お役立ち情報 ケアラー(家族のケア)

ケアラーのためのセルフケア入門|「自分の時間」を取り戻し共倒れを防ぐ方法

「家族のことは、自分が見なければ」

「自分のことよりも、ケアを優先するのが当たり前」

障害のあるご家族や近しい人のケアをしている方の中には、そうした強い責任感から、ご自身のことを後回しにしている方が少なくありません。しかし、知らず知らずのうちに心や体に負担が蓄積し、気づいた時には疲れ果てて動けなくなってしまう「共倒れ」のリスクは、決して他人事ではありません。

大切な人を支え続けるためには、まずケアをするあなた自身が心身ともに健康であることが不可欠です。この記事では、家族などを無償でケアする「ケアラー」が直面する課題から、自分を守るためのSOSサイン、そして今日からすぐに実践できるセルフケアの方法まで、具体的にお伝えします。

さらに、一人で抱え込まないための相談先や、ケアされるご本人が日中安心して過ごせる「居場所」を持つことが、いかにしてケアラー自身の休息(レスパイト)に繋がるかについても解説します。あなたの大切な日常を守り、より良いケアを続けていくためのヒントがここにあります。

あなたも「ケアラー」かもしれない 支援者の心身の負担

近年、「ケアラー」という言葉を耳にする機会が増えてきました。しかし、自分自身がケアラーであると自覚していない方も多く、その負担が見過ごされがちです。まずは、ケアラーがどのような状況に置かれているのか、その定義と課題について正しく理解することから始めましょう。

ケアラーとは?家族や近しい人を無償でケアする人

ケアラーとは、一般的に、高齢、障害、病気などを理由にケアを必要とする家族やパートナー、友人など、近しい人に対して、無償で介護や看護、日常生活の援助を行っている人のことを指します。

専門的な介護職や看護師とは異なり、多くの場合、明確な役割として意識されることなく、家族としての愛情や責任感から自然発生的にケアを担っています。そのため、「自分がケアラーである」という自覚を持ちにくく、支援を求めることから遠ざかってしまう傾向があります。

ケアの内容は、食事や入浴、排泄の介助といった身体的な介護だけにとどまりません。

  • 服薬の管理や通院の付き添い
  • 金銭の管理や行政手続きの代行
  • 精神的な落ち込みに対する寄り添いや励まし
  • 障害特性からくる行動への対応
  • きょうだいの世話や送迎

こうした多岐にわたるケアを、仕事や家事、育児と並行して行っているケースも少なくなく、ケアラー自身の時間的、身体的、精神的な負担は計り知れないものがあります。

社会から孤立しやすい「ヤングケアラー」の問題

ケアラーの中でも、特に深刻な課題として注目されているのが「ヤングケアラー」です。ヤングケアラーとは、本来大人が担うと想定されているようなケア責任を引き受け、家族の世話(家事、介護、感情面のサポートなど)を日常的に行っている18歳未満の子どものことを指します。

こども家庭庁の調査では、高校2年生の約17人に1人がヤングケアラーであるという実態が報告されています。彼らは、自身の勉強時間を確保できなかったり、友人と遊ぶ時間がなかったりすることで、学業や心身の成長に大きな影響を受けることがあります。

また、「家のことを他人に話すべきではない」という思いや、自分がケアをしているという自覚がないことから、誰にも相談できずに社会から孤立してしまうケースが後を絶ちません。この問題は、単なる家庭内の問題ではなく、社会全体で支えていくべき喫緊の課題とされています。

「自分を犠牲にするのが当たり前」という思い込みの危険性

「大切な家族のためだから、自分が我慢すればいい」

「私がしっかりしないと、この家は回らない」

多くのケアラーは、このような強い責任感や愛情から、自分を犠牲にすることを「当たり前」だと感じてしまいがちです。特に、周囲に頼れる人がいない場合や、ケアの終わりが見えない状況では、その思いは一層強くなります。

しかし、この「自己犠牲の常態化」は非常に危険なサインです。自分の心や体の悲鳴に耳をふさぎ、無理を重ねることで、心身の健康が損なわれていきます。その結果、ケアの質が低下してしまったり、最悪の場合、虐待や共倒れといった悲しい事態につながるリスクも高まってしまうのです。

良いケアを長く続けていくためには、「自分を大切にすること」が何よりも重要です。それは決してわがままなことではなく、あなたと、あなたがケアする大切な人の両方を守るために不可欠な責任なのです。

燃え尽き(バーンアウト)の前に気づきたいSOSサイン

ケアによる心身の負担は、自分では気づかないうちに少しずつ蓄積されていきます。深刻な「燃え尽き(バーンアウト)」状態に陥る前に、自分の心と体が出しているSOSサインにいち早く気づき、対処することが重要です。ここでは、ケアラーに現れやすい身体的・精神的なサインを具体的にご紹介します。ぜひ、ご自身の状態と照らし合わせてみてください。

身体的なサイン:眠れない・食欲がない・疲れが取れない

体は正直です。心が無理をしている時、まず体に不調が現れることがよくあります。以下のようなサインが続いていないか、チェックしてみましょう。

睡眠の問題
夜、なかなか寝付けない
眠りが浅く、夜中に何度も目が覚める
朝、すっきりと起きられない
食欲の変化
食欲がなく、何を食べても美味しく感じない
逆に、甘いものやジャンクフードなどを過剰に食べてしまう
原因不明の体調不良
常に体がだるく、重い
頭痛、めまい、吐き気、動悸が頻繁に起こる
風邪をひきやすくなった、治りにくくなった
エネルギーの枯渇
週末にゆっくり休んでも、疲れが全く取れない
これまで好きだった趣味や活動をする気力がわかない

これらの身体的なサインは、自律神経の乱れや免疫力の低下が原因で起こることが多いです。単なる疲れだと軽視せず、「体が休息を求めているサインだ」と受け止めることが大切です。

精神的なサイン:不安やイライラ・無力感・興味の喪失

体の不調と同時に、心の状態にも変化が現れます。感情のコントロールが難しくなったり、物事の捉え方が否定的になったりするのは、心が限界に近づいている証拠かもしれません。

感情の不安定
ささいなことでイライラしたり、怒りっぽくなったりする
理由もなく涙が出たり、急に悲しくなったりする
常に漠然とした不安感や焦燥感に駆られている
思考のネガティブ化
「自分のせいでうまくいかない」と自分を責めてしまう
「この状況が永遠に続くのではないか」と将来を悲観してしまう
物事を悪い方へ悪い方へと考えてしまう
意欲・関心の低下
これまで楽しめていたテレビ番組や音楽に興味がなくなった
人と会ったり話したりするのが億劫に感じる
何をしていても、喜びや楽しみを感じられない
無力感・絶望感
「何をしても無駄だ」と感じる
ケアの対象者に対して、愛情とは逆のネガティブな感情を抱いてしまい、そんな自分に罪悪感を覚える

これらのサインが複数当てはまる場合、うつ病などの精神疾患につながる可能性もあります。一人で抱え込まず、専門家への相談も視野に入れることが重要です。

今日からできる!ケアラーのためのセルフケア入門

「セルフケアが必要なのはわかっているけど、そんな時間も気力もない…」と感じるかもしれません。しかし、セルフケアは特別なことではありません。日常生活の中に、ほんの少しでも自分をいたわる時間を取り入れることが、心を軽くする第一歩です。ここでは、誰でも今日から始められる簡単なセルフケアの方法をご紹介します。

5分でもOK!意識的に「ケアから離れる時間」を作る

ケアラーは、常にケアのことを考え、気が休まらない状態に陥りがちです。大切なのは、物理的にも心理的にも、意識して「ケアから離れる時間」を確保することです。たとえ5分や10分といった短い時間でも構いません。

【短時間でできるリフレッシュ法】

場所を変える
ベランダに出て外の空気を吸う
近所のコンビニまで歩いてみる
車の中で好きな音楽を聴く
五感を満たす
温かいハーブティーやコーヒーをゆっくりと味わう
好きな香りのハンドクリームを塗る
肌触りの良いブランケットにくるまる
軽い運動をする
その場で伸びをしたり、ストレッチをしたりする
ラジオ体操をする
深呼吸を5回繰り返す

ポイントは、「ケア以外のことに集中する」時間を作ることです。この短い時間があるだけでも、気持ちを切り替え、張り詰めた心を少しだけ緩めることができます。罪悪感を感じる必要は一切ありません。これは、あなたと大切な家族のための、必要な「充電時間」なのです。

自分の感情や悩みを言葉にして「書き出す」

頭の中でぐるぐると回り続ける不安や悩みは、言葉にして外に出す(アウトプットする)ことで、客観的に捉えやすくなります。誰かに話すのが難しい場合は、「書き出す」ことが非常に有効なセルフケアになります。

ノートとペンを用意し、誰に見せるでもなく、ただ心に浮かんだことをそのまま書き出してみましょう。

今日あった嫌なこと、腹が立ったこと
例:「〇〇さんに心ない言葉を言われて悲しかった」
今、不安に感じていること
例:「この先の生活、どうなってしまうんだろう」
本当はどうしたいのか、どうなってほしいのか
例:「本当は1日だけでもいいから、何も考えずに眠りたい」
自分へのねぎらいの言葉
例:「今日も一日、本当によく頑張ったね」

うまくまとめる必要はありません。感情を吐き出すように書くだけで、不思議と頭の中が整理され、気持ちが少し落ち着きます。これは「ジャーナリング」と呼ばれる心理的な手法の一つで、ストレス軽減効果も報告されています。

「~べき思考」を手放し、自分を許す

「母親なのだから、完璧にこなすべきだ」

「長男なのだから、自分がしっかりすべきだ」

「もっと笑顔で優しく接するべきだ」

こうした「~べき」という思考は、知らず知らずのうちに自分を縛り付け、追い詰める原因になります。しかし、人間である以上、常に完璧でいることは不可能です。疲れていればイライラもしますし、うまくいかないこともあります。

そんな時は、意識して「べき思考」を手放し、不完全な自分を許してあげましょう。

  • 「完璧じゃなくてもいい」「できる範囲でやれば十分」と自分に言い聞かせる。
  • できなかったことではなく、今日できた小さなこと(例:ご飯を作れた、薬を飲ませてあげられた)を数えて、自分を褒める。
  • 「まあ、いいか」「そんな日もあるさ」を口癖にする。

自分に厳しくしすぎることは、誰のためにもなりません。まずは、一番身近な存在であるあなた自身が、自分の最大の味方になってあげることが、心の健康を保つ秘訣です。

一人で抱え込まない!相談先と使える制度の活用法

セルフケアで心を軽くすることも大切ですが、根本的な負担を軽減するためには、外部のサポートを積極的に活用することが不可欠です。ケアの悩みは、もはや個人や家族だけで解決する問題ではありません。あなたを支えるための様々な社会資源が存在します。ここでは、具体的な相談先と利用できる制度についてご紹介します。

地域包括支援センターや相談支援事業所

どこに相談すればいいか分からない時、まず頼りになるのが公的な相談窓口です。これらの機関では、専門の相談員があなたの状況を丁寧に聞き取り、利用できるサービスや制度につなげてくれます。

地域包括支援センター
主に高齢者の介護に関する総合相談窓口ですが、高齢者と障害者が同居している世帯の相談など、幅広く対応しています。お住まいの市区町村に必ず設置されています。
障害者相談支援事業所
障害のある方やその家族のための専門相談窓口です。障害福祉サービスの利用計画(サービス等利用計画)の作成や、生活上の困りごと全般について相談できます。
市区町村の障害福祉担当課
各種制度の申請窓口であり、地域の相談機関についての情報も提供しています。

相談は無料です。まずは電話一本でも構いません。「今の状況を誰かに話す」だけでも、大きな一歩です。

ケアラーズカフェや当事者会などの地域の繋がり

専門家への相談と合わせて、同じ立場の仲間と繋がることも、大きな心の支えになります。誰にも分かってもらえないと思っていた悩みを共有できたり、他の人の工夫や経験談からヒントを得られたりすることがあります。

ケアラーズカフェ
ケアラーが気軽に集まり、お茶を飲みながら語り合える場所です。近年、全国的に広がりを見せています。「〇〇市 ケアラーズカフェ」などで検索してみてください。
家族会・当事者会
同じ病気や障害を持つ人の家族が集まる会です。病気や障害に関する専門的な情報を交換したり、特有の悩みを分かち合ったりできます。

同じ痛みや苦労を知る仲間との出会いは、「一人じゃないんだ」という安心感を与えてくれます。こうした「横のつながり」は、孤立しがちなケアラーにとって貴重な財産となるでしょう。

レスパイトケア(一時的な休息)サービスの活用

レスパイト(Respite)とは、「一時的な休息」「息抜き」を意味する言葉です。レスパイトケアは、ケアラーが一時的にケアから解放され、心身のリフレッシュを図るための支援サービスの総称です。

「介護を休むなんて、無責任だ」と感じる必要は全くありません。レスパイトケアは、ケアラーが燃え尽きることなく在宅でのケアを継続するために、公的に認められた重要な権利です。

【レスパイトケアとして利用できるサービスの例】

訪問介護(ホームヘルプサービス)
ヘルパーが自宅を訪問し、食事や入浴などの身体介護や生活援助を行います。
短期入所(ショートステイ)
障害者支援施設などに短期間宿泊し、日常生活上の支援を受けられるサービスです。
日中一時支援
日中、施設などで障害のある方を預かってもらえる市区町村の事業です。

これらのサービスを利用して生まれた時間で、自分の趣味を楽しんだり、友人と会ったり、あるいはただ家でゆっくりと過ごす。そうした時間が、再び優しく家族と向き合うためのエネルギーを充電してくれます。

ご本人の「日中の居場所」がケアラーの休息に繋がります

レスパイトケアは非常に重要ですが、サービス利用には手続きや予約が必要な場合もあります。より日常的にケアラーが自分の時間を持つためには、ケアされるご本人が、日中に安心して楽しく過ごせる「居場所」を持つことが、実は最も効果的な解決策の一つとなります。

ご本人が自宅以外の場所で活動することで、生活にメリハリが生まれ、新たな目標や楽しみを見つけるきっかけにもなります。そして、その時間が、結果としてケアラーにとっての安定したレスパイト(休息)時間となるのです。

就労継続支援B型事業所が新たな選択肢に

障害のある方の日中の居場所として、「就労継続支援B型事業所」という選択肢があります。これは、障害や難病のある方が、体力や体調に合わせて自分のペースで働き、工賃を得ることができる福祉サービスです。

就労継続支援B型事業所は、単に「働く場所」というだけではありません。

自分のペースで通える
「週1日、2時間から」など無理なく始められる。
社会との繋がりが持てる
他の利用者や職員と交流する機会が生まれる。
役割や得意なことを見つけられる
軽作業などを通じて「できる」という自信がつく。
専門スタッフに相談できる
生活上の悩みなどを気軽に話せる。

ご本人がB型事業所に通うことで、日中の数時間を自分の活動に集中できるようになります。その時間は、ケアラーにとって、安心して仕事や家事に集中したり、自分のために使ったりできる貴重な時間となります。ご本人の自立と社会参加が、ケアラーの負担軽減に直接つながる、非常に有効な選択肢と言えるでしょう。

ご家族のご相談も、私たちオリーブでは歓迎しています

就労継続支援B型事業所オリーブでは、ご利用を検討されているご本人だけでなく、そのご家族からの相談も積極的にお受けしています。

  • 「うちの子でも、通えるかしら?」
  • 「どんな作業をするのか、まずは親が見てみたい」
  • 「本人はまだ乗り気ではないが、家族として選択肢を知っておきたい」

このような、ご家族ならではの不安や疑問に、経験豊富なスタッフが丁寧にお答えします。ご本人にとって最適な環境であるかどうかを、ご家族と一緒に考えさせていただくことが、私たちの役目です。

まずはお気軽にお問い合わせください

ケアの悩みは、一人、あるいは一家族で抱え込むにはあまりにも重く、複雑です。どうか、「誰かに頼ることは悪いことではない」ということを忘れないでください。

私たちオリーブは、障害のあるご本人の支援はもちろんのこと、その方を支えるご家族のサポートも、同じように大切だと考えています。

見学や個別相談は随時受け付けております。まずはお話をお聞かせいただくだけでも構いません。あなたからのご連絡を、スタッフ一同、心よりお待ちしております。

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