
「この気分の落ち込みは、本当にうつ病なんだろうか?」「病院に行ったら、どんなことを聞かれ、どう判断されるんだろう?」
心の不調が続き、専門家への相談を考え始めたとき、診断に対する不安や疑問が頭をよぎるのは自然なことです。目に見えない心の病気だからこそ、「どうやって診断されるのか」というプロセスが分からず、受診をためらってしまう方も少なくありません。
しかし、うつ病の診断は、医師の勘や印象だけで行われるものではなく、世界共通の明確な診断基準と、時間をかけた丁寧な診察に基づいて行われる、客観的な医療行為です。診断を受けることは、決して怖いことではなく、ご自身のつらさの正体を明らかにし、適切な治療を受けて回復へと向かうための、非常に重要な第一歩です。
この記事では、うつ病の診断がどこで受けられるのかという基本から、病院で実際に行われる診察の流れ、診断の根拠となる国際的な基準、そして診断書のもらい方まで、あなたが抱える診断への不安を解消するために、一つひとつ詳しく解説していきます。この記事が、あなたが安心して専門家を頼るための後押しとなれば幸いです。
うつ病の診断はどこで受けられるか
「うつ病かもしれない」と感じたとき、相談・診断ができる場所は、主に専門の医療機関です。風邪をひいたら内科に行くように、心の不調を感じたら、心の専門家を訪ねましょう。
精神科や心療内科などの専門医療機関
うつ病の診断と治療を専門的に行っているのは、「精神科」や「心療内科」です。近年では「メンタルクリニック」「メンタルヘルス科」といった名称のクリニックも増えています。どちらを受診すればよいか迷う方も多いですが、基本的にはどちらも心の不調を相談できる窓口です。
- 精神科:
- うつ病、双極性障害、統合失調症、不安障害など、心の病気全般を幅広く専門とします。気分の落ち込みや意欲の低下、不眠、不安感など、精神的な症状が強い場合に特に適しています。
- 心療内科:
- ストレスなどが原因で、体に症状(頭痛、腹痛、動悸、めまい、食欲不振など)が現れる「心身症」を主に扱います。身体的な不調が気になって内科などを受診しても異常が見つからなかった場合の、最初の相談先として選ばれることが多いです。
どちらの科も、うつ病の診療経験が豊富な医師が多いため、まずは通いやすい場所にあるか、ウェブサイトの雰囲気や医師の経歴などが自分に合いそうだと感じた方を選んで大丈夫です。重要なのは、一人で抱え込まずに専門家につながることです。
うつ病かもしれないと感じたら受診を検討
「こんなことで病院に行ってもいいのだろうか」「単なる気のせいかもしれない」と、受診をためらう必要は一切ありません。心の不調は、我慢していても自然に良くなることは少なく、むしろ、症状が軽いうちに受診し、早期に治療を開始することこそが、回復への何よりの近道となります。
特に、以下のようなサインが2週間以上、ほとんど毎日続いている場合は、一度専門家に相談することを強くお勧めします。
- 理由もなく気分が落ち込み、何をしても晴れない
- 今まで好きだったことや、楽しめていた活動に全く興味がわかない
- 寝つきが悪い、夜中や早朝に目が覚める、または逆に一日中眠い
- 十分休んでいるはずなのに、疲れがとれず、体が鉛のように重く感じる
- 仕事や家事に集中できず、考えがまとまらない、ミスが増えた
- 食事が美味しくない、食欲が全くない、または過度に食べ過ぎてしまう
- 自分には価値がない、周りに迷惑ばかりかけていると自分を責めてしまう
専門家は、あなたのつらさに丁寧に耳を傾け、それが治療の必要な状態なのか、あるいは一時的な気分の落ち込みなのかを客観的に判断してくれます。
うつ病の具体的な診断方法と診察の流れ
実際の診察では、どのようなことが行われるのでしょうか。うつ病には、インフルエンザの検査キットやレントゲンのような、一度で確定診断ができる客観的な検査はありません。診断は、主に医師による丁寧な問診(インタビュー)を中心に行われます。
基本となる医師による問診
うつ病の診断において最も重要で、中心となるのが、医師による問診です。医師は、あなたとの対話を通じて、現在の症状やその程度、生活状況、ストレス要因、これまでの経緯などを詳しく把握し、国際的な診断基準に照らし合わせながら、診断の手がかりとします。
初対面の医師に自分の内面を話すのは緊張するかもしれませんが、うまく話そう、立派に見せようと準備する必要は全くありません。むしろ、つらい気持ちや弱っている部分をありのままに伝えることが、正確な診断と適切な治療に繋がります。
問診でよく聞かれる内容
診察でどのようなことを聞かれるか、事前に知っておくだけでも、少し気持ちが楽になるはずです。診察時間は限られているため、伝えたいことを忘れないように、事前にメモにまとめて持参することをお勧めします。
【メモにまとめておくと良い項目】
- 一番つらい症状は何か:
- (例:朝、起き上がれないほどの気分の落ち込み)
- いつから始まったか:
- (例:〇月頃から)
- どんな時に特に症状が強まるか:
- (例:朝方、仕事の前)
- 具体的な症状のリスト:
- (例:不眠、食欲不振、興味の喪失、集中力低下など)
- 最近の生活での変化やストレス:
- (例:仕事での異動、家族関係の変化)
- これまでの病歴や、現在服用中の薬
カテゴリー | 主な質問内容の例 |
---|---|
現在の症状 | ・どんな症状がありますか?(気分の落ち込み、不眠、食欲不振など、具体的に) ・その症状はいつから始まりましたか? ・一日の中で、症状が良くなったり悪くなったりしますか?(特に朝の調子など) |
生活状況 | ・仕事や学校、家庭の状況について教えてください。 ・最近、何か大きなストレスとなる出来事(環境の変化など)はありましたか? ・食事はとれていますか?睡眠の状態はどうですか?お酒の量は増えましたか? |
これまでの経緯 | ・これまでにも、同じようなつらい症状を経験したことはありますか? ・過去に精神科や心療内科を受診した経験はありますか? ・ご家族(血縁者)に、うつ病などの精神疾患を患った方はいらっしゃいますか? |
身体的な状態 | ・現在、何か他の病気の治療をしていますか? ・服用している薬はありますか?(お薬手帳を持参するとスムーズです) |
必要に応じて行われる心理検査や血液検査
問診による診断の精度を高めるため、また他の病気の可能性を排除するために、補助的に心理検査や身体的な検査が行われることもあります。
心理検査: 質問紙に回答する形式(自己記入式質問紙)で、抑うつ度や不安の度合い、性格傾向などを客観的な指標で評価します。あくまで診断の参考にするためのもので、この検査だけで診断が確定するわけではありません。治療効果を測定する目的で、治療の前後に行われることもあります。
血液検査・画像検査: うつ病と似た症状を引き起こす、他の体の病気が隠れていないかを調べるために行われます。例えば、甲状腺機能の異常(甲状腺機能低下症など)や、貧血、あるいは脳腫瘍などの脳の病気が、うつ病とよく似た意欲低下や気分の落ち込みの原因となることがあるためです。これらの身体疾患の可能性がないことを確認した上で、うつ病の診断はより確かなものになります。
他の病気ではないか鑑別診断を行う
うつ病の診断プロセスでは、似たような症状を示す他の精神疾患や身体疾患の可能性を慎重に除外する「鑑別診断」が非常に重要です。
特に重要なのが、双極性障害(躁うつ病)との鑑別です。双極性障害は、うつ状態と、気分が異常に高揚し、活動的になる躁(そう)状態を繰り返す病気です。うつ状態の症状はうつ病と区別がつきませんが、治療法(特に薬物療法)が大きく異なるため、鑑別は極めて重要です。そのため、医師は「過去に、ほとんど眠らなくても平気で、自分が偉くなったように感じ、次々とアイデアが浮かんで活動的になった時期はありませんでしたか?」など、過去の気分の波について詳しく質問します。
その他にも、統合失調症の初期症状や、不安障害、適応障害、あるいは認知症など、様々な病気がうつ病と似た症状を示すことがあるため、丁寧な問診を通じて慎重に見極めが行われます。
続き(国際的な診断基準、診断書、治療と支援など)が必要な場合は「続き」とお伝えください。
うつ病の診断で用いられる国際的な診断基準
医師の診断は、個人の経験や勘に頼るものではなく、国際的に定められた客観的な「診断基準」に基づいて行われます。これにより、世界中のどこでも、一定の基準に基づいた診断が受けられるようになっています。現在、世界の精神医療で広く用いられているのが、アメリカ精神医学会の「DSM-5」と、世界保健機関(WHO)の「ICD-11」です。
アメリカ精神医学会の診断基準「DSM-5」
日本では、主にアメリカ精神医学会が作成した「DSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)」が用いられることが一般的です。DSM-5では、うつ病(専門的には「大うつ病性障害」)の診断には、以下の3つの条件をすべて満たす必要があると定められています。
- 9つの症状のうち5つ以上が存在する
- それらの症状が2週間以上、ほぼ毎日、一日中続いている
- それらの症状によって、学業や仕事、家事など、社会生活を送る上で著しい苦痛、または機能の低下を引き起こしている
診断基準における主な症状の例
DSM-5に挙げられている9つの症状は以下の通りです。このうち、少なくとも一つは、1か2の症状であることが必須条件となります。
- 抑うつ気分:
- ほとんど一日中、悲しみ、虚しさ、絶望感などを感じる。涙もろくなる。
- 興味または喜びの著しい減退:
- これまで楽しめていた趣味や活動に対して、全く興味がなくなったり、何をやっても楽しめなくなったりする。
- 食欲の減退または増加、それに伴う体重の減少または増加:
- 食欲が著しく低下(または増加)し、意図しない体重の変化(例:1ヶ月で5%以上)が見られる。
- 不眠または過眠:
- ほとんど毎日、寝つけない、途中で目が覚める、朝早く目が覚めてしまう、または逆に眠りすぎてしまう。
- 精神運動性の焦燥または制止:
- 周囲から見て、明らかに落ち着きなく動き回ったり、そわそわしたりする(焦燥)。または、話し方や身振り、体の動きが極端に遅くなる(制止)。
- 易疲労性、または気力の減退:
- ほとんど毎日、ひどく疲れやすく、エネルギーがない、消耗しきっていると感じる。
- 無価値感、または過剰・不適切な罪悪感:
- 自分には価値がないと感じたり、「自分が悪い」と過度に自分を責めたりする。
- 思考力や集中力の減退、または決断困難:
- 物事を考えたり、集中したりすることが難しい。新聞を読んでも内容が頭に入らない。日常的なささいな事柄も決断できない。
- 死についての反復的な思考、自殺念慮、自殺企図:
- 「死にたい」と繰り返し考えたり、自殺の具体的な計画を立てたり、実際に自殺を試みたりする。
うつ病の診断書について知っておきたいこと
うつ病と診断された場合、社会生活を送る上で「診断書」という形で、医師による公的な証明が必要になる場面があります。
診断書のもらい方と発行にかかる日数
診断書は、診察した医師のみが発行できる書類です。必要な場合は、診察時に「休職のために診断書が必要です」などと、目的を伝えて依頼しましょう。その場で書いてもらえることもありますが、症状の経過を慎重に判断するため、数日から1週間程度かかる場合もあります。
診断書の作成には、健康保険が適用されず、自費で数千円程度の費用がかかるのが一般的です。費用は医療機関によって異なります。
診断書が必要になる主なケース
- 会社を休職するとき
- 会社の業務に関して配慮(業務量の調整など)を求めるとき
- 経済的な支援制度(傷病手当金、障害年金、自立支援医療など)を申請するとき
- 会社に復職するとき(復職可能であることを証明するため)
- 大学などを休学するとき
- 生命保険などの保険金を請求するとき
診断書を取得するメリットと注意点
診断書を取得する最大のメリットは、あなたの心身の状態が「医学的に休養や配慮が必要な状態である」ことを客観的に証明できる点です。これにより、休職や各種制度の申請がスムーズに進み、周囲の理解を得やすくなるため、結果的に治療に専念できる環境を整えやすくなります。
ただし、注意点として、診断書を会社などに提出するということは、自身の病状に関する個人情報を開示することになります。その点を理解した上で、いつ、誰に、どの範囲まで情報を開示するかは、主治医とも相談しながら、慎重に判断する必要があります。
うつ病と診断された後の治療と利用できる支援
うつ病と診断されることはゴールではなく、回復に向けたスタートです。診断後は、本格的な治療が始まります。同時に、あなたの生活や仕事を支えるための様々な支援制度を活用することができます。
治療の基本となる3つの柱
うつ病の治療は、一つの方法だけで行うのではなく、主に以下の3つの柱を組み合わせて、その人の状態に合わせて行われます。
十分な休養
うつ病は「心のエネルギーが枯渇した状態」です。まずは、ストレスの原因から離れ、心と体のエネルギーを再充電するため、何よりも休養が大切です。「休むことも治療のうち」と割り切り、安心して休める環境を整えることが治療の第一歩です。
薬物療法と精神療法
薬物療法では、主に「抗うつ薬」を用いて、脳内のセロトニンなどの神経伝達物質のバランスを整えます。効果が出るまでに数週間かかり、副作用が出ることもありますが、医師の指示通りに服用を続けることが重要です。自己判断で中断すると、症状が悪化することがあります。
精神療法(カウンセリングなど)では、公認心理師などの専門家との対話を通じて、物事の捉え方の癖を修正したり(認知行動療法)、対人関係の課題に取り組んだりして、ストレスへの対処法を学び、再発しにくい心を作っていきます。
生活面の不安を支える支援制度
治療に専念するためには、生活の安定が不可欠です。治療中の経済的な不安を和らげるため、傷病手当金や障害年金、医療費の自己負担を軽減する自立支援医療といった公的な制度があります。これらの制度を上手に活用することで、安心して治療に専念できます。
仕事復帰をサポートする就労支援サービス
症状が回復し、社会復帰を目指す際には、専門の就労支援サービスが大きな力になります。休職からの復職を支援するリワーク支援や、一般企業への就職を目指す訓練を行う就労移行支援、そして、より福祉的なサポートのある環境で自分のペースで働く練習ができる就労継続支援など、あなたの状態に合わせた多様なサービスがあります。
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