お役立ち情報 コミュニケーション・人間関係

「何か手伝おうか?」はNG?障害のある方への具体的なサポートの聞き方・提案の仕方

職場で誰かが困っている様子を見かけたとき、善意から「何か手伝おうか?」と声をかけるのは自然な光景です。しかし、その一見親切な言葉が、障害のある方にとってはかえって負担になり、サポートの機会を失わせてしまうケースがあることをご存知でしょうか。

なぜなら、抽象的な問いかけは「何に困っていて、どう手伝ってほしいか」をゼロから説明する負担を相手に強いたり、「頼むのは申し訳ない」という遠慮を生んだりするからです。本当にサポートが必要な時に「大丈夫です」という一言で対話が終わってしまうのは、本人にとっても職場にとっても大きな損失です。

この記事では、障害のある方に対し、より具体的で、お互いにとって心地よいサポートを実現するためのコミュニケーションのコツを解説します。明日から職場で実践できる「聞き方」「提案の仕方」「受け方」のヒントを通じて、誰もが働きやすい環境を一緒に作っていきましょう。

なぜ「何か手伝おうか?」という声かけは負担になるのか

何に困っているかを説明する負担

良かれと思ってかけた「何か手伝おうか?」という言葉ですが、受け取る側、特に障害のある方にとっては、自分が「何に、どのように困っているか」を言語化し、相手に正確に伝えること自体の難しさが、最初の障壁となります。

例えば、多くの書類に囲まれて固まっている人がいたとします。その人の中では、「AとBの書類を見比べ、Cのファイルから数字を抜き出し、Dさんに報告する下書きを作りたいが、どこから手をつければいいか分からず思考が停止している」という複雑な状況かもしれません。この状況で抽象的に問われても、瞬時に状況を整理し、相手に分かりやすく「〇〇を手伝ってください」と依頼するのは、非常にエネルギーのいる作業です。

特に、疲れやストレスを感じている時、あるいは発達障害の特性で思考の整理や言語化に時間がかかる方にとっては、その負担はさらに大きくなります。「手伝ってほしい」という気持ちはあっても、それを伝えるまでのハードルが高く、結果的に諦めてしまうのです。

仕事を依頼するという心理的なハードル

次に、サポートをお願いすることが、相手に「新たな仕事を依頼する」行為だと感じてしまう心理的なハードルがあります。「手伝おうか?」と言ってくれた相手も、自身の仕事で忙しいはずです。その状況を考えると、「自分のために相手の時間を奪うのは申し訳ない」「こんな些細なことを頼んでいいのだろうか」といった罪悪感や遠慮が生まれます。

これは、サポートを「対等な協力関係」ではなく、「健常者が障害者を一方的に助ける」という非対称な関係で捉えてしまうことにも繋がります。本来であれば少し手伝ってもらえばすぐに解決する問題でも、一人で抱え込み、より大きな問題に発展してしまう可能性も少なくありません。この遠慮が、業務の遅延やミスの原因となることもあります。

「大丈夫です」と反射的に答えてしまう関係性

日本では、相手への気遣いや遠慮から、本当に困っていても「大丈夫です」と反射的に断ってしまう文化的側面があります。一度「大丈夫です」と断ると、声をかけた側は「本当に大丈夫なのだな」と解釈し、それ以上の介入をためらうのが一般的です。

しかし、内心では「助けてほしい」と思っている場合、このやり取りはすれ違いを生むだけです。このようなすれ違いが繰り返されると、声をかける側も「どうせ断られるから」と次第に声をかけなくなり、一方で困っている側は「誰も助けてくれない」と孤立感を深めるという悪循環に陥る危険性があります。抽象的な声かけは、この「とりあえず断る」という定型句を最も引き出しやすいのです。

サポートの前提となる「建設的対話」とは

具体的な声かけのテクニックに入る前に、障害のある方へのサポートの基本となる「建設的対話」の考え方を理解することが非常に重要です。2024年4月から民間企業でも義務化された「合理的配慮の提供」においても、この建設的対話がすべての出発点となります。

建設的対話とは、障害のある人と事業者が対等な立場で、課題解決に向けて共に話し合い、理解を深めていくプロセスのことです。これは、一方がもう一方に何かを「してあげる」という関係ではなく、お互いが協力して「働きやすい環境を一緒に作る」ための共同作業です。この考え方が根底にあれば、サポートの申し出も、依頼も、より自然で前向きなものになります。

この対話は、どちらかが一方的に話すのではなく、お互いが意見を出し合い、合意形成を目指すものです。例えば、事業者側が「こういう配慮ならできる」と提案し、障害のある側が「それなら、こういう形でお願いしたい」と返すような、キャッチボールを繰り返すことが求められます。このプロセスを経ることで、本当に意味のある、効果的なサポートが実現するのです。

障害特性によるコミュニケーションの違いを理解する

効果的なサポートを行うためには、なぜコミュニケーションの工夫が必要なのか、その背景にある障害特性の違いを理解しておくことが助けになります。ここでは代表的な例を挙げますが、特性の現れ方は人それぞれであることを心に留めておいてください。

発達障害(ASD・ADHDなど)の場合

自閉スペクトラム症(ASD)の特性がある方の中には、言葉の裏を読んだり、抽象的な表現を理解したりするのが苦手な場合があります。「あれ、やっといて」や「適当にお願い」といった指示では、何を指しているのか分からず混乱してしまいます。「何か手伝おうか?」という抽象的な質問も同様に、何をどう答えれば良いか分からなくなってしまうのです。

一方、注意欠如・多動症(ADHD)の特性がある方は、複数の情報を同時に処理するマルチタスクが苦手なことがあります。多くのタスクに囲まれて混乱している時に、漠然と手伝いを申し出られても、何から頼めば良いか整理できません。だからこそ、「まずAの作業から片付けますか?」のように、具体的で的を絞った質問が有効になるのです。

精神障害(うつ病・不安障害など)の場合

精神障害のある方は、日によって体調や意欲に波があることが少なくありません。調子が良い時は自分でできることも、悪い時は普段なら簡単な作業でも大きな負担に感じることがあります。このような状態の時に、「手伝おうか?」と聞かれると、「いつもはできるのに頼むのは申し訳ない」という気持ちが先に立ち、助けを求めにくいことがあります。

そのため、「もし大変だったら、今日のこの作業は私が代わりますよ。断ってくれても全然気にしないでくださいね」のように、「断る」という選択肢を明確に提示し、相手に判断を委ねる姿勢が、安心感につながります。相手の「断る権利」を尊重することが、信頼関係の第一歩です。

内部障害や難病の場合

内部障害や難病など、外見からは分かりにくい「見えない障害」のある方は、周囲から困難を理解されにくいという悩みを抱えています。例えば、疲れやすさ(易疲労性)や、特定の姿勢を保つことの難しさなどは、旗から見ると「怠けている」と誤解されかねません。

「何か手伝おうか?」という声かけは、本人から「実は心臓の持病で、重いものを持つのが難しくて…」といった説明を求めることになり、カミングアウトの負担を強いる可能性があります。そのため、外見で判断せず、「その荷物、あちらまで運びましょうか?」のように、具体的な行動としてサポートを提案することが、見えない困難への配慮となります。

【聞き方編】相手が答えやすい具体的な質問のコツ

では、具体的にどのような聞き方をすれば、相手は負担を感じずにサポートを受け入れやすくなるのでしょうか。大切なのは、相手に「考えさせる負担」をできるだけ減らし、サポートの受け入れをスムーズにすることです。

「Yes/No」や選択式で答えられる質問をする

最も効果的な方法の一つが、「Yes/No」で答えられる「クローズドクエスチョン(閉じた質問)」や、いくつかの選択肢を提示する方法です。これにより、相手は複雑な状況を説明する必要がなくなり、直感的に返事をしやすくなります。

抽象的な質問と具体的な質問の比較

状況 抽象的で負担になる質問(オープンクエスチョン) 具体的で答えやすい質問(クローズドクエスチョン)
重そうな荷物を持っている 「何か手伝うことはありますか?」 「その荷物、〇〇まで運びましょうか?」
複数の作業を前に固まっている 「どうすればいいか分かりますか?」 「先にAの作業を片付けますか?それともBから始めますか?」
コピー機の前で困っている 「何かトラブルですか?」 「紙が詰まったみたいですね。一緒に見てみましょうか?」
PCの画面をじっと見ている 「大丈夫ですか?」 「文字が小さくて見えにくいですか?画面を拡大しましょうか?」

このように、具体的な行動を提案する形で質問することで、相手は「お願いする」という心理的ハードルを越えやすくなります。

相手の状況を肯定し、共感を示してから尋ねる

ただ具体的な質問をするだけでなく、その前に相手の状況を肯定し、共感を示す一言を加えることも非常に有効です。これは、相手に「自分の状況を理解してくれている」という安心感を与え、サポートを受け入れる心の準備を促します。

「たくさんの書類で大変そうですね。何か一つでも代われることはありますか?」 「大変そうですね」と相手の状況を言葉にして認めることで、共感の姿勢を示します。その上で、「一つでも」と付け加えることで、「部分的なサポートで構わない」というメッセージを伝え、相手の心理的負担を軽減します。

「その作業、少し複雑ですよね。もしよければ、〇〇の部分だけ一緒に確認しませんか?」 「複雑ですよね」と作業の難しさへの理解を示すことで、相手は「自分だけができないわけではない」と感じられます。そして「〇〇の部分だけ」と範囲を限定して協力を申し出ることで、相手はより気軽にお願いしやすくなります。

このような共感の言葉は、単なる作業のサポートだけでなく、相手の精神的な孤立を防ぐ効果も期待できます。

【提案編】相手が受け入れやすい具体的な申し出の仕方

具体的な質問と合わせて、こちらからサポートを「提案」する際にも、相手が受け入れやすくなる工夫があります。ポイントは、相手に「助けてもらう」という負い目を感じさせず、「断っても構わない」という選択肢を自然な形で提供することです。

観察に基づいた具体的な行動を提案する

相手の様子をよく観察し、「〇〇で困っているのではないか」という仮説を立てて、具体的な行動を提案する方法は非常に有効です。これは、あなたが相手に関心を持ち、状況を理解しようと努めている姿勢の表れでもあります。

状況
会議室のプロジェクターの前で、何度もケーブルを抜き差ししている。
提案
「〇〇さん、もしかして映像が映らないですか?ケーブルの接続、代わってみましょうか?」
状況
高い棚にあるファイルに手を伸ばしているが、届いていない。
提案
「そのファイル、取りましょうか?脚立を持ってきましょうか?」
状況
パソコンの画面を見ながら、何度も首をかしげている。
提案
「PCの動作が遅いみたいですね。一度再起動してみると直るかもしれませんよ」

このように、具体的な「行動」を提案することで、相手は「はい、お願いします」と答えるだけでサポートを受けられます。相手の困りごとを正確に推測するためには、日頃からのコミュニケーションや、その人の特性への理解が鍵となります。

自分もメリットがある形で協力や分担を申し出る

サポートを申し出る際に、「あなたのために」というスタンスを前面に出すと、相手はかえって恐縮してしまいます。そこで、「自分にとっても利益がある」という形で協力を提案すると、相手は負い目を感じにくくなり、対等なパートナーとして提案を受け入れやすくなります。

状況
大量の資料の袋詰め作業を一人で行っている。
提案
「その作業、一人だと時間がかかりますよね。二人でやった方が圧倒的に早いので、一緒にやらせてもらえませんか?」
状況
役所に提出する書類の書き方が分からず、困っている。
提案
「その書類、私も書き方を覚えておきたいので、一緒に調べながら進めませんか?」
状況
重い機材を運ぼうとしている。
提案
「ちょうど私もそっちの部屋に用事があるので、一緒に運びますよ」

これらの言い方は、相手に「助けてあげる」という印象を与えません。むしろ、「協力してくれてありがとう」と、相手からも感謝されるような状況を作り出すことができます。このような対等な関係性が、働きやすい職場環境の土台となります。

提案を断られた時のスマートな対応

勇気を出して提案したものの、「大丈夫です」と断られてしまうこともあるでしょう。その際に、「せっかく言ってあげたのに」と不満に思ったり、気まずい雰囲気になったりするのは避けたいものです。断られた場合は、相手の意思を尊重し、さらなる詮索はしないのが基本です。

その上で、「分かりました。でも、もしまた何かあったり、気が変わったりしたら、いつでも気軽に声をかけてくださいね」という一言を添えて、その場を離れるのがスマートな対応です。この言葉は、「あなたのことを気にかけている」というメッセージを伝えつつ、相手が将来的に助けを求めやすくなる「逃げ道」を作ります。一度断られても、良好な関係を維持することが、未来のサポートに繋がるのです。

【受け方編】具体的なサポートをお願いする伝え方

これまではサポートを「する側」の視点で解説しましたが、逆に「受ける側」、つまり障害のある当事者の方が、周囲に上手にサポートをお願いするためのコツも存在します。

手伝ってほしいことリスト(自分のトリセツ)を用意する

自分がどのような状況でつまずきやすく、その際にどのような手伝いをしてもらえると助かるのかを、事前にリストアップしておくことは非常に有効な方法です。これは「自分の取扱説明書(トリセツ)」を作成するイメージです。スマートフォンのメモ機能や手帳に、以下のように書き出しておきます。

電話対応
相手の話すスピードが速くて聞き取れない時、「もう一度ゆっくりお願いします」と代わりに伝えてほしい。
複数の要件を一度に言われた時、内容をメモに書き出してほしい。
作業の段取り
複数のタスクが重なって混乱した時、優先順位を一緒に整理してほしい。
口頭での指示が理解しきれない時、簡単な箇条書きで示してほしい。
環境について
周囲の雑音が気になって集中できない時、パーテーションの設置を手伝ってほしい。
光が眩しく感じるとき、ブラインドの調整をお願いしたい。

このように具体的に書き出しておくことで、いざ困ったときに慌てずに、「リストの〇〇をお願いできますか?」と的確に助けを求めることができます。このリストを信頼できる上司や同僚と事前に共有しておくのも良い方法です。

「感謝+状況+具体的な依頼」で伝える

実際にサポートをお願いする際は、まず感謝の気持ちを伝えることが、円滑なコミュニケーションの鍵となります。そして、その上で「何をしてほしいのか」をできるだけ具体的に、シンプルに伝えることを心がけましょう。

悪い例
「すみません、ちょっと分からないんですけど…」

(相手は何が分からないのか、どう手伝えばいいのか分からず、困ってしまう)

良い例
「〇〇さん、お忙しいところすみません。ありがとうございます。この書類の3番の項目についてなのですが、〇〇の箇所への記入方法を教えていただけますか?」

このように、「感謝→状況と依頼の要点→具体的な行動」の順で伝えることで、相手はすぐに状況を理解し、スムーズにサポートに入ることができます。手伝ってもらった後にも、改めて「〇〇さんのおかげで助かりました。ありがとうございます」と伝えることで、次も気持ちよく協力してもらえる良好な関係を築けます。支援を受けることは、決して一方的な行為ではなく、コミュニケーションを通じてお互いの信頼関係を深める機会でもあるのです。

具体的なサポートが根付いた職場 就労継続支援B型事業所オリーブ

ここまで解説してきた具体的なコミュニケーションは、個人のスキルだけでなく、職場全体の雰囲気や文化が非常に重要です。私たち就労継続支援B型事業所オリーブは、まさにそのような「具体的なサポート」が当たり前に実践されている場所です。

支援員があなたの「困りごと」を具体的に聞き取ります

オリーブの支援員は、障害福祉の専門家です。私たちは、利用者さん一人ひとりの様子を丁寧に見守り、困っている様子があれば「この作業の、どの部分で手が止まっていますか?」「〇〇と△△、どちらのやり方が分かりやすいですか?」といった具体的な質問を通じて、利用者さん自身が自分の困りごとを整理し、的確なサポートを受けられるようお手伝いします。あなたの「言葉にならないSOS」をしっかりと受け止め、具体的な解決策を一緒に見つけていくのが私たちの役割です。

安心して「手伝って」と言えるコミュニケーションの練習

オリーブは、単に作業をするだけの場所ではありません。社会で必要となるコミュニケーションスキルを実践的に学べる場所でもあります。日々の業務や、支援員との面談、他の利用者さんとの交流を通じて、「上手に助けを求める練習」や「相手を思いやったサポートを提案する練習」を、失敗を恐れずに何度も繰り返すことができます。

ソーシャルスキルトレーニング(SST)などのプログラムを取り入れ、具体的な場面を想定したロールプレイングを行うこともあります。ここで身につけたスキルは、将来のステップアップにおいても、あなたの大きな自信となるはずです。もしあなたが、「どうやって助けを求めたらいいか分からない」「自分のペースで、具体的なサポートを受けながら働きたい」と感じているなら、ぜひ一度オリーブにご相談ください。私たちは、あなたの「働きたい」という気持ちを、具体的なサポートで全力で応援します。

関西(大阪、兵庫、京都、奈良)で事業所を展開しておりますので、お近くのオリーブへお気軽にお問い合わせください。

>>就労継続支援B型事業所オリーブのサイトURL:https://www.syuro-olive.jp

お問い合わせ

就労に関する疑問やお悩み、
お気軽にご相談ください。

お問い合わせ