
2024年4月から、事業者による障害のある人への「合理的配慮」の提供が義務化されました。これを機に、誰もが共生できる社会への関心が一段と高まっています。しかし、良かれと思ってした配慮が、かえって当事者を困らせてしまう「ありがた迷惑」になってしまうケースも少なくありません。
この記事では、なぜ善意のすれ違いが起きてしまうのか、職場や街なかでの具体的な事例を交えながら、その背景にある思い込みや構造的な問題を解説します。そして、その解決の鍵となる「建設的対話」の重要性と、当事者と支援する側が対等な立場で、共にインクルーシブな環境を築いていくためのヒントをお伝えします。障害のある方も、支援する立場の方も、ぜひ一緒に考えてみませんか。
良かれと思って逆効果?「ありがた迷惑」な配慮
善意の配慮が、なぜ裏目に出てしまうのか
「障害者=〇〇だろう」というステレオタイプな思い込み
障害のある人が社会生活を送る上で障壁(バリア)を取り除くために行われる「合理的配慮」。その重要性が広く認識される一方で、配慮する側の「良かれと思って」という善意が、当事者の意図と食い違い、「ありがた迷惑」になってしまうことがあります。このミスマッチは、決して配慮する側に悪気があるわけではないからこそ、根が深い問題です。
善意の配慮が裏目に出てしまう最大の理由は、「当事者の本当のニーズ」と「配慮する側が想像するニーズ」との間にズレがあるためです。このズレは、主に「障害者=〇〇だろう」という固定観念から生じます。「車いすの人は、誰かに押してほしいだろう」「知的障害のある人は、簡単な仕事しかできないだろう」といった画一的なイメージが、個々の状況や能力、意向を無視した配慮につながってしまうのです。
障害の特性や必要な配慮は、一人ひとり全く異なります。例えば、同じ視覚障害でも、全盲の方と弱視の方とでは必要なサポートが違います。また、発達障害のある方の中には、静かな環境を好む人もいれば、ある程度の雑音があった方が集中できる人もいます。こうした個別の違いを無視したステレオタイプな思い込みが、ズレを生む第一の原因です。
「助けてあげる」という無意識の上下関係
もう一つの原因は、配慮する側に「支援してあげる」「保護してあげる」という意識が強い場合、当事者を対等なパートナーとして見ることが難しくなる点です。その結果、本人の意思を確認するプロセスを省略し、「これがあなたのためになるはずだ」という一方的な配慮の押し付けになりがちです。
こうしたズレが生じると、当事者は「自分のことを理解してもらえない」と感じ、配慮されることで逆に孤立感や無力感を深めてしまうことさえあります。善意からくる行動であるため、当事者も「申し訳ない」と感じて本音を言い出せないケースも少なくなく、結果として本当の意味でのインクルーシブな環境づくりが妨げられてしまうのです。
当事者不在で進められる環境づくりの問題点
もう一つの大きな問題は、良かれと思って進めた環境づくりのプロセスから、当事者が置き去りにされてしまうことです。例えば、企業が障害者雇用のために高価な支援機器を導入したり、特別な部署を設置したりする場合を考えてみましょう。
これらの取り組み自体は素晴らしいことですが、もしその決定プロセスに当事者の意見が全く反映されていなかったらどうでしょうか。導入された機器が本人の特性に合わず使いにくかったり、特別部署が「隔離」のような空間になってしまい、他の社員とのコミュニケーションを阻害したりする可能性があります。これでは、せっかくの投資が企業の自己満足で終わってしまいかねません。
当事者の声を聞かずに進められた環境整備は、時間やコストをかけたにもかかわらず、誰にとってもメリットのない結果に終わってしまうリスクをはらんでいます。真にインクルーシブな環境とは、設備や制度といった「ハード面」だけでなく、当事者がそのプロセスに参加し、意見を言える「ソフト面」が伴ってこそ実現するのです。
【職場編】ありがた迷惑になりがちな合理的配慮の例
職場は、一日の大半を過ごす重要な場所です。だからこそ、働く上での合理的配慮は非常に重要ですが、ここでも「ありがた迷惑」は起こりがちです。具体的な例をいくつか見ていきましょう。
本人の意向を聞かずに仕事内容を制限する
精神障害や発達障害のある社員に対し、上司が「負担が大きいだろう」と判断して、本人の意向を確認せずに責任のある仕事や重要なプロジェクトから外してしまうケースです。
- ありがた迷惑な配慮の例
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- 「〇〇さんは大変だろうから、この会議には出なくていいよ」
- 「この仕事は負担が大きいから、簡単なデータ入力だけやっていてください」
- 良かれと思って、本人のキャリアアップや成長につながる機会を奪ってしまう。
- なぜ問題なのか
- この配慮の根底には、「精神障害のある人はストレスに弱い」「発達障害のある人は複雑な業務はできない」といった無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)が存在します。もちろん、体調や特性によって業務量の調整が必要な場合はあります。しかし、本人の能力や意欲を無視して一方的に仕事内容を制限することは、成長の機会を奪い、仕事へのモチベーションや自己肯定感を著しく低下させることにつながります。本来であれば、本人の「やってみたい」という気持ちを尊重し、「どうすればその仕事ができるか」を一緒に考えるべきでしょう。
過剰な配慮で孤立させてしまう
周囲の社員が障害のある本人にどう接していいか分からず、過剰に気を遣いすぎてしまう結果、かえって孤立させてしまうケースです。
- ありがた迷惑な配慮の例
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- 「疲れるといけないから」と、ランチや飲み会、社内イベントなどに誘わなくなる。
- ミスをしても、本人を傷つけることを恐れて何も指摘せず、見て見ぬふりをする。
- 腫れ物に触るような態度をとることで、周囲との間に見えない壁ができてしまう。
- なぜ問題なのか
- 障害の有無にかかわらず、誰もが職場の一員として対等なコミュニケーションを求めています。過剰な遠慮は、本人を「特別な存在」として扱い、チームから疎外することと同じです。仕事上のミスを指摘されないことは、一見優しさのように見えますが、本人の成長機会を奪うだけでなく、他のメンバーの不満にも繋がりかねません。本当に必要な配慮とは、業務上のコミュニケーションやフィードバックは適切に行い、その上で「指示の出し方を工夫する」「図や文章で補足する」といった、特性に合わせた方法を考えることです。
高価だが使いにくい支援ツールを一方的に導入する
企業が良かれと思って、視覚障害のある社員のために最新の読み上げソフトや、身体障害のある社員のために高機能な入力装置を導入したものの、本人にとっては使いにくく、「宝の持ち腐れ」になってしまうケースです。
- ありがた迷惑な配慮の例
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- 事前のヒアリングなしに、会社側が良いと判断したツールを一方的に導入する。
- 本人が長年使い慣れたツールがあるにもかかわらず、会社の方針で新しいツールへの切り替えを強制する。
- 導入後のフォローアップがなく、使い方が分からないまま放置されてしまう。
- なぜ問題なのか
- 厚生労働省の「合理的配慮指針事例集」などを見ると、様々な便利なツールが紹介されています。しかし、どんなに高機能なツールでも、本人の障害特性やスキル、これまで培ってきたやり方に合わなければ意味がありません。最も重要なのは、ツールを導入する前に、当事者本人と一緒に、複数の選択肢を比較検討し、試用する機会を設けることです。当事者を、自身のニーズを最もよく知る専門家と捉え、一緒に最適な解決策を探す姿勢が求められます。これは企業にとっても、無駄なコストをかけないというメリットに繋がります。
【店舗・公共施設編】ありがた迷惑になりがちな合理的配慮の例
街なかのお店や公共施設など、日常生活の様々な場面でも、善意からくる「ありがた迷惑」な配慮に遭遇することがあります。
本人の許可なく身体や補助具に触れる
街なかで車いすユーザーが坂道や段差で困っているように見えたとき、善意から「手伝わなければ」と思い、無言でいきなり車いすを押し始めるようなケースです。
- ありがた迷惑な配慮の例
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- 後ろから急に車いすを押される。
- 「こちらの方が早いから」と、本人の行きたい方向とは違うルートに誘導する。
- 白杖で歩いている人の腕を急に掴んで誘導する。
- なぜ問題なのか
- 車いすや白杖は、当事者にとって体の一部です。許可なく触れられることは、誰かに突然体を触られるのと同じで、非常に驚き、不快に感じます。また、当事者には当事者なりのペースや操作方法があり、急に押されることでバランスを崩し、かえって転倒などの危険な状況に陥ることもあります。困っているように見えても、もしかしたら自分の力で乗り越えようと試みている最中かもしれません。まずは「何かお手伝いできることはありますか?」と一声かけ、本人の意思を確認することが不可欠です。
「障害者=〇〇だろう」という思い込みで接客する
障害に対するステレオタイプなイメージに基づいた、画一的な対応も「ありがた迷惑」の典型例です。
- ありがた迷惑な配慮の例
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- 聴覚障害のある人に対して、必要以上に大きな声で、馴れ馴れしい口調で話しかける。
- 知的障害や精神障害のある人に対して、まるで幼い子どものように接する。
- 外見からは分かりにくい内部障害や発達障害のある人がヘルプマークをつけていても、「怠けている」「わがまま」と誤解し、必要な配慮をしない。
- なぜ問題なのか
- これらの行動は、当事者を一人の対等な個人として見ておらず、「障害」というフィルターを通してしか見ていないことの表れです。障害の特性は千差万別であり、必要なサポートも一人ひとり異なります。例えば、聴覚障害のある人でも、筆談の方が分かりやすい人、口の動きを読んで理解する人など様々です。思い込みで判断せず、本人に「どのような方法が分かりやすいですか?」と尋ねることが、本当の意味での配慮の第一歩となります。
解決の鍵は「建設的対話」 当事者目線を取り入れる
これまで見てきたような「ありがた迷惑」な配慮を防ぎ、本当の意味でインクルーシブな環境をつくるための鍵は「建設的対話」にあります。これは、障害のある人と事業者(企業やお店など)が、対等な立場で話し合い、お互いの状況を理解し、共に解決策を探していくプロセスのことです。
障害者差別解消法にも定められた対話の重要性
「建設的対話」は、障害者差別解消法において、合理的配慮を提供する上での重要な考え方として示されています。法律では、事業者に対し、障害のある人から何らかの配慮を求める意思の表明があった場合に、その実施に伴う負担が重すぎない範囲で、社会的障壁を取り除くために必要かつ合理的な配慮を行うことを求めています。
その際、一方的に配慮を押し付けたり、逆に一方的に断ったりするのではなく、「なぜその配慮が必要なのか」「代替案はないか」などを対話によって相互に理解を深めることが重要だとされています。この対話こそが、当事者不在の環境づくりを防ぎ、双方にとって納得のいく解決策を見出すための土台となるのです。
「何かお手伝いできることはありますか?」とまず尋ねる
「建設的対話」は、決して難しいことではありません。その第一歩は、非常にシンプルな問いかけから始まります。それは、「何かお手伝いできることはありますか?」と、まず相手の意思を尋ねることです。この一言があるだけで、支援する側の一方的な思い込みではなく、当事者のニーズに基づいたサポートが可能になります。
| 良い声かけの例 | 避けるべき行動の例 |
|---|---|
| 「何かお手伝いできることはありますか?」 | 無言でいきなり介助を始める |
| 「どのようなサポートが必要ですか?」 | 「こうすればいいんでしょ」と決めつける |
| 「ご希望のやり方はありますか?」 | 自分のやり方を押し付ける |
もし「大丈夫です」と返事があった場合は、それ以上は手を出さず、静かに見守ることも大切な配慮です。当事者の「自分でやりたい」という主体性を尊重する姿勢が、信頼関係を築く上で非常に重要になります。
対等なパートナーとして一緒に解決策を探す姿勢
「建設的対話」において最も大切なのは、当事者を「助けるべき弱い存在」ではなく、「一緒に課題を解決する対等なパートナー」として尊重する姿勢です。職場であれば、上司と部下という立場はあっても、配慮については対等な立場で話し合うべきです。
当事者は、自身の特性や必要な配慮について最もよく知る「専門家」です。その専門知識に敬意を払い、意見に耳を傾けること。そして、事業者側も、自社の状況やリソースについて正直に伝え、実現可能な代替案を提案すること。このキャッチボールを通じて、画一的なマニュアル対応ではない、その場、その人に合ったオーダーメイドの合理的配慮が生まれていくのです。
「建設的対話」を実践するオリーブの個別支援
私たち就労継続支援B型事業所オリーブは、この「建設的対話」こそが、利用者の皆さんが自分らしく、安心して働くための最も重要な土台であると考えています。オリーブの支援は、常に皆さんとの対話から始まります。
支援計画はあなたとの対話から始まります
オリーブでは、利用を開始する際に一人ひとりの「個別支援計画」を作成します。この計画は、スタッフが一方的に作成するものではありません。まずは、あなたご自身の得意なこと、苦手なこと、将来の希望、体調面で配慮してほしいことなどを、専門の相談員が時間をかけてじっくりとお聞きします。
「こんなことを言ってもいいのだろうか」と不安に思う必要はありません。あなたの言葉に丁寧に耳を傾け、あなたの望む働き方を実現するために、どのような作業が合っているか、どのようなペースで進めていくのが良いかを、一緒に考え、計画を立てていきます。そして、計画は一度作って終わりではなく、定期的な面談を通して常に見直しを行い、その時々のあなたの状況に最適なサポートを続けます。
自分のニーズを伝える練習ができる場所
職場や社会で「建設的対話」を行うためには、まず自分自身のニーズを理解し、それを相手に分かりやすく伝えるスキルが必要です。しかし、これまで自分の意見を言う機会が少なかった方にとっては、それが難しい場合もあるかもしれません。
オリーブは、安心して自分の気持ちや要望を伝える練習ができる場所です。日々の作業やスタッフとの面談、他の利用者さんとのコミュニケーションを通じて、「こうしてほしい」「これならできる」といった自己表現のトレーニングを積むことができます。SST(ソーシャルスキルトレーニング)の考え方を取り入れたプログラムや、スタッフとの模擬面談などを通じて、ここで得た経験は、将来、一般就労を目指す際や、地域社会で生きていく上での大きな自信につながります。
企業様向けに当事者目線の環境づくりをサポートします
オリーブは、地域の企業様と連携し、障害のある方の施設外就労や実習も積極的に行っています。その際、私たちは利用者さんと企業様との「橋渡し役」として、双方の建設的対話が円滑に進むようサポートします。
利用者さんご本人の声と、企業様のご状況の両方を深く理解した上で、どのような配慮が本当に有効なのか、どうすればお互いが気持ちよく働ける環境を築けるのかを、具体的な形でご提案します。障害者雇用における定着率の向上や、「ありがた迷惑」にならないインクルーシブな環境づくりに関心のある企業様も、ぜひ一度ご相談ください。
まとめ
合理的配慮における「ありがた迷惑」は、悪意ではなく善意から生まれることが多いため、より一層難しい問題です。しかし、その根底にあるのは、多くの場合、知識不足や思い込みによる「すれ違い」に過ぎません。
大切なのは、「障害があるから」と一括りにするのではなく、目の前の一人の個人として向き合うことです。そして、その第一歩が「何かお手伝いできることはありますか?」というシンプルな問いかけであり、そこから始まる「建設的対話」です。
この記事が、障害のある方と、支援する立場の方が、互いをより深く理解し、共により良い社会を築いていくための一助となれば幸いです。就労継続支援B型事業所オリーブは、誰もが自分らしく働ける社会の実現を目指し、一人ひとりの対話を大切にしながら、これからも皆さんの挑戦をサポートしていきます。
