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傷病手当金はうつ病も対象?受給条件・金額・申請方法を解説

うつ病の治療のために会社を休むことを考えた時、「休んでいる間の生活費はどうしよう…」という経済的な不安が、大きな壁となって立ちはだかることがあります。その不安が、休むべき時に休めないという悪循環を生み、症状をさらに悪化させてしまうことも少なくありません。そんな時に、あなたの療養生活を支えるための心強い公的な制度が「傷病手当金」です。これは、会社の健康保険に加入している方が、病気やケガで働けなくなった場合に、生活保障として支給される手当金のことで、もちろん、うつ病などの精神疾患も対象となります。

この記事では、うつ病で休職を考える方が傷病手当金を受給するための具体的な条件、支給される金額の計算方法、申請から受け取りまでの流れ、そして退職後も受給を続けるためのポイントまで、あなたが抱える疑問や不安に一つひとつ丁寧にお答えします。正しい知識を身につけ、利用できる制度を最大限に活用することが、安心して治療に専念し、回復への道を歩むための第一歩です。

傷病手当金の基本|うつ病も対象になる公的制度

まず、傷病手当金がどのような制度なのか、その基本を理解しましょう。

傷病手当金とは?

傷病手当金とは、健康保険の被保険者(会社員など)が、業務とは関係のない病気やケガが原因で仕事に就くことができなくなり、会社から十分な給与を受けられなくなった場合に、被保険者とその家族の生活を保障するために設けられた制度です。これは、加入している健康保険(全国健康保険協会けんぽ、または各企業の健康保険組合など)から支給されるもので、安心して療養に専念できるようにすることを目的としています。傷病手当金を受給するためには、後述する4つの条件をすべて満たす必要があります。

うつ病による休職も対象

うつ病や適応障害といった精神疾患により、医師から「労務不能(働くことができない状態)」と診断され、会社を休む場合も、傷病手当金の対象となります。うつ病の症状は、気分の落ち込みや意欲の低下だけでなく、集中力や判断力の低下、不眠、強い倦怠感など、業務の遂行に直接的な支障をきたすものが少なくありません。無理をして働き続けることは、症状を悪化させ、回復を長引かせる原因にもなりかねません。休職し、傷病手当金という経済的な支えを得ながら、一度仕事から離れて治療に専念することは、回復への重要な選択肢の一つです。

うつ病の方が傷病手当金を受給するための4つの条件

傷病手当金を受給するには、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。うつ病の場合も、この条件に基づいて支給の可否が判断されます。

1. 仕事以外のことが原因であること(業務外の事由)

傷病手当金は、業務外、つまり仕事や通勤が原因ではない病気やケガが対象です。うつ病の発症原因が、私生活での出来事や、業務との因果関係が明確でないストレスによるものである場合に、傷病手当金の対象となります。もし、うつ病の発症が、長時間労働やハラスメントなど、明らかに仕事が原因であると判断された場合は、傷病手当金ではなく「労災保険(労働者災害補償保険)」の対象となる可能性があります。労災保険の方が、一般的に給付内容が手厚くなります。どちらが適用されるかの判断は難しいケースもあるため、まずは会社の人事部や産業医、あるいは労働基準監督署に相談することをお勧めします。

2. 働くことができない状態であること(労務不能)

傷病手当金を受給するためには、うつ病の症状により、これまで行っていた仕事に就くことができない状態であると医師に診断される必要があります。単に「会社を休みたい」という自己申告だけでは認められず、「労務不能」であるという医学的な証明が求められます。この「労務不能」かどうかは、うつ病という病名だけで決まるわけではありません。医師が、あなたの症状の程度や内容、仕事の種類、職場環境などを総合的に考慮して判断します。申請書には、医師が「労務不能」と判断した旨を明確に記載してもらうことが、審査をスムーズに進める上で非常に重要です。

3. 連続する3日を含む4日以上休んでいること(待期期間の完成)

療養のために仕事を休み始めてから、連続した3日間(これを「待期期間」と呼びます)が経過した後、4日目以降も休んだ日に対して傷病手当金が支給されます。この待期期間には、有給休暇や土日・祝日など、会社が休みの日も含まれます。例えば、金曜日に体調不良で休み、続く土日も休んだ場合、この時点で連続3日間の待期期間が完成します。そして、翌週の月曜日も休んだ場合、その月曜日からが傷病手当金の支給対象となります。この待期期間が完成しない限り、手当金は支給されません。

4. 休業期間中に給与の支払いがないこと

傷病手当金は、休業期間中に会社から給与が支払われない場合に支給される生活保障です。もし、休業中に会社から給与が支払われた場合でも、その金額が傷病手当金の額より少ない場合は、その差額分が支給されます。例えば、傷病手当金の日額が8,000円の状況で、会社から有給休暇などで1日あたり5,000円の給与が支払われた場合、差額の3,000円が支給されます。給与が傷病手当金の額を上回る場合は、その日は支給されません。

傷病手当金の受給金額はいくら?

傷病手当金として、具体的にいくら受け取れるのかは、ご自身の給与額によって決まります。計算の基礎となるのが「標準報酬月額」です。

金額計算の基礎となる「標準報酬月額」

標準報酬月額とは、健康保険料や厚生年金保険料を計算するために、毎月の給与を一定の幅で区分した等級のことです。給与明細の「健保」や「厚年」の欄で、自身の標準報酬月額を確認できる場合があります。傷病手当金の計算では、この標準報酬月額を用いて、1日あたりの支給額が算出されます。

傷病手当金の具体的な計算方法

傷病手当金の1日あたりの金額は、以下の計算式で算出されます。

【計算式】
支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額 ÷ 30日 × (2/3)

【計算例】
例えば、支給開始日以前12ヶ月間の標準報酬月額の平均が30万円だった場合、
300,000円 ÷ 30日 × (2/3) = 6,667円(1日あたり)
となり、この金額に休んだ日数をかけた額が支給されます。

なお、健康保険の加入期間が12ヶ月に満たない場合は、
①支給開始日以前の、加入している期間の標準報酬月額の平均額
②加入している健康保険の前年度9月30日時点での、全被保険者の標準報酬月額の平均額
の、いずれか低い方の額を用いて計算されます。

他の制度と重複した場合の調整

傷病手当金は、他の公的な給付金と重複して受給できない場合があります。以下のようなケースでは、傷病手当金の金額が調整(減額)されたり、支給されなかったりします。

出産手当金:
両方受給できる期間は、出産手当金が優先されます。

 

障害年金(障害厚生年金・障害基礎年金):
同じ病気やケガが原因で障害年金を受給している場合、傷病手当金は支給されません。ただし、障害年金の額が傷病手当金の額より低い場合は、差額が支給されます。

 

労災保険の休業補償給付:
同時に受給できません。労災が適用される場合は、労災保険が優先されます。

 

これらの調整は、給付の重複を防ぎ、公正な制度運用を行うために設けられています。

傷病手当金の受給期間はいつまで?

傷病手当金を受給できる期間には上限があります。また、退職した場合や、うつ病が再発した場合など、状況によって期間の扱いが変わるため注意が必要です。

受給期間は「通算して1年6ヶ月」

傷病手当金が支給される期間は、支給を開始した日から「通算して1年6ヶ月」です。これは2022年1月からの法改正によるもので、非常に重要なポイントです。以前は、支給開始から暦の上で1年6ヶ月が経過すると、その間に働いた期間があっても支給が終了していました。しかし、現在は「通算」となったため、実際に傷病手当金が支給された日数を合計して1年6ヶ月に達するまで、受給の権利が続きます。

例えば、3ヶ月間傷病手当金を受給した後に復職し、その後、同じうつ病が原因で再び休職した場合、残りの「1年3ヶ月」分の傷病手当金を受給することができます。これにより、症状の波があるうつ病の治療において、より柔軟に制度を活用できるようになりました。

退職後も傷病手当金はもらえる?

条件を満たせば、会社を退職した後も、引き続き傷病手当金を受給できます。これを「資格喪失後の継続給付」と呼びます。退職後も受給するためには、以下の2つの条件をどちらも満たしている必要があります。

退職日までに、継続して1年以上の健康保険の被保険者期間があること
退職日に、傷病手当金を受給しているか、または受給できる状態であること

特に重要なのが2つ目の条件です。退職日に挨拶などで出勤してしまうと、「労務不能ではなかった」と判断され、継続給付を受けられなくなる可能性があります。退職日は欠勤扱いにしてもらうなど、会社と事前に相談しておくことが賢明です。

うつ病が再発した場合の受給

うつ病は再発しやすい病気の一つですが、再発した場合も、上記の「通算1年6ヶ月」の期間が残っていれば、傷病手当金の対象となる可能性があります。ただし、再発の場合でも、新たに「労務不能」であると医師に診断される必要があります。また、一度復職して社会保険の資格を喪失し、再就職先で再度休職するようなケースでは、前回の傷病手当金とは別の新たな傷病として扱われ、待期期間も新たに発生します。状況によって扱いが異なるため、加入している健康保険組合に確認することをおすすめします。

傷病手当金の申請から振込までの流れ

傷病手当金の申請は、ご自身、医師、会社の三者がそれぞれ書類を記入し、健康保険組合に提出することで行います。

申請手続きの具体的なステップ

申請は、一般的に以下の流れで進められます。

申請書の入手:
加入している健康保険組合や、協会けんぽのウェブサイトから「傷病手当金支給申請書」をダウンロードするか、郵送で取り寄せます。

 

本人記入欄の作成:
申請者本人が、氏名や振込先口座などの必要事項を記入します。

 

医師の意見書を記入してもらう:
申請書には、主治医が病名や症状、労務不能と判断した期間などを記載する「療養担当者記入用」の欄があります。診察時に依頼し、記入してもらいます。

 

事業主の証明を記入してもらう:
会社の人事担当者などに、休業期間中の勤務状況や給与の支払い状況について証明してもらう「事業主記入用」の欄があります。

 

健康保険組合へ提出:
すべての記入が完了した申請書を、加入している健康保険組合や協会けんぽの窓口に提出します。郵送が一般的です。

 

申請は、1ヶ月ごとなど、給与の締めに合わせて行うのが一般的です。支給決定までには時間がかかるため、当面の生活費は準備しておく必要があります。なお、申請の権利は、休んだ日ごとに、その翌日から2年で時効となるため、忘れないように申請しましょう。

審査期間と振込時期の目安

申請書を提出してから、実際に手当金が振り込まれるまでの期間は、健康保険組合の処理状況や、書類に不備がないかによって異なります。一般的には、申請書を提出してから2週間から2ヶ月程度かかることが多いようです。書類に不備があったり、内容の確認が必要な場合は、さらに時間がかかることもあります。早めに申請書類を準備し、記入漏れなどがないか十分に確認することが、スムーズな支給につながります。

傷病手当金以外にうつ病の方が活用できる制度・支援

うつ病の治療や休職期間中には、傷病手当金以外にも活用できる公的な制度や支援機関があります。これらを理解し、適切に利用することで、経済的な負担や社会復帰への不安をさらに軽減できます。

経済的な負担を軽減する制度

自立支援医療(精神通院医療):
うつ病の通院治療にかかる医療費の自己負担が、原則1割に軽減される制度です。

 

精神障害者保健福祉手帳:
税金の控除や公共料金の割引など、様々なサービスが受けられます。うつ病の症状が長期化した場合に対象となることがあります。

 

障害年金:
病気により生活や仕事に支障が出た場合に支給される年金です。初診日から1年6ヶ月経過後、一定の障害状態にあると認定されれば受給できます。

 

生活保護:
あらゆる制度を活用しても生活が困難な場合に、最低限度の生活を保障する最後のセーフティネットです。

 

仕事への復帰や再就職を支える支援機関

リワーク支援:
精神疾患で休職した方が、職場復帰(リワーク)するためのリハビリテーションプログラムです。

 

ハローワーク:
障害のある方向けの専門窓口があり、病状に配慮した職業相談や求人紹介を受けられます。

 

障害者就業・生活支援センター:
仕事と生活の両面から一体的な支援を行う、身近な相談機関です。

 

就労移行支援事業所:
一般企業への就職を目指すための、職業訓練や就職活動サポートを行う福祉サービスです。

 

就労継続支援B型事業所:
福祉的なサポートのある環境で、自分のペースで働きながら、社会参加への準備を整えることができる福祉サービスです。

 

うつ病による休職後の就労は就労継続支援B型事業所オリーブへ

うつ病による休職からの復帰や、新たな就職を目指すことは、多くの方にとって大きな一歩です。傷病手当金をはじめとする様々な制度を活用し、経済的な不安を軽減しながら、まずは治療に専念することが何よりも大切ですいです。

そして、その後の就労に向けては、ご自身のペースで着実に準備を進められる環境を選ぶことが、再発を防ぎ、長く働き続けるための鍵となります。私たち「就労継続支援B型事業所オリーブ」は、うつ病をはじめとする様々な障害をお持ちの方が、安心して就労に向けた準備や訓練を行える場を提供しています。

就労継続支援B型は、雇用契約を結ばないため、プレッシャーの少ない環境で、ご自身の体調を最優先に、週1日・数時間といった短時間からスタートできます。オリーブでは、個別の支援計画に基づき、一人ひとりの「働きたい」という気持ちをサポートします。PC作業や軽作業などを通じて、生活リズムを整え、少しずつ自信を取り戻しながら、次のステップを目指すことができます。

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