
「ダブルマイノリティ」という言葉をご存知でしょうか。これは、例えばLGBTQ+であり、かつ障害者であるなど、複数のマイノリティ性(社会的少数者性)を併せ持つ人々を指す言葉です。近年、このダブルマイノリティが抱える困難に注目が集まっています。ある調査では、精神・発達障害のあるLGBTQ+の9割以上が、就職活動で困難を経験したと回答しています。この困難は、セクシュアリティと障害という二つの課題が単純に「足し算」されたものではなく、二つが交差することで生まれる、より複雑で深刻な生きづらさです。この記事では、ダブルマイノリティとは何か、当事者が直面する具体的な困難、そして、ありのままの自分でいられる「居場所」を見つけるための一つの選択肢として、就労継続支援B型事業所の役割について詳しく解説します。
「ダブルマイノリティ」と交差する困難(インターセクショナリティ)
LGBTQ+であり障害者であるということ
ダブルマイノリティとは、社会の中で少数派とされる属性を二つ以上持つ人のことを指します。例えば、以下のようなケースが挙げられます。
- LGBTQ+当事者であり、身体障害や精神・発達障害がある人
- 外国にルーツを持ち、障害がある人
- 女性であり、性的マイノリティである人
このように、マイノリティ性は一つとは限りません。セクシュアリティ、障害、人種、国籍、性別など、様々な属性が一人の中に存在し、それらが複雑に絡み合ってその人自身を形作っています。特に「LGBTQ+」と「障害」という二つの属性を併せ持つことは、見えづらい困難を抱えやすい側面があります。
「足し算」ではない複合的な生きづらさ
ダブルマイノリティが抱える困難を理解する上で重要なのが、「インターセクショナリティ(交差性)」という考え方です。これは、「LGBTQ+としての困難」と「障害者としての困難」が単純に足し算されるのではなく、二つの属性が交差することで、まったく別の、独自の困難が生じるという視点です。
例えば、障害があることで、そもそも性的マイノリティの集まるコミュニティに参加しにくいという問題があります。また、障害者向けの支援サービスを利用する際に、自身のセクシュアリティについて理解してもらえず、不適切な対応を受けるといった経験も少なくありません。このように、どちらか一方の属性だけを見ていては、その人が本当に困っていることを見過ごしてしまう可能性があるのです。
どちらのコミュニティにも属せない孤立感
ダブルマイノリティ当事者が直面する深刻な問題の一つに、孤立感があります。本来、同じ属性を持つ仲間と繋がれるはずのコミュニティが、必ずしも安心できる場所になるとは限らないからです。
- 障害者コミュニティにおける課題
- 障害のある人々の集まりや支援の場では、まだ性的マイノリティへの理解が十分に進んでいない場合があります。自身のセクシュアリティについて話したくても、「障害とは関係ない」と一蹴されたり、そもそも話題にすること自体がタブー視されたりする雰囲気があるかもしれません。
- LGBTQ+コミュニティにおける課題
- 一方で、LGBTQ+のコミュニティやイベントでは、障害のある人への配慮が不足していることがあります。例えば、会場がバリアフリーでなかったり、発達障害の特性である感覚過敏がある人には参加が難しい環境だったりします。また、障害に対する偏見(エイブリズム)に直面し、疎外感を覚えてしまうこともあります。
どちらのコミュニティでも「完全な仲間」として受け入れられないと感じることで、当事者はどこにも属せない深い孤立感を抱えてしまうのです。
求職活動で9割が困難を経験する実態
精神・発達障害があるLGBTQ+の厳しい現実
認定NPO法人ReBitが行った調査では、精神・発達障害があるLGBTQ+の実に92.5%が、求職活動やキャリア形成において困難を経験したと回答しています。これは、ダブルマイノリティが直面する困難がいかに深刻であるかを示す衝撃的な数字です。
この背景には、社会の様々な場面で「見えない壁」に直面している実態があります。
| 困難の種類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| ハラスメント・差別 | 面接でセクシュアリティや障害について根掘り葉掘り聞かれる、アウティング(本人の許可なく他者に暴露すること)を示唆されるなど、人権侵害にあたるような経験。 |
| 相談先の不在 | 障害とセクシュアリティの両方について安心して相談できる窓口がない。ハローワークや障害者就業・生活支援センターで相談しても、どちらか一方の課題としてしか扱われず、複合的な悩みを理解してもらえない。 |
| 制度の狭間 | 障害者雇用枠で応募する場合、セクシュアリティについてどこまで開示してよいか悩む。一方で、一般枠では障害への配慮を求めにくい。どちらの制度も、ダブルマイノリティの存在を前提として設計されていない。 |
| ロールモデルの不在 | 自身の状況に近いロールモデルを見つけることが難しく、キャリアプランを描きにくい。将来への漠然とした不安を抱えやすい。 |
これらの困難は、当事者から働く意欲や自信を奪い、社会参加を阻む大きな要因となっています。
日常生活で直面する複合的な困難の具体例
障害者支援における性的指向・性自認への無理解
障害福祉サービスは、本来、当事者の生活を支えるための重要な社会資源です。しかし、支援を提供する側のスタッフに性的マイノリティに関する知識や理解が不足していると、サービスが適切に機能しないことがあります。
例えば、以下のようなケースが考えられます。
- 異性愛が前提のコミュニケーション
- 訪問介護のヘルパーから「彼氏(彼女)はいないの?」と悪気なく聞かれ、精神的な苦痛を感じる。
- 性自認にそぐわない対応
- トランスジェンダーの人が、戸籍上の性別で扱われる(例:男性トイレへの誘導、名前の呼び方など)。
- 相談への無理解
- 同性のパートナーとの関係について相談しても、「友達のことでしょ」と矮小化されてしまう。
このような経験は、当事者が支援者との信頼関係を築くことを困難にし、必要なサポートから遠ざけてしまう原因にもなります。
医療や福祉サービスへのアクセスの壁
心や体の健康を維持するために不可欠な医療や福祉サービスですが、ダブルマイノリティ当事者にとっては、そこにたどり着くこと自体が高いハードルになる場合があります。
安心して相談できる場所が極端に少ないのが現状です。精神科の医師に障害のことは相談できても、セクシュアリティの悩みを同時に打ち明けるのはためらわれるかもしれません。逆に、LGBTQ+フレンドリーなクリニックで、発達障害の特性について十分に理解してもらえるとは限りません。
結果として、当事者は「障害の自分」と「LGBTQ+の自分」を切り離して、別々の場所で相談せざるを得ない状況に置かれます。これは大きな精神的負担であり、本来統合されるべき「一人の人間としての悩み」が分断され、問題の根本的な解決が遠のいてしまうことにも繋がります。
「私」というアイデンティティを生きる
二つの特性と向き合う自己理解の道のり
「自分の生きづらさの根源は、障害の特性にあるのか、それともセクシュアリティにあるのか?」
ダブルマイノリティの当事者は、自己理解の過程でこのような複雑な問いに直面することがあります。
社会が用意した「障害者」「LGBTQ+」というカテゴリーのどちらにも完全には当てはまらないと感じる中で、自分自身のアイデンティティを確立していくことは、決して平坦な道のりではありません。時には、二つのマイノリティ性の間で引き裂かれるような感覚を覚えたり、自分のことを誰にも理解してもらえないのではないかと感じたりすることもあるでしょう。
しかし、この葛藤のプロセスは、自分だけのユニークな個性や強みを見つけるための重要な過程でもあります。二つの異なる視点を持つからこそ、物事を多角的に捉えたり、他の人の痛みにより深く共感したりできるかもしれません。
ロールモデルや当事者との繋がりの重要性
複雑な悩みを抱える中で、同じような経験を持つ仲間や、少し先を歩くロールモデルの存在は、大きな支えとなります。近年では、当事者団体やNPO法人が、ダブルマイノリティの人々が安心して繋がれるコミュニティ作りやイベント開催に力を入れています。
また、障害とセクシュアリティの両方に配慮した就労支援サービスも少しずつ増えてきています。こうした専門機関は、求人紹介だけでなく、当事者同士が交流できるプログラムを提供している場合もあり、孤立感を和らげるための貴重な場となっています。自分一人で抱え込まず、安心して話せる人や場所と繋がることが、自分らしい生き方を見つける第一歩です。
ありのままの自分でいられる「居場所」としての就労継続支援
仕事を通じて得る自己肯定感と社会との繋がり
9割以上が求職活動で困難を経験するという厳しい現実の中で、いきなり一般企業で働くことに高いハードルを感じるのは当然のことです。そんな時、就労継続支援B型事業所は、安心して社会との接点を持ち、自分らしさを取り戻すための「居場所」として大きな役割を果たします。
就労継続支援B型は、障害や病気のために一般企業で働くことが難しい方が、自分のペースで軽作業などの仕事に取り組む福祉サービスです。雇用契約を結ばないため、体調や精神状態に合わせて週1日や半日からの利用が可能です。
ここで大切なのは、工賃を得ることだけではありません。
- 自分の作ったものが誰かの役に立つという達成感
- 仲間やスタッフとコミュニケーションをとる安心感
- 規則正しい生活リズムを取り戻す安定感
これらを通じて、失いかけていた自信や自己肯定感を少しずつ育んでいくことができます。
多様性を前提とした安心できる環境
多くの就労継続支援B型事業所には、様々な障害や背景を持つ人々が集まっています。そこは、多様であることが当たり前の環境です。
もちろん、全ての事業所がLGBTQ+に関する専門的な知識を持っているわけではありません。しかし、一人ひとりの個性や特性を尊重し、その人に合った支援を提供することが福祉サービスの基本です。障害だけでなく、あなたが持つ全ての側面を含めて「あなた自身」として受け入れ、サポートしてくれる場所を見つけることが重要です。まずは一歩を踏み出し、社会との繋がりを作るためのリハビリの場として、就労継続支援を考えてみてはいかがでしょうか。
あなたの全ての個性をオリーブは尊重します
一人ひとりのアイデンティティに寄り添う支援
就労継続支援B型事業所オリーブは、関西(大阪、兵庫、京都、奈良)で複数の施設を運営しています。私たちは、利用者さん一人ひとりが持つ障害の特性だけでなく、その人が大切にしている価値観やアイデンティティ、セクシュアリティなど、全ての個性を尊重することを大切にしています。
私たちの支援員は、あなたが抱える複雑な悩みや生きづらさに真摯に耳を傾け、どうすればあなたが安心して自分らしくいられるかを一緒に考えます。障害のこと、セクシュアリティのこと、あるいはその両方が絡み合った悩みなど、どんなことでも気兼ねなくお話しください。
どんな自分でも安心して働ける場所
オリーブでは、パソコンを使った作業から軽作業まで、様々な仕事をご用意しており、あなたの興味や得意なことに合わせて選ぶことができます。初めは週に一度、短い時間の利用からスタートし、少しずつ自信をつけていくことが可能です。
私たちは、オリーブが単に仕事をする場所ではなく、利用者さんにとって心が休まる「居場所」であり、次のステップに進むためのエネルギーを充電できる場所でありたいと願っています。あなたのセクシュアリティも、障害の特性も、全てがあなたの一部です。どんな自分でも否定されることなく、安心して過ごせる環境がここにあります。
まずは見学で事業所の雰囲気を感じてください
もし、あなたが「ダブルマイノリティ」としての生きづらさを感じていたり、安心して働ける場所を探していたりするなら、一度お気軽にオリーブへ見学・相談に来てみませんか。
ウェブサイトやパンフレットだけでは伝わらない、事業所の温かい雰囲気や、スタッフの親身な対応をぜひ肌で感じてみてください。「ここでなら、ありのままでいられるかもしれない」と思っていただけるはずです。あなたからのご連絡を、心よりお待ちしています。
