「自分は仕事ができない」「どうせまた失敗する」と、ご自身の障害特性を「弱み」だと感じ、働くことに自信をなくしていませんか。障害によって生じる困難は確かにあるかもしれません。しかし、見方を変えれば、その特性は他の誰にもない特別な「強み」になり得ます。
この記事では、あなたの「弱み」を「強み」に捉え直す「リフレーミング」という考え方と、それを用いて自分の強みを発見する具体的な自己分析の4ステップを解説します。さらに、発達障害（ASD・ADHD）や精神障害の特性別に、強みに変えるリフレーミングの具体例も豊富にご紹介します。
この記事を読めば、自分でも気づかなかった新たな可能性を発見し、自信を持ってキャリアを考える第一歩を踏み出せるはずです。一人で悩まず、あなたの強みを見つける旅をここから始めてみませんか。
「弱み」を「強み」に捉え直すリフレーミングという考え方
物事の枠組み（フレーム）を変えてみる
自分の短所や苦手なことばかりに目が向き、就職活動や仕事に対して前向きになれないという経験はありませんか。そんな時に役立つのが「リフレーミング」という考え方です。これは、物事を捉える枠組み（フレーム）を意識的に変えることで、短所を長所に、ネガティブをポジティブな側面へと視点を転換する心理学的なアプローチです。
リフレーミングは、無理にポジティブに思い込もうとする精神論ではありません。物事には必ず複数の側面がある、という事実に基づいた合理的な考え方です。例えば、コップに半分入った水を見て、「もう半分しかない」と捉えるか、「まだ半分もある」と捉えるかで、その後の気持ちや行動は大きく変わります。同じ事実でも、どのフレームで見るかによって、その意味合いが180度変わるのです。
自分の性格や障害特性についても同じことが言えます。「こんな自分はダメだ」と一つのフレームに固執するのではなく、「この特性には、別の側面もあるのではないか？」と意識的にフレームをかけ替えてみることが、リフレーミングの第一歩となります。
すべての特性にはポジティブな側面がある
どんな人の、どんな特性にも、必ずポジティブな側面とネガティブな側面の両方が存在します。どちらか一方だけということはありえません。大切なのは、自分の特性がどのような状況や環境で「弱み」として現れ、どのような状況で「強み」として輝くのかを客観的に理解することです。
例えば、以下のような言い換えが考えられます。
- 飽きっぽい
- 好奇心旺盛で、新しいことへの挑戦意欲が高い
- 頑固
- 意志が強く、信念を貫くことができる
- 心配性
- 慎重で、リスクを事前に察知して準備ができる
このように、自分の「弱み」だと思い込んでいた特性のリストは、見方を変えればそのまま「強み」のリストにもなり得るのです。この視点を持つことが、自己肯定感を高め、自分らしいキャリアを築いていくための土台となります。
自分の強みを発見するための自己分析4ステップ
リフレーミングという考え方を理解したら、次はいよいよ実践です。ここでは、自分の強みを具体的に発見するための自己分析を4つのステップに分けて解説します。焦らず、一つひとつのステップにじっくり取り組んでみましょう。
ステップ1：自分の苦手なこと・短所を書き出す
強みを見つけるための最初のステップは、意外に思うかもしれませんが、自分の「苦手なこと」「短所」「弱み」だと感じていることを正直に書き出すことです。自分を責める必要は一切ありません。まずは頭の中にあるネガティブな要素をすべて吐き出すことに集中してください。
- 人との雑談が苦手
- 作業に時間がかかってしまう
- 急な予定変更にパニックになる
- 細かいミスが多い
- つい考えすぎて行動できない
このように、具体的であればあるほど、後のステップで扱いやすくなります。ここでは「こんなことを書いたらダメだ」と自分を評価せず、思いつくままにリストアップしてみましょう。
ステップ2：リフレーミングで長所に言い換えてみる
ステップ1で書き出したリストを見ながら、一つひとつの項目をリフレーミングし、長所に言い換えていきます。もし可能なら、2つ以上の言い換えを考えてみると、より多角的に自分を捉えることができます。
| 苦手なこと・短所 | リフレーミングによる長所への言い換え |
|---|---|
| 人との雑談が苦手 | 一人の作業に集中できる、聞き役に徹することができる、思慮深い |
| 作業に時間がかかってしまう | 丁寧で正確な仕事ができる、粘り強い、品質を重視する |
| 急な予定変更にパニックになる | 計画性がある、準備をしっかり行うことができる、ルールを遵守する |
| 細かいミスが多い | 全体像を把握するのが得意、細かいことは気にしない大らかさがある |
| つい考えすぎて行動できない | 慎重に物事を進められる、リスク管理能力が高い、分析的である |
最初は難しいと感じるかもしれませんが、「もし、この特性を持つ親しい友人にポジティブな言葉をかけるとしたら？」と考えてみると、言い換えのヒントが見つかりやすいかもしれません。
ステップ3：過去の成功体験と結びつける
ステップ2で言い換えた長所が、単なる言葉遊びで終わらないように、具体的な「過去の成功体験」や「人から褒められた経験」と結びつけましょう。これにより、リフレーミングした強みに説得力と自信が生まれます。
例えば、「作業に時間がかかってしまう」を「丁寧で正確な仕事ができる」とリフレーミングしたとします。そこで、過去に「時間がかかったけれど、丁寧に仕上げたことで結果的に大きなミスを防げた経験」や「正確さを評価されて、重要なデータのチェック作業を任された経験」などがなかったか思い出してみるのです。
ささいな出来事で構いません。「この強みは、確かに自分の一部だ」と実感できるエピソードを探すことが、このステップの目的です。
ステップ4：第三者からの客観的な意見をもらう
自分一人で自己分析を進めていると、どうしても思い込みや主観に偏ってしまうことがあります。そこで、信頼できる家族や友人、あるいは支援機関のスタッフなど、第三者から客観的な意見をもらうことが非常に有効です。
「私の良いところって、どんなところだと思う？」と率直に聞いてみましょう。自分では短所だと思っていたことを、他者は「あなたの素敵な個性だよ」と捉えているかもしれません。自分では当たり前すぎて気づかなかったような意外な強みを教えてもらえることもよくあります。
客観的な視点を取り入れることで、自己分析の精度は格段に上がります。一人で抱え込まず、周りの人を頼ることも、自分を深く知るための大切なプロセスです。
【特性別】リフレーミングの具体例
ここでは、発達障害（ASD・ADHD）や精神障害の特性を、具体的にどのようにリフレーミングできるか、その一例をより詳しくご紹介します。ご自身の経験と照らし合わせながら、自分だけの「強み」の言葉を見つけるヒントにしてください。
発達障害（ASD・ADHD）の特性を強みに変える
発達障害のある方は、そのユニークな認知特性から仕事で困難を感じることがある一方で、特定の分野で驚くほどの能力を発揮することがあります。
ASD（自閉スペクトラム症）の特性例
- こだわりが強い、特定分野への探究心が深い
- 専門性が高く、一つのことを徹底的に究める研究者・職人気質。ルールや手順を正確に守るため、品質管理や経理、法務など正確性が求められる仕事で力を発揮する。
- シングルフォーカス（一つのことに集中する）
- 高い集中力で一つのタスクに没頭できる。プログラミングやデータ入力、文字校正、デザインなど、一つの作業に深く集中することが生産性に直結する業務に向いている。
- 曖昧な表現や社交辞令が苦手
- 事実に基づいて論理的に考えることができる。嘘やごまかしがなく誠実で、分析やデータに基づいた判断が求められる場面で信頼を得やすい。
ADHD（注意欠如・多動症）の特性例
- 注意散漫、興味が移りやすい
- 好奇心旺盛で情報感度が高い。様々な情報や知識を結びつけ、誰も思いつかなかった新しいアイデアを生み出す企画職や、トレンドを追いかけるマーケティング職、ジャーナリストなどでその力が発揮される。
- 衝動性、思い立ったらすぐ行動する
- 行動力があり、フットワークが軽い。スピード感が求められる営業職やイベント運営、新規事業の立ち上げなど、変化の多い環境で活躍できる可能性がある。
- 過集中
- 好きなことや得意なことに対して、時間を忘れて驚異的な集中力を発揮する。締め切り前のクリエイターやエンジニアなど、短期集中で成果を出す場面で大きなアドバンテージとなる。
精神障害の経験や特性を強みに変える
うつ病や不安障害などの経験も、リフレーミングによって仕事や他者との関わりにおける大切な強みへと変えることができます。
うつ病・双極性障害などの気分障害の経験
- 気分の波を自己管理してきた経験
- 自分の心身の状態を客観的に観察し、セルフケアする能力が高い。再発予防のために培ったストレス管理術やタスク管理能力は、安定して働き続ける上で大きな武器になる。
- 深く物事を考え込む傾向
- 物事の本質や根本的な原因をじっくりと考えることができる。表面的な事象に流されず、深い洞察力が求められる分析業務やコンサルティング、執筆活動などで活かせる可能性がある。
不安障害の特性
- 不安感が強く、最悪の事態を想定しがち
- 慎重でリスク管理能力が高い。事前に起こりうる問題を洗い出し、入念な準備をすることで、大きなトラブルを未然に防ぐことができる。プロジェクト管理や情報セキュリティなど、リスク管理が重要な業務で非常に役立つ。
- 繊細で傷つきやすい、人の感情に敏感
- 共感性が高く、人の気持ちや場の空気を敏感に察知できる。相手の気持ちを深く理解し、寄り添うことができる力は、顧客の隠れたニーズを汲み取る営業職、利用者の心に寄り添う福祉・介護職、カウンセラーなどでかけがえのない強みとなる。
リフレーミングを実践する際の注意点
自己分析を進める上で、リフレーミングは強力なツールですが、万能薬ではありません。実践する際には、いくつかの注意点があります。
無理にポジティブになろうとしない
リフレーミングは、つらい気持ちや困難な現実に無理やり蓋をして、ポジティブを強要するものではありません。まずは「苦手なことがある」「つらい」という自分の気持ちをありのままに受け止めることが大切です。その上で、「でも、見方を変えればこんな側面もあるかもしれない」と、少しだけ視点をずらしてみる、というくらいの気持ちで取り組みましょう。
「強み」は環境によって変わる
ある特性が「強み」になるか「弱み」になるかは、本人の資質だけでなく、置かれている環境（職場の文化、人間関係、業務内容など）に大きく左右されます。例えば、「慎重さ」はミスの許されない品質管理の仕事では強みになりますが、スピードが最優先される職場では弱みと見なされるかもしれません。自分の強みが活かせる環境はどこなのか、という視点を持つことも重要です。
発見した「強み」をキャリアに繋げる伝え方
自己分析によって自分の「強み」を発見できたら、次はそれを就職活動の面接や職場で効果的に伝え、実際のキャリアに繋げていくことが大切です。ここでは、強みを伝える際の2つの重要なポイントを解説します。
具体的なエピソードを交えて説明する
ただ「私の強みは探究心です」と伝えるだけでは、相手にその魅力は十分に伝わりません。自己分析のステップ3で見つけた「過去の成功体験」を具体的なエピソードとして語ることで、あなたの強みに説得力が生まれます。
伝える際は、以下の構成（STARメソッド）を意識すると、分かりやすく整理できます。
- 状況 (Situation)
- どのような状況でしたか？
- 課題 (Task)
- どのような課題や目標がありましたか？
- 行動 (Action)
- あなたは自分の強みを活かして、具体的にどう行動しましたか？
- 結果 (Result)
- その行動によって、どのような良い結果が生まれましたか？
例えば、「探究心」を伝える場合、「前職で〇〇という課題がありましたが（状況・課題）、私は持ち前の探究心を活かして関連文献を徹底的に調べ上げ、新しい解決策を提案しました（行動）。その結果、作業効率を15%改善することができました（結果）」のように、具体的な数字や事実を交えて話すと、より説得力が増します。
必要な配慮もセットで伝える
障害特性を強みとして伝える際には、その強みを最大限に活かすために「必要な配慮」をセットで伝えることも重要です。これは、できないことへの言い訳ではなく、自分の能力を安定して発揮するための「前向きな提案」と捉えましょう。
例えば、「高い集中力で一つのことに没頭できる」という強みを伝える際に、「ただし、その集中力を安定して発揮するため、マルチタスクを避け、一つの作業に集中できる静かな環境をご配慮いただけると、より貢献できると考えております」といった形で伝えます。
このように、強みと配慮をセットで伝えることで、企業側もあなたが働きやすい環境を具体的にイメージでき、お互いにとって良いマッチングに繋がりやすくなります。自分の取扱説明書を相手に渡すようなイメージで、正直かつポジティブに伝えてみましょう。
あなたの「強み」探しをオリーブがお手伝いします
ここまで、リフレーミングや自己分析の方法について解説してきましたが、「自分一人でやるのは難しそう」「客観的な意見をくれる相手がいない」と感じた方もいらっしゃるかもしれません。そんな時は、私たち就労継続支援B型事業所オリーブにご相談ください。
作業を通じて自分の得意なことを見つける場所
オリーブでは、データ入力や軽作業、デザイン制作など、様々な仕事を利用者さんのペースに合わせて提供しています。実際の作業に取り組む中で、「これは得意かもしれない」「この作業は楽しい」といった気づきを得ることができます。机の上での自己分析だけではわからない、実践的な自己理解を深める絶好の機会です。
支援員があなたの自己分析を客観的にサポート
オリーブの経験豊富な支援員は、いわば「強み発見のプロ」です。日々の作業の様子やコミュニケーションの中から、ご自身では気づかなかった長所や得意なことを見つけ出し、客観的な視点からフィードバックします。自己分析のステップ4で述べた「第三者の視点」として、あなたの自己分析を温かく、そして力強くサポートします。
見学・相談であなたのキャリアについて話しませんか
もし少しでもご興味をお持ちいただけましたら、ぜひ一度、オリーブへ見学・相談にお越しください。あなたの中に眠る「強み」を一緒に見つけ、それを活かした働き方を考えていくお手伝いをさせていただきます。あなたの新たな一歩を、私たちは心から応援しています。