
うつ病の人がとる行動とは|周囲が気づく変化のサイン
うつ病のサインは、本人の内面的な気分の落ち込みだけでなく、「行動」として目に見える形で現れることが少なくありません。大切なのは「以前のその人と比べてどう変わったか」という視点です。ここでは、家庭と職場、それぞれの場面で見られる変化のサインを具体的に見ていきましょう。
家庭や私生活で見られる行動の変化
家族や親しい友人など、プライベートな時間を共にするからこそ気づける変化があります。日常生活の中に潜むサインは、本人の心の状態を映し出す鏡です。
【家庭・私生活でのサインの例】
- 口数が減り、会話を避けるようになる
- 今までおしゃべりだった人が、急に無口になったり、話しかけても「うん」「別に」といった短い返事しか返ってこなかったりします。これは、話すこと自体にエネルギーを使えなくなっている、あるいは「何を話しても無駄だ」という無力感の表れかもしれません。家族団らんの場を避け、自室に閉じこもりがちになります。
- 趣味や好きなことに興味を示さなくなる
- 以前は熱中していた趣味やテレビ番組、好きだった音楽や外出などに、全く関心を示さなくなります。「何もする気が起きない」「何も楽しくない」と、一日中ソファやベッドでぼーっと過ごす時間が増えます。これは、意欲や喜びを感じる脳の機能が低下しているサインです。
- 身だしなみを気にしなくなる
- 服装に構わなくなったり、何日もお風呂に入るのを面倒がったり、女性であればお化粧をしなくなったりと、外見を気にしなくなります。これは、自己肯定感が低下し、自分自身を大切にする気力が失われていることの表れです。部屋の掃除や片付けができなくなることもあります。
- 食生活の乱れ
- 食欲が極端になくなり、体重が著しく減少することがあります。逆に、つらい気持ちを紛らわすため、お菓子や特定のものを衝動的に大量に食べてしまう「過食」が見られることもあります。食生活の大きな変化は、心身のバランスが崩れている重要なサインです。
- 飲酒量が増える
- 眠れない、不安で仕方がないといった、つらい気持ちを一時的にでも麻痺させるために、お酒に頼ることが増えます。以前よりも明らかに飲む量や頻度が増えた場合、アルコール依存症につながる危険性もあり、注意が必要です。
- イライラして怒りっぽくなる
- ささいなことでカッとなったり、家族にきつく当たったりすることが増えます。これは、脳のエネルギー不足で感情のコントロールが効きにくくなっているためです。本人は後で「なぜあんなことを言ってしまったんだろう」と、激しい自己嫌悪に陥っていることも少なくありません。
- 決断できなくなる
- 夕食のメニューや買い物、着ていく服など、日常のささいな事柄を自分で決められなくなります。「どうしよう」「分からない」が口癖になり、何かを決めることから逃げようとします。これも、思考力や判断力が低下しているうつ病の症状の一つです。
職場で見られる行動や態度の変化
職場は、一日の多くの時間を過ごす場所です。仕事のパフォーマンスや同僚との関わり方の中に、不調のサインが現れることがあります。
【職場でのサインの例】
変化の種類 | 具体的な行動・態度の例 |
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勤怠の変化 |
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仕事の質の変化 |
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コミュニケーションの変化 |
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言動の変化 |
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これらのサインは、一つひとつは些細なことかもしれません。しかし、複数のサインが重なっていたり、以前のその人とは明らかに違う様子が2週間以上続いたりする場合は、専門家への相談を検討すべき重要なサインと言えるでしょう。
うつ病の基本的な治療方法
もし、大切な人がうつ病かもしれないと感じたら、治療について知っておくことも大きな支えになります。うつ病の治療は、主に「休養」「薬物療法」「精神療法」の3つを組み合わせて行われます。周りの人は、本人の回復ペースを尊重し、焦らせないことが何よりも大切です。
最も大切な治療は「十分な休養」
うつ病は、心と体のエネルギーが完全に枯渇してしまった、いわば「脳のガス欠状態」です。治療の基本であり、最も重要なのは、ストレスの原因から離れて、心と体をゆっくりと休ませることです。周りの人は「怠けている」「気合が足りない」などと誤解せず、「今は休むことが一番の仕事」と理解し、本人が安心して休める環境を整えてあげることが最大のサポートになります。
医師の指示のもとで行う「薬物療法」
脳内で不足したエネルギー(神経伝達物質の乱れ)を整えるために、抗うつ薬などが処方されることがあります。薬の効果が現れるまでには数週間かかる場合が多く、副作用が出ることもあります。大切なのは、自己判断で薬の量を調整したり、中断したりしないことです。症状が良くなったように感じても、それは薬が効いているからであり、脳が完全に回復したわけではありません。周りの人は、本人が医師の指示通りに服薬を続けられるよう、「お薬飲んだ?」と優しく声をかけるなど、見守ってあげることが助けになります。
考え方の癖を修正する「精神療法」
精神療法(カウンセリング)は、専門家との対話を通じて、うつ病の引き金になりやすい物事の捉え方や考え方の癖(例:「完璧でなければならない」「すべて自分のせいだ」など)に本人が気づき、より柔軟でバランスの取れた考え方ができるようにサポートする治療法です。「認知行動療法」などが代表的で、再発予防にも高い効果があるとされています。周囲の人はカウンセラーにはなれませんが、本人の話を否定せずに聞く「傾聴」を心がけることで、治療的な環境を支えることができます。
うつ病の治療中に利用できる経済的な支援制度
うつ病の治療には時間がかかり、休職や退職によって収入が減ってしまうことも少なくありません。経済的な不安は、治療への専念を妨げる大きな要因になります。日本には、そうした際に生活を支えてくれる公的な支援制度があります。
制度の名称 | 制度の概要 |
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傷病手当金 | 会社の健康保険に加入している人が、病気やケガで連続4日以上働けない場合に、給与のおおよそ3分の2が最長で通算1年6ヶ月間支給される制度。 |
障害年金 | 病気やケガによって生活や仕事が制限される場合に支給される年金。うつ病も対象となり、初診日から1年6ヶ月経過後などに申請可能。 |
自立支援医療(精神通院医療) | うつ病などの精神疾患で通院治療を続ける場合に、医療費の自己負担額が通常3割のところ、原則1割に軽減される制度。 |
休職中の生活を支える「傷病手当金」
会社員や公務員の方がうつ病で仕事を休む場合、まず検討したいのが傷病手当金です。これは、加入している健康保険から支給されるもので、休業中の生活保障の柱となります。申請には、本人、事業主、医師がそれぞれ記入する申請書が必要です。手続きについては、会社の総務や人事の担当者に確認しましょう。
長期療養が必要な場合の「障害年金」
障害年金は、病気やケガで初めて医師の診察を受けた日(初診日)から1年6ヶ月が経過した時点などで、日常生活や働くことに著しい制限を受けている場合に支給される可能性がある、現役世代でも受け取れる公的な年金制度です。受給するためには、初診日に国民年金または厚生年金に加入していることや、一定期間の保険料を納めていることなどの条件があります。手続きが複雑なため、年金事務所や社会保険労務士などの専門家に相談することをおすすめします。
医療費の自己負担を軽減する「自立支援医療」
うつ病の治療は、定期的な通院や薬代など、医療費の負担が長期にわたることがあります。自立支援医療(精神通院医療)は、そうした経済的な負担を軽くするための制度です。お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口で申請することができます。申請には医師の診断書が必要となりますので、まずは主治医に相談してみましょう。所得に応じて、月々の自己負担額に上限が設けられる場合もあります。
うつ病の悩みを相談できる窓口
本人の不調に気づいたとき、家族や周りの人も「どうすればいいのだろう」と一人で悩んでしまいがちです。しかし、本人だけでなく、家族からの相談を受け付けてくれる窓口も数多くあります。一人で抱え込まず、専門家の力を借りましょう。
地域の保健所・精神保健福祉センター
各都道府県や市区町村に設置されている公的な相談機関です。精神保健福祉士や保健師などの専門職が在籍しており、本人だけでなく、家族からの相談にも無料・匿名で応じてくれます。適切な医療機関の情報提供や、利用できる福祉サービスについての助言など、地域に根差したサポートを受けることができます。「本人をどう病院に連れて行けばいいか」といった具体的な悩みにも乗ってくれます。
精神科・心療内科などの医療機関
最も専門的な相談先は、やはり医療機関です。しかし、本人が「自分は病気じゃない」と受診を拒否する場合もあるでしょう。その際は、「怠けているから病院に行け」といった強制的な態度は、かえって本人を頑なにさせ、関係を悪化させます。「最近よく眠れていないみたいで、心配だから」「私も付き添うから、一度話を聞きに行ってみない?」と、寄り添う姿勢で誘うことが大切です。
電話で気軽に相談できる窓口
「どこに相談していいか分からない」「まずは匿名で話を聞いてほしい」という場合には、電話相談が有効です。
- こころの健康相談統一ダイヤル
- 全国の精神保健福祉センターにつながる公的な電話相談窓口です。
- いのちの電話
- 悩みを抱える人のための民間の相談窓口で、24時間体制で相談に応じています。
誰かに話を聞いてもらうだけでも、気持ちが整理され、楽になることがあります。一人で抱え込まず、こうした窓口を頼ってみてください。
仕事への復帰をサポートする福祉サービス
うつ病からの回復後、スムーズに社会復帰するためには、専門的なサポートを活用することが非常に有効です。
職場復帰を目指す「リワーク支援」
休職していた方が、元の職場へスムーズに戻るためのリハビリテーションプログラムが「リワーク支援」です。地域障害者職業センターや医療機関などで実施されています。オフィスに似た環境で、通勤訓練や集団でのコミュニケーション、ストレス対処法などを学び、再発を防ぎながら、安定して働き続けるための土台作りをします。
就職や働き続けるための就労移行支援・就労継続支援
退職して再就職を目指す場合や、フルタイムでの勤務に不安がある場合には、障害者総合支援法に基づく福祉サービスが力になります。
- 就労移行支援
- 一般企業への就職を目指す方が、職業訓練や職場探し、就職後の定着支援などを最長2年間受けられるサービスです。
- 就労継続支援(A型・B型)
- すぐに一般企業で働くのが難しい方が、支援を受けながら働き、工賃(給料)を得られるサービスです。A型は雇用契約を結び、B型は雇用契約を結ばずに利用します。
うつ病と向き合いながら自分のペースで働きたいあなたへ|就労継続支援B型事業所オリーブ
うつ病の治療を経て、社会とのつながりをもう一度持ちたいけれど、いきなり元のペースで働くのは不安。——そんなとき、無理なく自分のペースで次の一歩を踏み出せる場所があります。
私たち「就労継続支援B型事業所オリーブ」は、大阪、兵庫、京都、奈良の関西エリアで、うつ病をはじめ様々な障害や病気を抱える方々が、自分らしく働くためのお手伝いをしています。
就労継続支援B型は、雇用契約を結ばないため、週1日や1日数時間といったごく短い時間から利用を開始できます。「まずは生活リズムを整えたい」「安心して過ごせる居場所がほしい」そんなあなたの気持ちに寄り添い、データ入力や軽作業など、一人ひとりの体調や興味に合わせた仕事を提供します。
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