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障害のある部下と「共に成果を出す」チームビルディング術 心理的安全性とインクルーシブなマネジメント

障害のある方を新たにチームへ迎える時、「どのように関わればよいのだろう」「どんな仕事を任せたらいいのか」と、戸惑いや不安を感じる管理職や同僚の方は少なくないでしょう。しかし、その関わり方や環境の整え方次第で、障害のあるメンバーは素晴らしい能力を発揮し、チーム全体の成長を促す大きな力となり得ます。

障害者雇用は、単なる「支援」や「社会貢献」ではありません。多様な人材がそれぞれの強みを活かし、共に成果を出す「協働」の関係を築くことです。

この記事では、障害のある部下や同僚と共に、チームとして成果を最大化するための具体的な方法を解説します。その鍵となるのが、誰もが安心して働ける「心理的安全性」の確保と、一人ひとりの違いを強みに変える「インクルーシブなマネジメント」です。明日から実践できるチームビルディングのヒントが、ここにあります。

目的は「支援」ではなく「協働」 共に成果を出すという視点

障害者雇用をチームの成長に繋げる

障害者雇用と聞くと、「助ける」「支援する」といったイメージが先行するかもしれません。もちろん、働きやすさを確保するための配慮は不可欠です。しかし、最も重要なのは「支える側」と「支えられる側」という一方的な関係性から脱却し、同じ目標に向かう対等なパートナー、つまり「協働者」として捉える視点です。

障害のあるメンバーは、決して「できないこと」が多いわけではありません。特定の業務に対して突出した集中力や、独自の視点、粘り強さといった優れた能力を持っていることが多くあります。その特性を「弱み」ではなく「個性」や「強み」として理解し、チームの中でどうすれば最大限活かせるかを考えることが、成果を出すための第一歩となります。

障害のあるメンバーの参加は、チームに新しい風を吹き込み、成長を促すきっかけとなります。例えば、これまで当たり前だと思っていた業務の進め方やコミュニケーションの方法を、誰もが働きやすいように見直す必要が出てくるでしょう。

この見直しのプロセスは、結果的にチーム全体の業務効率化や、コミュニケーションの質の向上に繋がります。「誰にでも分かりやすい指示」「曖昧さのない情報共有」「それぞれの得意を活かす役割分担」といった工夫は、障害の有無にかかわらず、すべてのメンバーの働きやすさを向上させ、組織全体の生産性を高めるポテンシャルを秘めているのです。

マネジメントの工夫が多様な人材を活かす鍵

多様な人材が活躍できるチームを作るためには、管理職のマネジメント手法にも工夫が求められます。画一的なやり方を押し付けるのではなく、一人ひとりの特性や能力に目を向け、それぞれが最も力を発揮できる環境をデザインしていくことが重要です。

障害のあるメンバーが安心して能力を発揮できるようになることで、チーム内には「お互いの違いを認め、助け合う」という文化が自然と醸成されます。こうした環境は、新たなイノベーションの創出や、従業員エンゲージメントの向上にも繋がり、企業にとって大きな財産となるでしょう。

「心理的安全性」がチームの土台となる

障害の有無にかかわらず、メンバーがその能力を最大限に発揮できるチームには、共通した一つの土台があります。それが「心理的安全性」です。特に、障害のあるメンバーがチームに加わる際には、この心理的安全性が確保されているかどうかが、その後の定着と活躍を大きく左右します。

心理的安全性が低い職場では、メンバーは「こんなことを言ったら否定されるかもしれない」「失敗したらどうしよう」といった不安から、発言や挑戦をためらってしまいます。これでは、新しいアイデアが生まれることも、問題が早期に発見されることもなく、チームは停滞してしまいます。

心理的安全性とは 誰もが安心して発言・挑戦できる環境

心理的安全性とは、ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授によって提唱された概念で、「チームの中で、対人関係のリスクを恐れずに、自分の考えや気持ちを安心して発言・行動できる状態」を指します。

具体的には、以下のような状態が保たれているチームは、心理的安全性が高いと言えます。

無知や無能だと思われる不安がない
「こんな初歩的なことを聞いても大丈夫だろうか?」と心配せずに、分からないことを素直に質問できる。
邪魔をしていると思われる不安がない
チームの議論や他のメンバーの発言に対して、気兼ねなく意見や提案ができる。
否定的な人間だと思われる不安がない
現状のやり方や方針に対して、改善点や懸念事項を率直に指摘できる。
失敗を恐れない
新しいアイデアや挑戦的な取り組みに対して、失敗を恐れずにチャレンジできる。

心理的安全性は、単なる「仲良しクラブ」や「ぬるま湯」のような状態とは異なります。むしろ、活発な議論や健全な意見対立を促し、チームをより高いレベルへ引き上げるための基盤となるものです。

心理的安全性が高い職場がもたらすメリット

心理的安全性が確保された職場は、障害のあるメンバーはもちろん、チーム全体、ひいては企業全体に多くのメリットをもたらします。

生産性の向上とイノベーションの創出

心理的安全性が高いチームでは、メンバー間の情報共有が活発になり、報告・連絡・相談がスムーズに行われます。これにより、問題の早期発見や迅速な解決が可能となり、チーム全体の生産性が向上します。

また、誰もが自分の意見やアイデアを自由に発言できるため、多様な視点が組み合わさり、これまでにない新しい発想やイノベーションが生まれやすくなります。Google社が数年をかけて行った調査「プロジェクト・アリストテレス」でも、成功するチームの最も重要な因子は、メンバーの知性や経歴ではなく「心理的安全性」であったことが報告されています。

障害のあるメンバーも能力を発揮しやすい

障害のあるメンバーにとって、心理的安全性の高い環境は特に重要です。自分の障害特性や、業務を行う上で必要な配慮について、安心して上司や同僚に伝えられる環境がなければ、能力を発揮する以前に、働き続けること自体が困難になってしまいます。

例えば、「疲れやすいので、定期的に短い休憩を取りたい」「聴覚過敏があるので、静かな席で作業したい」といった配慮の必要性を、気兼ねなく相談できる雰囲気があることが大切です。このような自己開示が受け入れられる環境こそが、本人のパフォーマンスを最大化し、チームへの貢献に繋がるのです。

チームの壁となる「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」に気づく

心理的安全性を脅かし、インクルーシブなチーム作りを阻む大きな壁の一つに、「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」があります。これは、自分自身では気づいていない、物事に対する偏った見方や思い込みのことです。

障害者雇用で起こりがちなバイアスの例

障害のあるメンバーと接する際、良かれと思ってとった行動が、実はアンコンシャス・バイアスに基づいている場合があります。

過保護・過干渉のバイアス
「大変だろうから、この仕事は任せないでおこう」「きっとできないだろうから、先にやっておいてあげよう」と、本人の挑戦の機会を奪ってしまう。
過小評価のバイアス
「障害があるから、簡単な仕事しかできないだろう」と、能力を正しく評価せずに、補助的な業務ばかりを任せてしまう。
ステレオタイプのバイアス
「〇〇障害の人は、みんな××が得意だ」と、個人を見ずに障害名で一括りにして、画一的な対応をしてしまう。
正常性バイアス
「自分は障害者に偏見などない、普通に接している」と思い込み、相手が感じているかもしれない困難や必要な配慮に気づく機会を失ってしまう。

これらのバイアスは悪意から生まれるものではないからこそ根深く、本人も周囲も気づきにくいという特徴があります。

バイアスを乗り越え、インクルーシブな視点を持つには

アンコンシャス・バイアスを完全になくすことは困難ですが、その存在を認識し、影響を減らす努力は可能です。

第一歩は、「自分にもバイアスはある」と認めることです。自分自身の考え方の癖や、判断の背景にある思い込みを客観的に振り返る習慣が大切です。Googleなどの先進企業では、こうしたバイアスに気づくための研修を全社的に実施しています。

次に、チーム内で対話を重ねることです。障害のあるメンバー本人から、仕事の進め方やコミュニケーションで困っていることはないか、率直にフィードバックをもらいましょう。思い込みではなく、事実に基づいて相手を理解しようとする姿勢が、バイアスを乗り越える鍵となります。

インクルーシブなチームを作るマネジメント術

心理的安全な土台とバイアスへの気づきの上に、多様なメンバーを活かすための具体的な仕組みを築いていくのが「インクルーシブなマネジメント」です。これは、単に障害のあるメンバーを「受け入れる」だけでなく、その違いをチームの「強み」として積極的に活かしていくためのマネジメント手法です。

本人の「強み」を活かす業務の切り出しと役割分担

障害特性は、見方を変えれば強力な「強み」になり得ます。マネージャーの役割は、メンバー一人ひとりの得意なことや特性を深く理解し、その強みが最大限に活かされる業務を切り出して任せることです。

障害特性の例 強みへの転換 業務の切り出し例
ASD(自閉スペクトラム症)の特性

・こだわりが強い

・集中力が高い

・正確性や緻密さが求められる作業が得意

・ルーティンワークを苦にしない

・定型的なデータ入力、文字校正、検品作業

・マニュアルや議事録の作成、プログラミング

ADHD(注意欠如・多動症)の特性

・多動性、衝動性

・好奇心旺盛

・アイデアが豊富で独創的

・フットワークが軽く行動的

・新規事業の企画、ブレインストーミング

・SNS運用、イベントの運営補助、情報収集

LD(学習障害)の特性

・特定の認知能力に困難がある

・口頭でのコミュニケーション能力が高い

・論理的思考や分析が得意

・顧客対応、プレゼンテーション

・データ分析、リサーチ業務

精神障害(うつ病など)の特性

・体調や気分の波がある

・共感性が高く、人の気持ちを察するのが得意

・自分のペースで進める作業に集中できる

・カスタマーサポート、相談業務

・コンテンツ作成、データ整理・分析

重要なのは、既存の業務に人を当てはめるのではなく、その人の強みに合わせて業務を再設計するという発想の転換です。これにより、本人は得意な分野で貢献でき、チーム全体としても業務の質を高めることができます。

曖昧さをなくす具体的・肯定的なコミュニケーション

障害のあるメンバーの中には、曖昧な指示や暗黙の了解を理解することが苦手な人も少なくありません。コミュニケーションの齟齬を防ぎ、安心して業務に取り組んでもらうためには、「具体的」かつ「肯定的」な伝え方を心がけることが極めて重要です。

悪い例 : 「あれ、いい感じに進めといて」

良い例 : 「〇〇の資料を、本日15時までに、△△のフォーマットを使って作成してください。分からない点があれば、いつでも声をかけてください。」

具体的な指示のポイント

5W1Hを明確に
いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように行うのかを具体的に伝えます。
数値や期限を入れる
「できるだけ早く」ではなく「〇月〇日の午前中まで」のように、具体的な期限を示します。
複数の指示を一度に出さない
一つずつタスクを区切って依頼し、完了を確認してから次の指示を出します。
口頭だけでなく、文字でも伝える
指示内容をチャットやメールで補足することで、後から見返すことができ、認識のズレを防ぎます。

また、フィードバックを行う際は、否定的な言葉(「なぜできないんだ」)ではなく、肯定的な言葉で具体的な行動を促す(「次はこうしてみようか」)ことが、本人のモチベーションと成長に繋がります。

定期的な1on1ミーティングによる目標設定と進捗確認

チーム全体のミーティングとは別に、上司と部下が1対1で対話する「1on1ミーティング」を定期的に行うことは、インクルーシブなマネジメントにおいて非常に有効です。これは、単なる業務の進捗報告の場ではありません。本人のキャリアプランや目標、現在のコンディション、困っていることなどを安心して話せる時間にすることが目的です。

1on1ミーティングの主な目的

目標の共有とすり合わせ
本人のやりたいこととチームの目標を接続し、具体的な業務目標を設定します。
困りごとの早期発見
業務上の課題や体調の変化などを早めに察知し、対策を講じることができます。
信頼関係の構築
定期的に話すことで、上司と部下の間に安心感と信頼感が生まれます。
エンゲージメントの向上
自分のことを気にかけてくれていると感じることで、本人の仕事への意欲が高まります。

頻度は週に1回15分〜30分程度でも構いません。大切なのは、本人が「自分のための時間」だと感じられるように、上司が真摯に耳を傾ける姿勢です。

チーム全体で障害特性と必要な配慮を共有・理解する

障害のあるメンバーが安心して働くためには、上司だけでなく、チーム全体の理解と協力が不可欠です。本人の同意を得た上で、障害特性や必要な配慮について、チームメンバーに共有する機会を設けましょう。この時、必ず本人から直接話してもらうか、本人の言葉を正確に伝える形で行うことが重要です。

共有内容の例

障害の概要(可能な範囲で)
「私はASDという特性があり、急な予定変更や複数のことを同時に行うのが少し苦手です。」
得意なこと・強み
「その代わり、一つのことに集中して、ミスなく正確に作業を進めるのは得意です。」
苦手なことと、その対策
「大きな音や雑談が多い環境だと集中しにくいので、集中したい時はノイズキャンセリングイヤホンを使わせてください。」
周囲にお願いしたい配慮
「指示をいただく際は、メモを取りたいので少しゆっくり話していただけると助かります。」

こうした情報共有を行うことで、周囲のメンバーは憶測や誤解をすることなく、「それなら、こうしよう」と具体的な協力の仕方を考えることができます。チーム全体で本人をサポートする文化が生まれ、より強い一体感が醸成されます。

同僚としてできる合理的配慮とコミュニケーション

障害のあるメンバーを支えるのは、管理職だけの役割ではありません。日々、隣で働く同僚一人ひとりの関わり方が、その人の働きやすさを大きく左右します。

「遠慮」ではなく「配慮」のある関わり方

障害のある同僚に対して、「どう接したらいいか分からない」「気を遣いすぎてしまう」と感じ、腫れ物に触るように距離を置くのは「遠慮」です。大切なのは、相手を一人の人格として尊重する「配慮」です。

困っている様子があれば「何か手伝うことはありますか?」と自然に声をかける。このシンプルな姿勢が、最も良い関係性を築きます。過剰な手助けは、かえって本人の自立心や「自分もチームの一員として貢献したい」という気持ちを妨げてしまう可能性もあることを覚えておきましょう。

わからないことは本人に確認し思い込みをなくす

障害の特性や必要な配慮は、一人ひとり全く異なります。「障害があるから、〇〇はできないだろう」「きっと△△してほしいはずだ」といった思い込みや決めつけは、コミュニケーションの壁を作る最大の原因です。

一番確実で、そして最も大切なのは、分からないことは本人に直接聞くことです。

  • 「この仕事の進め方で、やりにくいところはないですか?」
  • 「もし何か配慮が必要なことがあったら、いつでも教えてくださいね」
  • 「ランチ、もし良かったら一緒に行きませんか?もちろん、一人でゆっくりしたい時も気にしないでください」

このように、相手の意向を確認しながらコミュニケーションを取ることで、不要な誤解をなくし、お互いにとって心地よい関係性を築くことができます。オープンに話せる関係性が、チームの心理的安全性をさらに高めていくのです。

チームビルディングに悩む企業様へ オリーブとの連携

ここまで、障害のあるメンバーと共に成果を出すためのチームビルディングについて解説してきました。しかし、こうした取り組みを自社だけで進めることに不安を感じたり、専門的な知識を持つ人材が社内にいなかったりする場合もあるでしょう。

就労継続支援B型事業所オリーブは、障害のある方の就労をサポートするだけでなく、受け入れる企業様が抱える課題に対しても、連携してサポートを提供することができます。

就労準備の整った人材と出会う機会を提供します

オリーブでは、利用者様が日々の作業トレーニングやコミュニケーション訓練を通じて、自分の得意なことや必要な配慮などを深く自己理解するプロセスを支援しています。企業様には、就労への準備が整い、自身の強みや特性を理解した人材をご紹介することが可能です。

本格的な採用の前に、職場実習の受け入れをご提案しています。実習期間を通じて、企業様はご本人の仕事ぶりを、ご本人は職場の雰囲気を、お互いに確認することができます。これは、採用後のミスマッチを防ぐ上で非常に有効です。また、受け入れチームのメンバーにとっても、障害のある方と共に働く具体的なイメージを持つ良い機会となります。

就職後も定着支援で企業とご本人をサポートします

オリーブのサポートは、就職したら終わりではありません。就職後も、支援員が定期的にご本人と面談したり、企業の担当者様と情報交換を行ったりしながら、職場への定着をサポートします。課題が発生した場合にも、企業とご本人の間に入って調整役を担うことで、問題が大きくなる前に対処し、長く安定して働き続けられる環境づくりをお手伝いします。

障害者雇用やインクルーシブなチームビルディングについてお悩みの際は、ぜひ一度、就労継続支援B型事業所オリーブにご相談ください。

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