサポートしてくれます。
- 就労継続支援事業所
- すぐに一般企業で働くのが不安な場合は、就労継続支援B型事業所などで、まずは自分のペースで働くことに慣れていくという選択肢もあります。事業所を選ぶ際には、見学や体験利用を通じて、スタッフが多様な背景を持つ利用者に寄り添ってくれるか、安心して過ごせる環境かを確認することが大切です。
ありのままの自分で働きたいあなたへ オリーブにご相談ください
障害やセクシュアリティについて、誰にも話せずに一人で悩んでいませんか? 就職活動で困難を感じたり、今の職場で働きづらさを感じたりしているなら、ぜひ一度、私たち就労継続支援B型事業所オリーブにお話を聞かせてください。
多様性を尊重し一人ひとりに寄り添う支援
オリーブは、障害の種別や程度だけでその人を判断することはありません。あなたの個性や得意なこと、そして大切にしたいと思っている生き方や価値観を尊重し、一人ひとりのペースに合わせたサポートを提供します。セクシュアリティに関する悩みも、もちろん例外ではありません。
プライバシーに配慮した安心の相談環境
ご相談いただいた内容の秘密は厳守します。経験豊富なスタッフが、あなたの不安な気持ちに寄り添い、安心して話せる環境を整えています。どんな些細なことでも、心配せずに打ち明けてください。
あなたらしい働き方を一緒に見つけます
オリーブでは、様々な軽作業を通じて、働くことへの自信を少しずつ取り戻していくことができます。「自分に何ができるかわからない」「社会とつながるのが怖い」と感じている方も、ここから新しい一歩を踏み出してみませんか。まずはお気軽に見学・ご相談ください。私たちが、あなたらしい働き方を見つけるお手伝いをします。
