障害特性に合わせたファッション・メイク術 感覚過敏や身体特性に寄り添う工夫で自分らしく

「障害があるから、おしゃれは楽しめない」と、心のどこかで諦めていませんか。感覚過敏による着心地の悪さや、身体的な特性による着替えの難しさが、ファッションやメイクへの高いハードルに感じられる方は少なくありません。しかし、ほんの少しの工夫や自分に合ったアイテムを選ぶことで、その悩みは「楽しさ」や「自信」へと変わります。

この記事では、感覚過敏や身体特性といった障害特性に寄り添う、ファッション・メイクの具体的なアイデアや便利なブランド、当事者のリアルな声を紹介します。あなたらしいスタイルを見つけることは、自分を表現し、社会とつながるための大切な一歩です。この記事が、あなたがもっと自分らしく輝くためのきっかけになれば幸いです。

ファッションやメイクは「我慢」から「楽しむ」へ

おしゃれは、単に身なりを整えるだけの行為ではありません。自分の好きな服を着たり、メイクを施したりすることは、心にポジティブな影響を与え、日々の生活に彩りを加えます。障害特性によって生じる困難から、おしゃれを「我慢するもの」と感じている方もいるかもしれませんが、現在は様々な工夫やサービスが登場し、誰もがおしゃれを楽しめる時代になっています。

「自分らしさ」を表現するツールとしてのおしゃれ

服装やメイクは、言葉を使わずに「自分らしさ」を表現できる、パワフルなコミュニケーションツールです。好きな色やデザインを身につけることで気分が高揚し、前向きな気持ちになれた経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。

障害があることで、内面に秘めた個性や感性が、周囲に伝わりにくいと感じる場面もあるかもしれません。そのような時、ファッションやメイクはあなたの素敵な個性を表現し、他者とのコミュニケーションを円滑にするきっかけにもなり得ます。自分らしいスタイルは、自信を持って他者と関わるための心強い味方となるでしょう。

自信と自己肯定感を高める効果

自分らしいおしゃれを楽しむことは、自信や自己肯定感を高める効果も期待できます。資生堂などが長年取り組んでいる「化粧療法（メイクセラピー）」の研究では、化粧をすることが心理的な満足感やQOL（生活の質）の向上につながることが報告されています。

鏡に映る自分を「いいな」と思える瞬間は、自己肯定感を育む上で非常に重要です。お気に入りのスタイルで外出したり、人に会ったりすることで、社会参加への意欲が高まることもあります。障害特性を理由におしゃれを諦めるのではなく、「どうすれば楽しめるか」という視点で、自分に合った方法を見つけてみましょう。

【感覚過敏】心地よさを優先するファッション・メイクの工夫

発達障害の特性の一つである感覚過敏がある方にとって、衣類の素材の感触やタグの刺激、化粧品の香りやテクスチャーは、時に大きなストレスの原因となります。ここでは、不快感を減らして心地よさを優先するための、具体的な工夫をご紹介します。

ファッション編：素材選びとデザインの工夫

「服のタグがチクチクして集中できない」「特定の素材が肌に触れると不快に感じる」「縫い目が肌に当たって痛い」といった悩みは、感覚過敏のある方にとって日常生活に影響を及ぼす深刻な問題です。まずは肌に直接触れるものから見直してみましょう。

縫い目やタグが気にならない肌着の選び方

肌への刺激を最小限にするため、一日中身につける肌着選びは特に重要です。近年、消費者ニーズの高まりを受け、以下のような工夫がされた製品が大手衣料品店でも容易に見つけられるようになりました。

タグレス仕様

洗濯表示が生地に直接プリントされており、タグのチクチク感がありません。

外縫い・シームレス仕様

縫い目が外側に出ている、または縫い目自体がない製法で、肌への凹凸感をなくします。

肌に優しい天然素材

オーガニックコットンやシルクなど、化学繊維に比べて刺激が少なく、吸湿性・通気性に優れた素材が使われています。

まずは毎日着る肌着を心地よいものに変えるだけで、日中の集中力や気分の安定につながり、心身の負担が大きく軽減されることがあります。

天然素材や着心地の良い服

肌着と同様に、直接肌に触れるトップスやボトムスも素材選びが重要です。一般的に、綿（コットン）や絹（シルク）、麻（リネン）といった天然素材は、吸湿性・通気性に優れ、肌への刺激が少ないとされています。購入時には、デザインだけでなく素材表示を確認する習慣をつけると良いでしょう。

また、素材以外にも以下のような点を意識して服を選ぶことをお勧めします。

ポイント	具体例
締め付けの少ないデザイン	ウエストがゴムのパンツ、Aラインやゆったりしたシルエットのワンピース、ラグランスリーブのトップスなど。
柔らかく、伸縮性のある生地	ストレッチ素材、スウェット生地、カットソー素材、ニットなど。体の動きを妨げません。
装飾が少ないシンプルな服	ビーズやスパンコール、硬いレースなど、肌に当たると刺激になる装飾を避ける。

発達障害のある当事者のためのライフスタイルメディア「CO-BO（コーボ）」などでは、感覚過敏に配慮した服の選び方に関する情報も発信されています。流行や他人の評価よりも、自分の感覚に正直に「着ていて心地よい」と感じるものを選ぶことが何よりも大切です。

メイク編：肌と感覚に優しい製品選び

化粧品の強い香りや、肌に乗せたときの感触（テクスチャー）が苦手で、メイクを楽しめないという声も聞かれます。嗅覚や触覚が過敏な方でも快適に使える、肌への負担が少なく、心地よいと感じる製品を選びましょう。

無香料・低刺激の化粧品

嗅覚が過敏な方にとって、化粧品の香りは気分が悪くなる原因にもなり得ます。また、肌が敏感な場合は、特定の化学成分が刺激になることもあります。製品を選ぶ際は、以下の点をチェックしてみてください。

• 無香料、または天然香料（エッセンシャルオイルなど）を使用した製品を選ぶ。
• 「皮膚科医のテスト済み」「アレルギーテスト済み」といった表記のある敏感肌向けの製品を選ぶ。
• 石鹸で落とせるタイプのミネラルコスメやオーガニックコスメを試してみる。

購入前にテスターで香りを確かめたり、サンプルやトライアルセットで肌に合うかどうかを試したりすることをおすすめします。ドラッグストアや化粧品専門店のスタッフに相談してみるのも良いでしょう。

テクスチャーが気にならない工夫

ファンデーションのべたつきや、日焼け止めの皮膜感が苦手な方もいます。様々なタイプの製品があるので、自分が快適に使えるものを見つけましょう。

リキッドファンデーションが苦手な場合

軽いつけ心地のパウダーファンデーションや、フェイスパウダーのみで仕上げる。BBクリームやCCクリームも、比較的軽い使用感のものが多いです。

日焼け止めの感触が苦手な場合

ジェルタイプやスプレータイプ、ミルクタイプなど、さらっとした使用感のものを選ぶ。

リップクリームのべたつきが苦手な場合

オイルベースのリップティントや、マットな質感のリップを選ぶ。

メイクは必ずしも全ての工程を行う必要はありません。アイブロウ（眉）を整えるだけ、リップを塗るだけでも、顔の印象は大きく変わります。自分が「これなら大丈夫」と思えるアイテムから、一つずつ試してみましょう。

【身体特性】着脱しやすく動きやすい工夫

腕が上がりにくい、片麻痺がある、車椅子を使っているなど、身体的な特性によって衣服の着脱や動きやすさに課題を感じることがあります。ここでは、そのような悩みに応えるファッションやメイクの工夫を紹介します。

ファッション編：ユニバーサルデザインとアダプティブファッション

近年、障害の有無にかかわらず、誰もがおしゃれを楽しめるようにデザインされた「ユニバーサルファッション」や、個々の身体特性に合わせて着脱しやすく工夫された「アダプティブファッション（順応ファッション）」が注目を集めています。

マグネットボタンやサイドファスナー付きの衣類

指先に力が入りにくい、細かい作業が苦手といった方にとって、ボタンやファスナーの操作は一苦労です。アダプティブファッションには、以下のような便利な工夫が凝らされています。

マグネットボタン

ボタン同士を近づけるだけで自然に留まるため、片手でも簡単に着脱できます。見た目は普通のボタンと変わらないデザインも増えています。

サイドファスナー

トップスの脇やパンツの両サイドが大きく開くことで、座ったままでも楽に着替えができます。介助する方の負担も軽減します。

リング付きファスナートップ

指を引っ掛けて操作できるため、つまむ動作が難しい方でも扱いやすくなります。

これらの工夫が施された衣類は、「SOLIT（ソリット）」や「KiTENE（キテネ）」といった専門ブランドのオンラインストアなどで見つけることができます。デザイン性も高く、おしゃれを諦めないための選択肢が広がっています。

車椅子ユーザー向けのボトムス選び

車椅子に座った姿勢で長時間過ごすことを前提に、特有の悩みを解決する工夫がされたボトムスもあります。

• 座った時にお腹周りが苦しくならないよう、股上が深いデザイン。
• お尻部分の生地のごわつきや床ずれを防ぐため、後ろポケットがない、または縫い目を工夫したデザイン。
• 座った時に足首が出ないよう、少し長めの丈。
• 着脱しやすいよう、ウエストゴムやサイドファスナーを採用。

車椅子ユーザーのインフルエンサーとして活躍するNatsupoo【なつぷー】さんのYouTubeチャンネルなどでは、こうしたアイテムを使ったコーディネート術も発信されており、大変参考になります。

メイク編：使いやすい道具と時短術

「手が震えてうまくラインが引けない」「握力が弱くて道具が持ちにくい」「長時間同じ姿勢でいるのがつらい」といった理由で、メイクを諦めてしまうこともあります。使いやすい道具を選んだり、時間をかけずにできる方法を取り入れたりしてみましょう。

持ちやすい・握りやすいメイク道具

ユニバーサルデザインの考え方を取り入れた、誰にでも使いやすいメイク道具が登場しています。

• 持ち手が太い、またはグリップが付いていて握りやすいブラシやアイライナー。
• 蓋が開けやすいよう、凹凸やリングが付いている容器。
• スタンプのように押すだけで眉が描けるアイブロウスタンプ。
• 電動のメイクブラシや、マスカラガイドのような補助具。

既存のメイクブラシに、市販のグリップや粘土などを付けて、自分の手に合わせてカスタマイズするのも一つの有効な方法です。

オールインワンコスメの活用

メイクの工程を減らし、時間を短縮したい場合は、一つで何役もこなす「オールインワンコスメ」が便利です。

オールインワンジェル

化粧水、乳液、美容液、クリームなどの機能が一つにまとまっており、スキンケアが一度で完了します。

クッションファンデーション

下地、日焼け止め、ファンデーションの機能が一つになっており、パフで軽く叩き込むだけでベースメイクが完成します。

マルチコスメ

アイシャドウ、チーク、リップなど、複数のパーツに使えるクリームカラーやスティック。統一感のあるメイクが簡単にできます。

これらのアイテムをうまく活用することで、心身への負担を減らしながら、メイクを楽しむ時間を確保することができます。

【その他の特性】計画や実行を助けるファッション・メイクの工夫

発達障害には感覚過敏だけでなく、不注意や多動性、衝動性（ADHD）、あるいは物事の計画や実行が苦手といった実行機能の課題など、多様な特性があります。これらの特性に合わせた工夫も、おしゃれを楽しむ上で役立ちます。

コーディネートの「制服化」と「パターン化」

「今日は何を着よう？」と毎朝考えることが負担に感じたり、考え始めると他のことが手につかなくなったりする方には、コーディネートをパターン化する「私服の制服化」が有効です。

基本パターンの設定

「このトップスにはこのボトムス」というように、お気に入りの組み合わせを数パターン決めておき、それを着回します。

アイテムの色を絞る

持っている服を白・黒・グレー・ネイビーといったベーシックカラーに絞り、どの組み合わせでも失敗しないようにします。

写真で管理

決めたコーディネートを写真に撮ってスマートフォンなどに保存しておけば、視覚的に選ぶことができ、迷う時間を減らせます。

考えることを減らすことで、朝の準備がスムーズになり、仕事や活動に必要なエネルギーを温存することができます。

忘れ物防止や整理整頓を助けるアイテム

ADHDの不注意特性により、忘れ物が多い、小物の管理が苦手といった悩みを持つ方もいます。ファッションの工夫で、こうした課題をサポートすることも可能です。

ポケットの多い服やバッグ

鍵やスマートフォン、定期入れなど、定位置を決めて収納できるポケットが多いと、忘れ物を防ぎやすくなります。

中身が見えるバッグ

透明なポーチやメッシュ素材のバッグインバッグを活用すると、何が入っているか一目でわかり、物を探す手間が省けます。

メイク道具の収納

メイクの手順通りにアイテムを並べられる収納ケースや、マグネット式の収納ボードを使うと、手順を飛ばすことなくスムーズにメイクができます。

自分にとって使いやすいシステムをファッションや小物で作り出すことで、日々の小さなストレスを軽減し、より快適に過ごすことができます。

自分らしいおしゃれを楽しむためのヒント

ここまで様々な工夫を紹介してきましたが、最も大切なのは「楽しむ気持ち」です。気負わずに、自分のペースでおしゃれと向き合うためのヒントをいくつかご紹介します。

まずはワンポイントから取り入れてみる

「全身をおしゃれにするのは大変」と感じるなら、まずは小さなワンポイントから始めてみましょう。

• お気に入りのアクセサリーを一つだけ身につける。
• 爪に好きな色のネイルを塗ってみる（剥がせるタイプなら手軽です）。
• 靴下やスカーフ、帽子など、小物で好きな色を取り入れる。
• リップクリームをほんのり色づくタイプに変えてみる。

小さな変化でも、気分は大きく変わるものです。「これならできそう」と思えることから、気軽に試してみてください。

SNSや専門サイトで情報を集める

自分と同じような特性を持つ人が、どんな工夫をしておしゃれを楽しんでいるのかを知ることは、大きなヒントになります。InstagramやYouTube、X（旧Twitter）などのSNSでは、障害のある当事者がファッションやメイクに関する情報を積極的に発信しています。

• 車椅子ユーザーのファッションインフルエンサー
• 視覚障害のある方のメイク動画
• 発達障害当事者のためのライフハックを発信するアカウント

こうした情報に触れることで、新しいアイデアが見つかるだけでなく、「自分だけじゃなかったんだ」という安心感や、おしゃれに挑戦する勇気が湧いてくるはずです。ハッシュタグ「#アダプティブファッション」や「#インクルーシブファッション」などで検索してみるのも良いでしょう。

あなたらしいスタイルで通える場所 就労継続支援B型事業所オリーブ

おしゃれを楽しむことは、自信を持って社会と関わるための大切な準備にもなります。就労継続支援B型事業所オリーブは、あなたがあなたらしいスタイルで、安心して自分のペースで通える場所です。

身だしなみも大切な仕事への一歩

就労を目指す上で、清潔感のある身だしなみは、社会人としての基本的なマナーの一つです。しかし、それは画一的な服装やメイクを強制するものではありません。オリーブでは、あなたの障害特性や個性をスタッフが深く理解した上で、TPOに合わせた身だしなみについて一緒に考え、サポートします。感覚過敏でスーツが着られない、メイクが苦手といった悩みも、気兼ねなくご相談ください。

個性を尊重し合えるインクルーシブな環境

オリーブの事業所は、利用者さん一人ひとりの個性や価値観を尊重し合える、インクルーシブ（包括的）な環境を大切にしています。あなたの好きなファッションやメイクは、あなたという人間を表現する大切な一部です。安心して自分らしさを表現できる場所で、働くためのスキルを身につけ、新しい仲間と出会いませんか。

見学・相談でもお気軽にお越しください

「どんな服装で行けばいいか分からない」「自分のペースで通えるか不安」など、少しでも気になることがあれば、まずはお気軽に見学・相談にお越しください。普段のあなたのままで、リラックスできる服装でお越しいただければ大丈夫です。経験豊富なスタッフが、あなたの不安や疑問に丁寧にお答えします。オリーブは、あなたの一歩を心からお待ちしています。