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うつ病の人との接し方|かけてはいけない言葉とかける言葉の具体例を解説

大切な家族、パートナー、友人、あるいは職場の同僚がうつ病になったとき、「力になってあげたいけれど、どう接すればいいかわからない」「どんな言葉をかければ、その人の支えになるのだろう」「良かれと思った一言で、かえって傷つけてしまったらどうしよう」と、深く戸惑い、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。良かれと思ってかけた励ましの言葉が、意図せず相手を追い詰めてしまうことがある。その一方で、あなたの何気ない一言や寄り添う姿勢が、相手の心をふっと軽くすることもあります。うつ病の人と接するときに最も大切なのは、病気について正しく理解し、相手を変えようとするのではなく、そのつらさに静かに寄り添う姿勢です。

この記事では、まずうつ病の基本的な症状を理解した上で、接する際の基本的な心構えを解説します。そして、「かけてはいけない言葉(NG例)」と「心を軽くする言葉(OK例)」を、なぜそうなのかという理由と共に具体的にご紹介します。この記事を最後まで読めば、あなたが明日から実践できる、具体的な関わり方のヒントがきっと見つかるはずです。あなたの優しい気持ちが正しく伝わり、大切な人の確かな支えとなるために、ぜひ参考にしてください。

接し方の前に|うつ病の症状を正しく理解する

適切な接し方を考える上で、まずうつ病がどのような病気なのかを正しく理解することが不可欠です。うつ病は「気の持ちよう」や「性格の問題」「甘え」などでは決してなく、脳内の神経伝達物質のバランスが崩れることなどによって、心と体の両方に様々なつらい症状があらわれる、脳のエネルギーが極度に欠乏した状態です。

気分の落ち込みなどの「精神症状」

うつ病の主な症状は、単に気分が落ち込むだけではありません。本人の意思ではコントロールできない、多様な精神症状があらわれます。

抑うつ気分:
何もかもが灰色に見えるような、深く、重い気分の落ち込みが一日中、ほとんど毎日続きます。

 

興味・喜びの喪失:
今まで楽しめていた趣味やテレビ番組、友人との会話などに、全く興味が湧かなくなります。何をやっても「楽しい」という感情が失われます(アンヘドニア)。

 

思考力・集中力の低下:
頭に霧がかかったように働かず、簡単な決断もできなくなります。本を読んでも同じ行を何度も読んでしまったり、話に集中できなかったりします。

 

強い罪悪感・無価値感:
「自分はダメな人間だ」「周りに迷惑ばかりかけている」と、根拠なく自分を過剰に責め続けます。

 

意欲の低下:
何をするのも億劫で、お風呂に入る、着替える、歯を磨くといった、ごく日常的なことさえできなくなります。ベッドから起き上がること自体が困難になることもあります。

 

これらの症状は、本人が「怠けている」わけでは決してありません。脳の機能が低下し、ポジティブな感情や思考、意欲を持つことが極めて困難になっている状態なのです。

不眠や疲労感などの「身体症状」

うつ病のサインは、心の不調だけでなく、体の不調としても顕著にあらわれます。むしろ、原因不明の体の不調が続いて内科などを受診し、そこで初めてうつ病の可能性を指摘されるケースも少なくありません。

睡眠障害:
なかなか寝付けない(入眠困難)、夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)、朝早く目が覚めてしまい、そこから眠れない(早朝覚醒)といった不眠が代表的です。逆に、一日10時間以上寝てしまう「過眠」の症状が出ることもあります。

 

全身の倦怠感・疲労感:
十分に寝ても全く疲れがとれず、体が鉛のように重く感じます。常に気力がなく、消耗しきっている感覚です。

 

食欲の変化:
食欲が全くなくなる(食欲不振)、何を食べても味がしない、または逆に、甘いものなどを過度に食べ過ぎてしまう(過食)ことがあります。

 

その他の症状:
原因不明の頭痛、肩こり、背中の痛み、動悸、息苦しさ、めまい、胃の不快感、便秘や下痢など、人によって様々な身体症状があらわれます。

 

これらの症状を理解することで、「なぜあんな行動をとるのだろう」「なぜ簡単なこともできないのだろう」という疑問が、「病気の症状だからなんだ」という理解に変わります。この理解こそが、大切な人に寄り添うための第一歩です。

うつ病の人と接するときの基本的な3つの心構え

うつ病の症状を理解した上で、実際にどのように接すればよいのでしょうか。ここでは、様々な場面で基本となる3つの心構えをご紹介します。

1. 励ますより「寄り添う」姿勢を大切にする

うつ病の人は、すでに見えないプレッシャーと戦い、自分を責め続けています。そんな中で「頑張れ」「しっかりしろ」と励まされると、「これ以上どう頑張ればいいんだ」「期待に応えられない自分は、やはりダメな人間だ」と、さらに自分を追い詰めてしまいます。大切なのは、何かをさせようとしたり、無理に元気づけようとしたりするのではなく、ただそばにいて、同じ時間を共有するという「寄り添う」姿勢です。問題を解決しようとしたり、性急に気分転換を勧めたりする必要はありません。ただ静かにそばにいてくれる味方がいる、というだけで、本人は「自分は一人ではない」という大きな安心感を得ることができます。

2. 安心して「休める環境」づくりをサポートする

うつ病の治療で最も重要なのは「休養」です。脳のエネルギーを再充電するためには、十分な休息が不可欠です。しかし、本人は真面目で責任感が強いことが多いため、「休んでいてはいけない」「周りに迷惑をかけている」という強い罪悪感から、心から休むことができずにいます。だからこそ、周りの人が「今は休むことが一番の仕事だよ」と伝え、本人が罪悪感なく休める環境を整えてあげることが、何よりのサポートになります。家事を代わってあげたり、電話や来客を断ってあげたり、静かに安心して過ごせる場所を確保したりと、物理的なサポートも大きな助けになります。本人が心置きなく「何もしない」という時間を持てるように、協力してあげましょう。

3. 本人の意思を尊重し「焦らせない」

うつ病からの回復のペースは、人それぞれです。良くなったり悪くなったりを繰り返しながら、薄紙を一枚ずつ剥がしていくように、ゆっくりと進んでいきます。周りが「いつになったら良くなるんだろう」と焦ると、その気持ちは必ず本人に伝わり、大きなプレッシャーとなります。「散歩にでも行ったら?」「少しは何かしてみたら?」といった、良かれと思っての提案も、本人にとっては「~しなければならない」という新たな負担に感じられます。本人の自発的な「~したい」という気持ちが芽生えるのを、辛抱強く待ちましょう。そして、もし本人が何かをしたいと言い出したら、その気持ちを尊重し、「いいね、でも無理しないでね」と声をかけ、できる範囲でサポートしてあげてください。また、思考力や判断力が低下しているため、退職や離婚、大きな買い物といった重大な決断は、症状が十分に回復するまで先延ばしにするよう、冷静に促すことも大切です。

【NG例】うつ病の人にかけてはいけない言葉

良かれと思ってかけた言葉が、意図せず相手を深く傷つけてしまうことがあります。ここでは、特に避けるべき言葉の具体例と、なぜそれがNGなのかという理由を詳しく解説します。

NGな言葉のタイプ 具体例 なぜNGなのか?
プレッシャーになる励まし 「頑張れ」「しっかりしろ」「元気を出して」「あなたならできる」 すでに本人は限界まで頑張っており、「これ以上頑張れない」と感じています。期待に応えられない自分を責め、無力感を強めてしまいます。
人格を否定・責める言葉 「甘えるな」「気の持ちようだ」「誰でもつらいことはある」「怠けているだけ」 うつ病は「甘え」や「弱い心」が原因ではなく、脳の機能障害という病気です。本人の苦しみを真っ向から否定し、人格を傷つけ、孤立感を深めます。
原因の詮索・安易なアドバイス 「何が原因なの?」「こうすればいいのに」「気分転換に旅行でも行ったら?」 原因を問い詰められると、本人は自分を責められているように感じます。また、簡単にできないから苦しんでいるのであり、安易なアドバイスは「自分のつらさを理解してもらえない」という絶望感につながります。
比較する言葉 「あの人はもっと大変だよ」「私だってつらい時もある」「前はできていたじゃない」 他人や過去の自分と比較されることで、「自分の苦しみは取るに足らないことだ」と感じ、自分の感情を押し殺してしまいます。本人のつらさを矮小化する行為です。

 

「頑張れ」といったプレッシャーになる励まし

これは最もよく使われがちで、最も注意が必要な言葉です。うつ病の人は、真面目で責任感が強い人が多く、病気になる前から常に全力で頑張ってきた結果、エネルギーが尽きてしまった状態です。そんな相手に「頑張れ」と言うのは、ガソリンが空っぽの車に「もっと速く走れ」と言うようなものです。励ましのつもりが、相手をさらに追い詰める凶器になりかねません。

「甘え」など人格を否定したり責めたりする言葉

「なぜできないんだ」「怠けているだけじゃないか」「気の持ちようでどうにかなる」といった言葉は、本人の苦しみを全く理解していないことを示す、最も残酷な言葉の一つです。うつ病は、脳のエネルギーが欠乏し、意欲や思考力が著しく低下する病気であり、本人の意思や根性ではどうにもなりません。このような言葉は、本人から最後の逃げ場である「病気だから仕方ないんだ」という自己肯定の拠り所さえ奪い、深く心を傷つけます。

原因を詮索したり安易にアドバイスしたりする言葉

「何か悩みがあるの?」「何が原因だと思う?」と原因を探ろうとすることも、本人にとっては尋問のように感じられ、自分を責める材料を探されているようなプレッシャーになります。また、「運動すれば良くなるよ」「ポジティブに考えなよ」といった一般的なアドバイスは、「それができれば苦労はしない」と本人を苛立たせ、「この人は何も分かってくれない」と心を閉ざさせてしまう原因になります。専門家でもない周りの人が、安易に解決策を示そうとするのは避けましょう。

【OK例】うつ病の人の心を軽くする言葉

では、どのような言葉をかければ、本人の支えになるのでしょうか。大切なのは、相手を評価したり変えようとしたりするのではなく、ただ受け入れ、寄り添う気持ちを言葉で伝えることです。

OKな言葉のタイプ 具体例 どのような効果があるか?
味方であることを伝える 「あなたの味方だからね」「つらかったね」「一人じゃないよ」「何もできなくても、そばにいるよ」 孤独感や孤立感を和らげ、「自分のことを分かってくれる人がいる」「存在しているだけでいいんだ」という深い安心感を与えます。
休むことを肯定する 「今はゆっくり休んでいいんだよ」「焦らなくていいからね」「休むのが一番の仕事だよ」 「休んではいけない」という罪悪感を軽減し、本人が安心して治療の基本である「休養」に専念できる環境を作ります。
いつでも話を聞く姿勢を示す 「話したくなったら、いつでも聞くからね」「無理に話さなくていいよ」「何かあった?」ではなく「どうしてる?」 無理に話させようとせず、本人が話したいタイミングを尊重する姿勢が伝わります。「見守ってくれている」という安心感につながります。
具体的な手助けを申し出る 「何か手伝えることはある?」よりも「買い物に行こうか?」「何か食べたいものある?」 「迷惑をかけたくない」と思っている本人にとって、具体的な申し出は助けを求めやすくなります。ただし、断られても気にしないことが大切です。

 

味方であることを伝え安心感を与える言葉

うつ病の人は、自分を責め、世の中から孤立しているように感じています。そんな時に、「私はあなたの味方だよ」というメッセージが伝わる言葉は、何よりの救いになります。「大変だったね」「つらかったでしょう」と、本人のこれまでの苦労をねぎらう言葉も有効ですし。ただ、過度な同情は相手が負担に感じることもあるため、「あなたは一人じゃない」と、客観的な事実として、ブレない姿勢でそばにいることを伝えることが大切です。

ゆっくり休むことを肯定する言葉

「休むことへの許可」を周りが言葉で与えてあげることは、非常に重要です。「何もしなくていいんだよ」「焦る必要はないからね」「今は、心と体を休めることが、あなたにとって最も大切な仕事だよ」という言葉は、本人の罪悪感を和らげ、「休んでもいいんだ」と自分を許すきっかけになります。治療に専念するための環境を、言葉で作ってあげるイメージです。

いつでも話を聞く姿勢を示す言葉

「話を聞くよ」と伝えることは大切ですが、無理に聞き出そうとするのは逆効果です。うつ病の時は、自分の気持ちを整理して話すこと自体が、大きなエネルギーを必要とします。「話したくなったら、いつでも聞くからね」と、主導権を相手に委ねる姿勢が、相手にプレッシャーを与えず、安心感につながります。そして、もし相手が話し始めたら、アドバイスや否定、遮りをせず、ただ相槌を打ちながら、最後までじっくりと耳を傾ける「傾聴」の姿勢を徹底しましょう。

回復後の社会復帰を支える就労サポート

十分な休養と治療を経て、本人の気力や体力が回復してきたら、社会復帰という次のステップが見えてきます。この段階でも、焦りは禁物であり、周りのサポートは非常に重要です。

本人の状態に合わせた働き方を一緒に考える

回復したからといって、すぐに以前と同じパフォーマンスで働けるわけではありません。再発を防ぐためには、本人の体力や集中力がどの程度回復しているかを見極め、無理のない範囲から仕事を始める「リハビリ出勤」のようなスモールステップを大切にすることが不可欠です。時短勤務や週3日勤務、業務内容の軽い部署への異動など、会社と相談しながら、負担の少ない形で復帰できるよう、家族からも働きかけることが有効な場合があります。また、本人が退職し、再就職を目指す場合には、どのような働き方が向いているか、本人の希望を聞きながら一緒に考えてあげましょう。

利用できる就労支援機関の情報を提供する

本人が再就職を目指す場合には、一人で活動させるのではなく、専門の支援機関の利用を勧めてみるのも良いサポートです。ハローワークの専門窓口、就労移行支援事業所、障害者就業・生活支援センターなど、うつ病の方の就職をサポートする公的な体制が整っています。これらの機関では、専門のスタッフが本人と面談し、適性や希望に合った職場探しから、応募書類の作成、面接練習、そして就職後の定着支援まで、手厚いサポートを提供してくれます。「こういう場所もあるみたいだよ」と情報提供するだけでも、本人の視野が広がり、安心材料になります。

大阪・兵庫・京都でご本人やご家族からの相談ならオリーブへ

うつ病の方との接し方に悩み、ご家族だけで抱え込んでしまうことは、ご家族自身の心身の疲弊にもつながりかねません。また、回復期にあるご本人が「いきなり社会復帰するのは不安だ」と感じ、次の一歩を踏み出せずにいることも少なくありません。

そんなときは、私たち「就労継続支援B型事業所オリーブ」にご相談ください。オリーブは、大阪、兵庫、京都の関西エリアで、うつ病をはじめとする様々な障害のある方の「働きたい」という気持ちを、その人らしいペースでサポートしています。

就労継続支援B型は、体調に合わせて週1日・数時間からでも始められる、社会復帰へのリハビリの場です。ご本人が安心して通える居場所となるだけでなく、今後の働き方について悩んでいるご家族からのご相談も心より歓迎しています。

「本人はどんな働き方が向いているだろうか」「社会との接点をどう作っていけばいいか」といったお悩みに、経験豊富なスタッフが親身に寄り添い、一緒に考えていきます。どうぞ、一人で抱え込まず、お気軽にお問い合わせください。

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