
つらい治療期間を乗り越え、ようやく元の穏やかな生活に戻りつつあるとき、ふとした瞬間に「また、あの苦しい状態に戻ってしまったらどうしよう…」という不安がよぎることはありませんか。うつ病を経験した多くの方が、この「再発」に対する恐怖や不安を抱えています。
残念ながら、うつ病は再発しやすい病気であることが知られています。しかし、再発は決して避けられない運命ではありません。そのサインを早期に察知し、適切な対策を講じることで、リスクを大幅に減らすことが可能です。
この記事では、まずうつ病の再発率や主な原因といった基本的な知識を押さえた上で、再発の初期サインを「心・体・行動」の3つの側面から具体的に解説します。さらに、ご自身でできる再発防止策や、特に重要となる仕事におけるポイントについても詳しくご紹介します。
再発への漠然とした不安を、予防できるという確かな知識で安心に変える。この記事が、あなたの穏やかな毎日を守るための一助となれば幸いです。
うつ病の再発率と主な原因
再発を防ぐためには、まずうつ病がどのような特徴を持つ病気なのかを知ることが大切です。うつ病がどれくらい再発しやすいのか、そして、なぜ再発してしまうのかについて、基本的な知識を身につけましょう。
うつ病の再発率はどのくらいか
うつ病は、一度良くなっても再発しやすいという特徴を持つ病気です。厚生労働省の情報によると、薬物療法などで症状が改善したとしても、約60%の方が再発し、2回うつ病にかかった人の再発率は70%、3回かかった人の再発率は90%にものぼると言われています。この数字だけを見ると、非常に不安になるかもしれません。しかし、これは裏を返せば、適切な再発予防策を継続することが、いかに重要であるかを示しています。適切な治療と対策を続けることで、この再発リスクは大幅に下げることができます。また、再発を繰り返すごとに、症状が治りにくくなったり、次の再発までの期間が短くなったりする傾向もあるため、一度目の回復期から、しっかりと再発予防に取り組むことが肝心ですいです。
うつ病が再発してしまう主な原因
では、なぜうつ病は再発してしまうのでしょうか。その原因は一つではありませんが、主に以下のような要因が複雑に絡み合っていると考えられています。
- 自己判断による服薬の中断:
- 症状が良くなったと感じ、「もう薬は必要ないだろう」と自己判断で服薬をやめてしまうケースです。これは再発の最も大きな原因の一つです。症状が楽になっていても、脳の機能が完全に安定するまでには時間がかかります。薬は、その不安定な状態を支える重要な役割を担っています。
- ストレスへの対処:
- うつ病の最初の引き金となったストレス要因(職場の人間関係、家庭内の問題、過労など)が解決されないまま元の環境に戻ったり、新たなストレスにうまく対処できなかったりすると、心身のエネルギーが再び消耗され、再発のリスクが高まります。
- 不規則な生活習慣:
- 睡眠不足や栄養バランスの乱れ、運動不足といった生活リズムの崩れは、自律神経やホルモンバランスを不安定にし、気分の波を引き起こしやすくなります。これが再発の直接的な引き金となることも少なくありません。
- 重要なライフイベント:
- 昇進や結婚、出産といった喜ばしい出来事であっても、大きな環境の変化は精神的なエネルギーを大きく消耗させるストレスとなり、再発のきっかけとなることがあります。
うつ病の再発で現れる初期サイン
再発は、ある日突然やってくるわけではありません。多くの場合、本格的なうつ症状が現れる前に、心や体、行動に「黄信号」ともいえる、ささいな変化のサインが見られます。これらの小さなサインに、本人や周りの人がいかに早く気づけるかが、再発を未然に防ぐための鍵となります。
心に現れるサイン
以前経験した、つらい精神症状の「芽」のようなものが再び現れ始めます。気のせいだと見過ごさず、注意深く観察しましょう。
気分の落ち込みや不安感の再燃
「なんだか理由もなく気分が晴れない」「朝、起きるのが憂うつだ」「ささいなことで不安になったり、イライラしたりすることが増えた」といった、漠然とした気分の不調がサインです。特に、以前うつ病だった時と同じような思考パターン、例えば「自分はダメな人間だ」と自分を責めたり、「どうせ何をやってもうまくいかない」と将来を悲観したりする考えが頭をもたげ始めたら注意が必要です。
集中力や判断力の低下
「仕事や家事に集中できず、簡単なミスを繰り返してしまう」「本を読んでも内容が頭に入ってこない」「テレビを見ていても面白くない」「今日の夕食の献立など、ささいな物事を決めるのが億劫だ」といった思考力の低下も、再発の初期サインとしてよく見られます。以前はスムーズにできていたことが、妙に時間がかかるようになったと感じたら、それは心のエネルギーが不足し始めている証拠かもしれません。
体に現れるサイン
心の不調は、体に正直に現れます。原因がはっきりしない体調不良は、再発のサインである可能性を疑うことが大切です。
睡眠障害(不眠・過眠)
「最近、寝つきが悪くなった」「夜中に何度も目が覚める」「明け方に目が覚めて、そこから眠れない」といった不眠の症状は、うつ病の再発サインとして非常に多く見られます。逆に、「週末に10時間以上寝てもまだ眠い」「日中に強い眠気がある」といった過眠の症状として現れることもあります。睡眠は、心の健康状態を映し出すバロメーターです。
原因不明の疲労感やだるさ
十分な睡眠時間をとっているはずなのに、疲れが全く取れない。体が鉛のように重く、朝起き上がるのが非常につらい。こうした強い疲労感も、再発の危険信号です。その他にも、頭痛、肩こり、めまい、動悸、食欲不振や過食といった身体症状が続く場合も注意が必要です。「最近疲れているだけ」と軽視せず、長引く場合は主治医に相談しましょう。
行動に現れるサイン
自分では気づきにくいかもしれませんが、周りの人が「あれ?なんだか最近、様子が違うな」と感じるような行動の変化も、重要なサインです。ご家族や親しい友人に尋ねてみるのも良いでしょう。
身だしなみへの無関心
「服装に全く構わなくなった」「何日もお風呂に入るのが面倒になった」「部屋の片付けができなくなった」など、身だしなみや身の回りのことへの関心が薄れてきたら要注意です。これは、何かをするための精神的なエネルギーが著しく低下しているサインと考えられます。
人との交流を避けるようになる
友人からの誘いを断ることが増えたり、職場での雑談の輪に加わるのが苦痛になったり、電話やメールの返信が億劫になったりと、人とのコミュニケーションを避けるようになるのもサインの一つです。「人と会うのがひどく疲れる」と感じ始めたら、心が休息を求めているのかもしれません。飲酒量が明らかに増える、といった変化も注意すべきサインです。
うつ病の再発を防止するために自分でできること
再発は怖いものですが、日々の生活の中で意識的に対策を行うことで、そのリスクを大きく下げることができます。ここでは、自分でできる4つの再発防止策をご紹介します。
生活リズムを整え十分な休養をとる
再発予防の土台となるのが、安定した生活リズムです。不規則な生活は自律神経のバランスを乱し、心の状態を不安定にします。
- 定時起床・定時就寝:
- まずは、決まった時間に起き、決まった時間に寝ることを心がけ、質の良い睡眠を確保しましょう。
- 朝日を浴びる:
- 朝起きたらカーテンを開け、太陽の光を浴びることで体内時計がリセットされ、夜の自然な眠りにつながります。
- バランスの良い食事:
- 栄養バランスの取れた食事を1日3食とることも、脳の働きと心の安定に不可欠です。
- 休息の確保:
- 疲れを感じたら、無理は禁物です。「今日は休む」と決める勇気を持ちましょう。
ストレスとの上手な付き合い方を見つける
現代社会でストレスをゼロにすることは不可能です。大切なのは、ストレスを感じたときに、それを上手に発散・解消する方法(ストレスコーピング)を、自分なりのレパートリーとしていくつか持っておくことです。
- 軽い運動:
- ウォーキングやヨガ、サイクリングなど、心地よいと感じる程度の有酸素運動は、気分転換に非常に効果的です。
- 趣味や好きなことに没頭する時間:
- 音楽を聴く、映画を観る、絵を描く、ガーデニングをするなど、自分が心から楽しめる時間を大切にしましょう。
- リラクゼーションの実践:
- ぬるめのお湯にゆっくり浸かる、アロマテラピーを取り入れる、深呼吸や瞑想を行うなど、心と体を意識的にリラックスさせる習慣を取り入れましょう。
自分に合ったコーピングを複数持っておくことで、ストレスへの耐性が高まります。
自己判断で薬を中断しない
うつ病の再発原因で最も多く、そして最も避けなければならないのが、服薬の自己中断です。症状が良くなっても、それは薬が効いて脳の状態を支えてくれているからです。医師の指示がある限りは、根気強く薬を飲み続けることが、再発を防ぐ上で最も重要なことの一つです。減薬や断薬は、必ず医師と相談の上で、数ヶ月から年単位の時間をかけて、慎重に進めなければなりません。
考え方の癖を見直し完璧を目指さない
うつ病になりやすい人は、「~すべきだ」「100%でなければ意味がない」といった、白黒思考や完璧主義の考え方の癖を持っていることが多いと言われます。こうした思考の癖が、無意識のうちに自分自身を追い詰めるストレスの原因になります。
物事を柔軟に捉え、「まあ、いいか」「70点で十分だ」「そんな日もある」と考える練習をしましょう。認知行動療法などの精神療法を通じて、こうした自分を苦しめる考え方の癖に気づき、より楽な考え方に修正していくことも、根本的な再発予防に非常に有効です。
仕事におけるうつ病再発防止のポイント
職場は、成果を求められるプレッシャーや人間関係など、再発の引き金となりやすいストレスが多い場所です。仕事において、うつ病の再発を防ぐためのポイントを押さえておきましょう。
無理をせず休職も選択肢に入れる
「周りに迷惑をかけられないから」「一度休んだ手前、もう休めない」「休んだらキャリアに響く」と、心身の不調に蓋をして無理をして働き続けることは、再発への最短ルートです。再発のサインを感じたら、症状が悪化して動けなくなってしまう前に、勇気を持って休む決断をしましょう。再び休職することは、決して「負け」や「逃げ」ではなく、長期的にあなたのキャリアと健康を守るための、賢明で戦略的な選択です。
復職の際はリワーク支援を活用する
休職からの復職を考えている場合は、「リワーク支援」の活用を強くお勧めします。これは、職場復帰に向けた専門的なリハビリテーションプログラムです。医療機関や地域障害者職業センターなどで実施されています。オフィスに近い環境で、通勤訓練や模擬的な業務、グループワークなどを通じて、ストレス対処法を学び、再発しにくい働き方を身につけることができます。いきなり職場に戻る前の、大切なクッションの役割を果たしてくれます。
職場に合理的配慮を相談する
安定して働き続けるためには、職場の理解と協力が不可欠です。ご自身の体調に合わせて、無理なく、かつ能力を発揮して働けるような配慮(合理的配慮)を会社に相談してみましょう。
<合理的配慮の例>
- 時短勤務や残業の制限
- 通院のための休暇取得への配慮
- 業務量の調整や、プレッシャーの少ない業務への配置転換
- 指示を口頭だけでなくメールでもらう、定期的な面談の機会を設けてもらうなど、コミュニケーション上の配慮
- 騒音や人の出入りが少ない席への移動
主治医の意見書などを添えて相談することで、会社側も対応しやすくなります。
障害者雇用など働き方を見直す
うつ病の特性上、日々の体調や気分の波があり、一般雇用の枠組みで求められる安定したパフォーマンスを維持し続けることが困難だと感じる場合もあります。その際は、精神障害者保健福祉手帳を取得し、「障害者雇用」という枠で働くことも有効な選択肢の一つです。障害への理解と配慮がある環境で、必要なサポートを受けながら、安心して長く働くことを目指せます。
再発の不安を相談できる支援機関
「再発のサインかもしれない」「今後の働き方が不安だ」と感じたとき、決して一人で抱え込んではいけません。あなたの不安に寄り添い、専門的な視点からサポートしてくれる機関があります。
かかりつけの医療機関
再発のサインを感じたときの最初の、そして最も重要な相談先は、主治医です。あなたのこれまでの経過を最もよく理解しており、客観的な視点から、そのサインが本当に再発の兆候なのかを判断し、適切なアドバイスや治療方針の調整(薬の調整など)を行ってくれます。
ハローワーク
障害のある方向けの専門窓口(専門援助部門)が設置されており、うつ病の特性に配慮した職業相談や求人紹介を行ってくれます。働き方を見直したいと考えたときに、頼りになる存在です。
障害者就業・生活支援センター
「なかぽつ」の愛称で知られ、仕事の悩みだけでなく、金銭管理や健康管理といった生活全般の不安についても一体的に相談できる、地域に根差した支援機関です。
就労移行支援・就労継続支援事業所
一般企業への就職を目指すための訓練を行う「就労移行支援」や、自分のペースで働きながらリハビリテーションを行う場である「就労継続支援」を提供する福祉サービスです。社会復帰へのステップとして、今の自分に合った場所を選ぶことができます。
大阪・兵庫・京都で自分のペースで働きたい方はオリーブへ
うつ病の再発を防ぐ上で最も大切なのは、「無理をしない」「自分のペースを守る」ことです。しかし、一般の職場では、利益や納期が優先され、こうした働き方を続けるのが難しい場面も少なくありません。
私たち「就労継続支援B型事業所オリーブ」は、まさにその「無理なく、自分のペースで」という働き方を実現できる場所です。オリーブは、大阪、兵庫、京都の関西エリアで、うつ病をはじめ、様々な障害のある方の「働きたい」という気持ちを、再発予防を第一に考えながらサポートしています。
雇用契約を結ばずに利用できるため、週1日・数時間からという、あなたの体調に合わせたスモールステップで社会参加を再開できます。軽作業やデータ入力などを通じて、生活リズムを整え、働くことへの自信を少しずつ取り戻しながら、「自分に合った働き方」を、支援員と共にじっくりと見つけていくことができます。
再発への不安を抱えながら、今後の働き方に悩んでいるご本人様、そしてそのご家族様、ぜひ一度オリーブにご相談ください。あなたの穏やかな毎日を支えるための、一つの選択肢がここにあります。