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ナルコレプシーとは?主な症状や原因・治療法についてわかりやすく解説

「夜に十分寝ているはずなのに、昼間に耐えられないほどの眠気に襲われる」「大事な会議中や食事中に、突然眠り込んでしまう」
そんな経験に、長年悩んでいませんか。それは単なる寝不足や怠けではなく、「ナルコレプシー」という睡眠障害が原因かもしれません。
ナルコレプシーは、本人の意思とは関係なく、日中に強い眠気が繰り返し起こる病気です。しかし、その特殊な症状から、周りの人に「やる気がない」「だらしない」といった誤解を受け、一人で苦しんでいる方が少なくありません。この記事では、ナルコレプシーの代表的な4つの症状や、その原因、そして専門的な診断・治療法について、分かりやすく解説します。さらに、仕事と病気を両立させるための具体的な工夫についてもご紹介します。ナルコレプシーは、正しく理解し、適切に対処することで、症状をコントロールし、自分らしい社会生活を送ることが可能です。この記事が、あなたの悩みを解決するための第一歩となることを願っています。
ナルコレプシーとは|日中に強い眠気を繰り返す慢性的な睡眠障害
ナルコレプシーとは、睡眠と覚醒を切り替える脳の機能に異常が生じることで起こる、慢性の神経疾患です。夜間に十分な睡眠をとっていても、日中に突然、耐えがたいほどの強い眠気に襲われることを主な症状とします。この眠気は、本人の気合や意志の力ではどうにもならない、抗いがたいものです。重要な会議中、食事中、友人との会話中など、通常では考えられないような状況でも、数分から数十分程度の眠り(睡眠発作)に落ちてしまいます。有病率は、国や人種によって差がありますが、日本では約600人に1人と推定されており、決して珍しい病気ではありません。多くは、思春期にあたる10代で発症することが多いと言われています。周囲からは「居眠り病」と誤解されがちですが、夜間の睡眠も妨げられることが多く、学業や仕事、人間関係など、生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼす睡眠障害の一つです。
ナルコレプシーの4つの主な症状(四主徴)
ナルコレプシーの症状は、日中の強い眠気だけではありません。特徴的な4つの症状があり、これらは「四主徴(ししゅちょう)」と呼ばれています。ただし、4つすべての症状が必ず現れるとは限らず、日中の眠気だけが認められるケースもあります。
1. 睡眠発作|時間や場所を選ばず突然眠ってしまう
ナルコレプシーの中核となる症状です。時間や状況に関係なく、突然、我慢できないほどの強烈な眠気に襲われ、居眠りしてしまいます。この眠りは通常数分から15分程度で、目覚めた直後は一時的に頭がすっきりとした爽快感が得られるのが特徴です。しかし、1〜2時間もすると、また強い眠気が襲ってきます。この予期せぬ睡眠発作が、日常生活や社会生活における最も大きな支障となります。
2. 情動脱力発作(カタプレキシー)|感情が高ぶると体の力が抜ける
ナルコレプシーに非常に特徴的な症状で、「カタプレキシー」とも呼ばれます。大笑いしたり、激しく怒ったり、喜びや驚きを感じたりと、感情が大きく動いたときに、突然、体の筋肉の力が抜けてしまう発作です。症状の程度は様々で、膝の力が抜けてカクンと崩れ落ちる、ろれつが回らなくなる、持っているものを落とすといった部分的なものから、全身の力が抜けてその場に倒れ込んでしまう重度のものまであります。発作中も意識ははっきりしているのが特徴です。この症状があるかないかで、ナルコレプシーは「情動脱力発作を伴うナルコレプシー(1型)」と「伴わないナルコレプシー(2型)」に分類されます。
3. 睡眠麻痺|いわゆる「金縛り」のこと
一般的に「金縛り」として知られている現象です。眠りに入る時や、目覚めた直後に、意識ははっきりしているのに、体を全く動かすことができない状態を指します。数秒から数分間続くことが多く、声を出そうとしても出せないため、強い恐怖感や不安感を伴います。健康な人でも一生に数回は経験することがありますが、ナルコレプシーの人は、この睡眠麻痺を頻繁に経験する傾向があります。
4. 入眠時幻覚|寝入りばなに見るリアルな夢
眠りに入る時に、非常に鮮明で生々しい、現実と見分けがつかないような夢(幻覚)を見ることです。誰かが部屋にいるように感じたり、虫が体を這うように感じたり、体に触られているように感じたりと、内容は様々で、しばしば恐怖感を伴います。前述の睡眠麻痺と同時に起こることもあり、非常に強い不安を感じる原因となります。
ナルコレプシーの原因は脳内の「オレキシン」不足
なぜ、ナルコレプシーは起こるのでしょうか。近年の研究により、その原因は脳内で覚醒を維持する役割を持つ神経伝達物質「オレキシン(ヒポクレチン)」の不足にあることが分かってきました。オレキシンは、脳の視床下部という場所で作られ、「起きている状態」を安定させる、いわば覚醒システムの司令塔のような働きを担っています。
しかし、何らかの原因で、このオレキシンを作り出す神経細胞が壊れてしまい、脳内のオレキシンが著しく減少、あるいは欠乏することで、覚醒状態をうまく維持できなくなります。その結果、日中の強い眠気(睡眠発作)や、覚醒と睡眠の境界が曖昧になることで起こる情動脱力発作などの様々な症状が現れると考えられています。
特に、情動脱力発作を伴う1型のナルコレプシーでは、脳脊髄液中のオレキシン濃度が測定できないレベルまで低下していることが確認されています。なぜオレキシン神経細胞が壊れてしまうのか、その根本的な原因はまだ完全には解明されていませんが、インフルエンザウイルス感染などをきっかけに、免疫システムが誤って自身のオレキシン神経細胞を攻撃してしまう「自己免疫疾患」ではないか、という説が有力視されています。
ナルコレプシーの診断と受診すべき科
ナルコレプシーの診断は、丁寧な問診と、客観的なデータを得るための専門的な検査を組み合わせて、慎重に行われます。
睡眠に関する専門的な検査で診断する
ナルコレプシーの確定診断には、客観的に睡眠の状態を評価するための専門的な検査が不可欠です。
- 終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG):
- 一晩、専門の医療機関に宿泊し、脳波や眼球の動き、心電図、呼吸の状態、筋肉の動きなどを多数の電極を装着して記録する検査です。夜間の睡眠の質や、睡眠中に他の病気(睡眠時無呼吸症候群など)が隠れていないかを詳しく調べます。
- 反復睡眠潜時検査(MSLT):
- PSG検査の翌日に行われる、日中の眠気の強さを客観的に評価するための検査です。2時間おきに4〜5回、暗く静かな部屋で昼寝の機会が設けられ、脳波を測定しながら寝つくまでの平均時間(平均睡眠潜時)を測定します。ナルコレプシーの人は、健康な人に比べて、非常に短い時間で眠りにつく傾向があります。
これらの検査結果と、問診で確認された症状(睡眠発作や情動脱力発作の有無など)を総合的に評価して、最終的な診断が下されます。
ナルコレプシーに似た他の病気との違い
日中に強い眠気を引き起こす病気は、ナルコレプシーだけではありません。診断の際には、以下のような病気との鑑別が重要となります。
- 特発性過眠症:
- 夜間に十分な睡眠をとっても、日中に強い眠気がある点はナルコレプシーと似ていますが、居眠り後の爽快感がなく、目覚めが非常に悪いのが特徴です。情動脱力発作は見られません。
- 睡眠時無呼吸症候群:
- 睡眠中に何度も呼吸が止まることで、夜間の睡眠の質が著しく低下し、日中に強い眠気を引き起こします。PSG検査で診断が可能です。
- うつ病などの精神疾患:
- うつ病や双極性障害の症状として、過眠が見られることがあります。気分の落ち込みや意欲の低下など、他の精神症状の有無を慎重に見極める必要があります。
何科を受診すべきか|精神科や睡眠外来へ
ナルコレプシーが疑われる場合、相談すべき診療科は、精神科、神経内科、あるいは「睡眠外来」「睡眠クリニック」などの専門外来です。特に、睡眠に関する専門的な検査(PSGやMSLT)は、実施できる医療機関が限られているため、事前にウェブサイトなどで確認するか、かかりつけ医に相談して、適切な専門医療機関を紹介してもらうのが良いでしょう。
ナルコレプシーの主な治療方法
ナルコレプシーを根本的に治す治療法は、現在のところまだ確立されていません。しかし、適切な治療によって、症状をコントロールし、日常生活への支障を大きく軽減させることが可能です。
規則正しい生活など生活環境の調整
治療の基本となるのが、生活習慣の見直しです。規則正しい生活は、睡眠と覚醒のリズムを整える上で非常に重要です。
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- 毎日、決まった時間に就寝・起床する。
- 夜間の睡眠時間を十分に確保する(7〜8時間を目安に)。
- 計画的に昼寝(仮眠)を取り入れる(後述)。
- 就寝前のカフェイン摂取や飲酒、激しい運動、スマートフォンの使用などは避ける。
こうしたセルフケアを徹底するだけでも、日中の眠気をある程度コントロールしやすくなります。
日中の眠気などをコントロールする薬物療法
生活習慣の改善と並行して、症状をコントロールするための薬物療法が行われます。個々の症状に合わせて、以下のような薬が処方されます。
- 精神刺激薬(中枢神経刺激薬):
- 日中の強い眠気(睡眠発作)を改善し、覚醒レベルを維持するために用いられます。
- 抗うつ薬など:
- 情動脱力発作や睡眠麻痺、入眠時幻覚といった、レム睡眠(浅い眠り)に深く関連する症状を抑えるために、特定の種類の抗うつ薬などが有効とされています。
これらの薬は、医師の指導のもと、用法・用量を守って正しく服用することが極めて重要です。
ナルコレプシーと仕事|上手く付き合うための工夫
ナルコレプシーを抱えながら、仕事を続ける上で最も重要なのは、病気と上手く付き合い、必要な配慮を得ることです。
職場に症状を伝えて理解と協力を得る
ナルコレプシーの症状は、外見からは分かりにくいため、周囲から「怠けている」「緊張感がない」と誤解されがちです。可能であれば、信頼できる上司や人事担当者に、ご自身の病状について説明し、理解と協力を求めることが、安定して働き続けるための第一歩です。医師に、病状や働く上で必要な配慮について記載した診断書や意見書を作成してもらい、それを基に説明するのも有効です。具体的に、どのような場面で、どのような症状が出て、どんな配慮があれば働きやすくなるのかを伝えることが大切です。
計画的に仮眠をとる(戦略的仮眠)
ナルコレプシーの方が、日中の眠気をコントロールするための最も有効なセルフケアが、計画的な仮眠(戦略的仮眠)です。強い眠気に襲われて仕事が手につかなくなる前に、昼休みなどを利用して15〜20分程度の短い仮眠をとることで、その後の数時間の覚醒レベルを維持し、パフォーマンスの低下を防ぐことができます。職場に仮眠をとれる休憩室や医務室などがあれば、事前に利用の許可を得ておきましょう。難しい場合でも、自席で机に突っ伏して短時間目をつむるだけでも、一定の効果が期待できます。
ナルコレプシーと向き合いながら働きたいあなたへ|就労継続支援B型事業所オリーブ
ナルコレプシーの症状は、薬や工夫である程度コントロールできるとはいえ、一般的な企業で、毎日決まった時間に、集中力を維持して働き続けることに困難を感じる方も少なくありません。特に、計画的な仮眠をとることへの理解が得られにくい職場環境では、能力を十分に発揮することが難しくなります。「自分の体調に合わせて、柔軟に働ける場所はないだろうか」「仮眠などの必要な配慮を気兼ねなく受けられる環境で働きたい」
もしあなたがそう感じているなら、私たち「就労継続支援B型事業所オリーブ」が、その願いを叶える場所になるかもしれません。オリーブは、大阪、兵庫、京都、奈良の関西エリアで、ナルコレプシーをはじめ様々な障害のある方の「働きたい」という気持ちをサポートしています。就労継続支援B型は、雇用契約を結ばずに利用できる福祉サービスなので、あなたの体調や通院、そして計画的な仮眠の必要性などを最優先した、柔軟な働き方が可能です。
週1日・数時間からの利用もでき、体調が優れない日には無理なく休むことができます。PCを使ったデータ入力や軽作業など、一人ひとりの特性に合わせた仕事を通じて、働く自信と生活のリズムを、あなたのペースで取り戻していくことができます。ナルコレプシーと向き合いながら、自分らしく、安心して働ける場所がここにあります。ご興味のある方は、ぜひ一度、見学・相談にお越しください。