お役立ち情報 社会・制度・教育

インクルーシブ教育とは?国連も勧告する日本の課題と「共に学ぶ」が進まない理由

障害のある子もない子も、同じ教室で共に学ぶ「インクルーシブ教育」。この理念は、国際的には教育のスタンダードとなりつつあります。しかし、日本ではまだ十分に浸透しているとは言えず、2022年には国連からその遅れを指摘される事態となりました。

「インクルーシブ教育」がなぜ重要で、日本の現状にはどのような課題があるのでしょうか。そして、幼少期の教育環境は、将来の働き方や社会参加にどう影響するのでしょうか。

この記事では、インクルーシブ教育の基本的な考え方から、国連が指摘した日本の課題、そして教育の先にある「共に働く」社会の実現までを、分かりやすく解説します。障害のあるご本人やそのご家族、支援者の方が、これからの学び方や働き方を考える上でのヒントとなれば幸いです。

インクルーシブ教育の基本的な考え方

インクルーシブ教育という言葉を聞いたことはあっても、その正確な意味は意外と知られていないかもしれません。まずは、その基本的な考え方と、よく似た言葉との違いについて見ていきましょう。

すべての子供が「共に学ぶ」教育システム

インクルーシブ教育とは、障害の有無や人種、宗教、家庭環境など、子どもたちが持つ様々な違いにかかわらず、すべての子どもが同じ場で共に学ぶことを目指す教育のあり方です。

重要なのは、単に障害のある子どもを通常学級に「参加させる」だけではないという点です。一人ひとりの教育的ニーズに合わせて、学校側が環境を整え、必要なサポートを提供することが前提となります。

これは、障害者権利条約の第24条でも定められている、世界的な教育の理念です。子どもたちが多様な他者と関わりながら成長することは、お互いを理解し、尊重し合う共生社会の土台を築く上で非常に重要だと考えられています。

統合教育(インテグレーション)との違い

インクルーシブ教育としばしば混同される言葉に「統合教育(インテグレーション)」があります。両者は似ているようで、その根本的な考え方に大きな違いがあります。

統合教育(インテグレーション) インクルーシブ教育(インクルージョン)
考え方の主体 障害のある子ども側 学校・教育システム側
教育の場の考え方 既存の教育の場に、子どもが適応・参加することを目指す 子ども一人ひとりのニーズに合わせて、教育システム自体が変化・対応する
イメージ 子どもが既存の「流れ」に合流していくイメージ 多様な子どもたちがいることを前提に、新しい「流れ」を共に創り出すイメージ
課題 子ども側が環境に適応できない場合、孤立する可能性がある 教員や学校側の専門性、柔軟な対応力が求められる

統合教育は、あくまで既存の教育の枠組みが中心です。それに対してインクルーシブ教育は、多様な子どもたちがいることを前提として教育の仕組み全体をデザインし直すという、より積極的な考え方なのです。

合理的配慮の提供が前提

インクルーシブ教育を実現する上で欠かせないのが「合理的配慮」の提供です。

合理的配慮とは、障害のある人が障害のない人と同じように情報を得たり、行動したりする権利を保障するために、個々の状況に応じて提供される配慮や調整のことです。2024年4月からは、事業者による合理的配慮の提供は法的義務となりました。

教育現場における合理的配慮の具体例としては、以下のようなものが挙げられます。

学習面の配慮

  • 読み書きが困難な生徒に、タブレット端末や音声読み上げソフトの使用を許可する。
  • 集中力の維持が難しい生徒のために、試験時間を延長したり、別室での受験を認めたりする。
  • 板書を書き写すのが苦手な生徒に、教員がノートの代筆を行ったり、写真撮影を許可したりする。

物理的環境の配慮

  • 車いすを使用する生徒のために、教室の座席配置を工夫したり、スロープを設置したりする。
  • 感覚過敏のある生徒のために、教室の照明を調整したり、イヤーマフの使用を許可したりする。

こうした一人ひとりのニーズに合わせた配慮は、すべての子どもが学習に参加し、その能力を最大限に発揮するために不可欠です。

国連が日本に勧告したインクルーシブ教育の課題

世界的な理念であるインクルーシブ教育ですが、日本の取り組みは国際的に見て遅れていると指摘されています。2022年、国連の障害者権利委員会は日本政府に対し、現状の改善を求める厳しい勧告を出しました。

今なお続く「分離教育」が中心の現状

国連が最も問題視しているのが、日本の教育システムが依然として「分離教育」、つまり障害のある子どもとない子どもを別の場所で教育することが主流となっている点です。

障害のある子どもは、地域の小中学校の通常学級ではなく、特別支援学校や特別支援学級で学ぶケースが多くなっています。もちろん、専門的なケアが受けられるというメリットもありますが、この「分離」が、インクルーシブ教育の理念とは逆行していると指摘されているのです。

特別支援学校・特別支援学級の在籍者数の増加

その指摘を裏付けるように、特別支援教育を受ける子どもの数は年々増加しています。文部科学省の調査によると、特別支援学校の在籍者数、および小中学校の特別支援学級の在籍者数は、過去10年以上にわたって増加傾向が続いています。

特別支援学校の在籍者数 2012年度には約13万人だったのが、2022年度には約14.9万人へと増加。
特別支援学級の在籍者数 2012年度には約15.6万人だったのが、2022年度には約41.4万人へと大幅に増加。

一方で、通常学級に在籍しながらも発達障害などで特別な支援を必要とする児童生徒は、約8.8%にのぼるという調査結果もあります。この数字は、インクルーシブ教育の必要性が、一部の特別な子どもたちだけのものではなく、非常に身近な課題であることを示しています。

国連からの具体的な是正勧告の内容

こうした現状を踏まえ、国連の障害者権利委員会は日本政府に対し、以下のような内容の勧告を行いました。

  • 分離教育を終わらせるための具体的な戦略を、障害者団体と協議して採択すること。
  • 地域の通常学校が、障害のある生徒の受け入れを拒否できないように法的整備を行うこと。
  • 通常学級のすべての教員が、インクルーシブ教育を実践できるよう十分な研修を行うこと。
  • 障害のある生徒一人ひとりに対し、個別化された教材や支援を提供すること。

この勧告は、日本のこれまでの特別支援教育のあり方を根本から見直し、インクルーシブ教育へと大きく舵を切ることを強く求めるものです。

なぜ日本ではインクルーシブ教育が進まないのか

国連から厳しい勧告が出されるほど、なぜ日本ではインクルーシブ教育の実現が遅れているのでしょうか。そこには、教育現場の体制や、社会に根強く残る意識など、複合的な要因が絡み合っています。

通常学級の教員や専門人材の不足

インクルーシブ教育を実践するには、通常学級の教員が、多様な特性を持つ子どもたち一人ひとりに対応できる専門性を持っている必要があります。しかし、現在の教員養成課程では、特別支援教育に関する知識やスキルを十分に学ぶ機会が限られているのが現状です。

また、医療的ケアが必要な子どもや、行動上のサポートが必要な子どもを支える看護師、理学療法士、心理士といった専門スタッフの学校への配置も十分ではありません。現場の教員が「何かあっても自分一人では対応できない」と感じる負担感や不安が、インクルーシブ化をためらわせる大きな要因となっています。

学校施設のバリアフリー化の遅れ

教育内容だけでなく、物理的な環境の整備も大きな課題です。多くの公立小中学校は、建設から数十年が経過しており、エレベーターやスロープ、多目的トイレといったバリアフリー設備が整っていないケースが少なくありません。

車いすを使用する子どもが、教室の移動やトイレの利用、体育館での活動などに困難を感じるようでは、共に学ぶ環境とは言えません。学校施設のバリアフリー化には多額の予算が必要となるため、自治体の財政状況によって対応に差が生まれているのが実情です。

保護者や社会の根強い不安と誤解

インクルーシブ教育が進まない背景には、保護者や社会全体の意識の問題も深く関わっています。

障害のある子どもの保護者の不安

  • 「通常学級でいじめに遭わないだろうか」
  • 「専門的なケアが受けられず、学習が遅れてしまうのではないか」
  • 「先生や周りの子に迷惑をかけてしまうのではないか」

障害のない子どもの保護者の誤解

  • 「障害のある子がいると、授業の進行が遅れるのではないか」
  • 「先生がその子にかかりきりになり、自分の子どもへの対応が手薄になるのでは」

こうした不安や誤解は、多くの場合、お互いのことをよく知らないことから生まれます。しかし、現状の分離教育が続く限り、子どもも大人も、障害のある人と接する機会が乏しくなり、結果としてこうした意識が再生産されてしまうという悪循環に陥っています。

分離教育が将来の就労や社会参加に与える影響

教育は、学校の中だけで完結するものではありません。子ども時代にどのような環境で学び、育ったかは、その後の人生、特に就労や社会とのかかわり方に大きな影響を及ぼします。

幼少期からの交流機会の喪失

障害のある子もない子も、幼少期から当たり前のように同じ空間で過ごすことは、極めて重要な意味を持ちます。

障害のない子どもは、多様な友人と触れ合う中で、人の個性や違いを自然に受け入れ、自分とは違う視点を持つことを学びます。困っている人がいれば手を差し伸べる、どうすれば皆が過ごしやすくなるかを考える、といった経験は、豊かな人間性を育みます。

一方で、障害のある子どもにとっても、様々な同級生と関わることは、コミュニケーション能力や社会性を身につける貴重な機会となります。地域の学校に通うことで、近所に友達ができ、放課後や休日も共に過ごすといった、地域社会との自然な繋がりも生まれます。分離教育は、こうした双方にとってかけがえのない成長の機会を、無意識のうちに奪ってしまう可能性があるのです。

障害への偏見や無理解を生む土壌

子どもの頃に障害のある同級生と接する経験がなかった人は、大人になってから障害のある人と出会ったとき、どう接していいか分からず戸惑ってしまうことがあります。悪気はなくても、無意識のうちに壁を作ってしまったり、腫れ物に触るような態度をとってしまったりすることもあるでしょう。

こうした「知らないこと」から生まれる壁や誤解が、社会における障害への偏見や無理解の温床となります。そしてその偏見は、就職活動における企業の採用担当者の判断や、職場での同僚の言動にも影響を及ぼしかねません。

幼少期から「共に学ぶ」経験が当たり前になれば、障害は特別なものではなく、多様な個性の一つとして自然に捉えられるようになります。インクルーシブ教育の推進は、遠回りのように見えて、実は誰もが働きやすい社会を実現するための最も確実な一歩なのです。

卒業後の「共に働く」をオリーブで見つけませんか

日本のインクルーシブ教育は、まだ多くの課題を抱えています。学校で「共に学ぶ」環境が十分に整っていなくても、卒業後に「共に働く」場所を見つけ、社会との繋がりを築いていくことは可能です。私たち就労継続支援B型事業所オリーブは、そのための大切な一歩をサポートします。

多様な人が集まる安心できる居場所

オリーブには、様々な障害特性や背景を持つ方が集まっています。ここでは、お互いの違いを理解し、尊重し合うことが当たり前の文化です。学校生活で孤立を感じたり、周囲の無理解に悩んだりした経験がある方も、安心して過ごせる居場所がここにあります。多様な仲間との関わりの中で、新たな自分を発見できるかもしれません。

一人ひとりの特性に合わせた就労サポート

私たちは、画一的な支援ではなく、利用者さん一人ひとりの特性や体調、得意なことに合わせた個別支援計画を作成し、無理なく働ける環境を提供しています。軽作業やPC作業など、様々な仕事の中から自分に合ったものを選び、自分のペースでスキルを身につけることができます。「働く」ことを通じて自信を取り戻し、社会参加への意欲を高めていくことを目指します。

社会との繋がりを作るための第一歩をご相談ください

「将来の仕事が不安」「社会に出て働く自信がない」「まずは安心して通える場所がほしい」そんな風に感じていたら、ぜひ一度オリーブにご相談ください。見学や体験利用も随時受け付けています。教育の場で得られなかった経験を、オリーブという新しい場所で始めてみませんか。専門の相談員が、あなたの悩みや希望に寄り添い、共に未来を考えます。

お問合せ・見学申し込み

就労に関するご相談、
ご見学はお気軽にご連絡ください。
体験利用や無料の昼食試食も行っています!

お問合せ・見学申し込み