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デジタル障害者手帳と行政DXが解消する「見えない障壁」とは?手続きの利便性向上を解説

障害のある方が行政サービスを利用する際、これまで多くの「見えない障壁」が存在していました。庁舎まで行かなければならない身体的な負担、窓口で何度も同じ説明を繰り返す心理的な負担、そして複雑な書類準備にかかる時間的な負担です。しかし今、行政手続きのデジタル化(DX)によって、これらの障壁が大きく変わろうとしています。

このコラムでは、スマートフォンが障害者手帳の代わりになる「ミライロID」や、国が進める「マイナンバーカードとの連携」が、私たちの生活をどう便利にするのかを具体的に解説します。さらに、デジタル化によって生まれる課題と、その先の未来にも触れていきます。手続きの負担が軽くなることで生まれた時間と心の余裕を、新しい一歩、例えば「働く」ことへ繋げてみませんか。この記事が、あなたの可能性を広げるきっかけになれば幸いです。

これまでの行政手続きにおける「見えない障壁」

障害のある方が行政サービスを利用する上で、これまで当たり前とされてきた手続きのプロセスには、多くの当事者にとって「見えない障壁」が潜んでいました。これらは単なる「手間」という言葉では片付けられない、物理的、心理的、そして時間的な負担を伴うものです。行政のDX化がなぜ今求められているのかを理解するために、まずはこれらの障壁について具体的に見ていきましょう。

これらの障壁は、一つひとつは小さなことかもしれません。しかし、複数が積み重なることで、当事者やそのご家族にとって、行政サービスを利用すること自体のハードルを高くしていました。その結果、必要な支援にアクセスすることを諦めてしまうケースさえあったと考えられます。

市役所に行かなければならない「物理的な障壁」

最も分かりやすい障壁は、手続きのために市役所や福祉事務所などの窓口へ「行かなければならない」という物理的な制約です。

移動そのものの困難さ

車いすユーザーの方や、内部障害・精神障害などで長距離の移動や人混みが心身に大きな負担となる方にとって、役所への道のりは決して簡単なものではありません。公共交通機関の乗り継ぎや、悪天候時の外出は、それだけで一日がかりの大きなイベントになってしまいます。

待ち時間による心身の消耗

窓口での長い待ち時間は、誰にとっても楽なものではありません。特に、感覚過敏のある方にとっては周囲のざわめきが大きなストレスになったり、体幹の機能に障害のある方が同じ姿勢を保ち続けることが困難であったりするなど、心身を消耗させる大きな要因となります。

施設のバリア

庁舎のバリアフリー化は進んできていますが、すべての施設が完璧に対応できているわけではありません。目的の窓口が分かりにくい場所にあったり、多機能トイレの数が限られていたり、筆談や音声読み上げへの対応が不十分だったりと、施設内に潜む小さなバリアが当事者を阻みます。

何度も同じ説明をする「心理的な障壁」

物理的な障壁と同じか、それ以上に当事者を悩ませるのが、手続きのたびに発生する心理的な負担です。

行政サービスは、担当する課や窓口が細かく分かれている「縦割り行政」が基本です。そのため、複数の手続きを一度に行おうとすると、それぞれの窓口で同じような個人情報や、障害の状況、困っていることなどを一から説明し直さなければならない場面が多く発生します。

この「何度も同じ説明をする」という行為は、単に面倒なだけではありません。自身のデリケートな情報を、その都度初対面の担当者に話すことは、精神的なエネルギーを大きく消耗させます。過去の辛い経験を思い出したり、プライバシーへの不安を感じたりすることもあるでしょう。「またあの説明をしなければならないのか」と思うと、役所へ向かう足が重くなるのは当然のことです。

複雑な書類準備にかかる「時間・情報面の障壁」

行政手続きには、多くの書類準備が伴います。このプロセスにも、時間と情報を奪う障壁が存在します。

求められる書類の多さと複雑さ
申請書一つをとっても、記入すべき項目は多岐にわたります。それに加え、所得証明書や診断書、障害者手帳のコピーなど、複数の添付書類が必要となることがほとんどです。これらの書類を各所で集め、不備なく揃える作業は、非常に大きな時間的コストを要します。
情報のアクセシビリティの問題
そもそもどのような制度があり、どの書類が必要なのかという情報自体にたどり着くのが難しい、という問題もあります。ウェブサイトの情報は複雑で分かりにくかったり、視覚障害のある方にとって読み上げソフトに対応していなかったりするケースも少なくありません。情報を得る段階でつまずいてしまう「情報面の障壁」も深刻です。

これらの物理的・心理的・時間的な障壁は、障害のある方から、社会参加に必要なエネルギーや時間を奪ってきました。行政のDX化は、これらの「見えない障壁」を取り除き、誰もが必要なサポートを円滑に受けられる社会を実現するための重要な一歩なのです。

行政手続きのDX化がもたらす変化

これまで見てきたような行政手続きの「見えない障壁」を解消するため、今、デジタル技術を活用した大きな変革が進んでいます。その中心となるのが、民間企業が開発した「デジタル障害者手帳(ミライロID)」の普及と、国が推進する「マイナンバーカードとの連携」です。これらは、私たちの生活をどのように変えていくのでしょうか。

デジタル障害者手帳「ミライロID」の役割

ミライロIDは、株式会社ミライロが開発した、お持ちの障害者手帳(身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳、療育手帳)の情報をスマートフォンアプリに登録し、手帳の代わりとして提示できるサービスです。

これまで、割引などを受けるためには、常に紙の手帳を持ち歩き、窓口で提示する必要がありました。手帳を紛失したり、忘れたりする心配があったり、人前で取り出すこと自体をためらったりする方もいたかもしれません。ミライロIDは、こうした物理的・心理的な負担を軽減します。

ミライロIDの主なメリット 具体的な内容
手軽さ スマートフォン一つで手帳情報を提示できるため、手帳本体を持ち歩く必要がなくなります。
普及率 全国の鉄道事業者の多く、バス会社、映画館、携帯キャリアなどで利用可能です。
プライバシーへの配慮 必要な情報だけを窓口の担当者に提示できるため、見られたくない情報まで見られてしまう心配がありません。
情報提供 アプリを通じて、利用できる施設やお得なクーポン情報などを入手することもできます。

ミライロIDは、民間主導で始まったサービスですが、多くの自治体でも本人確認書類として導入が進んでおり、官民連携で障害のある方の利便性を向上させる動きの象徴と言えるでしょう。

マイナンバーカードとの連携による「プッシュ型支援」

国が進めるDX化の柱が、マイナンバーカードと障害者手帳機能の一体化です。これは、マイナンバーカードに障害者手帳の情報を紐づけることで、カード一枚(またはカード情報を登録したスマートフォン)で、様々なサービスが受けられるようにする取り組みです。

この連携がもたらす最大のメリットは、「プッシュ型支援」の実現可能性です。

プッシュ型支援とは、これまでのように「自分で利用できる制度を探し、窓口で申請する」という形(プル型)ではなく、「行政側が対象者を自動的に抽出し、利用できる支援策を直接お知らせする」という仕組みです。

例えば、マイナンバーに紐づけられた情報(年齢、所得、障害等級など)を元に、行政のシステムが「あなたはこの給付金の対象です」「この税金の控除が受けられます」といった情報を自動で通知してくれるようになります。これにより、「制度を知らなかったために利用できなかった」という情報格差の問題を解消し、誰もが必要な支援から取り残されない社会を目指します。

「行かない窓口」の実現へ

ミライロIDのような民間サービスと、マイナンバーカードを中心とした国のDX化。この二つが連携し、さらに発展していくことで、これまで当たり前だった「窓口へ行く」という行為そのものが不要になる「行かない窓口」が実現していきます。

自宅のパソコンやスマートフォンから各種申請が完結し、必要な添付書類もマイナンバーを通じて行政機関同士が連携して確認する。これにより、移動の負担や待ち時間、書類準備の手間といった物理的・時間的な障壁は劇的に解消されます。

この変化は、単に「手続きが楽になる」というだけではありません。これまで手続きに費やしてきた時間や労力を、仕事や趣味、あるいは休息といった、自分自身の人生を豊かにするための活動に使えるようになることを意味しています。

デジタル化による利便性向上の具体例

行政手続きのDX化は、私たちの生活に具体的にどのような利便性をもたらすのでしょうか。ここでは、スマートフォンやパソコンの活用によって、これまで多くの時間と労力を要していた作業がどのように変わるのか、具体的なシーンを挙げて解説します。

スマートフォンやPCから各種申請が可能に

これまで多くの手続きは、平日の日中に役所の窓口へ行かなければなりませんでした。しかし、マイナンバーカードを活用したオンライン申請システム「マイナポータル」などが普及することで、この制約が大きく変わります。

24時間365日、いつでも申請可能

体調の良い時や、仕事が終わった後の夜間、休日など、自分の都合の良いタイミングで、自宅から各種手当やサービスの申請ができるようになります。窓口の開庁時間を気にする必要はありません。

窓口での待ち時間がゼロに

オンラインで手続きが完結するため、役所での長い待ち時間から解放されます。移動にかかる身体的な負担や交通費も削減できます。

申請状況をオンラインで確認

申請した手続きが今どのような状況にあるのか(受付済み、審査中など)を、オンラインでいつでも確認できるようになります。電話で問い合わせる手間も省け、進捗が分かることで安心感にも繋がります。

添付書類の削減と情報連携

マイナンバー制度の大きな目的の一つに、行政機関間での「情報連携」があります。これにより、これまで私たちが手続きのたびに用意していた多くの添付書類が不要になります。

例えば、障害福祉サービスの申請時に、これまでは課税証明書や住民票などを自分で取得して提出する必要がありました。しかし、今後はマイナンバーを基に行政機関同士が必要な情報を直接やり取りすることで、これらの書類提出を省略できるようになります。

これまでの手続き これからの手続き(DX化後)
① 申請書を入手・記入

② 市役所の別窓口で課税証明書を取得

③ 市役所の別窓-口で住民票を取得

④ 全ての書類を福祉課の窓口に提出

① オンラインで申請フォームに入力

② マイナンバーによる情報連携に同意

(システムが自動で情報を確認)

③ 申請ボタンをクリックして完了

このように、複数の窓口を回ったり、書類の発行手数料を払ったりする手間が大幅に削減され、申請プロセスがシンプルになります。これは、当事者だけでなく、手続きをサポートするご家族や支援者の負担軽減にも大きく貢献します。

更新手続きや期限のお知らせ通知

障害者手帳や各種福祉サービスには、有効期限があり、定期的な更新手続きが必要です。この更新を忘れてしまうと、必要なサービスが一時的に受けられなくなるなどの不利益が生じる可能性があります。

行政手続きのDX化は、こうした「うっかり忘れ」を防ぐ仕組みも提供します。

マイナポータルなどを通じて、登録された情報に基づき、個人のスマートフォンなどに「手帳の更新期限が近づいています」「次のサービスの申請期間が始まりました」といったお知らせが自動で通知されるようになります。

このプッシュ型の通知機能は、記憶に障害のある方や、多忙なご家族にとって、非常に心強いサポートとなります。期限管理の心理的な負担から解放され、安心して日々の生活を送ることができるようになります。

今後の課題と未来への期待

行政手続きのDX化は、障害のある方々の生活をより便利で豊かなものにする大きな可能性を秘めています。しかし、その一方で、誰もがその恩恵を受けられる社会を実現するためには、乗り越えるべき課題も存在します。ここでは、主な課題と、その先にある未来への期待について考えてみましょう。

デジタルデバイド(情報格差)への配慮

最も大きな課題の一つが、「デジタルデバイド」です。これは、スマートフォンやパソコンの利用状況、あるいはITスキルによって、受けられるサービスの質に格差が生まれてしまう問題です。

内閣府の調査では、高齢者層を中心にスマートフォンの利用に不慣れな方が一定数いることが示されています。これは障害のある方々にも共通する課題であり、以下のような配慮が不可欠です。

多様な申請方法の維持

オンライン申請が主流になっても、これまで通りの窓口での対面相談や、郵送での申請といったアナログな選択肢も引き続き残しておく必要があります。「デジタルか、アナログか」ではなく、一人ひとりが自分に合った方法を選べる環境が重要です。

操作方法のサポート体制

スマートフォンなどの操作が苦手な方のために、地域の公民館や福祉施設などで、専門の相談員が操作方法を丁寧に教える「デジタル活用支援」の取り組みを充実させていく必要があります。当事者に寄り添った、きめ細やかなサポートが求められます。

分かりやすいインターフェース開発

行政サービスのアプリやウェブサイトは、誰にとっても直感的に操作できる、分かりやすいデザイン(ユニバーサルデザイン)であることが大前提です。視覚障害のある方向けのスクリーンリーダーへの対応や、知的障害のある方向けの「やさしい日本語」の活用など、情報アクセシビリティの確保が不可欠です。

個人情報のセキュリティ確保

マイナンバーカードには、氏名、住所、所得、障害の状況といった、非常に機微な個人情報が紐づけられます。そのため、これらの情報が外部に漏洩したり、不正に利用されたりすることのないよう、万全のセキュリティ対策を講じることが絶対条件です。

国や自治体は、サイバー攻撃からシステムを守るための技術的な対策を強化し続ける責任があります。同時に、私たち利用者自身も、マイナンバーカードやパスワードの管理を徹底する、不審なメールやサイトで安易に個人情報を入力しないなど、自分の情報を守る意識を持つことが大切です。

安全性への信頼がなければ、便利なサービスも安心して利用することはできません。行政には、セキュリティ対策の状況を国民に分かりやすく説明し、不安を解消していく丁寧なコミュニケーションが求められます。

DXの先にある「パーソナライズされた支援」

これらの課題を一つひとつ着実にクリアしていくことで、デジタル技術は、障害の有無にかかわらず、誰もが尊厳を持って暮らせる社会を築くための強力なツールとなります。

将来的には、行政が保有するデータを(プライバシーに最大限配慮した上で)分析し、一人ひとりの状況に合わせた、よりパーソナライズされた支援を提供する未来も期待されます。例えば、支援の利用履歴や日々の活動記録から、その人が次に必要としそうなサービスを予測して提案したり、同じような悩みを持つ当事者コミュニティの情報を提供したりするなど、これまで以上にきめ細やかなサポートが可能になるかもしれません。

手続きの負担から解放された人々が、その人らしく社会参加できる未来。行政のDX化は、その実現に向けた大きな一歩となるでしょう。

手続きの負担が減った時間を「働く」に繋げませんか

行政手続きのデジタル化は、単に「楽になる」「便利になる」というだけではありません。これまで手続きに費やしてきた時間、労力、そして精神的なエネルギーが、あなたの手元に返ってくることを意味します。その生まれた「余白」を、新しい可能性のために使ってみませんか。その選択肢の一つが、「働く」ことです。

生活の負担軽減は就労への大きな一歩

通院や体調管理、そして煩雑な行政手続き。これまでは、日々の生活を維持するだけで精一杯だったかもしれません。しかし、手続きの負担が軽くなることで、心に少しの余裕が生まれます。「何か新しいことを始めてみたい」「社会との繋がりを持ちたい」そんな気持ちが自然と湧き上がってくるかもしれません。

生活基盤が安定し、心身の負担が減ることは、就労を目指す上での大きな一歩となります。焦る必要はありません。まずは週に1日から、あるいは1日数時間の短い時間から。あなたのペースで社会参加への準備を始める絶好の機会です。

オリーブはあなたの「働きたい」気持ちをサポートします

私たち「就労継続支援B型事業所オリーブ」は、関西(大阪、兵庫、京都、奈良)に複数の事業所を展開し、障害のある方一人ひとりの「働きたい」という気持ちに寄り添う場所です。

オリーブでは、データ入力や軽作業、アート活動など、多岐にわたる仕事の中から、あなたの興味や得意なこと、そして体調に合わせて作業を選ぶことができます。専門の知識と経験を持ったスタッフが、あなたが安心して自分のペースで仕事に取り組めるよう、丁寧にサポートします。

「すぐに一般企業で働くのは不安」「まずは安定して通える場所がほしい」そんなあなたのための居場所が、ここにあります。

新しい働き方を一緒に見つけるご相談をお待ちしています

行政手続きのデジタル化によって、社会はよりインクルーシブな方向へと変化しています。この変化の波を、あなた自身の可能性を広げるチャンスにしませんか。

「自分にはどんな仕事が向いているんだろう?」「働くことに少し興味が湧いてきた」など、どんな些細なことでも構いません。まずはオリーブの相談員にお話ししてみませんか。私たちは、あなたと一緒に、新しい働き方を見つけるお手伝いをします。

見学やご相談は、メールやお電話で随時受け付けております。どうぞお気軽にお問い合わせください。あなたの新しい一歩を、オリーブは心から応援しています。

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