
「障害者」と「健常者」。私たちは、ついこの二つの言葉で世界をはっきりと分けて考えがちです。しかし、実際には両者の間に明確な境界線は引けません。「障害はグラデーション」という言葉が示すように、人の特性や困難さは、虹の色のように連続的で多様です。この記事では、「障害はグラデーション」という考え方について、その意味と重要性を分かりやすく解説します。診断名やレッテルだけでは測れない一人ひとりの個性や多様性を理解することは、誰もが生きやすい社会の実現に不可欠です。そして、さまざまな「色」を持つ人々が自分らしく働ける場所の一つが、就労継続支援B型事業所です。
「障害者」か「健常者」か 0か100かで考えない
障害の有無は明確に線引きできるものではない
多くの人が、「障害者手帳を持っている人が障害者」「持っていない人は健常者」というように、0か100かで人を区別してしまいがちです。しかし、現実はそれほど単純ではありません。例えば、今は健康に生活している人でも、病気や事故、あるいは加齢によって、ある日突然、障害のある状態になる可能性は誰にでもあります。
また、日常生活で何らかの困難さを抱えながらも、診断を受けていなかったり、手帳の対象ではなかったりする人も数多く存在します。視力が少し低い、人混みが極端に苦手、特定の音が気になって集中できないなど、程度の差こそあれ、誰もが何かしらの凸凹(でこぼこ)を抱えて生きています。障害の有無は、白か黒かではっきりと分けられるものではなく、その間には無限の濃淡が広がっているのです。
自閉スペクトラム症など「スペクトラム」の考え方
「グラデーション」という考え方を理解する上で象徴的なのが、「自閉スペクトラム症(ASD)」という診断名です。「スペクトラム」とは「連続体」を意味する言葉であり、これは自閉症の特性が、まるで虹のグラデーションのようにはっきりとした境目なく連続していることを示しています。
例えば、コミュニケーションの特性一つをとっても、「全く話さない」人から「非常に流暢に話すが、言葉の裏や相手の感情を読み取るのが苦手」な人まで、その現れ方は千差万別です。特定のものへの強いこだわりや、感覚の過敏さなども同様で、一人ひとり特性の組み合わせや強さが異なります。このような、障害を「一つの状態」としてではなく、多様な特性が連続する「スペクトラム」として捉える考え方は、注意欠如・多動症(ADHD)など、他の多くの障害にも当てはまる重要な視点です。
診断はないが困難を抱える「グレーゾーン」の存在
障害の特性は見られるものの、診断基準を完全には満たさないため、正式な診断名がつかない状態は「グレーゾーン」と呼ばれます。例えば、発達障害のグレーゾーンにいる人は、仕事でケアレスミスが多かったり、対人関係で誤解されやすかったりといった困難を抱えながらも、これまで「本人の努力不足」「性格の問題」として見過ごされてきました。
文部科学省の2022年の調査では、公立の小中学校の通常学級に在籍する児童生徒のうち、発達障害の可能性があるとされ、特別な教育的支援を必要とする子が8.8%いると推計されています。これは、決して特別なことではなく、多くの人が白でも黒でもない「グレーゾーン」の中で生きていることを示唆しています。診断名がなくても、その人が抱える困難さや生きづらさは確かに存在しているのです。
障害のグラデーションを理解するための視点
同じ診断名でも全く異なる特性と困難
障害の多様性は、同じ診断名を持つ人たちの間にも存在します。例えば、同じ「うつ病」と診断された二人でも、症状の現れ方が全く異なる場合があります。
| Aさんの場合 | Bさんの場合 |
|---|---|
| 食欲が全くなく、体重が減少する | 逆に食欲が増し、体重が増加する(非定型うつ病) |
| 夜眠れず、早朝に目が覚めてしまう | 一日中眠気が取れず、10時間以上寝てしまうこともある |
| 常に気分が落ち込み、不安で焦る気持ちが強い | 好きなことには意欲が湧くが、仕事など義務的なことには全く手がつかない |
| 人と会うのが億劫で、引きこもりがちになる | 外からは元気そうに見えるため、周囲に不調を理解されにくい |
このように、診断名はあくまでその人の状態を理解するための一つの手がかりに過ぎません。「うつ病だからこうだろう」と決めつけるのではなく、その人自身が今、何に苦しみ、どのような症状に悩んでいるのかを個別に理解することが重要です。
「見えない障害」と日によって変わる体調の波
障害の中には、内部障害(心臓、腎臓、呼吸器等の機能障害)や精神障害、発達障害のように、外見からはその困難さが分かりにくいものが数多くあります。これらの「見えない障害」を持つ人々は、周囲から困難を理解されにくいという悩みを抱えがちです。
さらに、症状や体調に「波」があることも大きな特徴です。特に、精神障害や慢性的な疾患、発達障害に伴う二次障害などは、天候や気圧の変化、ストレス、疲労といった様々な要因で、日によって状態が大きく変動します。昨日まで元気に働けていた人が、今日は起き上がることさえ困難になる、ということも珍しくありません。このような状態は「怠けている」「やる気がない」と誤解されることも多く、当事者は心身の辛さに加え、周囲の無理解という二重の苦しみを抱えることになります。「見えない部分」や「日々の変化」にも想像力を働かせることが、グラデーションを理解する上で不可欠です。
環境との相互作用で障害の程度は変わる(障害の社会モデル)
「障害」は、個人の心身の状態だけで決まるものではありません。周囲の環境や社会のあり方との関わりの中で、困難さの度合いは大きく変わります。この考え方を「障害の社会モデル」と呼びます。これは、障害から生じる困難は個人が克服すべきものとする「個人モデル」とは対照的な考え方です。
例えば、車いすを使っている人にとって、階段しかない建物は移動を困難にする大きな「障壁(バリア)」です。しかし、同じ人でもスロープやエレベーターが整備されていれば、一人で自由に行動できます。この場合、「障害」を生み出しているのは、車いすに乗っていること自体ではなく、「階段しかない」という社会の側の環境なのです。
これは発達障害や精神障害のある人にも当てはまります。
- 静かで集中できる環境であれば高い能力を発揮できるが、騒がしく雑多なオフィスではミスが増えてしまう。
- 指示が明確で具体的であればスムーズに仕事を進められるが、「いい感じにやっておいて」という曖昧な指示では混乱してしまう。
個人の特性を変えることは難しくても、社会や環境の側が変わることで、障害のある人が感じる困難さは軽減できます。障害は個人の問題であると同時に、社会全体で向き合うべき課題なのです。
なぜ「グラデーション」という捉え方が大切なのか
ステレオタイプな「障害者像」からの脱却
「障害はグラデーション」という視点は、私たちを画一的な「障害者像」の呪縛から解放してくれます。「障害者」と聞くと、多くの人が特定のイメージ(例:車いすに乗っている、知的障害がある、介助が常に必要など)を思い浮かべるかもしれません。しかし、それは障害のある人々の、ごく一部の姿に過ぎません。
実際には、バリバリと仕事をするビジネスパーソンもいれば、家庭を支える主婦(主夫)も、夢を追いかける若者もいます。障害をグラデーションで捉えることは、こうしたステレオタイプを乗り越え、多様な生き方をしている一人ひとりの「個人」として相手を見るための第一歩です。
個人として向き合うことで生まれる適切な配慮
障害を「〇〇障害」というラベルで一括りに捉えてしまうと、本当に必要なサポートが見えなくなってしまいます。例えば、「聴覚障害のある人には筆談が有効」というのは一つの方法ですが、その人が手話のほうが得意なのか、口の動きを読むのが得意なのか、あるいは要約筆記を望むのかは、本人に確認しなければ分かりません。
2024年4月から、事業者による障害のある人への「合理的配慮の提供」が義務化されました。合理的配慮とは、障害のある人が社会のバリアによって活動を制限されないよう、個々の状況に応じて行われる配慮のことです。大切なのは、一方的に配慮を押し付けるのではなく、本人と対話し(「建設的対話」)、何に困っていて、どうすればその困難が減るのかを一緒に考える姿勢です。障害のグラデーションを理解することは、この個別で適切な配慮を生み出すための土台となります。
多様性を認め合うインクルーシブな社会へ
障害のグラデーションという考え方は、障害のある人だけの問題ではありません。私たちの社会は、障害の有無だけでなく、年齢、性別、国籍、性的指向、価値観など、あらゆる面で多様な人々で構成されています。
「普通」や「平均」という枠に当てはまらない人を排除するのではなく、一人ひとりの違いを個性として尊重し、誰もがその人らしく参加できる社会。それが「インクルーシブ(包摂的)な社会」です。障害の多様なあり方を理解し、想像力を働かせる経験は、あらゆるマイノリティの立場にある人々への理解を深め、より豊かで寛容な社会を築く力になるはずです。
就労継続支援B型事業所は「グラデーション」のある職場
様々な特性を持つ多様な人々が共に働く場所
就労継続支援B型事業所は、まさに「障害はグラデーション」を体現している場所と言えるでしょう。ここには、精神障害、発達障害、知的障害、身体障害、難病など、様々な診断名や背景を持つ方々が集まっています。もちろん、同じ診断名でも特性の現れ方や必要な配慮は一人ひとり異なります。
年齢も経歴も、得意なことも苦手なことも違う多様なメンバーが、「働く」という共通の目的のもとに集い、互いの違いを認め合いながら活動しています。一般企業のように、画一的な働き方に自分を合わせるのではなく、多様な働き方が認められる場所。それがB型事業所の大きな特徴です。
一人ひとりの違いを「個性」として尊重する文化
B型事業所では、一人ひとりの特性や体調の波が「配慮されるべき個性」として尊重されます。
- 聴覚過敏で大きな音が苦手な人は、イヤーマフをしながら静かな環境で作業に集中できます。
- 疲れやすく長時間の作業が難しい人は、週1日・2時間といった短時間から始め、こまめに休憩を取りながら自分のペースで仕事を進めることができます。
- 対人関係に不安がある人は、無理にコミュニケーションを取る必要はなく、一人で黙々とできる作業を選ぶことができます。
支援員は、メンバー一人ひとりの「色の違い」を理解し、その人に合った仕事内容や作業環境を一緒に考え、調整します。互いの凸凹を補い合い、支え合う文化が、B型事業所には根付いています。
あなたの色合いを大切にする場所 就労継続支援B型事業所オリーブ
私たちはあなたの「ラベル」ではなく「あなた自身」を見ます
私たち就労継続支援B型事業所オリーブは、「障害はグラデーション」という考えを何よりも大切にしています。私たちは、あなたの障害者手帳や診断書に書かれた「ラベル」だけであなたを判断することはありません。
支援員が一番知りたいのは、あなたがどんなことに興味があり、何が得意で、どんな時に不安を感じ、将来どうなりたいか、という「あなた自身」のことです。丁寧な面談を通して、あなたの個性や希望を深く理解し、あなたに合った働き方を一緒に見つけていきます。
多様な仲間と共に自分らしい働き方を見つけませんか
オリーブには、あなたと同じように、様々な背景や特性を持つ仲間たちがいます。これまで一人で悩みを抱えてきた方も、ここでは安心して自分を表現し、互いの違いを認め合える仲間と出会うことができます。PCを使った作業、手先を動かす軽作業、クリエイティブな活動など、多様な仕事の中から、あなたの興味や得意を活かせるものが見つかるかもしれません。
自分のペースで働ける安心感、好きなことや得意なことを見つけられる喜び、そして仲間と繋がる楽しさ。オリーブは、あなたが社会との接点を持ちながら、自分らしい「色」を取り戻し、輝かせるための居場所です。
見学・相談で私たちのグラデーションを体感してください
「自分に合うか不安…」「どんな雰囲気なんだろう?」そう感じる方は、ぜひ一度、お気軽に見学や相談にお越しください。オリーブという場所が持つ、温かく多様な「グラデーション」を肌で感じていただければ幸いです。
経験豊富な相談員が、あなたの現在の状況や将来の希望について、親身にお話を伺います。あなたからのご連絡を、スタッフ一同、心よりお待ちしております。
