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罪を犯した精神障害者の社会復帰 なぜ累犯に至るのか司法福祉の課題と支援の重要性

障害があり、罪を犯してしまった人々が社会復帰を目指すとき、その道には多くの困難が待ち受けています。障害の特性への理解不足や、過去の過ちに対する厳しい目、そして頼れる場所の不足から、孤立し、再び罪を犯してしまう「累犯」のケースは少なくありません。

この記事では、罪を犯した障害のある人々、いわゆる「触法障害者」がなぜ社会復帰に困難を抱え、累犯に至ってしまうのか、その背景にある課題を詳しく解説します。

さらに、その負の連鎖を断ち切るための「司法福祉」という考え方や、私たち就労継続支援B型事業所のような福祉サービスが、彼らの「やり直したい」という気持ちを支えるためにどのような役割を果たせるのかを、具体的にお伝えします。過去は変えられなくても、未来は作ることができます。その一歩を、この記事から見つけていただければ幸いです。

「触法障害者」とは 罪を犯した障害者のこと

「触法障害者」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。これは法律で定められた正式な用語ではありませんが、何らかの罪を犯してしまった障害のある人々を指す言葉として、福祉や司法の現場で使われることがあります。

知的障害や精神障害、発達障害などの特性が、直接的あるいは間接的に犯罪行為へとつながってしまうケースがあります。例えば、対人関係の困難さや衝動性のコントロールの難しさ、あるいは障害があるために社会的に孤立し、経済的に困窮した結果、万引きなどの罪を犯してしまうといった状況です。彼らは加害者であると同時に、適切な支援につながることができなかった「支援を必要とする人」でもあるのです。

刑務所と福祉の狭間で孤立する人々

本来であれば福祉的なサポートを受けるべき人々が、その支援からこぼれ落ち、結果として刑事手続きの対象となってしまう現実があります。刑務所は罪を償う場所であり、必ずしも障害の特性に合わせた十分なケアや治療が提供されるわけではありません。

そのため、服役中に症状が悪化したり、社会復帰に必要なスキルを身につける機会を失ったりすることもあります。出所後、再び福祉の支援につながろうとしても、情報が途切れてしまっていたり、受け入れ先がすぐに見つからなかったりすることで、司法と福祉の「狭間」で孤立してしまうのです。この孤立こそが、再犯へとつながる大きな要因の一つとなっています。

知的障害や精神障害のある受刑者の割合

刑務所に服役している人々の中に、知的障害や精神障害のある人が、決して少なくない割合で存在することを示すデータがあります。

法務省が発行する「犯罪白書」(令和5年版)によると、2022年に刑務所に入所した受刑者のうち、知的障害(疑いを含む)がある人は全体の7.1%、精神障害(疑いを含む)がある人は21.3%に上ります。

これは、一般人口における障害者の割合と比較して著しく高い数値です。この事実は、障害があることが犯罪や再犯のリスクと無関係ではなく、社会全体で取り組むべき重要な課題であることを示しています。彼らが犯罪に至る前に、適切な医療や福祉のサポートを受けられる社会の仕組みが不可欠です。

なぜ社会復帰が難しく累犯に至ってしまうのか

一度罪を犯した障害のある人が、社会に戻って生活を立て直し、再び罪を犯すことなく生きていくことは、なぜこれほどまでに難しいのでしょうか。その背景には、個人の意欲だけでは乗り越えがたい、複数の深刻な問題が複雑に絡み合っています。

出所した彼らを待ち受けるのは、「帰る場所のなさ」「社会の厳しい目」「働く場所の見つからなさ」という、あまりにも過酷な現実です。これらの障壁が、彼らからやり直す気力を奪い、再び犯罪へと追い込んでしまう負のサイクルを生み出しています。

出所後に直面する「帰る場所がない」現実

住居の喪失と家族関係の断絶

刑務所に服役している間に、それまで住んでいたアパートの契約を解除されたり、家財道具をすべて失ってしまったりするケースは珍しくありません。また、事件によって家族との信頼関係が崩れ、絶縁状態になってしまうこともあります。

出所しても、身を寄せる家も、頼れる家族もいない。そのような状況では、日々の食事や寝床を確保することすら困難になります。保証人がいないために新たに住居を借りることも難しく、社会生活のスタートラインに立つことさえできずに、路上生活へと追いやられてしまう人もいます。

医療や福祉サービスの中断

精神障害のある人にとって、定期的な通院や服薬は、症状を安定させる上で欠かせません。しかし、服役によって治療が中断され、出所後すぐに適切な医療機関につながることが難しい場合があります。

また、それまで利用していた障害福祉サービスも、一度刑務所に入ることで途切れてしまいます。出所後に再びサービスを利用するためには、改めて役所で手続きを行う必要がありますが、心身ともに不安定な状態で、複雑な手続きを一人で行うのは非常に困難です。必要な支援が途切れてしまうことで症状が悪化し、再び罪を犯してしまうリスクが高まります

障害と前科による二重の社会的スティグマ

社会復帰を目指す上で、最も大きな壁の一つが「スティグマ(偏見)」です。障害のある人々は、ただでさえ「障害」に対する社会の偏見や誤解に苦しめられることがあります。それに加え、「前科」というもう一つの重いレッテルを貼られてしまうのです。

この「障害」と「前科」という二重のスティグマは、本人から自信を奪い、社会との関わりを断絶させます。周囲からの冷たい視線や、「何か問題を起こすのではないか」という根拠のない疑念にさいなまれ、地域社会で孤立を深めていくことになります。こうした心理的な負担が、社会復帰への意欲をくじいてしまうのです。

就職の困難と経済的困窮

安定した生活を再建するためには、安定した仕事と収入が不可欠です。しかし、「障害」と「前科」という二つのハンディキャップを抱えながら仕事を見つけることは、極めて困難です。

履歴書に空白期間が生まれた理由や、前科について正直に話せば、多くの企業から敬遠されてしまいます。かといって、事実を隠して就職しても、後で発覚することを恐れながら働き続けなければなりません。

仕事が見つからなければ、当然、経済的に困窮します。日々の食事にも事欠くようになれば、「生きるために仕方なく」万引きや窃盗に手を染めてしまう…という悪循環に陥ってしまうのです。累犯に至る背景には、このような深刻な貧困の問題が深く関わっています

負の連鎖を断ち切る「司法福祉」という考え方

罪を犯した障害者が、刑務所を出ては再び罪を犯し、社会から孤立していく。この負の連鎖を断ち切るためには、どうすればよいのでしょうか。その鍵を握るのが、「司法福祉」という考え方です。

これは、刑事司法の手続きと福祉の支援が、ばらばらに機能するのではなく、早い段階から連携し、切れ目のないサポートを提供していくアプローチを指します。罪を罰するだけでなく、その背景にある生きづらさや障害特性に目を向け、社会の中でその人らしい生活を再建できるよう支えていくことが目的です。

司法と福祉が連携する必要性

従来、警察や検察、裁判所といった「司法」の機関と、市町村の福祉課や支援事業所といった「福祉」の機関は、それぞれ独立して動くことがほとんどでした。そのため、障害のある人が逮捕されても、その情報が福祉機関に共有されず、必要な支援が途絶えてしまうことが多くありました。

司法福祉の考え方では、逮捕や起訴といった刑事手続きの初期段階から、福祉の専門家が関わります。本人の障害特性をアセスメント(評価)し、どのような支援が必要かを検討します。そして、刑務所に入っている間から出所後の生活を見据え、住まいの確保や福祉サービスの利用に向けた準備を進めていくのです。このような早期からの連携が、スムーズな社会復帰を実現するために不可欠です。

地域生活定着支援センターの役割と課題

司法と福祉をつなぐ重要な役割を担っているのが、各都道府県に設置されている「地域生活定着支援センター」です。

このセンターは、高齢や障害などが理由で、刑務所を出た後に自立した生活を送ることが難しい人たちを支援する専門機関です。

地域生活定着支援センターの主な役割

出所前の相談支援(出口支援)
刑務所や保護観察所と連携し、出所前から本人と面会。出所後の生活に関する希望や不安を聞き取ります。
福祉サービスの利用調整
障害福祉サービスの利用申請や、適切な事業所探しなどをサポートします。
住まいの確保
帰る場所がない人たちのために、公営住宅や福祉施設など、安心して暮らせる場所を探す手伝いをします。
出所後のフォローアップ
社会復帰後も、地域で孤立しないように定期的な連絡や訪問を行い、安定した生活を支えます。

しかし、こうした重要な役割を担う一方で、センターの存在が十分に知られていなかったり、支援を行う専門職員の人材不足や、地域によって支援体制に差があったりといった課題も指摘されています。

社会内での支援体制の重要性

罪を犯した障害者の社会復帰は、専門機関だけの力で成し遂げられるものではありません。彼らが再び地域社会の一員として暮らしていくためには、私たち一人ひとりを含む、社会全体の理解と協力が不可欠です。

例えば、出所者であることを理由にアパートの入居を断らない、事情を理解した上で雇用を検討する、地域の活動に誘ってみるなど、社会の中に彼らの「居場所」を作っていくことが求められます。過ちを償った人が、もう一度人生をやり直すチャンスを与えられる。そのような寛容な社会を築くことが、結果として新たな犯罪を防ぎ、誰もが安心して暮らせる地域づくりにつながるのです。

就労継続支援B型事業所ができる社会復帰支援

罪を犯した障害のある人が社会復帰を目指す上で、「地域生活定着支援センター」のような専門機関のサポートは非常に重要です。しかし、それと同時に、日々の生活の基盤となる「日中の居場所」や「働く場」を確保することも同じくらい大切になります。

私たち「就労継続支援B型事業所」は、まさにその役割を担うことができる福祉サービスの一つです。すぐに一般企業で働くことが難しい方々に対して、その人らしいペースで社会とのつながりを再び築き、自立した生活を目指すための具体的なサポートを提供します。

日中の居場所としての役割

刑務所から出所したばかりの人は、社会との間に大きな隔たりを感じ、強い孤独感に苛まれることが少なくありません。頼れる人もおらず、行くあてもなく、一人で部屋に閉じこもりがちになると、心身のバランスを崩しやすくなります。

就労継続支援B型事業所は、そのような方々にとって、安心して過ごせる「日中の居場所」としての役割を果たします。そこには同じように様々な背景を持つ仲間や、親身に話を聞いてくれる支援員がいます。決められた時間に通う場所があること、挨拶を交わす相手がいること。こうした当たり前の日常が、社会的な孤立を防ぎ、心を安定させるための大切な基盤となるのです。

軽作業を通じた生活リズムの再構築

長い服役生活や、出所後の不安定な暮らしの中で、昼夜逆転してしまったり、生活リズムが大きく乱れてしまったりする方は少なくありません。不規則な生活は、心身の健康を損なうだけでなく、再犯へとつながるリスクも高めてしまいます。

B型事業所では、部品の組み立てや検品、清掃作業といった、比較的負担の少ない「軽作業」に取り組みます。「午前中はこの作業をしよう」「週に3日通ってみよう」といった形で、自分の体調やペースに合わせて作業に参加することで、自然と生活リズムを整えていくことができます。規則正しい生活を取り戻すことは、社会復帰に向けた大きな一歩です。

工賃を得ることで生まれる自立への一歩

B型事業所での作業に対しては、「工賃」が支払われます。その額は決して多くはないかもしれません。しかし、自分の力で働き、その対価として収入を得るという経験は、失いかけた自信や自己肯定感を取り戻すための、かけがえのないきっかけになります。

自分で稼いだお金で好きなものを買ったり、食事をしたりすることは、経済的な自立だけでなく、精神的な自立にもつながります。誰かに与えられるのではなく、自分の力で生活を組み立てていく。その小さな成功体験の積み重ねが、「もう一度頑張ってみよう」という前向きな気持ちを育て、社会で生きていくための確かな土台を築いていくのです。

やり直したい気持ちをオリーブがサポートします

罪を犯した過去を持つ障害のある方が、社会復帰を目指す道のりは決して平坦ではありません。しかし、「今度こそ、真面目に生きたい」「もう二度と過ちを繰り返したくない」という切実な思いを抱えている方がたくさんいらっしゃいます。

私たち、就労継続支援B型事業所オリーブは、そのような「やり直したい」という気持ちにどこまでも寄り添い、その一歩を全力でサポートする場所です。関西エリア(大阪、兵庫、京都、奈良)で複数の事業所を運営し、一人ひとりの状況に合わせた温かい支援を提供しています。

過去を問わず受け入れる安心できる環境

オリーブでは、利用される方の過去の経歴や障害の種別を一切問いません。大切なのは、「これからどうしていきたいか」というご本人の気持ちです。

様々な経験をしてきたスタッフが、あなたの話を丁寧に聞き、決して否定することなく受け止めます。まずは「ここに居ていいんだ」と感じられる、安心・安全な環境の中で、少しずつ心と体を休めるところから始めましょう。オリーブは、あなたにとっての「第二の我が家」のような、温かい居場所でありたいと願っています。

関係機関と連携した包括的な支援体制

ご本人の社会復帰をサポートするためには、私たち事業所だけの力では不十分です。オリーブでは、お住まいの地域の地域生活定着支援センターや保護観察所、医療機関、相談支援事業所といった様々な関係機関と密に連携しています。

生活面での課題、健康面での不安、今後のキャリアに関する悩みなど、ご本人が抱える様々な問題に対して、最適な専門機関と協力しながら、包括的な支援体制を整えます。一人で抱え込まずに、私たちと一緒に解決の道を探していきましょう。

秘密厳守でご相談に応じます

「自分の過去を話すのが怖い」「相談した内容が外部に漏れてしまうのではないか」といった不安をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。どうぞご安心ください。オリーブでは、ご相談いただいた内容に関する秘密を厳守し、プライバシーの保護を徹底しています。

ご本人だけでなく、ご家族や支援者の方からのご相談も歓迎します。「まずは話だけでも聞いてみたい」という段階でも全く問題ありません。下記のお問い合わせフォームまたはお電話にて、お気軽にご連絡ください。あなたの勇気ある一歩を、私たちは心からお待ちしています。

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