
障害のある女性は、「女性であること」と「障害があること」という二重の要因から、暴力や経済的困窮、社会的孤立といった複合的な困難に直面しやすい現実があります。しかし、その困難は「障害」や「性」の問題がタブー視される社会的な風潮や、当事者が声を上げにくい状況、縦割りな支援制度などによって見過ごされがちです。
この記事では、障害のある女性がなぜ困難な状況に陥りやすいのか、その背景にある社会的な課題と、彼女たちが直面する具体的な被害について詳しく解説します。
さらに、こうした困難な状況から抜け出すために利用できる公的な相談窓口や支援サービス、そして安心して社会とのつながりを築くための一つの選択肢として、就労継続支援B型事業所がどのような役割を果たせるのかについてもご紹介します。もし今、あなたが一人で悩みを抱えているなら、この記事が解決への第一歩となるはずです。
障害のある女性が抱える複合的な困難
障害のある女性は、障害のない女性や障害のある男性と比較しても、より複雑で深刻な困難を抱えやすいことが指摘されています。「障害」と「性別」という二つの側面が交差することで、問題がより見えにくく、かつ深刻化してしまうのです。
経済的な困窮と貧困のリスク
障害のある人々の中でも、特に女性は経済的に厳しい状況に置かれやすい傾向があります。内閣府の「平成29年版 障害者白書」によると、障害のある人の月額平均賃金は、男性が22万3千円であるのに対し、女性は15万2千円と、男性の7割にも満たない水準です。
この背景には、もともと存在する男女間の賃金格差に加えて、障害のある女性が就ける職種が限られたり、短時間労働や非正規雇用といった不安定な働き方を選択せざるを得ないケースが多かったりする現実があります。
また、障害基礎年金を受給していても、それだけで自立した生活を送ることは容易ではありません。経済的な基盤が弱いことは、生活の選択肢を狭めるだけでなく、後述するDVや虐待から逃れることを一層困難にさせる大きな要因となります。
社会的孤立と人間関係の悩み
障害特性や周囲の環境によっては、他者とのコミュニケーションに困難を感じたり、外出すること自体に物理的・心理的な障壁があったりします。その結果、地域社会や友人関係から孤立し、相談できる相手が家族や限られた支援者だけという状況に陥りやすくなります。
このような狭い人間関係は、一見すると安定しているように見えても、外部の目が届きにくいため、家庭内での問題が隠蔽されやすいという危険性をはらんでいます。
また、頼れる相手が限定されることで、その人に依存せざるを得ない状況が生まれます。もしその相手が加害者であった場合、関係性を失うことへの恐怖から、被害を誰にも打ち明けられずに一人で抱え込んでしまうケースは少なくありません。
心身の健康問題と医療へのアクセス
障害のある女性は、元々の障害による心身の不調に加えて、月経や妊娠・出産、更年期といった女性特有の健康課題にも向き合う必要があります。しかし、適切な医療サービスへアクセスする際には、いくつかの壁が存在します。
例えば、婦人科を受診したくても、車いすで利用できる診察台がなかったり、知的障害や発達障害への理解がある医師が少なく、症状をうまく伝えられなかったりするケースがあります。
コミュニケーションの困難さから、自身のつらい症状を「障害のせい」と片付けられてしまい、適切な診断や治療を受けられないまま我慢し続けてしまうこともあります。このように、心身の健康を守る上で必要な医療へのアクセスが妨げられることも、彼女たちが抱える深刻な問題の一つです。
なぜ障害女性の困難は見過ごされやすいのか
障害のある女性が直面する困難は、個人の問題だけでなく、社会に根付く偏見や制度的な課題によって、さらに見えにくいものにされています。
障害と性の問題がタブー視される社会的風潮
社会には、残念ながら「障害のある人には性的な関心や欲求はない」「恋愛や結婚、出産はしないもの」といった無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)が根強く残っています。
こうした偏見は、障害のある女性から性に関する正しい知識を学ぶ機会を奪い、自己決定権を軽視する風潮を生み出します。その結果、彼女たちが性被害に遭っても、「まさかそんなことが」と被害が軽視されたり、逆に「障害があるのだから、性的サービスを受けるのは仕方ない」といった誤った認識で被害が正当化されたりすることさえあります。
「障害」と「性」という二つのテーマが社会的に語られにくいものであることが、問題の発見を遅らせ、被害を深刻化させる大きな原因となっているのです。
被害を訴えにくい当事者の状況
たとえ被害に遭っても、当事者である女性自身が声を上げられない、あるいは声を上げても届かないという状況があります。
コミュニケーションの障壁
知的障害や発達障害、精神障害、あるいは発話の障害などにより、被害の状況や自身の感情を言葉で的確に表現することが難しい場合があります。「いつ、どこで、誰に、何をされたか」を順序立てて説明することができず、警察や相談窓口の担当者にうまく伝わらないことで、被害を信じてもらえず、支援につながれないケースも少なくありません。
支援者への依存関係
最も身近な支援者であるべき家族、パートナー、介助者などが加害者となるケースは、残念ながら少なくありません。被害者は、加害者に対して経済的、身体的、精神的に強く依存していることが多く、「もし訴えたら、この人の支援を受けられなくなる」「見捨てられたら生きていけない」という恐怖から、暴力や搾取を甘んじて受け入れてしまうことがあります。この力関係が、被害を長期化・深刻化させる要因となります。
支援制度の縦割りによる問題の分断
日本の支援制度は、「障害福祉」「DV被害者支援」「性暴力被害者支援」「生活困窮者支援」といったように、分野ごとに専門化され、それぞれが独立して運営されています。これは「縦割り行政」とも呼ばれる構造的な課題です。
しかし、障害のある女性が抱える問題は、これらが複雑に絡み合っていることがほとんどです。例えば、DV被害に遭っている障害のある女性が相談に訪れた場合、「DVの相談は配偶者暴力相談支援センターへ」「障害のことは福祉事務所へ」と、別々の窓口を案内されてしまうことがあります。
それぞれの窓口は専門分野以外の知識が十分でないこともあり、たらい回しにされてしまう中で、相談する気力そのものを失ってしまう人もいます。問題が複合的であるにもかかわらず、支援が分断されていることが、セーフティネットからこぼれ落ちてしまう人々を生み出す一因となっています。
障害女性が直面する具体的な被害
見過ごされやすい困難の背景には、心身の安全が脅かされる深刻な被害が存在します。
DV・虐待のリスクと深刻化する背景
障害のある女性は、配偶者やパートナー、家族などからDV(ドメスティック・バイオレンス)や虐待を受けるリスクが高いことが指摘されています。
発見が遅れやすい家庭内の暴力
社会的孤立の状態にあると、家庭が密室化し、外部の目が届きにくくなります。そのため、暴力が長期間にわたってエスカレートしても、誰にも気づかれないまま深刻化する危険性があります。暴力は、殴る・蹴るといった身体的なものに限りません。
| 暴力の種類 | 具体例 |
|---|---|
| 身体的暴力 | 殴る、蹴る、物を投げつける、髪を引っ張る など |
| 心理的暴力 | 大声で怒鳴る、無視する、人格を否定する言葉を浴びせる など |
| 経済的暴力 | 生活費を渡さない、障害年金を勝手に使う、借金をさせる など |
| 性的暴力 | 望まない性行為を強要する、避妊に協力しない など |
| 社会的隔離 | 友人との交流を制限する、電話やメールを監視する など |
これらの暴力が複合的に行われることも多く、被害者は心身ともに追い詰められていきます。
経済的自立の難しさと共依存
前述の通り、障害のある女性は経済的に自立することが困難な場合が多く、それが加害者への依存を強め、暴力的な関係から抜け出せなくさせる大きな要因となります。
「この人から離れたら、生活していけない」という不安が、逃げるという選択肢を奪ってしまうのです。一方で、加害者側も介護の負担や経済的な困窮からストレスを抱え、被害者に依存している「共依存」の状態に陥っていることも少なくありません。この複雑な関係性が、問題をさらに根深くしています。
性被害に遭いやすい状況とその要因
障害のある女性は、性的な被害者になるリスクも非常に高いのが現実です。その背景には、いくつかの特有の要因が絡み合っています。
知識不足と判断能力の不当な評価
学校教育などの場で、障害を理由に性に関する適切な情報提供から排除されてきた経験を持つ女性は少なくありません。その結果、何が性的な暴力にあたるのか、どうすれば自分を守れるのかを知らないまま大人になることがあります。
また、知的障害や精神障害があることなどを理由に、「同意する能力がない」と周囲から不当に判断され、本人の意思が無視されたまま被害に遭ってしまうケースもあります。「嫌」という気持ちをうまく表現できないことが、「同意している」と誤解されることにもつながります。
支援の場における二次被害のリスク
勇気を出して被害を打ち明けても、相談した警察官や支援者から「本当に嫌だったの?」「あなたにも隙があったんじゃないか」など、心ない言葉をかけられ、再び深く傷つけられる「二次被害」も深刻な問題です。
障害への無理解からくる偏見や、「純粋無垢」といったステレオタイプなイメージが、被害の訴えを信じてもらえないという壁を生み出します。このような経験は、被害者をさらに孤立させ、誰にも相談できなくさせてしまいます。
困難な状況から抜け出すために利用できる支援と相談窓口
もしあなたが今、困難な状況に置かれているなら、一人で抱え込まないでください。あなたを守り、支えるための様々な相談窓口や支援制度が存在します。
公的な相談窓口
まずは、無料で相談できる公的な窓口を知っておくことが大切です。秘密は厳守されますので、安心して連絡してみてください。
| 相談窓口の名称 | 主な相談内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 福祉事務所・障害福祉担当課 | 障害福祉サービスの利用、生活全般の困りごと | お住まいの市区町村に設置されている最も身近な相談窓口。 |
| 障害者相談支援事業所 | サービス等利用計画の作成、様々な悩みごとの相談 | 専門の相談支援専門員が、利用できるサービスを一緒に探してくれる。 |
| 配偶者暴力相談支援センター | 配偶者やパートナーからのDVに関する相談 | 専門の相談員が対応。一時保護や自立支援も行っている。 |
| 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター | 性犯罪・性暴力に関する相談 | 産婦人科医療、カウンセリング、法的支援などを1か所で提供。「#8891(はやくワンストップ)」に電話すると最寄りの窓口につながる。 |
| 女性相談支援センター | 女性が抱える様々な悩み(DV、貧困、家庭問題など) | 都道府県等が設置する、女性のための総合的な相談機関。 |
民間団体や自助グループによるサポート
公的な機関だけでなく、NPO法人などの民間団体も、被害に遭った女性のためのシェルター(一時避難所)の運営や、カウンセリング、自立に向けたサポートなど、きめ細やかな支援を行っています。
また、同じような経験をした当事者同士が集まり、語り合う「自助グループ(セルフヘルプグループ)」も、孤立感を和らげ、自分の経験を肯定的に捉え直すための大切な場となります。同じ痛みを知る仲間とつながることで、「一人じゃない」と感じることが、回復への大きな力になります。
就労継続支援B型事業所という選択肢
DVや虐待、貧困といった問題の根底には、「経済的な自立の難しさ」と「社会的な孤立」が深く関わっています。こうした状況から抜け出し、自分のペースで社会とのつながりを取り戻すための一つの選択肢が、 就労継続支援B型事業所 です。
就労継続支援B型事業所は、障害や病気のために一般企業で働くことが難しい方が、体調に合わせて軽作業などを行い、工賃を得ることができる福祉サービスです。
すぐにフルタイムで働くことが難しくても、週に1日や1日数時間の利用から始められるため、心身の回復を優先しながら、無理なく社会参加への一歩を踏み出すことができます。また、日中の活動の場として定期的に通うことで、生活リズムが整い、職員や他の利用者との交流を通じて、安心できる人間関係を再構築することも可能です。何よりも、「自分で働いて収入を得る」という経験は、失われた自信と尊厳を取り戻すための大きなきっかけとなるでしょう。
安心して働ける場所探しでお悩みならオリーブへご相談ください
もしあなたが、自分のペースで働ける場所や、安心して過ごせる居場所を探しているなら、ぜひ一度、私たち「就労継続支援B型事業所オリーブ」にご相談ください。オリーブは、関西(大阪、兵庫、京都、奈良)を中心に、一人ひとりの「働きたい」という気持ちに寄り添うB型事業所を運営しています。
一人ひとりのペースに合わせた就労支援
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安定した生活リズムと安心できる居場所の提供
オリーブは、単に仕事をするだけの場所ではありません。日中、安心して過ごせるあなたの「居場所」でありたいと考えています。決まった時間に通うことで生活リズムが整い、同じ目標を持つ仲間や親身なスタッフとの交流を通じて、社会的な孤立から抜け出すきっかけをつかむことができます。私たちは、あなたが笑顔で過ごせる温かい環境づくりを大切にしています。
見学や体験利用も随時受付中
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