適応障害での退職|後悔しないための円満な辞め方と流れ・使える制度を解説

「もう、この会社を辞めるしかない…」
適応障害のつらい症状に悩み、職場環境が改善されない中で、そう思い詰めてしまう方は少なくありません。心身ともにエネルギーが枯渇した状態で、退職という大きな決断を下すのは、非常に勇気がいることです。しかし、その決断を後悔しないためには、勢いで辞めてしまう前に知っておくべき大切なことがあります。
退職は、必ずしも唯一の解決策ではありません。まずは休職して心身の回復を図ったり、職場環境の調整を会社に相談したりする選択肢もあります。そして、もし退職を決めた場合でも、円満に進めるための手順や、退職後の生活を支える公的な制度を知っておくことで、未来への不安を大きく和らげることができます。
この記事では、適応障害で退職を考える方が後悔しないために、退職の前に検討すべきことから、円満な退職の具体的な流れ、そして利用できる支援制度まで、網羅的に解説します。一人で抱え込まず、正しい知識を味方につけて、ご自身にとって最善の次の一歩を見つけましょう。
適応障害で退職を決める前に検討すべき3つのこと
心身のエネルギーが枯渇している時の判断は、視野が狭くなり、衝動的になりがちです。「辞める」という結論を出す前に、まずは一度立ち止まって、本当に他の選択肢がないのかを冷静に検討してみましょう。
まずは休職して心身の回復に専念する
適応障害の治療において、最も優先すべきは、ストレスの原因から物理的・心理的に距離を置き、心と体を十分に休ませることです。そのための最も有効な手段が「休職」です。心身が不調な状態のまま退職してしまうと、「早く次の仕事を見つけなければ」という焦りや、社会から孤立したような孤独感、経済的な不安から、かえって症状が悪化してしまうリスクがあります。
休職であれば、会社に籍を置いたまま、雇用と収入の安定をある程度確保した上で、安心して治療に専念できます。休職中の経済的な支えとして、健康保険の「傷病手当金」制度があります。これは、一定の条件を満たせば、給与のおおむね3分の2が最長で1年6ヶ月間にわたり支給される制度です(詳しくは後述します)。まずは主治医に相談し、「治療に専念するため」という正当な理由で、休職が必要である旨の診断書を書いてもらいましょう。
心身が十分に回復し、物事を冷静に、そして客観的に判断できる状態になってから、改めて「今の職場に復職するのか、それとも退職して新しい道を探すのか」を考えても、決して遅くはありません。
職場環境の調整(合理的配慮)を相談する
適応障害の原因が、職場の特定の業務内容や人間関係、過重な労働時間など、はっきりしている場合、その環境要因を調整してもらうことで、退職せずに働き続けられる可能性があります。
2016年に施行された障害者雇用促進法により、事業者には、障害のある従業員が働く上での障壁を取り除くための「合理的配慮」を提供することが義務付けられています。適応障害と診断されている場合も、業務に支障が出ている状況であれば、この配慮を求めることができます。
【合理的配慮の具体例】
- 業務内容の調整:
- 負担の大きい業務から外し、業務量を減らしてもらう。
- 配置転換:
- ストレスの原因となっている部署や人間関係から離れるため、別の部署へ異動させてもらう。
- 勤務時間の調整:
- 時短勤務やフレックスタイム制度、時差出勤などを利用させてもらう。
- コミュニケーションの配慮:
- 指示を口頭だけでなく、メールやチャットなどの文字情報でも伝えてもらう。
- 物理的な環境の調整:
- 聴覚が過敏な場合に、電話が少ない席や、人の出入りが少ない静かな席に移動させてもらう。
まずは、信頼できる上司や人事部の担当者に、主治医の意見書なども交えながら、ご自身の症状と「どのような配慮があれば働き続けられるか」を具体的に相談してみましょう。これは、一方的な要求ではなく、「働き続けたい」という意欲を示すための前向きな対話です。
リワーク支援を利用して職場復帰を目指す
休職後、すぐに職場に戻ることに不安を感じる場合は、「リワーク支援(復職支援プログラム)」を利用することも有効な選択肢です。リワーク支援とは、うつ病や適応障害などで休職している方が、再発を防ぎながらスムーズに職場復帰するためのリハビリテーションプログラムです。
医療機関、地域障害者職業センター、民間の支援機関などで実施されており、主に以下のようなプログラムを通じて、働く自信を段階的に取り戻していきます。
- オフィスワーク模擬:
- オフィスに近い環境で、PC作業や軽作業などを行い、集中力や持続力を回復させる。
- 心理教育プログラム:
- ストレスマネジメントやアサーション(上手な自己表現)、認知行動療法などを学び、ストレスへの対処スキルを身につける。
- 集団活動:
- グループワークやディスカッションを通じて、コミュニケーションスキルを向上させる。
- 個別カウンセリング:
- 専門家との対話を通じて、自身の課題やキャリアについて整理する。
決まった時間に施設へ通うことで、乱れた生活リズムを整える効果も期待できます。主治医や会社と連携しながら利用することで、より万全の状態で職場復帰を目指すことができます。
適応障害で円満に退職するための4つのステップ
休職や環境調整を検討した上で、やはり退職が最善の選択だと判断した場合、できるだけ円満に、スムーズに手続きを進めることが、次のステップへの大切なエネルギーを温存するために重要になります。
ステップ1:主治医に相談し退職のタイミングを決める
自己判断で退職を決断し、行動に移す前に、必ず主治医に相談しましょう。主治医は、あなたの心身の回復状態を客観的に評価し、退職という大きな決断と、それに伴う一連の手続きというストレスに耐えられる状態かどうかを、医学的な視点から助言してくれます。
また、後述する失業手当(雇用保険)の受給手続きなどで、「心身の不調により、自己都合ではあるがやむを得ず離職した」ことを証明するための診断書や意見書が必要になる場合があります。事前に相談しておくことで、必要な書類をスムーズに準備でき、退職後の手続きを有利に進めることができます。
ステップ2:直属の上司に退職の意向を伝える
退職の意思が固まったら、まずは直属の上司に、直接会って口頭で伝えます。民法上は退職の申し出は2週間前までとされていますが、円満な退職を目指すなら、業務の引き継ぎや人員補充にかかる期間を考慮し、会社の就業規則に定められた期間(一般的には退職希望日の1ヶ月~2ヶ月前)を確認し、それに従って余裕を持って伝えましょう。
【円満に伝えるためのポイント】
- 伝える相手:
- 親しい同僚や人事部ではなく、まず一番に直属の上司に伝えます。これが社会人としてのマナーです。
- タイミングと場所:
- 上司が忙しくない時間帯を見計らい、「少しお時間よろしいでしょうか」と声をかけ、会議室など他の人に話を聞かれない場所を確保しましょう。
- 伝え方:
- 退職への強い決意と、これまでお世話になったことへの感謝の気持ちを真摯に伝えることが、円満に進めるための最も重要なコツです。感情的にならず、冷静に、かつ丁寧な言葉遣いを心がけましょう。
退職理由の伝え方と例文
退職理由として、適応障害の診断名を具体的に伝えるかどうかは、あなた自身の判断に委ねられます。必ずしも正直に話す義務はありません。
【適応障害であることを伝えない場合】
「一身上の都合により」という理由で全く問題ありません。会社側がそれ以上しつこく理由を詮索することは基本的にはできません。もし詳しく聞かれた場合も、「個人的な事情ですので、申し訳ありません」と伝えれば大丈夫です。
例文:
「〇〇部長、お時間いただきありがとうございます。突然で大変恐縮ですが、一身上の都合により、〇月〇日をもちまして退職させていただきたく、ご報告にまいりました。入社以来、未熟な私をここまでご指導いただき、心より感謝しております。」
【適応障害であることを伝える場合】
病状を詳細に説明する必要はありません。「治療に専念するため」という形で、簡潔に伝えるのが良いでしょう。診断名を伝えることで、会社側の理解を得やすくなり、引き継ぎや退職日までの出勤などで配慮してもらえる可能性があります。
例文:
「実は、かねてからの体調不良のため医師の診察を受けたところ、適応障害と診断されました。大変残念ではございますが、今は治療に専念したく、〇月〇日をもちまして退職させていただきたく存じます。ご迷惑をおかけし申し訳ございませんが、何卒ご理解いただけますようお願い申し上げます。」
ステップ3:退職届の提出と業務の引き継ぎを行う
上司との話し合いで退職日が正式に確定したら、会社の規定に従って「退職届」を提出します。一般的には、退職を願い出る段階では「退職願」、退職が確定した後に事務手続きとして提出するのが「退職届」ですが、会社によっては「退職願」のみで良い場合もあります。上司の指示に従いましょう。
その後、後任者や他の部署に迷惑がかからないよう、責任を持って業務の引き継ぎを行います。ただし、心身に不調を抱えている状態ですので、決して無理はしないでください。
【無理のない引き継ぎのコツ】
- 引き継ぎリストの作成:
- 自分が担当している業務をすべてリストアップし、優先順位をつける。
- マニュアルの作成:
- 業務の手順や注意点、関係者の連絡先などを文書やデータでマニュアル化しておく。これは後任者のためだけでなく、退職後にあなたへの問い合わせが来るのを防ぐことにも繋がります。
- スケジュール管理:
- 退職日から逆算して、無理のない引き継ぎスケジュールを立て、上司と共有しておく。
体調が優れず、引き継ぎが困難な場合は、その旨を正直に上司に相談しましょう。
ステップ4:必要な手続きと書類の受け取りを確認する
最終出社日や退職日には、会社から受け取るべき書類と、会社へ返却すべきものがあります。これらは、退職後の失業手当の申請や、健康保険・年金の切り替え、転職先での手続きなどに必要となる非常に重要なものです。後日郵送されるものも含め、漏れがないか必ず確認しましょう。
受け取る書類 | 主な用途 |
---|---|
離職票(1と2) | 失業手当の申請に必須。退職後10日ほどで郵送されることが多い。 |
雇用保険被保険者証 | 失業手当の申請、または転職先での手続きに必要。 |
年金手帳 | 国民年金への切り替え、または転職先での手続きに必要。 |
源泉徴収票 | その年の所得税の確定申告や、転職先での年末調整に必要。 |
健康保険資格喪失証明書 | 国民健康保険への加入手続きに必要。 |
返却するもの |
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健康保険被保険者証 |
社員証、IDカード、社章、名刺 |
会社から貸与された備品(PC、スマートフォン、制服など) |
適応障害での退職後に利用できる経済的支援制度
退職後の生活で最も大きな不安の一つが、経済的な問題です。治療に専念し、安心して次のステップに進むために、利用できる公的な支援制度を正しく理解し、最大限に活用しましょう。
休職中から受け取れる傷病手当金
会社の健康保険に加入している方が、業務外の病気やケガが原因で4日以上仕事を休み、その間、会社から給与が支払われない場合に支給されます。休職中から利用でき、退職後も一定の条件を満たせば継続して受け取ることが可能です。
- 支給額:
- 過去12ヶ月間の給与の平均額 ÷ 30日 × (2/3)
- 支給期間:
- 支給開始日から通算して最長1年6ヶ月
- 退職後も受け取るための条件:
- 退職日までに健康保険の被保険者期間が継続して1年以上あり、かつ退職日に傷病手当金を受給しているか、受給できる状態にあること。
注意点: 継続給付の条件を満たすため、退職日は欠勤扱いにする必要があります。最終日に挨拶などで出勤してしまうと、継続給付が受けられなくなるため、注意が必要です。
医療費負担を軽減する自立支援医療(精神通院医療)
適応障害を含む精神疾患の治療で通院を続ける場合、医療費の自己負担額が通常3割のところ、原則1割に軽減される制度です。診察代だけでなく、カウンセリングやデイケア、薬局での薬代なども対象となります。所得に応じて月額の自己負担上限額も設定されるため、経済的な負担を大きく減らすことができます。お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口で申請できます。
退職後の生活を支える雇用保険(失業手当)
会社を退職し、次の就職先が決まっていない場合に、再就職までの生活を支えるための給付金です。通常、自己都合で退職した場合は2ヶ月間の給付制限(手当がもらえない期間)がありますが、適応障害の診断書があり、「心身の不調により離職した」とハローワークが判断した場合、「正当な理由のある自己都合離職」として扱われる可能性があります。
この「特定理由離職者」または「就職困難者」と認定された場合、以下のようなメリットがあります。
- 給付制限がなくなる:
- 7日間の待機期間を過ぎれば、すぐに給付が開始される。
- 給付日数が手厚くなる:
- 一般の自己都合離職者よりも、給付を受けられる日数が長くなる(年齢や被保険者期間によるが、最大330日)。
- 国民健康保険料の軽減:
- 自治体によっては、国民健康保険料の減免を受けられる場合がある。
退職後は、会社から届いた離職票などの必要書類を持って、お住まいの地域を管轄するハローワークで速やかに手続きを行いましょう。
その他の支援制度(障害者手帳や生活保護など)
- 精神障害者保健福祉手帳:
- 適応障害の診断だけでは取得が難しいのが現状ですが、症状が6ヶ月以上にわたり長引き、うつ病や不安障害などに病名が変更された場合は、手帳の申請対象となる可能性があります。手帳を取得すると、税金の優遇措置や公共料金の割引、障害者雇用枠での就職活動など、様々なサービスが受けられます。
- 生活保護:
- あらゆる公的制度を活用してもなお、生活が困窮する場合に、健康で文化的な最低限度の生活を保障するための最後のセーフティネットです。利用には資産調査など厳しい条件がありますが、本当に困った時には、お住まいの地域の福祉事務所に相談してください。
退職後の再就職や働き方を相談できる支援機関
心身が回復し、次の働き方を考え始めた時、一人で悩む必要はありません。あなたの再出発を、専門的な知識と経験でサポートしてくれる機関がたくさんあります。
ハローワーク
失業手当の手続きだけでなく、就職支援の拠点でもあります。障害や病気のある方向けの「専門援助窓口」が設置されており、専門の相談員が、あなたの病状や希望、能力に合った求人を紹介してくれます。応募書類の添削や模擬面接など、きめ細やかなサポートを無料で受けられます。
障害者就業・生活支援センター
「なかぽつ」の愛称で呼ばれ、全国に設置されています。ハローワークや地域の企業、医療機関と連携し、就職活動の支援だけでなく、金銭管理や健康管理、住まいのことといった生活面での相談にも一体的に乗ってくれる、身近で心強いパートナーです。
就労移行支援事業所
一般企業への就職を目指す、障害や難病のある方が対象の福祉サービスです。原則2年間、事業所に通いながら、ビジネスマナーやPCスキル、コミュニケーションスキルといった職業訓練を受けられます。自己分析や企業研究、職場実習などを通じて、自分に合った仕事を見つけ、再就職の準備を自分のペースで進められます。
就労継続支援B型事業所
現時点で、一般企業で毎日働くことに不安がある方や、まずは社会とのつながりを持ちながらリハビリ的に働きたいという方が対象の福祉サービスです。福祉的なサポートのある環境で、雇用契約を結ばずに、軽作業などを通じてリハビリ的に働くことができます。次のステップに進むための準備期間として、心と体を慣らしていくのに最適な場所です。
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