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アンコンシャス・バイアスとは?職場にはびこる無意識の偏見に気づき、なくすための対策

「障害があるから、この仕事は難しいだろう」「きっと、〇〇な性格に違いない」

私たちは日々、無意識のうちに様々な”思い込み”で人や物事を判断しています。これらは「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)」と呼ばれ、本人に悪意がないからこそ根深く、時には誰かの可能性を狭め、深く傷つけてしまうことがあります。

特に職場において、障害のある方々に対するアンコンシャス・バイアスは、能力を発揮する機会を奪ったり、働きづらさを生んだりする大きな原因となり得ます。しかし、これは決して特別な人の問題ではありません。誰もが持っている思考のクセであり、まずは「自分にもあるかもしれない」と知ることが、インクルーシブ(包括的)な環境づくりの第一歩です。

このコラムでは、アンコンシャス・バイアスの基本的な意味から、職場に潜む具体的な事例、そして私たち一人ひとりが実践できる「気づきのヒント」と「対策」までを分かりやすく解説します。無意識の偏見という壁を乗り越え、誰もが自分らしく働ける社会を目指すための参考にしていただければ幸いです。

アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)とは

誰もが持つ脳の機能「思い込み」や「思考のクセ」

アンコンシャス・バイアスとは、自分自身では気づいていない「ものの見方や捉え方のゆがみ・偏り」を指します。これは決して個人の性格の問題ではなく、私たちの脳が、日々受け取る膨大な情報の中から、過去の経験や知識に基づいて瞬時に物事を判断し、効率的に処理するための「思考のショートカット」のような機能なのです。

例えば、「リンゴは赤い」「医師は男性が多い」「力仕事は男性の役割」といったイメージは、多くの人が無意識に持っている可能性があります。これらは過去の経験や、メディア、周囲の環境などから、知らず知らずのうちに形成された「思い込み」や「思考のクセ」と言えます。

このように、アンコンシャス・バイアスは人間が効率的に生きるために備わった脳の働きであり、それ自体が本質的に悪いものではありません。しかし、この「無意識の思い込み」が、特定の属性を持つ人々に対する固定観念やステレオタイプと結びついたとき、意図せずして誰かを傷つけたり、不公平な判断を下したりする原因となってしまうのです。

悪意はないのに、なぜ差別や偏見に繋がるのか

アンコンシャス・バイアスの最も厄介な点は、「悪意がない」ということです。むしろ、「良かれと思って」「親切心から」といったポジティブな動機から生まれることも少なくありません。しかし、その判断の根拠が客観的な事実ではなく、個人の無意識な思い込みである場合、それは偏見となり、差別的な言動につながる危険性をはらんでいます。

例えば、車いすを使っている人を見て、「きっと大変だろうから、手伝わなければ」と考えるのは、一見すると親切心に見えます。しかしその裏には、「車いすの人は無力で、助けが必要な存在だ」という無意識の決めつけが隠れているかもしれません。本人が「自分でできます」と望んでいるにもかかわらず、無理に手伝おうとすることは、相手の自立心や尊厳を傷つける可能性があります。

このように、個人の経験則や固定観念に基づいた「普通はこうだろう」「こうあるべきだ」という判断は、相手の個性や能力、意思を無視した一方的な決めつけになりがちです。その結果、特定の人々から挑戦する機会を奪ったり、能力を正当に評価しなかったりと、社会の中に不均衡や格差を生み出す原因となってしまうのです。

職場における障害者へのアンコンシャス・バイアス具体例

職場は一日の多くの時間を過ごす場所だからこそ、そこに潜むアンコンシャス・バイアスは、障害のある方のキャリア形成や働く意欲に深刻な影響を与えます。ここでは、職場で起こりがちな具体例を見ていきましょう。

「どうせできないだろう」能力や可能性を決めつける

これは、障害者雇用において最も頻繁に見られるバイアスの一つです。障害名や外見のイメージだけで、本人のスキルや経験、意欲を確認することなく、「この仕事は無理だろう」「責任のあるポジションは任せられない」と無意識に判断してしまうケースです。

代表的なバイアスの種類と具体例

私たちの判断は、以下のような様々なバイアスの影響を受けています。

バイアスの種類 具体的な言動・思考の例
ステレオタイプ 「精神障害のある人は、感情の起伏が激しくてコミュニケーションが難しいだろうから、顧客対応の業務は任せられない」
ハロー効果 「〇〇さんは、電話応対で少し聞き取りづらい部分がある。だからきっと、資料作成のような他の業務も苦手だろう」(一つの特徴で全体を評価してしまう)
過度の一般化 「以前、発達障害のある社員がマルチタスクで苦労していた。だから、新しく入った△△さんにも複雑な仕事は頼まない方がいい」(少数の例を全体に当てはめてしまう)

このような決めつけは、本人が持つ能力や得意なこと、そして「挑戦したい」という意欲を無視しています。結果として、成長の機会を奪い、キャリアの可能性を狭めてしまうことにつながります。

「かわいそうだから」過剰に配慮し重要な仕事から外す

これもまた、悪意のない「良かれと思って」という行動が裏目に出てしまう典型的な例です。「大変だろうから」「無理をさせたら申し訳ない」といった同情や哀れみの感情から、責任のある仕事や難易度の高い業務から意図的に外してしまうケースです。

具体的な場面の例

  • 重要なプロジェクトのメンバー選考で、「〇〇さんは体調の波があるかもしれないから、今回はメンバーから外しておこう」と上司が判断する。
  • 会議で意見を求められた際、「プレッシャーになるといけないから」と、障害のある社員だけ発言を促さない。
  • 簡単なルーティンワークばかりを任され、本人が「もっと他の仕事もやってみたい」と伝えても、「今のままで十分だよ」と取り合ってもらえない。

このような過剰な配慮は、一見すると優しさに見えるかもしれません。しかし、それは相手を対等なパートナーとしてではなく、「保護すべき弱い存在」として見ていることの表れです。本人の成長意欲を削ぎ、「自分は信頼されていないのではないか」という疎外感や無力感を与えることになりかねません。

「障害のせいだろう」個人の人格や努力を無視する

仕事でミスがあったり、課題に直面したりした際に、その原因を深く探ることなく、「きっと障害の特性だから仕方ない」と安易に結論付けてしまうバイアスです。これは、問題解決の機会を失うだけでなく、本人の努力や個性、人格そのものを否定することにもつながります。

思考のパターンの例

事例1: 聴覚障害のある社員が会議の内容を一部誤解していた。

バイアスのある思考
「やはり耳が聞こえにくいと、正確な情報共有は難しい。障害特性だから仕方ない。」
バイアスのない思考
「会議の進め方に問題はなかったか?文字情報のサポートは十分だったか?本人と一緒に改善策を考えよう。」

事例2: ADHDの特性がある社員が、提出物の期限を守れなかった。

バイアスのある思考
「ADHDだから時間管理が苦手なんだろう。何度言っても無駄かもしれない。」
バイアスのない思考
「タスクの優先順位の付け方で困っているのかもしれない。リマインダーツールなど、具体的な対策を一緒に試してみよう。」

あらゆる事象を「障害」というフィルターを通して見てしまうと、その人個人のがんばりや工夫、そして「どうすればもっと良くなるか」という前向きな対話の機会を失ってしまいます。

日常に潜む「マイクロアグレッション」に気づく

マイクロアグレッションとは、意図的ではないものの、相手を傷つける可能性のある、日常的な些細な言動を指します。障害のある方に対しては、以下のような形で現れることがあります。

無自覚な決めつけ
「障害があるのに、〇〇ができてすごいね」と褒める。これは「障害者は〇〇できないだろう」という前提が無意識にあるため、相手を対等に見ていない印象を与える可能性があります。
プライベートへの過度な干渉
「どんな障害なんですか?」「薬は何を飲んでいるの?」など、業務に関係のない個人的な情報を悪気なく尋ねる。
障害を無視した会話
聴覚障害のある人がいる場で、口元を隠して早口で話したり、その人を除外して話を進めたりする。

一つひとつは小さな言動でも、日々積み重なることで、当事者は「自分は理解されていない」「尊重されていない」と感じ、職場に居心地の悪さを感じるようになります。

自分の無意識の偏見に「気づく」ためのヒント

アンコンシャス・バイアスと向き合う上で最も重要なことは、それを完全になくすことではなく、「自分にもある」ということを自覚し、その影響を減らそうと努めることです。ここでは、自分の内なる偏見に「気づく」ためのヒントをいくつかご紹介します。

自分の「とっさの判断」や「違和感」に目を向ける

私たちは日常的に、人や物事に対して「なんとなく好き」「なんとなく苦手」「これはこうあるべきだ」といった、とっさの感情や判断をしています。その自動的な反応の背景に、自分でも気づいていないアンコンシャス・バイアスが隠れていることがよくあります。

セルフチェックの習慣

感情をキャッチする
ある人や情報に接したとき、自分の中にどんな感情(好意、嫌悪、違和感、決めつけなど)が芽生えたかを意識してみる。
根拠を問い直す
なぜそう感じたのか?「〇〇だから、きっとこうに違いない」という思考が働いていないか?その判断の根拠は、客観的な事実か、それとも自分の経験や思い込みかを問い直してみる。
逆の視点で考える
もし、相手の属性(性別、年齢、国籍、障害の有無など)が違ったら、自分は同じように感じただろうか?と考えてみる。

例えば、「〇〇さんは物静かだから、リーダーには向いていない」ととっさに感じたとします。そこで一度立ち止まり、「なぜそう思ったのか?」「物静かであることと、リーダーシップの資質は本当に関係があるのか?」「彼/彼女のこれまでの実績や行動という事実に基づいているか?」と自問自答する習慣が、無意識の偏見に流されないための第一歩となります。

自分とは異なる意見や価値観に触れる

アンコンシャス・バイアスは、自分と似たような環境や価値観を持つ人々に囲まれていると、気づかないうちに強化されていきます。自分の「当たり前」が、決して世の中の「当たり前」ではないと知るために、意識的に自分とは異なる背景や意見を持つ人々の声に耳を傾けることが非常に重要です。

具体的なアクション

当事者の発信に触れる
障害のある人が発信しているブログ、SNS、書籍、YouTubeなどを通じて、その人の日常や考え方、感じている社会のバリアなどを知る。
多様な人と交流する
普段の人間関係の枠を超えて、ボランティア活動や地域のイベント、セミナーなどに参加し、様々な背景を持つ人々と対話する機会を持つ。
多様な情報源から学ぶ
いつも見ているニュースサイトや雑誌だけでなく、異なる視点を提供するメディアにも目を通し、物事を多角的に捉えるクセをつける。

自分のコンフォートゾーン(快適な領域)から一歩踏み出し、多様な価値観に触れることで、これまで無意識に持っていたステレオタイプが少しずつ揺さぶられ、より柔軟な思考ができるようになります。

バイアス診断ツールなどを活用してみる

自分一人で内面を見つめるのが難しいと感じる場合は、客観的なツールを活用するのも有効な方法です。近年、自分自身のアンコンシャス・バイアスの傾向を測定するために、様々なツールが開発・公開されています。

代表的なツール

潜在連合テスト(Implicit Association Test, IAT)
ハーバード大学の研究者らが開発したオンラインテストで、特定の概念(例:若者と高齢者、健常者と障害者など)と、ポジティブ/ネガティブな言葉の結びつきの強さを測定することで、潜在的な偏見の傾向を可視化します。一部、日本語でも受験可能です。
企業の研修プログラム
Googleが社内のダイバーシティ推進のために開発したアンコンシャス・バイアスに関する研修資料は、「re:Work」というサイトで一般にも公開されており、個人や組織で学ぶ際の参考になります。

これらのツールは、あくまで自分の傾向を知るための一つの「きっかけ」です。結果に一喜一憂するのではなく、「自分にはこういう思考のクセがあるのかもしれない」と自覚し、今後の言動を意識するための材料として活用することが大切です。

偏見をなくしインクルーシブな職場をつくるための対策

自分のバイアスに気づいたら、次はその影響をできるだけ減らし、誰もが働きやすいインクルーシブな職場環境をつくるための行動に移していくことが求められます。個人でできることから、組織として取り組むべきことまで、具体的な対策をご紹介します。

【個人】判断に時間をかけ客観的な事実やデータに基づく

アンコンシャス・バイアスは、時間がない中で素早い判断を求められるときに、特に強く働きがちです。だからこそ、特に人の評価や重要な意思決定に関わる場面では、意識的に「一度立ち止まる」ことが重要です。「なんとなく」「直感的に」といった曖昧な感覚ではなく、客観的な事実やデータに基づいて判断する習慣をつけましょう。

採用・評価
応募者の経歴や実績、面接での発言内容といった「事実」に集中し、第一印象や自分との共通点といった「感覚」に流されないようにする。
業務の割り振り
「この人には無理だろう」という思い込みではなく、本人のスキル、経験、そして意欲を「事実」として確認した上で、仕事を任せる。
問題解決
ミスやトラブルが起きた際、「〇〇さんの障害特性だから」と決めつけず、状況や環境、プロセスといった「事実」を分析し、具体的な改善策を探る。

このように、判断の根拠を主観から客観へとシフトさせる意識が、バイアスの影響を低減させます。

【組織】評価基準を明確にし属人的な判断を避ける

個人の感覚に頼る部分が大きいほど、アンコンシャス・バイアスが入り込む隙は大きくなります。特に、採用面接や人事評価、昇進・昇格の決定といった場面では、判断基準をできるだけ明確化し、誰が評価しても同じ結論に至るような仕組みを作ることが、組織的な対策として非常に有効です。

組織で取り組むべき仕組みの例

構造化面接の導入
全ての候補者に同じ質問をし、あらかじめ定めた評価基準に基づいて点数化する面接手法。面接官の主観や印象に左右されにくく、公平な評価につながります。
評価項目の具体化
「コミュニケーション能力」といった曖昧な項目ではなく、「会議で他者の意見を要約し、自分の考えを論理的に述べることができる」のように、具体的な行動レベルまで評価項目を細分化・明確化する。
複数人での評価
一人の評価者の偏った見方を避けるため、複数の評価者が異なる視点から評価を行い、その結果をすり合わせるプロセスを導入する。

こうした仕組みは、障害のあるなしにかかわらず、全ての従業員にとって公平で納得感のある職場環境の構築に繋がります。

【組織】心理的安全性を確保しインクルーシブな文化を醸成する

心理的安全性とは、組織の中で誰もが「自分らしくいても大丈夫」と感じられ、安心して意見や懸念を表明できる状態のことです。心理的安全性の高い職場では、従業員はバイアスに基づいた言動を恐れることなく指摘し合え、建設的な対話が生まれやすくなります。

文化を醸成するためのポイント

経営層からの発信
経営層がダイバーシティ&インクルージョンの重要性を繰り返し発信し、アンコンシャス・バイアスをなくすことにコミットする姿勢を示す。
管理職の育成
管理職(リーダー)が、部下一人ひとりの意見に耳を傾け、異なる考えを歓迎する「インクルーシブ・リーダーシップ」を発揮できるよう研修などを行う。
失敗を許容する文化
挑戦した結果の失敗を責めるのではなく、そこから学ぶ姿勢を組織全体で共有する。これにより、過度な同情から仕事を任せないといったバイアスを防ぐことにもつながる。

【個人・組織】障害のある当事者と直接対話する機会を持つ

あらゆる対策の中で、最もシンプルかつ効果的なのが、障害のある当事者本人と直接コミュニケーションを取ることです。「きっとこうだろう」という一方的な憶測や思い込みは、本人との対話を通じてしか解消できません。

対話の際に心がけること

相手を専門家として尊重する
自分の障害や特性について、そしてそれによって何に困り、どんな配慮があれば能力を発揮しやすいかについては、本人自身が一番の専門家です。その知識と経験に敬意を払い、教えを請う姿勢で話を聞きましょう。
決めつけずに質問する
「〇〇はできませんよね?」と決めつけて聞くのではなく、「この業務を進める上で、何かサポートできることはありますか?」「どんな方法だと、やりやすいですか?」と、オープンな質問で本人の意見を引き出しましょう。
継続的な対話を心がける
必要な配慮は、体調や業務内容の変化によって変わることもあります。一度話して終わりではなく、定期的に面談の機会を設けるなど、いつでも相談しやすい関係性を築くことが重要です。

お互いを知ろうとする真摯な対話こそが、無意識の偏見という壁を溶かし、信頼関係を築くための最も確実な方法なのです。

無意識の偏見のない社会をオリーブから

私たち就労継続支援B型事業所オリーブは、障害のある方が自分らしく、安心して働ける場所を提供することを目指しています。その根底にあるのは、アンコンシャス・バイアスを取り払い、一人ひとりの「個性」と真摯に向き合うという姿勢です。

私たちは一人ひとりの「個人」として向き合います

オリーブでは、「障害者」という大きな枠でひとくくりにすることはありません。利用者の方一人ひとりと丁寧に面談を重ね、その方の得意なこと、好きなこと、挑戦してみたいこと、そして働く上で不安に感じていることを深く理解することから始めます。障害は、その人を構成する数多くの要素の一つに過ぎません。私たちは、その人自身の持つ力や可能性を信じ、それを最大限に引き出すためのサポートを何よりも大切にしています。

多様な個性が尊重されるインクルーシブな環境

オリーブの事業所は、多様なバックグラウンドを持つ仲間が集まる、インクルーシブなコミュニティです。簡単な軽作業から、PCスキルを活かしたデザイン業務、本格的な動画編集まで、様々な仕事を用意することで、一人ひとりが自分の得意な分野で活躍できる環境を整えています。お互いの違いを認め、尊重し合える雰囲気の中で、安心して自分のペースで仕事に取り組むことができます。

ご自身のペースで相談から始めませんか

もし、あなたが働くことに不安を感じていたり、自分に合った働き方を見つけたいと考えていたりするなら、ぜひ一度オリーブにご相談ください。私たちは、あなたの悩みや希望にじっくりと耳を傾け、無意識の偏見のないフラットな視点で、あなたに合った働き方を一緒に探していきます。見学や相談はいつでも受け付けていますので、お気軽にお問い合わせください。

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