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なぜ障害者雇用は離職が多いのか?中小企業が知らない年間150万円の「見えないコスト」

障害者雇用に取り組む多くの中小企業が、「採用してもすぐに辞めてしまう」という共通の課題に直面しています。実際、障害のある方の就職後1年以内の離職率は低くなく、特に精神障害のある方では約半数が1年以内に離職するというデータも報告されています。

この高い離職率は、単に「残念な結果」として片付けられる問題ではありません。一人の社員が離職することで、企業は採用や教育に投じた費用、後任が見つかるまでの生産性の低下など、年間で150万円以上にも達する可能性のある「見えないコスト」を負担しているのです。

本記事では、障害者雇用の離職率が高い背景と、それによって生じる具体的なコストの内訳をデータに基づいて解説します。さらに、そのコストを削減し、障害のある方が定着して活躍できる職場環境を築くための鍵が、従来の「採用活動」から「定着支援」へと視点を移すことにある点、そしてその有力なパートナーとして「就労継続支援B型事業所」との連携がいかに有効であるかを詳しくご紹介します。

障害者雇用の高い離職率とその背景

障害種別ごとの職場定着率データ

独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が2017年に発表した調査研究によると、障害のある方の就職1年後における職場定着率は、障害種別によって異なる傾向が見られます。

障害種別 1年後の職場定着率
身体障害 61.4%
知的障害 68.3%
精神障害 49.3%
発達障害 71.5%

このデータで特に注目すべきは、精神障害のある方の定着率が49.3%と半数を下回っている点です。これは、2人に1人が1年以内に仕事を辞めているという深刻な実態を示しています。発達障害のある方の定着率は比較的高く見えますが、これは適切な支援や環境が整った場合に能力を発揮しやすいという特性を反映しているとも考えられ、環境とのミスマッチが離職に直結しやすい点は他の障害種別と同様です。

なぜ早期離職は起きてしまうのか

早期離職の主な原因は、採用段階での期待と入社後の現実との間に生じる「ミスマッチ」や、入社後の「サポート不足」に集約されます。

業務内容のミスマッチ
本人の能力や特性、特に得意なことや苦手なことへの配慮が不足し、過度な負担がかかる業務を任せてしまう。
曖昧な指示やマルチタスクが求められる業務で、混乱やミスが生じ、本人の自信を喪失させてしまう。
人間関係・コミュニケーションの壁
職場の同僚や上司が障害特性への理解を欠き、悪気なく不適切なコミュニケーションを取ってしまう。
「普通はこうする」「空気を読んでほしい」といった暗黙のルールが理解されず、本人が孤立感を深めてしまう。
サポート体制の不備
業務上の困難や体調面の不安について、誰に、いつ、どのように相談すればよいか分からず、一人で抱え込んでしまう。
企業側も本人の状況を把握するための定期的な面談などを設定しておらず、問題が深刻化するまで気づけない。
労働環境の問題
通勤ラッシュやオフィスの騒音、照明などが、感覚過敏の特性を持つ本人にとって大きなストレスになっている。
体調に合わせて休憩を取ったり、通院のために勤務時間を調整したりといった、柔軟な働き方が認められない。

これらの問題は、採用面接という限られた時間の中では見抜けず、実際に働き始めてから顕在化するケースがほとんどです。結果として、企業と本人の双方にとって「こんなはずではなかった」という不幸な結末を迎えてしまうのです。

離職がもたらす年間150万円の「見えないコスト」

一人の社員の離職は、企業に多岐にわたる「見えないコスト」を発生させます。社員一人の離職による経済的損失は、その社員の年収の半分から2倍に相当するという試算もあります。ここでは、障害者雇用における一人の早期離職がもたらす損失を「年間150万円」というモデルケースで具体的に見ていきましょう。

1. 採用コスト(約60万円~)

離職した社員を採用するために費やした費用は、その時点で回収不能な損失となります。

求人広告費・人材紹介料

障害者専門の求人サイトへの広告掲載料や、人材紹介会社への成功報酬は、採用コストの大部分を占めます。紹介料の相場は採用者の理論年収の20%~35%とされ、年収300万円の人材を採用した場合、60万円から100万円以上の費用が発生することも珍しくありません。早期離職は、この投資がそのまま損失となることを意味します。

選考に関わる人件費

採用活動には、人事担当者だけでなく、現場の管理職や役員など、多くの社員が時間を費やします。書類選考、複数回の面接、職場見学の調整といったプロセスにかかる時間を人件費に換算すれば、一人あたり数万円から十数万円のコストが発生していると考えるべきでしょう。

2. 育成コスト(約80万円~)

採用した社員を戦力化するために投入した教育コストも、離職によって無に帰してしまいます。

教育担当者の人件費

新しい社員の指導役(OJTトレーナー)となる先輩社員は、自身の通常業務に加え、新人への指導や業務フォロー、面談などに多くの時間を割きます。この指導時間を人件費に換算すると、数ヶ月で数十万円に上るケースも少なくありません。教育担当者自身の生産性低下も考慮に入れる必要があります。

研修期間中の給与

新入社員は、入社後すぐには企業の利益に直接貢献できるわけではありません。仕事を覚える研修期間中も、企業は給与を支払う義務があります。例えば、月給20万円の社員が3ヶ月で離職した場合、企業は十分なリターンを得る前に60万円の給与を支払っていることになり、これもまた投資損失です。

3. その他の損失(約10万円~)

上記の直接的なコスト以外にも、離職は様々な形で企業の経営に影響を与えます。

生産性の低下と周囲への負担

一人の欠員が出ると、その業務は残された社員で分担せざるを得ません。これにより、既存社員の業務負担が増加し、チーム全体の生産性が低下します。また、退職手続きや引き継ぎ、新たな人材が見つかるまでの不安感は、職場全体の士気(エンゲージメント)にも悪影響を及ぼす可能性があります。

法定雇用率未達成のリスク

特に中小企業において、一人の離職が法定雇用率の未達成に直結するケースは少なくありません。法定雇用率が未達成の場合、従業員100人超の企業は不足人数に応じて障害者雇用納付金を支払う必要があります。これは直接的な金銭的負担であり、経営上のリスクとなります。

管理部門の事務コスト

社員の入退社に伴い、社会保険の手続き、社内IDの登録・削除、備品の貸与・返却など、人事・総務部門では多くの事務作業が発生します。これらの手続きにかかる人件費も、見過ごせないコストの一部です。

これらのコストを積み上げると、一人の離職がもたらす経済的損失がいかに大きいか、お分かりいただけるでしょう。

コスト削減の鍵は「採用」から「定着支援」への視点転換

この離職コストの問題を根本的に解決するには、企業の意識を「いかに優秀な人材を採用するか」から「いかに長く安心して働いてもらうか」へと大きく転換する必要があります。採用活動にコストをかけるのと同様に、採用した人材が定着し、能力を発揮できる環境を整える「定着支援」への投資が不可欠です。

社内の受け入れ体制整備が第一歩

まず着手すべきは、社内の受け入れ体制を具体的に整えることです。

業務の標準化と可視化
担当業務を明確に切り出し、手順をマニュアル化する。「見て覚えろ」ではなく、誰が見ても分かる手順書を用意することが、混乱を防ぎます。
指示命令系統の一本化
複数の上司から異なる指示が出て混乱しないよう、誰の指示を優先すべきかを明確に定めます。
相談役(メンター)の配置
業務や人間関係で困った際に、気軽に相談できる先輩社員をメンターとして正式に任命します。
定期的な1on1ミーティング
週に1回、あるいは月に1回でも、上司と1対1で話す時間を設け、本人が抱える課題や不安を早期に把握し、対策を講じます。

こうした環境整備は、障害のある社員のためだけでなく、職場全体の業務効率化や円滑なコミュニケーションを促進し、組織全体の生産性向上にも貢献します。

外部の専門機関との連携を恐れない

社内のリソースだけでは限界がある場合、外部の専門機関と連携することが極めて有効です。代表的なのが、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が提供する「職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業」です。

ジョブコーチは、障害のある方と企業の間に立ち、双方が円滑に関係を築けるよう専門的な支援を提供します。本人に対しては体調管理やコミュニケーションスキルの助言を、企業に対しては障害特性の理解促進や効果的な指導方法の提案などを行います。専門知識を持つ第三者が介入することで、社内だけでは解決が難しい問題にも的確に対処できます。

「就労継続支援B型事業所」との連携という新たな選択肢

そして今、定着支援を前提とした新しい採用の形として、「就労継続支援B型事業所」との連携が注目されています。

就労継続支援B型事業所とは、障害や難病のある方が、体調や特性に合わせて自分のペースで働きながら、一般企業への就職に必要な知識やスキルを高めることを目的とした福祉サービスです。私たち「就労継続支援B型事業所オリーブ」も、関西圏で多くの利用者様の就労準備をサポートしています。

B型事業所との連携は、人材確保に悩む企業にとって、従来の採用手法にはない多くのメリットをもたらします。

就労意欲と準備の整った人材との出会い

B型事業所には、「いずれは一般企業で働きたい」という明確な目標を持ち、そのために日々訓練を重ねている方が多く在籍しています。事業所の支援員は、日々の作業を通じて一人ひとりの得意なこと、苦手なこと、集中できる時間、コミュニケーションの特性などを長期間にわたって把握しています。

そのため、企業の求める人物像や業務内容をヒアリングした上で、スキルや人柄がマッチする可能性の高い人材を推薦することが可能です。これは、履歴書や短時間の面接だけでは決して分からない、個人のポテンシャルを見据えたマッチングを実現します。

採用後のミスマッチを劇的に減らす「職場実習」

B型事業所連携の最大の利点は、本格的な雇用の前に「職場実習」を活用できることです。これは、候補者が一定期間、実際の職場で仕事を体験する制度です。

企業側のメリット
実習を通じて、候補者の実際の仕事ぶり、職場への適応力、他の社員との相性などをじっくりと見極めることができます。
本人側のメリット
「この仕事は自分に合っているか」「この職場の環境で無理なく働き続けられそうか」を事前に確認でき、不安を解消できます。

この「お試し期間」ともいえる実習を経ることで、採用後の「こんなはずではなかった」というミスマッチを効果的に防ぎ、早期離職のリスクを大幅に低減させることが可能です。

入社後も続く、事業所による「伴走型」の定着支援

B型事業所の役割は、人材を紹介して終わりではありません。利用者様が就職先で安定して長く働き続けられるよう、入社後も継続的な「定着支援」を行います。

具体的には、事業所の支援員が定期的に本人と面談して仕事の悩みを聞き、必要に応じて企業の人事担当者様と情報共有を行います。職場で問題が生じた際には、本人と企業の間に立って調整役を担い、解決策を一緒に考えます。

長年その人を見守ってきた支援員が、就職後も第三者の立場からサポートを続けることは、本人にとって大きな心の支えになります。同時に、企業にとっても、障害者雇用に関する日々の悩みや課題を気軽に相談できる外部パートナーがいることは、担当者の負担軽減に繋がり、非常に心強い存在となるはずです。

採用コスト削減と人材確保に悩む企業様へ オリーブにご相談ください

障害者雇用の高い離職率は、企業にとって見過ごせない経済的損失であり、同時に、多様な人材がもたらす可能性を失う機会損失でもあります。この課題を解決する鍵は、採用後の「定着支援」にあり、その実現のために就労継続支援B型事業所は最適なパートナーとなり得ます。

中小企業の障害者雇用を全力でサポートします

私たち「就労継続支援B型事業所オリーブ」は、大阪、兵庫、京都、奈良の関西圏において、多くの利用者様の一般就労を支援してきた豊富な実績がございます。特に、障害者雇用のノウハウがまだ十分に蓄積されておらず、専門の担当者を置くことが難しい中小企業の皆様にとって、頼れる外部人事部のような存在になれると自負しております。

まずは職場実習の受け入れから始めてみませんか

「いきなり雇用契約を結ぶのは、まだ少しハードルが高い」と感じられる企業様もご安心ください。まずは職場実習の受け入れから始めてみませんか。実習は、企業様にとって採用リスクを負うことなく、障害のある方の働く意欲や真面目さ、秘めた能力に触れていただく絶好の機会です。実習の受け入れに関する手続きや期間中のサポートは、私たちが全面的に行いますので、ご負担は最小限です。

法人様からのお問い合わせを心よりお待ちしております

障害者雇用の「見えないコスト」を削減し、貴社で活躍できる人材の確保・育成を目指したいとお考えの企業の皆様、ぜひ一度、就労継続支援B型事業所オリーブにお声がけください。人材のご紹介から実習のコーディネート、採用後の定着支援まで、貴社の状況に合わせた最適なサポートプランをご提案いたします。下記のお問い合わせフォームより、お気軽にご連絡ください。

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