
病気や障害と共に歩む中で、孤独を感じたり、将来に不安を抱いたりした経験はありませんか。そのつらい経験は、決して無駄なものではありません。実は、同じような悩みを抱える他の誰かにとって、大きな支えとなり、希望の光となる「価値ある力」を秘めています。
この記事では、ご自身の「当事者」としての経験を活かし、社会と繋がり、誰かの役に立つ喜びを見出す「ピアサポート」という活動について、その意味から具体的な始め方までを分かりやすく解説します。
ピアサポートを通じて、ご自身の経験が持つ本当の価値に気づき、社会貢献という新たな一歩を踏み出すためのヒントがここにあります。あなたの経験が、あなた自身を、そして誰かを輝かせる力になることを、ぜひ知ってください。
ピアサポートとは 同じ悩みを持つ仲間との支え合い
ピアサポート(Peer Support)とは、病気や障害、依存症、あるいは家族の介護など、同様の困難や悩みを経験した仲間(ピア)が、その経験を活かして対等な立場で互いに支え合う活動のことです。
医師やカウンセラーなど専門家による支援(専門的サポート)が、専門知識に基づいた客観的な助言や治療であるのに対し、ピアサポートは「同じ痛みを分かち合える」という共感性を土台としている点が大きな特徴です。そこには、支援する側・される側という一方的な関係ではなく、互いに学び、成長していくという双方向の関係性があります。
| 支援の種類 | 担い手 | 特徴 | 関係性 |
|---|---|---|---|
| ピアサポート | 同じ経験を持つ仲間(ピア) | 共感、分かち合い、経験に基づくアドバイス | 対等・双方向 |
| 専門的サポート | 医師、看護師、カウンセラーなど | 専門知識、客観的分析、治療・指導 | 専門家とクライアント |
この「対等な立場での支え合い」こそが、専門家による支援だけでは得られない、深い安心感や自己肯定感の回復に繋がる力を持っているのです。
「当事者」だからこそできること
ピアサポートの最大の力は、何と言っても「当事者だからこそ分かり合える」という点にあります。
例えば、病気による体調の波、周囲に理解されにくい心のつらさ、あるいは社会生活で感じる見えない壁など、言葉で説明し尽くせない複雑な感情や困難を、ピア(仲間)は経験として理解しています。
そのため、専門家にはためらってしまうような本音や弱音も、安心して打ち明けることができます。「自分だけが苦しいわけではなかったんだ」と知ることは、深い孤独感を和らげ、一人で抱え込んできた心の重荷を軽くしてくれます。
また、少し先を歩む仲間の姿は、「自分もこうなれるかもしれない」という具体的な希望、いわばロールモデルとなります。困難な状況を乗り越えてきた人の言葉には、何物にも代えがたい説得力と勇気を与える力があるのです。
ピアサポートがもたらす双方への良い効果
ピアサポートは、支援を受ける側だけでなく、支援をする側にも多くのポジティブな影響をもたらすことが知られています。この「お互いにとってプラスになる」という点が、ピアサポート活動の大きな魅力であり、継続していくための原動力にもなります。
支援する側もされる側も、共に成長し、力を得ることができる。それがピアサポートの本質です。
支援される側のメリット 安心感と自己肯定感の回復
支援を受ける側にとって、ピアサポートは以下のような多くのメリットをもたらします。
- 孤独感の軽減
- 「同じ悩みを持つ仲間がいる」と実感することで、社会的な孤立感が和らぎ、精神的な安定に繋がります。
- 自己肯定感の向上
- 自分の悩みや感情をありのままに受け止めてもらう経験を通じて、「このままで良いんだ」と自分自身を肯定できるようになります。
- 希望の発見
- 仲間の経験談から、問題解決の新たな視点や具体的な対処法(コーピング)を学ぶことができ、将来への希望を見出しやすくなります。
- 正しい情報へのアクセス
- 当事者ならではの視点で、本当に役立つ公的サービスや生活の工夫といった実践的な情報を得ることができます。
一人で悩んでいた時には見えなかった道が、仲間との繋がりの中で見えてくるのです。
支援する側のメリット 経験の肯定と新たな役割の発見
一方で、自身の経験を活かして支援する側にも、計り知れないメリットがあります。
- 自己肯定感と自己有用感の向上
- 自分の経験が誰かの役に立っていると実感すること、相手から「ありがとう」と感謝されることは、大きな自信と「自分は社会の役に立てる存在だ」という自己有用感に繋がります。
- つらい経験の再評価
- ネガティブな出来事と捉えていた自身の経験が、「人を助けるための価値ある資源」であったと再認識できます。これは、過去の自分を肯定し、癒すプロセスにもなります。
- コミュニケーション能力の向上
- 相手の話を真摯に聴き、自分の経験を分かりやすく伝える訓練を重ねることで、対人関係におけるスキルが自然と向上します。
- 新たな社会的役割の獲得
- 「支援される側」だけでなく、「支援する側」「社会に貢献する側」という新しい役割を得ることで、生きがいや新たな目標を見出すことができます。
誰かを支えることは、巡り巡って自分自身を支え、成長させることに繋がるのです。
私にもできる?ピアサポートを始めるためのステップ
「自分の経験が誰かの役に立つなら、何かしてみたい」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。ピアサポートを始めるのに、特別な資格は必ずしも必要ありません。大切なのは「誰かの力になりたい」という想いです。ここでは、その第一歩を踏み出すための具体的なステップをご紹介します。
まずは自分の経験を振り返り言語化する
ピアサポートの基本は、自身の経験を語ることにあります。まずは、これまでの道のりを自分自身で振り返り、言葉にしてみることから始めましょう。
このプロセスは、「当事者研究」という手法にも通じます。「当事者研究」とは、自分自身の困難や生きづらさについて、仲間と共に客観的に研究し、そのメカニズムや独自の対処法を見出していく活動です。
難しく考える必要はありません。以下のようなことをノートに書き出してみるだけでも、大きな一歩です。
- どんなことに困ってきたか
- どんな時に気持ちが落ち込み、どんな時に楽になったか
- 自分なりに編み出した工夫や乗り越え方
- 利用して助かった制度やサービス
- 周りの人にしてもらって嬉しかったこと、悲しかったこと
この作業は、自分の経験を客観的に整理し、人に伝えるための準備になるだけでなく、自分自身の心を深く理解し、癒す効果も期待できます。
地域のピアサポート活動や当事者会に参加してみる
いきなり支援する側に立つことに不安を感じる方は、まずはお住まいの地域で開催されている当事者会やセルフヘルプグループに参加してみるのがおすすめです。
こうしたグループは、同じ病気や障害を持つ人々が自主的に運営しており、気軽な情報交換やおしゃべりの場を提供しています。まずは参加者の一人として、場の雰囲気を感じたり、他の人の話を聞いたりすることから始めてみましょう。
活動情報は、市区町村の障害福祉担当課や社会福祉協議会、あるいは地域のNPO法人などが情報を提供していることが多いです。インターネットで「〇〇(地域名) 〇〇(病名・障害名) 当事者会」などと検索してみるのも良いでしょう。
ピアサポーター養成研修で専門的な知識を学ぶ
より本格的に、そして責任ある立場でピアサポート活動に関わりたいと考えるなら、専門的な知識とスキルを学ぶことも大切です。
各自治体やNPO法人などでは、「ピアサポーター養成研修」が実施されています。こうした研修では、以下のようなことを学びます。
- ピアサポートの倫理
- 相手のプライバシーを守る、自分の価値観を押し付けないなど、活動する上での重要なルール。
- 傾聴のスキル
- 相手の話を真摯に受け止め、深く理解するための基本的な技術。
- 地域の社会資源に関する知識
- 相談者を適切な専門機関や公的サービスに繋ぐための情報。
専門知識を身につけることで、より自信を持って、安全に活動に取り組むことができるようになります。
就労継続支援B型事業所はピアサポート実践の場
「ピアサポートには興味があるけれど、いきなり外部の活動に参加するのはハードルが高い…」と感じる方もいるかもしれません。実は、就労継続支援B型事業所のような場所こそ、日々の活動の中で自然にピアサポートが生まれる絶好の環境なのです。
B型事業所は、障害や病気によって一般企業で働くことが難しい方々が、自分のペースで働きながら訓練を行う場所です。そこには、様々な経験や背景を持つ「当事者」の仲間たちが集まっています。
日々の作業や交流の中に生まれる自然な支え合い
B型事業所では、特別な活動としてではなく、ごく日常的な場面でピアサポートが実践されています。
例えば、
- 新しく入ってきたメンバーに、作業のコツを教える
- 体調が悪そうな仲間に「大丈夫?」と声をかける
- 自分の失敗談を話して、場の空気を和ませる
- 仕事の合間に、生活の中での工夫や悩みを共有する
こうした何気ないやり取りの一つひとつが、お互いの孤独感を和らげ、「ここに来れば仲間がいる」という安心感に繋がります。仕事という共通の目標に向かって協力し合う経験そのものが、自然な支え合いの形となっているのです。
支援される側から支援する側へのステップアップ
就労継続支援B型事業所の素晴らしい点は、誰もが「支援される側」から「支援する側」へと自然にステップアップできる可能性があることです。
最初は自分のことで精一杯だったとしても、事業所に通い続け、少しずつ心身の状態が安定してくると、周りを見る余裕が生まれます。すると、今度は自分がかつてしてもらったように、新しく入ってきた仲間や困っている誰かに、ごく自然に手を差し伸べることができるようになります。
この「役割の変化」は、失いかけていた自信を取り戻し、「自分も誰かの役に立てる」という自己有用感を育む上で、非常に大きな意味を持ちます。B型事業所は、社会復帰へのリハビリの場であると同時に、自分の経験を力に変え、新たな役割を見出すための実践の場でもあるのです。
あなたの経験が誰かの力になる オリーブでその一歩を踏み出しませんか
これまでお話ししてきたように、あなたの障害や病気の経験は、他の誰かを支えるための貴重な力となります。もし、その力を社会や人のために活かしてみたい、そして自分自身も成長したいと感じるなら、私たち就労継続支援B型事業所オリーブで、その第一歩を踏み出してみませんか。
同じ悩みを持つ仲間と出会える環境
オリーブには、様々な障害や病気を抱えながらも、前向きに社会参加を目指す多くの仲間がいます。ここでは、障害や病気のことを隠す必要はありません。お互いの経験や悩みを共有し、自然に支え合える温かいコミュニティがあります。一人で抱え込まずに、安心して自分のペースで過ごせる居場所が、ここにあります。
社会貢献を実感できる仕事
オリーブでは、データ入力や軽作業、ウェブサイトの制作補助など、多岐にわたる仕事を提供しています。それらの仕事はすべて、社会や企業の活動を支える大切な役割を担っています。仲間と協力して仕事に取り組み、その成果が誰かの役に立っていると実感することは、大きなやりがいと自信に繋がります。ピアサポートの精神は、日々の仕事の中にも息づいています。
見学・相談であなたの想いをお聞かせください
「少し興味が湧いた」「もう少し詳しく話を聞いてみたい」と思われたら、ぜひ一度、お気軽にオリーブへ見学・相談にお越しください。私たちは、あなたのこれまでの経験や、これからどうしていきたいかという想いを、何よりも大切にしたいと考えています。
あなたのつらい経験は、必ず誰かの希望になります。その価値ある一歩を、私たちと一緒に踏み出せることを心から願っています。
