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強迫性障害(強迫症)とは?主な症状や原因・治療方法について解説

「家の鍵を閉めたか、何度も確認しないと気が済まない」「汚れや細菌が怖くて、一日に何十回も手を洗ってしまう」

このような、自分でも「やりすぎだ」「不合理だ」と分かっているのに、どうしてもやめられない考えや行動に悩まされていませんか。もし、そうした思考や行動が日常生活や仕事に大きな支障をきたしている場合、それは単なる心配性やきれい好きではなく、「強迫性障害(または強迫症)」という、治療によって改善が見込める心の病気かもしれません。

この記事では、強迫性障害の基本的な症状から、その原因、医療機関での診断や効果的な治療法、そして仕事と両立していくための具体的な対処法までを、分かりやすく解説していきます。一人で悩まず、正しい知識を身につけて、あなたらしい生活を取り戻すための一歩を踏み出しましょう。

強迫性障害(強迫症)とは?やめたくてもやめられない思考と行動の悪循環

強迫性障害(Obsessive-Compulsive Disorder: OCD)は、不安障害の一種に分類される精神疾患です。その中心的な症状は、「強迫観念」と「強迫行為」という2つの要素から成り立っています。この2つが繰り返されることで悪循環にはまり、自分の意思でコントロールできなくなることで、学業や仕事、人間関係といった日常生活の様々な側面に大きな影響が及ぶのが、この病気の特徴です。

頭から離れない不合理な考え「強迫観念」

強迫観念とは、自分の意思とは関係なく、頭の中に繰り返し浮かんできて、払いのけることができない不快な考えやイメージ、衝動のことです。ご本人も「そんなことはありえない」「馬鹿げている」と、その考えが非現実的で不合理であると分かっている場合が多いのが特徴です。しかし、分かっていてもその思考が頭から離れず、強い不安や恐怖、不快感に苛まれます。

【強迫観念の主なテーマ】

汚染・不潔:
自分や物が、細菌、ウイルス、汚れ、化学物質などに汚染されたのではないかという考え。「ドアノブを触った手が汚い」「他人の咳でウイルスが飛んできた」など。

 

加害:
自分の不注意や意図しない行動で、誰かを傷つけてしまうのではないかという恐怖。「車の運転中に人をひいてしまったかもしれない」「この包丁で家族を傷つけてしまうのではないか」など。

 

確認:
ドアの鍵、ガスの元栓、電気のスイッチなどを閉め忘れた、消し忘れたのではないかという、拭い去れない疑い。

 

対称・順序・正確性:
物が完璧に左右対称でなかったり、決まった順序で並んでいなかったりすると、何か悪いことが起こるのではないかという不安。物事を完璧に、間違いなく行わなければならないという強いこだわり。

 

性的・宗教的なタブー:
口にしてはいけないような、攻撃的・性的な考えや、神を冒涜するような考えが繰り返し浮かび、罪悪感に苛まれる。

 

不安を打ち消すために繰り返す「強迫行為」

強迫行為とは、強迫観念によって引き起こされる強い不安を打ち消したり、和らげたりするために行う、繰り返しのかたよった行動のことです。その行為をすることで一時的に不安は和らぎますが、効果は長続きしません。そのため、確かな安心感を得るために、どんどん行為がエスカレートし、長時間それに費やしてしまうようになります。ご本人も「こんなことはやめたいのに、やめられない」と、その行為自体に強い苦痛を感じ、心身ともに疲れ果ててしまいます。

強迫性障害の主な症状の具体例

強迫観念と強迫行為は、セットで現れることがほとんどです。ここでは、代表的な症状の具体例をタイプ別にご紹介します。

症状のタイプ 強迫観念(こんな考えが浮かぶ) 強迫行為(こんな行動を繰り返す)
不潔恐怖・洗浄強迫 「ドアノブを触った手がウイルスで汚染された」
「誰かの咳で病原菌が飛んできた」
何時間もかけて手を洗い続ける
アルコールで身の回りのものを過剰に消毒する
お風呂に何時間も入る
確認強迫 「鍵を閉め忘れたかもしれない」
「メールで失礼なことを書いてしまったかも」
家を出た後、何度も戻って施錠を確認する
送信済みのメールを何十回も見直す
コンロの火が消えているか、何度も指差し確認する
加害恐怖 「車の運転中に、気づかずに人をひいてしまったかもしれない」
「自分のせいで、家族に不幸が起こるのではないか」
同じ道を何度も車で往復して確認する
ニュースで事件が起きていないか執拗にチェックする
包丁などの刃物を極端に避ける、隠す
順序・対称へのこだわり 「机の上の本が少しでも曲がっているのが、耐えられないほど気持ち悪い」 物の配置や角度をミリ単位で完璧に揃えようと、延々と時間を費やす
特定の順番で服を着ないと、一日中落ち着かない
儀式行為 「頭の中で特定の数字を3回数えないと、不幸が起こる」 心の中で特定の儀式的な手順を繰り返す
外出する際、決まった手順でしか行動できない
特定の言葉を繰り返す

 

強迫性障害の原因は?脳の機能的な問題などが関係

強迫性障害は、決して「性格の問題」や「育て方のせい」ではありません。現在、その原因は完全には解明されていませんが、複数の要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。脳の機能的な問題:特定の神経回路(特に、眼窩前頭皮質、線条体、視床などを結ぶ回路)の活動が過剰になり、情報の伝達がうまくいかなくなることが、強迫観念や強迫行為の発生に関係しているという説が有力です。これにより、「もう十分だ」という安心感や完了感が得られにくくなっていると考えられています。

遺伝的な要因:家族や親族に強迫性障害の方がいる場合、いない場合と比べて発症しやすい傾向があることが報告されており、何らかの遺伝的要因が関わっていると考えられています。心理的・環境的要因:大きなストレスや、妊娠・出産、あるいは連鎖球菌感染症などの感染症が、発症のきっかけとなる可能性も指摘されています。このように、本人の意思ではコントロールできない、脳機能の問題などが背景にある病気であるという理解が重要です。

強迫性障害の診断基準と受診の目安

「もしかして、自分は強迫性障害かもしれない」と思ったら、どこに相談し、どのように診断されるのでしょうか。

専門医による国際的な診断基準

強迫性障害の診断は、精神科や心療内科の専門医によって行われます。診断は、血液検査や画像検査などで行うのではなく、アメリカ精神医学会の「DSM-5」などの国際的な診断基準に基づいて、丁寧な問診を通じて行われます。医師は、以下のような点について詳しく話を聞き、総合的に判断します。

    • 強迫観念、強迫行為、またはその両方が存在するか
    • それらがご本人にとって大きな苦痛を与えているか
    • それらの症状に、1日に1時間以上など、多くの時間を費やしているか
    • その症状によって、日常生活や社会生活(仕事、学業、家庭生活など)に重大な支障が出ているか

 

日常生活に支障が出たら専門家へ相談を

強迫的な思考や行動は、程度の差こそあれ、誰にでもあるものです。「心配性」や「きれい好き」「げん担ぎ」と、病気である「強迫性障害」との境界線はどこにあるのでしょうか。受診を考えるべき一番の目安は、「その症状によって、あなた自身が強く苦しんでおり、日常生活や社会生活に支障が出ているかどうか」です。

    • 強迫行為に時間を取られ、仕事や学校に遅刻する、約束の時間に間に合わない。
    • 確認行為をやめられず、一つの作業がなかなか終わらず、仕事の能率が著しく落ちている。
    • 汚れを気にするあまり、外出したり、人と会ったりすることができなくなった。
    • 家族を強迫行為(「これも洗って」「大丈夫か確認して」など)に巻き込んでしまい、人間関係が悪化している。
    • 症状のことで頭がいっぱいで、心身ともに疲れ果ててしまっている。

 

このような状態であれば、それは単なる性格の問題ではありません。できるだけ早く専門医に相談することをお勧めします。

強迫性障害の主な治療方法

強迫性障害は、根性や意志の力で治すものではなく、適切な治療によって症状を大きく改善させることができる病気です。主な治療法には、「認知行動療法」と「薬物療法」があり、この2つを組み合わせて行うのが一般的で、最も効果的とされています。

認知行動療法(曝露反応妨害法:ERP)

強迫性障害の治療において、最も効果的とされる心理療法が、認知行動療法の一種である「曝露反応妨害法(ばくろはんのうぼうがいほう)」です。英語ではExposure and Response Preventionと呼び、略して「ERP」とも言われます。これは、あえて不安な状況に身をさらし(曝露)、そこでいつも行っている強迫行為を「やらずに我慢する」(反応妨害)という練習を繰り返す治療法です。

曝露(Exposure):
不安や恐怖を感じる対象に、あえて直面します。(例:汚れが気になるドアノブに、わざと触れる)

 

反応妨害(Response Prevention):
不安を打ち消すために行っていた強迫行為を、意識的に行わないようにします。(例:ドアノブに触れた後、すぐに手を洗わずに我慢する)

 

最初は非常に強い不安を感じますが、強迫行為をせずにいると、不安は時間とともに自然に下がっていくことを体験的に学びます。「不安は永遠には続かない」ということを、脳と体で実感するのです。この練習を、セラピストのサポートのもとで、不安の低いものから段階的に繰り返すことで、「強迫行為をしなくても大丈夫だ」という自信がつき、強迫観念と強迫行為の悪循環を断ち切っていくことができます。

不安を和らげるための薬物療法

薬物療法では、主に「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」と呼ばれる種類の抗うつ薬が用いられます。セロトニンは、不安や気分の安定に関わる脳内の神経伝達物質で、SSRIはこのセロトニンの働きを調整することで、強迫観念の強さや、強迫行為をしたいという衝動を和らげる効果が期待できます。

薬を飲むだけですぐに症状が消えるわけではありませんが、不安を和らげることで、認知行動療法(ERP)にも取り組みやすくなるという大きなメリットがあります。効果が出るまでには数週間から数ヶ月かかり、うつ病の治療よりも高用量が必要になる場合があります。医師の指示に従って、根気強く服用を続けることが大切です。

強迫性障害と仕事|うまく付き合うための対処法

強迫性障害の症状は、確認行為に時間がかかったり、集中力が削がれたりするため、仕事のパフォーマンスに直接影響することが少なくありません。ここでは、症状とうまく付き合いながら働き続けるための具体的な対処法をご紹介します。

自分でできるセルフケアと環境調整

まずは、ご自身で取り組めるセルフケアが大切です。

ストレスマネジメント:
十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動を心がけ、ストレスを溜めない生活を送ることが症状の安定につながります。

 

症状の記録:
どのような状況で強迫観念が強くなるか、どんな行動をしてしまうかを記録する「症状日記」をつけると、自分のパターンを客観的に把握し、対策を立てやすくなります。

 

タスクの細分化とチェックリストの活用:
大きな仕事は、細かなステップに分解してリスト化することで、確認行為の負担を減らし、「やり遂げた」という達成感を得やすくします。

 

職場で受けられる合理的配慮

症状によって業務に支障がある場合は、職場に「合理的配慮」を求めることができます。これは、障害者雇用促進法で定められた、事業主の義務です。

【強迫性障害に関する合理的配慮の例】

確認行為への配慮:
ミスが許されない業務でのチェックリストの使用を許可してもらう、同僚とのダブルチェックの体制を組んでもらうなど。

 

洗浄強迫への配慮:
デスクに消毒液を置くことを許可してもらう、手洗いのための離席に理解を求めるなど。

 

時間への配慮:
儀式行為などで業務開始に時間がかかる場合、フレックスタイム制度の利用を認めてもらうなど。

 

指示の明確化:
あいまいな指示を避け、具体的な手順や期限を、メモなどの書面で伝えてもらう。

 

これらの配慮を求める際は、単に「できません」と伝えるのではなく、「〇〇という症状のため△△が困難です。つきましては□□のようにご配慮いただけると助かります」と、具体的に伝えることが重要です。

休職や職場復帰を支える専門機関の活用

症状が悪化し、働くことが困難になった場合は、無理をせず休職することも大切な選択です。その際は、職場復帰をサポートする「リワーク支援」などの専門機関を活用できます。また、再就職を目指す際には、ハローワークの専門援助部門や、障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所などが力になってくれます。

強迫性障害の悩みや働きづらさは「就労継続支援B型事業所オリーブ」へ

強迫性障害の症状と付き合いながら、一般企業で働き続けることに、大きな困難や疲れを感じていませんか。「症状への理解が得られない」「自分のペースで仕事を進められない」「決まった時間やペースで働くのがつらい」と感じることもあるでしょう。

もしあなたが、もっと自分のペースを大切にできる、安心できる環境で働きたいと願うなら、就労継続支援B型事業所オリーブという選択肢があります。

オリーブは、雇用契約を結ばず、あなたの体調や特性を最優先に、週に1日、1日2時間といった短時間からでも無理なく働ける場所です。強迫性障害への深い理解を持つスタッフが、あなたが安心して作業に集中できるよう、環境調整やコミュニケーションの工夫を惜しみません。

決まった手順でコツコツと進める軽作業は、強迫性障害の特性と親和性が高い場合もあります。オリーブで働くことを通じて、まずは生活リズムを整え、「自分にもできる」という自信を取り戻すことから始めてみませんか。

関西エリア(大阪、兵庫、京都、奈良)で、あなたらしい働き方を探しているなら、ぜひ一度、オリーブに見学・ご相談ください。

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