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職場の「よき理解者」を増やす伝え方とは?アサーションで築く戦略的コミュニケーション術

職場で「自分のことを理解してもらえない」「悩みを相談できる人がいない」と感じて、働きづらさや孤立感を抱えていませんか。特に障害や特性について、どう伝えれば誤解なく理解してもらえるかは、多くの方が悩む難しい問題です。この課題を解決する鍵は、自分と相手をどちらも大切にする「アサーティブコミュニケーション」にあります。この記事では、職場で「よき理解者」を増やし、心理的安全性の高い環境を築くための戦略的な伝え方を、具体的な方法も交えて分かりやすく解説します。さらに、対人関係の不安を自信に変えるための練習の場として、就労継続支援B型事業所がどのように役立つのかもご紹介します。コミュニケーションという大切な仕事のスキルを身につけ、あなたらしく働ける環境を一緒に作っていきましょう。

なぜ職場に「よき理解者」が必要なのか

仕事を長く続けていく上で、業務スキルと同じくらい重要になるのが、良好な人間関係です。特に、自分の状況や特性を理解してくれる「よき理解者」の存在は、働きやすさに直結します。なぜなら、理解者がいる職場は、精神的な安定や仕事のパフォーマンス向上に大きな影響を与えるからです。

ここでは、職場に「よき理解者」がいることで得られる3つの具体的なメリットについて見ていきましょう。

孤立を防ぎ心理的安全性を高める

職場で「こんなことを言ったら変に思われるかもしれない」「誰にも相談できない」と感じながら働くのは、非常につらいものです。よき理解者が一人でもいると、「この人になら話せる」という安心感が生まれ、精神的な孤立を防ぐことができます。

このような安心感は、近年ビジネスの世界で注目されている「心理的安全性」の高い職場環境に繋がります。心理的安全性とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のことです。理解者の存在は、あなたが不安や疑問を率直に口にできる環境を作り、過度なストレスを抱え込むことなく、安心して働き続けるための大切な土台となります。

業務の円滑化と生産性の向上

仕事は、多くの人と協力し合って進めるものです。もし、職場で「分からないことを質問できない」「苦手な作業を言い出せない」という状況が続けば、どうなるでしょうか。小さな疑問が大きなミスに繋がったり、一人で仕事を抱え込んで全体の進行が遅れてしまったりする可能性があります。

よき理解者がいれば、「ちょっと教えてください」「この作業は少し時間がかかってしまうかもしれません」といったコミュニケーションが取りやすくなります。報告・連絡・相談がスムーズになることで、ミスの防止や業務の効率化が期待でき、結果としてチーム全体の生産性向上にも貢献できるのです。自分の特性を伝えることは、決してわがままではなく、円滑に仕事を進めるための合理的な手段でもあります。

「お互い様」の関係構築が働きやすさに繋がる

自分のことを理解してもらう努力は、一方的に配慮を求めるためだけのものではありません。あなたが自分のことを誠実に伝えようとすることで、相手もあなたのことを知ろうとしてくれます。そして、それは「あなたのことは分かったから、私のことも知ってほしい」という、相互理解の第一歩になります。

例えば、あなたが苦手なことを伝えて配慮してもらった代わりに、相手が困っているときには自分の得意なことで手伝う。こうした関わり合いを続けることで、「自分だけが助けてもらう」という負い目を感じることなく、「お互い様」という対等でポジティブな関係を築くことができます。このような信頼関係は、一時的な働きやすさだけでなく、長期的に安心してその場所で活躍し続けるための大切な財産となるでしょう。

基本となるアサーティブコミュニケーション

職場でよき理解者を増やしていくためには、ただ自分の思いを伝えるだけでは不十分です。伝え方によっては、相手を困惑させたり、意図せず攻撃的な印象を与えてしまったりすることもあります。そこで重要になるのが、「アサーティブコミュニケーション」という考え方です。

これは、カウンセリングやコーチングの現場でも用いられる基本的なコミュニケーションスキルの一つで、良好な対人関係を築くための鍵となります。

自分も相手も大切にする自己表現

アサーティブ(assertive)とは、直訳すると「自己主張」ですが、日本語のニュアンスとは少し異なります。これは、自分の意見や気持ち、要求を、相手のことも尊重しながら、誠実に、率直に、そして対等に表現しようとするコミュニケーションのあり方を指します。

私たちの自己表現は、大きく分けて3つのタイプに分類されると言われています。アサーティブなコミュニケーションを理解するために、他のタイプと比較してみましょう。

コミュニケーションタイプ 特徴 具体的な言動・考え方の例
アグレッシブ(攻撃的) 自分の意見を優先し、相手の気持ちを軽視する。「I’m OK, You’re Not OK」の状態。 ・「なんでこんなこともできないんだ!」と相手を責める。

・相手の話を遮って自分の意見を押し通す。

・自分の要求が通らないと不機嫌になる。

ノンアサーティブ(非主張的) 相手の意見を優先し、自分の気持ちを後回しにする。「I’m Not OK, You’re OK」の状態。 ・本当は反対でも「はい、分かりました」と言ってしまう。

・自分の意見を言えず、いつも我慢してしまう。

・遠回しな表現で、本当に言いたいことが伝わらない。

アサーティブ(誠実・対等) 自分も相手も尊重し、対等な立場で意見を伝える。「I’m OK, You’re OK」の状態。 ・「私は〇〇だと思います。あなたの意見も聞かせてもらえますか?」

・できないことは「できません」と伝え、代替案を提案する。

・相手の意見に感謝を伝えつつ、自分の考えも誠実に話す。

アサーティブな伝え方は、単に自分の要求を通すためのテクニックではありません。相手を打ち負かすのでも、自分が我慢するのでもなく、お互いにとってより良い解決策を一緒に見つけていくための、誠実で建設的なコミュニケーションなのです。

アサーションの具体的な実践方法「DESC法」

アサーティブな伝え方を実践するための具体的なフレームワークとして、「DESC(デスク)法」があります。これは、自分の考えを4つのステップに整理して伝える方法で、特に何かを依頼したり、断ったり、問題を指摘したりする場面で非常に有効です。

DESC法の各ステップは以下の通りです。

D (Describe):描写する
まずは、評価や感情を交えず、客観的な事実や状況だけを具体的に伝えます。「いつも」「絶対」といった主観的な言葉は避け、誰が見ても同じように認識できる事実を共有することがポイントです。
E (Express/Explain):表現する・説明する
次に、その状況に対する自分の主観的な気持ちを「私」を主語にして伝えます。「(あなたが)〇〇だから困る」ではなく、「(私は)〇〇という状況で、少し困っています」というように、自分の感情として表現することで、相手は責められていると感じにくくなります。
S (Suggest/Specify):提案する
ただ気持ちを伝えるだけでなく、状況を改善するための具体的な提案やお願いを伝えます。相手にどうしてほしいのかを明確に、かつ実現可能な選択肢として示すことが重要です。命令ではなく、あくまで「提案」であることがポイントです。
C (Choose/Consequence):選択する・結果を伝える
最後に、相手が提案を受け入れた場合のポジティブな結果(感謝の気持ちなど)や、もし受け入れられない場合にどうするか(他の方法を考える、など)を伝えます。相手に選択の余地を与えることで、対等な関係性を保ちます。

DESC法を使った具体的な会話例を見てみましょう。

【例:騒がしい職場で集中できずに困っている場合】

良くない伝え方(ノンアサーティブ)
「……(何も言えず、一人で我慢して作業効率が落ちる)」
良くない伝え方(アグレッシブ)
「うるさくて仕事にならないので、静かにしてください!」
DESC法を使った伝え方(アサーティブ)
D(描写): 「今、〇〇の書類作成の締め切りが迫っている状況です。」
E(表現): 「皆さんの会話が聞こえると、私が少し集中しづらくなってしまい、焦ってしまいます。」
S(提案): 「もし可能であれば、あと30分ほど、少し声のボリュームを下げていただくか、集中したいのでイヤホンをしてもよろしいでしょうか?」
C(選択): 「そうしていただけると、作業に集中できて非常に助かります。」

このようにDESC法を使うことで、感情的に相手を責めることなく、自分の状況と気持ち、そして具体的な要望を冷静に伝えることができます。

障害について理解を求める際の戦略的「伝え方」

アサーティブコミュニケーションの基本を理解した上で、次はより実践的な「障害や特性に関する伝え方」について考えていきましょう。これは非常にデリケートなテーマであり、ただ正直に話せば良いというものではありません。相手に受け入れてもらい、よき理解者になってもらうためには、いくつかの戦略的なポイントがあります。

伝える相手とタイミングを見極める

まず大切なのは、「誰に」「いつ」伝えるかを見極めることです。必ずしも職場全員に、入社初日にすべてを話す必要はありません。あなたの状況や職場の環境に合わせて、伝える範囲とタイミングを戦略的に考えましょう。

伝える相手の候補

直属の上司
業務の指示や調整を直接行う立場であり、まず最初に相談すべき相手です。
人事・労務担当者
会社としての配慮や制度について相談できます。面接時に伝えている場合も、入社後に改めて共有すると丁寧です。
信頼できる同僚
日常的な業務で関わりが深く、協力をお願いしたい相手。まずは一人、信頼できそうな人から話してみるのも良いでしょう。
産業医・保健師
専門的な視点から、健康面での配慮について会社に働きかけてもらえる場合があります。

伝えるタイミングの候補

採用面接時
働く上で配慮が必須となる場合は、ミスマッチを防ぐためにも事前に伝えることが重要です。
入社後の面談時
上司との定期的な面談などは、落ち着いて話をする良い機会です。
業務で具体的に困った時
「実は…」と、具体的な状況と絡めて相談すると、相手も必要性を理解しやすくなります。
関係性ができてから
少しずつ職場の人間関係を築き、この人なら信頼できると感じたタイミングで話すのも一つの方法です。

焦って一度にすべてを伝えようとせず、まずは自分にとって最も影響が大きく、信頼できる相手から相談を始めるのが良いでしょう。

診断名ではなく「必要な配慮」を具体的に話す

障害について伝える際によくあるのが、「私には〇〇障害があります」と診断名だけを伝えてしまうケースです。もちろん診断名を伝えることが悪いわけではありませんが、障害に関する知識がない人にとっては、それだけでは「何をどうすれば良いのか」が分からず、戸惑わせてしまう可能性があります。

大切なのは、診断名という「ラベル」ではなく、あなたの「取扱説明書」を共有するという意識です。

「〇〇が苦手なので、〇〇してもらえると助かります」という風に

相手が具体的な行動をイメージできるように、「①どんな状況で」「②何が苦手・困難で」「③どうしてほしいか」をセットにして伝えることを心がけましょう。これは、先ほど紹介したDESC法の「S(提案)」をより具体的にする作業でもあります。

【伝え方の具体例】

良くない例
「ADHD(注意欠如・多動症)なので、ミスが多いかもしれません。」
→ 相手はどうすれば良いか分からず、「気をつけます」としか言えないかもしれません。
良い例
「複数の指示を同時に受けると、混乱してしまい抜け漏れが出ることがあります(①②)。大変恐縮ですが、指示は一つずつ、できればメモに書いていただけると、正確に業務ができてとても助かります(③)。」
良くない例
「自閉スペクトラム症です。」
→ 漠然としていて、誤解や偏見を持たれてしまう可能性もあります。
良い例
「急な予定変更や、曖昧な表現での指示があると、次に何をすべきか分からなくなってしまうことがあります(①②)。もし変更がある場合は、少し早めに教えていただいたり、『〇〇を、〇時までに、〇個お願いします』のように具体的に指示をいただけると、安心して作業に取り組めます(③)。」

このように伝えることで、相手はあなたを「〇〇障害の人」としてではなく、「〇〇な配慮があれば、一緒にうまく仕事ができる同僚」として認識しやすくなります。

日頃からのポジティブな関係構築

いざという時に大切な話を切り出すためには、普段からの関係づくりが土台となります。お願い事や相談がある時だけ話しかけるのではなく、日頃からポジティブなコミュニケーションを積み重ねておくことが、あなたの「伝えたい」という気持ちを後押ししてくれます。

挨拶を欠かさない
「おはようございます」「お疲れ様です」といった基本的な挨拶は、関係構築の第一歩です。
感謝を言葉にする
小さなことでも「ありがとうございます」「助かりました」と具体的に伝えることで、相手に良い印象を与えます。
相手の良い点を見つける
相手に関心を持ち、「そのネクタイ素敵ですね」「先日のプレゼン、分かりやすかったです」など、ポジティブなフィードバックを伝えることも有効です。

こうした日々の積み重ねが、職場におけるあなたの信頼残高を増やし、「この人の頼みなら、聞いてあげよう」と思ってもらえる素地を作ります。伝えるためのテクニックだけでなく、こうした地道な関係構築も、よき理解者を増やすための重要な戦略なのです。

就労継続支援B型事業所でコミュニケーションを実践練習する

ここまで、アサーティブコミュニケーションの理論や具体的な伝え方のコツについて解説してきました。しかし、「頭では分かっていても、いきなり職場で実践するのは怖い」「うまく伝えられる自信がない」と感じる方も少なくないでしょう。

そのような方にとって、就労継続支援B型事業所は、安心してコミュニケーションの練習ができる貴重な場所となり得ます。B型事業所は、実際の仕事に近い環境で働きながら、自分のペースで様々なスキルを学ぶことができる福祉サービスです。

安心できる環境で「伝える」経験を積む

多くの職場では、一度関係がこじれてしまうと修復が難しい場合があります。しかし、就労継続支援B型事業所は、利用者の方が安心して挑戦し、たとえ失敗しても学び直せるように、心理的安全性が最大限に確保された環境です。

ここでは、障害への深い理解がある支援員が、あなたの話にじっくりと耳を傾けてくれます。自分の特性や苦手なこと、必要な配慮について、まずは支援員を相手に言葉にする練習をしてみましょう。うまく話せなくても、支援員があなたの言いたいことを整理し、言語化する手伝いをしてくれます。こうした「伝える」経験を安全な環境で積み重ねることが、大きな自信に繋がります。

支援員や仲間からのフィードバック

自分の伝え方が、相手にどう受け取られているかを客観的に知る機会は、日常生活ではなかなかありません。B型事業所では、支援員との面談や、他の利用者さんとのグループワークなどを通じて、自分のコミュニケーションの癖や改善点について、建設的なフィードバックをもらうことができます。

例えば、支援員を上司に見立てて、必要な配慮を伝えるロールプレイング(模擬練習)を行うことも可能です。練習後には、「もっと具体的に伝えた方が分かりやすいかも」「とても誠実な気持ちが伝わってきた」といった具体的なアドバイスがもらえます。また、同じように対人関係に悩みを抱える仲間との交流は、「悩んでいるのは自分だけじゃない」という安心感や、新たな気づきを与えてくれるでしょう。

「伝える力」をオリーブで育ててみませんか

私たち「就労継続支援B型事業所オリーブ」は、関西(大阪、兵庫、京都、奈良)を中心に、一人ひとりの「働きたい」という気持ちに寄り添うB型事業所です。働きづらさの原因が、対人関係やコミュニケーションへの不安にあるのなら、そのスキルを一緒に育てていくことから始めませんか。

コミュニケーションも大切な仕事のスキルです

オリーブでは、PC作業や軽作業といった具体的な業務スキルだけでなく、挨拶や報告・連絡・相談といった、働く上で土台となるコミュニケーションスキルを非常に大切にしています。日々の業務やスタッフとの対話を通じて、自然と「伝える力」が身につく環境をご用意しています。

対人関係の不安を自信に変えるサポート

経験豊富な支援員が、あなたの特性やこれまでの経験を丁寧にお伺いした上で、あなたに合ったコミュニケーションの練習方法を一緒に考えます。小さな成功体験を積み重ねることで、「伝えても大丈夫なんだ」という安心感を育み、対人関係への不安を、自分らしく働くための自信へと変えていくお手伝いをします。

見学・相談であなたのお悩みをお聞かせください

もしあなたが、「職場で理解されずに苦しんでいる」「どうやって自分のことを伝えたら良いか分からない」といった悩みを抱えているなら、まずは一度、オリーブに見学・相談に来てみませんか。あなたの抱えている悩みや不安を、私たちにお聞かせください。あなたが一歩を踏み出すための最適なサポートを、一緒に見つけていきましょう。ご連絡を心よりお待ちしております。

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