障害のある方を傷つける「良かれと思った言葉」言い換え辞典【かわいそう・すごいね】

「良かれと思って言った言葉で、相手を気まずい顔にさせてしまった…」そんな経験はありませんか。特に、障害のある方とのコミュニケーションにおいて、励ましたり褒めたりした言葉が、意図せず相手を傷つけてしまうことがあります。その背景には、誰もが持つ可能性のある「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」が存在します。
悪気はなくても、自分の言葉が相手をどのような気持ちにさせるか、一度立ち止まって考えてみることが、多様な人々と共に生きる社会でのより良い関係構築の第一歩です。2024年4月からは、事業者による障害のある人への「合理的配慮の提供」が義務化され、職場や社会の様々な場面で、障害の特性に配慮したコミュニケーションの重要性が一層高まっています。
この記事では、障害のある方を傷つけてしまいがちな「良かれと思った言葉」を具体的なケース別に紹介し、どのように言い換えれば良いのかを提案します。さらに、コミュニケーションの根本にあるべき心構えや、障害の捉え方についても解説します。この記事が、誰もが尊重され、安心して対話できる社会づくりの一助となれば幸いです。
悪気はないのになぜ?言葉が「無意識の偏見」を映し出す
言葉の裏にある「自分とは違う」「下の存在」という無意識の眼差し
「かわいそう」「障害があるのにすごい」といった言葉には、多くの場合、話し手の中に無意識の前提が隠れています。それは、「障害のある人は、自分(健常者)とは違う特別な存在だ」「困難を抱えていて、助けられるべき存在だ」という考え方です。
このような見方は、相手を自分と対等な個人としてではなく、「障害者」というカテゴリーに分類し、自分よりも弱い、あるいは低い立場に置いていることの表れかもしれません。悪気なく発せられた言葉であっても、その根底にある非対称な関係性を、相手は敏感に感じ取ってしまいます。
対等な関係を築くためには、まず相手を同じ社会で生きる一人の人間として捉え、敬意を払う姿勢が不可欠です。言葉を選ぶ前に、自分の中にそうした無意識の線引きがないか、一度振り返ってみることが大切です。
マイクロアグレッションとしての「小さな言葉の暴力」
意図せず相手を傷つけてしまう言動は、心理学の分野で「マイクロアグレッション」と呼ばれることがあります。これは、「日常の中に潜む、見えにくい小さな攻撃性」と訳され、多くの場合、人種、性別、そして障害などに関する偏見や固定観念に基づいています。
マイクロアグレッションの特徴は、言った側に悪意や差別的な意図がほとんどない点です。「冗談のつもりだった」「褒め言葉のつもりだった」と軽く考えがちですが、言われた側は、その言葉の裏にある偏見を繰り返し浴びることになります。
一つひとつの言葉は些細なものに聞こえるかもしれません。しかし、こうした小さな攻撃が日々積み重なることで、じわじわと自尊心が削られ、大きな精神的苦痛につながっていきます。「そのくらいで傷つくなんて」と考えるのではなく、言葉が持つ暴力性に気づき、想像力を働かせることが求められます。
大切なのは同情(シンパシー)ではなく共感(エンパシー)
コミュニケーションにおいて、「同情(Sympathy)」と「共感(Empathy)」は似ているようで全く異なります。
- 同情(Sympathy)
- 相手を「かわいそうな人」とみなし、上から目線で憐れむ感情です。そこには「自分は相手と違って幸運だ」という優越感が含まれることがあります。
- 共感(Empathy)
- 相手の立場に立って、その人がどのように感じ、考えているのかを想像し、理解しようとする姿勢です。相手と同じ目線に立ち、感情を分かち合おうとします。
「かわいそう」という言葉は、典型的な同情の表れです。私たちが目指すべきは、相手の状況を勝手に判断して憐れむのではなく、相手の話に耳を傾け、その人自身の言葉で語られる感情や経験を理解しようとする「共感」の姿勢です。この違いを意識するだけで、言葉の選び方は大きく変わってくるはずです。
【場面別】良かれと思って傷つけてしまう言葉と言い換え例
ここでは、日常で使いがちな6つの言葉をケースとして取り上げ、なぜそれが相手を傷つけるのか、そしてどのように言い換えれば良いのかを具体的に見ていきましょう。
ケース1:「かわいそう」
障害や病気の話を聞いた時、つい口にしてしまいがちな言葉ですが、当事者を最も傷つける言葉の一つとして挙げられることが多いです。
なぜ傷つけるのか:哀れみの対象として見ているから
「かわいそう」という言葉は、相手の人生や状況を「不幸だ」と一方的に決めつけているのと同じです。障害と共に生きる中でも、多くの人が幸せや喜び、やりがいを感じています。その人の人生の多様な側面を無視して、「障害=不幸」という単純なレッテルを貼ることは、その人の人格全体を否定することにもつながりかねません。
また、この言葉は相手を哀れみの対象として、自分より一段低い存在と見ているニュアンスを含みます。言われた側は、対等な個人として尊重されていないと感じ、深い疎外感を抱くことがあります。
言い換え提案:相手の具体的な状況や感情に寄り添う言葉を選ぶ
相手の状況を勝手に「不幸」と判断するのではなく、その人が経験した具体的な困難や、今感じている感情そのものに寄り添う言葉を選びましょう。
| 言い換えの方向性 | 具体的な言葉の例 |
|---|---|
| 相手の経験や苦労を労う | 「そうだったんですね、大変でしたね」「つらい経験をされましたね」 |
| サポートの意思を伝える | 「何か私にできることはありますか?」「もしよければ、いつでも話を聞きますよ」 |
| 気持ちに寄り添う姿勢を示す | 「そのお気持ち、お察しします」「言葉が見つかりませんが、お気持ちを思うと胸が痛みます」 |
ケース2:「障害があるのにすごいね」「偉いね」
仕事で成果を出したり、何かを達成したりした時に、褒め言葉のつもりで使ってしまう言葉です。しかし、これも相手を複雑な気持ちにさせることがあります。
なぜ傷つけるのか:無意識に見下している・低い期待値の表れだから
「障害があるのに」という前置きは、「本来、障害のある人にはできないだろうと思っていた」という低い期待値が前提にあることを示唆します。言われた本人は、自分の努力や能力そのものではなく、「障害者であることのハンデを乗り越えた点」を評価されたと感じてしまいます。
これは、無意識のうちに相手を見下していることの裏返しであり、過剰な特別扱いとも言えます。本人は、他の人と同じように、純粋に行動や成果を評価してほしいと願っているかもしれません。
言い換え提案:「〇〇ができるのがすごい」と事実を具体的に褒める
褒める時は、「障害」というフィルターを外しましょう。その人の行動、努力、成果といった具体的な「事実」に焦点を当てて、一人の個人として評価することが大切です。
| 言い換えの方向性 | 具体的な言葉の例 |
|---|---|
| 具体的な行動や成果を褒める | 「〇〇の資料、とても分かりやすかったです」「プレゼンテーション、素晴らしかったです」「〇〇ができるなんて、すごいですね」 |
| 努力のプロセスを認める | 「目標達成のために、大変な努力をされたのですね」「いつも真摯に取り組む姿勢は、本当に素晴らしいと思います」 |
ケース3:「普通に見える」「障害があるようには見えない」
特に、発達障害や精神障害、内部障害など、外見からは分かりにくい障害のある方に対して使われがちな言葉です。
なぜ傷つけるのか:見えない障害や困難を否定しているから
この言葉は、話し手にとっては「褒め言葉」のつもりかもしれません。しかし、言われた側にとっては、目には見えない困難や、その困難と向き合うために日々行っている努力を「ないもの」と否定されたように聞こえてしまいます。
また、「障害者はこうあるべきだ」というステレオタイプなイメージを相手に押し付けることにもなります。「障害者らしく見えない=良いこと」という価値観は、障害があること自体をネガティブなものと捉えている証拠です。
言い換え提案:障害の有無や見た目には触れず、事実として受け止める
そもそも、相手の見た目と障害を結びつけてコメントする必要はありません。もし相手が自ら障害について話してくれた場合は、その事実をありのままに受け止める姿勢を示しましょう。
| 言い換えの方向性 | 具体的な言葉の例 |
|---|---|
| 事実として受け止める | 「そうだったんですね。教えてくださってありがとうございます」 |
| 配慮の必要性を尋ねる | 「差し支えなければ、何か配慮が必要なことがあれば教えてください」 |
| 相手の気持ちを尊重する | 「打ち明けてくださったこと、信頼してくれているようで嬉しいです」 |
ケース4:「頑張って」
相手を励ましたいという純粋な気持ちから出る言葉ですが、時と場合によっては相手を追い詰めてしまうことがあります。
なぜ傷つけるのか:すでに最大限頑張っている人へのプレッシャーになるから
病気の治療やリハビリ、障害との共存など、当事者はすでに日々、目に見えないところで最大限の努力をしています。これ以上ないほど頑張っている人に対して「頑張って」と声をかけることは、「まだ頑張りが足りない」というメッセージとして伝わり、大きなプレッシャーや絶望感を与えてしまう可能性があります。
また、具体的なサポートを伴わない安易な励ましは、無責任な精神論に聞こえてしまうこともあります。
言い換え提案:「応援しています」とサポートの姿勢を示す
相手をさらに奮い立たせるのではなく、その人の現状を認め、休息を促したり、具体的なサポートを申し出たりする言葉が、本当の意味での励ましになります。
| 言い換えの方向性 | 具体的な言葉の例 |
|---|---|
| 相手を見守る姿勢を伝える | 「応援しています」「陰ながら見守っています」 |
| 休息を促し、労う | 「無理しないでくださいね」「どうかご自愛ください」「いつも頑張っていますね」 |
| 具体的なサポートを申し出る | 「何か手伝えることがあったら、いつでも声をかけてください」「大変な時は、いつでも頼ってくださいね」 |
ケース5:「あなたには無理だよ」「やめておいた方がいい」
相手のためを思った忠告のつもりでも、一方的な決めつけは相手の可能性を奪ってしまいます。
なぜ傷つけるのか:可能性を否定し、挑戦する意欲を削ぐから
障害特性への配慮から「良かれと思って」言ったとしても、この言葉は「あなたにはその能力がない」と断定する、非常に強い否定のメッセージです。本人が挑戦したいと思っていることに対して、周囲が勝手に限界を決めてしまうことは、自己肯定感を著しく低下させ、新しいことに挑戦する意欲を削いでしまいます。
障害のある人は、自分自身の特性や限界を誰よりも理解していることが多いです。その上で、様々な工夫を凝らして挑戦しようとしているかもしれません。その背景を想像せず、一方的に「無理」と決めつけるのは避けるべきです。
言い換え提案:「どうすればできるか一緒に考えよう」と伴走する姿勢を示す
否定から入るのではなく、まずは本人の「やりたい」という気持ちを受け止めましょう。その上で、安全や健康に配慮しながら、どうすれば実現できるかを一緒に考える協力的な姿勢が大切です。
| 言い換えの方向性 | 具体的な言葉の例 |
|---|---|
| 挑戦する気持ちを受け止める | 「〇〇に挑戦したいのですね、素敵な目標ですね」 |
| 課題を一緒に考える | 「目標に向けて、どんなことから始められそうですか?」「何か心配な点はありますか?一緒に考えてみましょう」 |
| サポートの意思を具体的に伝える | 「そのために私がお手伝いできることがあれば、言ってくださいね」 |
ケース6:「〇〇障害の人って、みんな〇〇だよね」
特定の障害と特定の性格や能力を結びつけて一般化する発言です。
なぜ傷つけるのか:個人を無視したステレオタイプの押し付けだから
「発達障害の人は空気が読めない」「精神障害の人は気分の浮き沈みが激しい」といった発言は、その人を個人としてではなく、「障害」というラベルで判断する偏見の表れです。同じ障害名でも、特性の現れ方や程度、性格、価値観は一人ひとり全く異なります。
このような一般化は、その人の個性や努力を無視するだけでなく、誤ったレッテルによって人間関係に壁を作ってしまいます。言われた本人は、まだ何も話していないうちから「自分はこう見られているんだ」と感じ、コミュニケーションに臆病になってしまうかもしれません。
言い換え提案:一般論ではなく、目の前の「その人」について話す
障害名で一括りにするのではなく、目の前の個人としての行動や言動について話すことが重要です。良い点も、改善を求めたい点も、あくまで「あなた」を主語にして伝えましょう。
| 言い換えの方向性 | 具体的な言葉の例 |
|---|---|
| 個人の良い点として伝える | 「〇〇さんの、一つのことに集中する力は本当に素晴らしいですね」 |
| 具体的な行動について尋ねる | 「先ほどの〇〇という発言について、もう少し詳しく意図を教えていただけますか?」 |
| 困っていることを具体的に伝える | 「(『みんなそうだよね』ではなく)〇〇の件で少し困っていることがあるので、ご相談してもよろしいですか?」 |
より良いコミュニケーションのための心構え
ここまで具体的な言い換え例を見てきましたが、小手先のテクニックだけでは不十分です。根本的に、障害のある人と向き合う際の心構えをアップデートすることが大切です。
相手を「障害者」としてではなく「個人」として見る
最も重要なのは、相手を「障害者」という大きな枠で捉えるのではなく、目の前にいる「〇〇さん」という、かけがえのない一人の個人として見ることです。私たちは無意識に「障害者は〇〇だろう」と一般化してしまいがちですが、障害の特性や程度、そして性格や価値観、好きなことや嫌いなことは、一人ひとり全く違います。
「障害」はその人を構成する数ある要素の一つに過ぎません。その人の個性や経験、考え方に興味を持ち、一人の人間として知ろうとすることから、本当のコミュニケーションは始まります。ステレオタイプな見方を手放し、目の前の「個人」と真摯に向き合いましょう。
「障害の社会モデル」の視点を持つ
障害の捉え方には、大きく分けて「個人モデル」と「社会モデル」の二つがあります。
- 個人モデル
- 障害を個人の心身機能の問題と捉え、本人がリハビリや努力で克服すべき課題と考える。
- 社会モデル
- 障害は個人の側にあるのではなく、社会の側にある様々な障壁(バリア)によって作り出されるものだと考える。
「階段しかないから車いすの人が建物に入れない」という状況で、個人モデルは「歩けないこと」が問題と考えますが、社会モデルは「スロープがないこと(社会の障壁)」が問題と考えます。コミュニケーションも同様で、言葉がうまく伝わらない時、それは個人の障害特性だけの問題ではなく、社会の側(話し手)の伝え方や、配慮のない環境にも問題がある、と捉えるのが社会モデルの考え方です。この視点を持つことで、一方的に相手に変化を求めるのではなく、自分自身の言動や周囲の環境をどう変えていけるか、という発想につながります。
わからないことは本人に尋ねる(建設的対話)
「こうしたら助かるだろう」「きっとこう思っているに違いない」といった勝手な憶測や思い込みは、すれ違いやありがた迷惑の原因になります。障害について、あるいは必要な配慮について分からないことがあるのは当然です。大切なのは、分からないことをそのままにせず、本人に直接、丁寧に尋ねることです。
- 「何かお手伝いすることはありますか?」
- 「もしよろしければ、〇〇について教えていただけますか?」
- 「このように進めようと思いますが、何か不都合はありますか?」
このように、相手の意思を確認しながら対話を進めることは、「建設的対話」と呼ばれ、合理的配慮の提供においても基本となる考え方です。尋ねることは、決して失礼なことではありません。むしろ、相手を尊重し、真剣に向き合おうとしている誠実さの表れとして伝わるはずです。
尊重のあるコミュニケーションが根付いた職場 オリーブ
私たち就労継続支援B型事業所オリーブは、単に仕事の場を提供するだけでなく、すべての利用者が一人の個人として尊重され、安心して過ごせるコミュニティであることを目指しています。
私たちはあなたの「個人」と向き合います
オリーブでは、職員一人ひとりが、利用者を「障害者」という枠で見ることをしません。あなたの得意なこと、好きなこと、挑戦したいこと、そして抱えている悩みや不安。そうしたあなたの「個人」としての側面に真摯に耳を傾け、対話することを何よりも大切にしています。
今回ご紹介したような「良かれと思った言葉」であなたが傷つくことがないよう、私たちは職員向けの研修を定期的に実施し、常に言葉遣いやコミュニケーションのあり方を学び続けています。一人ひとりの個別支援計画に基づき、あなたに合ったコミュニケーションの方法を一緒に探っていきます。
言葉ではなく、あなたの仕事や姿勢を評価する環境
「障害があるのに偉いね」といった評価は、ここにはありません。私たちが評価するのは、あなたが取り組んだ仕事の成果や、目標に向かって努力する姿勢そのものです。あなたの頑張りを、障害というフィルターを通さずに正当に評価し、自信につなげてもらう。それが私たちの役割だと考えています。
安心して自分の能力を発揮し、社会的な役割を担う喜びを感じられる環境が、ここにはあります。
見学・相談で私たちのコミュニケーションを体験してください
もしあなたが、「尊重される環境で働きたい」「自分のことを理解してくれる仲間や支援者と繋がりたい」と感じているなら、ぜひ一度、オリーブに見学・相談にお越しください。
コラムで述べたような、一人ひとりを大切にするコミュニケーションが、私たちの事業所の日常です。その温かい雰囲気を、ぜひ肌で感じてみてください。あなたからのお問い合わせを、心よりお待ちしております。
