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解離性同一性障害(解離性同一症)とは?症状や原因・治療法や接し方を解説

「自分の中に、まるで別人のような自分がいる感覚がある」「気づくと時間が過ぎていて、その間の記憶が全くない」…。

もしあなたがこのような経験に悩み、自分がおかしくなってしまったのではないかと一人で苦しんでいるのなら、それは「解離性同一性障害(解離性同一症)」という心の状態が影響しているのかもしれません。この障害は、かつて「多重人格障害」とも呼ばれ、メディアなどの影響で誤解や偏見にさらされやすいものでした。しかし、その本質は、耐えがたいほどつらい体験から、必死で自分の心を守ろうとした結果生じる、懸命な心の防衛反応なのです。

この記事では、解離性同一性障害(解離性同一症)とは何か、その症状や原因、そして回復に向けた治療法や周りの人の接し方について、専門的な情報を基に、できる限り分かりやすく解説します。この記事が、あなたの抱える不安を少しでも和らげ、自分自身を理解し、未来への一歩を踏み出すための光となることを願っています。

解離性同一性障害(解離性同一症)とは

解離性同一性障害は、国際的に使用されている米国の診断基準『DSM-5』では「解離性同一症」という名称で記載されています。これは、心の状態を固定的な「障害」ではなく、連続性のある「症状」として捉える近年の考え方に基づいています。本記事では、より一般的に知られている「解離性同一性障害」という言葉も併記して解説を進めます。この障害の最も大きな特徴は、一人の人間の中に、それぞれが独立した意識や記憶、人格(パーソナリティ)を持つ複数の「自我状態」が形成されることにあります。

つらい記憶から心を守る「解離」という防衛反応

解離性同一性障害を理解するためには、まず「解離」という心の働きについて知る必要があります。「解離」とは、本来ひとつに統合されているはずの意識、記憶、感情、知覚、アイデンティティ(自分が自分であるという感覚)などが、一時的に切り離された状態になることです。実は、解離自体は誰にでも起こりうる、ごく自然な心の働きです。

例えば、以下のような経験はないでしょうか。

    • 映画や読書に夢中になり、周りの音が全く聞こえなくなる
    • 長時間、車の運転をしていて、「どうやってここまで来たかあまり覚えていない」と感じる
    • 強い衝撃を受けた時、まるで他人事のように冷静に感じられる

 

これらは軽度な解離であり、日常生活における正常な反応です。この解離という働きは、つらく耐えがたい現実に直面した際に、その感情や記憶を一時的に切り離して、心が壊れてしまわないように守る「安全装置(防衛反応)」としての役割を持っています。しかし、この安全装置が過剰に、そして慢性的に作動し続け、日常生活に深刻な支障をきたすようになった状態が「解離性障害」です。そして、その中でも特に重い症状を示すのが、解離性同一性障害(解離性同一症)なのです。

主な症状|複数の自我状態の存在や記憶喪失

解離性同一性障害(解離性同一症)の症状は多岐にわたり、他の精神疾患と間違われることも少なくありません。ここでは、中心となる症状と、それに伴う様々な症状について解説します。

【中心的な症状】

同一性の混乱(複数の自我状態の存在):
本人の中に、2つ以上の明確に区別される自我状態(別人格)が存在します。これらの人格は「交代人格」とも呼ばれ、それぞれが独自の年齢、性別、性格、記憶、好み、能力を持っていることがあります。普段おとなしい人が、突然攻撃的になったり、子どものような話し方をしたりするなど、行動や言動が大きく変化します。本人は、自分の中にいる別の人格の存在に気づいている場合もあれば、全く気づいていない場合もあります。

 

記憶喪失(健忘):
特定の人が現れている間の出来事を、別の人格が思い出せないという「記憶の壁」が生じます。日常生活の出来事(昨日何を食べたかなど)や、自分の名前や経歴といった重要な個人情報、そして原因となったトラウマ体験などを思い出すことができません。「気づいたら知らない場所にいた」「買った覚えのないものが部屋にある」といった経験は、この記憶喪失によるものです。

 

【その他の主な症状】

症状の種類 具体的な内容
離人感・現実感喪失 ・自分が自分ではないような、自分の心や体から離れて外から眺めているような感覚(離人感)
・周りの人や世界が、まるで映画や夢のように現実味なく感じられる感覚(現実感喪失)
フラッシュバック トラウマとなった出来事を、今まさに再体験しているかのように、感覚や感情が生々しく蘇る。
身体症状 原因不明の頭痛、腹痛、けいれん、知覚の麻痺など、身体的な症状として現れることがある。
精神症状 ・うつ状態、気分の落ち込み
・強い不安感、パニック発作
・希死念慮、自傷行為
・不眠、悪夢
・摂食障害

これらの症状は、本人の意思でコントロールできるものではなく、日常生活や社会生活を送る上で大きな困難をもたらします。

解離性同一性障害の原因|幼少期のつらい体験が影響

解離性同一性障害(解離性同一症)が発症する背景には、極めて深刻な要因が存在します。現在、最も有力な原因と考えられているのは、自我が発達する途上にある幼少期(特に9歳くらいまで)に、繰り返し、長期にわたって受けたつらい体験、すなわち「心的外傷(トラウマ)」です。

具体的には、以下のような体験が挙げられます。

    • 身体的・精神的・性的虐待
    • ネグレクト(育児放棄)
    • 親しい人との死別や離別
    • 大きな災害や事故
    • いじめ

 

まだ心が未熟な子どもにとって、こうした体験は到底受け止めきれるものではありません。その耐えがたい苦痛や恐怖から逃れるため、子どもは無意識のうちに「解離」という心の安全装置を使います。

「こんなにつらい目に遭っているのは、本当の自分ではない」「別の誰かが代わりに体験してくれている」このように、感情や記憶を切り離し、別の「人格」に引き受けさせることで、子どもは自分の心を守り、生き延びようとします。これは、その過酷な状況を生き抜くために編み出された、非常に創造的で懸命な「生き残り戦略」なのです。決して本人が弱いから、おかしいから発症するものではありません。

解離性同一性障害の診断|専門家による慎重な見極めが必要

解離性同一性障害(解離性同一症)の診断は、非常に専門的で、慎重な見極めが求められます。症状がうつ病や統合失調症、境界性パーソナリティ障害など、他の精神疾患と似ている部分も多く、正確な診断に至るまでには長い時間がかかることも少なくありません。診断は、精神科医が国際的な診断基準(米国のDSM-5やWHOのICD-11など)に基づいて行います。

【診断プロセス】

    • 詳細な問診:本人の現在の症状、生育歴、過去のトラウマ体験の有無などについて、時間をかけて丁寧に話を聞きます。
    • 心理検査:質問紙や投影法などの心理検査を用いて、人格の状態や解離の程度を客観的に評価します。
    • 他の疾患との鑑別:症状が他の精神疾患や、薬物、てんかんなどの身体疾患によるものでないかを慎重に判断します。

 

「自分は解離性同一性障害かもしれない」と思っても、決して自己判断はせず、まずは精神科や心療内科の専門医に相談することが極めて重要です。信頼できる医師と出会い、時間をかけて自分自身の状態を理解していくことが、回復への第一歩となります。

解離性同一性障害の主な治療方法

解離性同一性障害(解離性同一症)の治療は、時間をかけて根気強く進めていく必要があります。治療の最終的な目標は、バラバラになった人格を一つに「統合」することを目指す場合もありますが、それは唯一のゴールではありません。まずは、複数の人格がお互いの存在を認め、協力し合いながら、本人が安定した社会生活を送れるようになることが、現実的で重要な目標となります。治療は、以下の3つを柱として、段階的に進められます。

第1段階:安全な環境の確保(環境調整)

治療を始める上での大前提であり、最も重要なのが「安全の確保」です。現在もトラウマの原因となるような環境(虐待など)に身を置いている場合は、まずそこから離れ、物理的・心理的に安心できる場所を確保することが最優先されます。安心できる環境とは、心と体を脅かされる心配がなく、「自分はここにいても大丈夫だ」と感じられる場所のことです。この安全基地があって初めて、本格的な治療へと進むことができます。

第2段階:治療の中心となる心理療法(カウンセリング)

解離性同一性障害の治療の核となるのが、専門家(医師や公認心理師・臨床心理士)との対話を通じて行われる心理療法です。治療は一般的に、以下の3つのフェーズを踏んで進められます。

治療フェーズ 主な内容と目標
フェーズ1:安定化と症状のコントロール ・治療者との間に安全で信頼できる関係を築く
・日常生活を脅かす症状(自傷行為、パニックなど)をコントロールする方法を学ぶ
・各交代人格とのコミュニケーションを図り、協力関係の土台を作る
フェーズ2:トラウマ記憶の処理 ・十分に安定した状態で、トラウマとなった過去の出来事と向き合い、その記憶を処理していく
・EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)などの専門的な技法が用いられることもある
※この段階は、強い苦痛を伴うため、慎重に進められる
フェーズ3:統合とリハビリテーション ・処理された記憶を自分自身の人生の物語として受け入れ、人格間の協調や統合を目指す
・新しい対人関係の築き方や社会生活のスキルを身につけ、未来に向けた人生を再構築していく

このプロセス全体を通して、治療者との揺るぎない信頼関係が何よりも大切になります。

第3段階:不安などの症状を和らげる薬物療法

現時点で、解離性同一性障害そのものを根本的に治す薬は存在しません。しかし、多くの患者さんが併せ持つ、つらい症状を和らげる目的で、薬物療法が補助的に用いられることがあります。

例えば、以下のような症状に対して薬が処方されます。

    • 気分の落ち込み、うつ状態に対して:抗うつ薬
    • 強い不安や緊張に対して:抗不安薬
    • 不眠に対して:睡眠導入剤

 

薬物療法は、あくまで心理療法を円滑に進めるためのサポートという位置づけです。医師の指導のもと、その効果と副作用を慎重に見極めながら使用されます。

解離性同一性障害のある方への周囲の接し方

ご家族やパートナー、友人など、身近な人が解離性同一性障害と診断された時、どのように接すれば良いのか戸惑うのは当然のことです。周りの人の理解とサポートは、ご本人の回復にとって非常に大きな力となります。

安全で安心できる関係性を築く

ご本人にとって、周囲の人が「安全な存在」であることが何よりも重要です。

    • 穏やかで一貫した態度で接する:日によって態度が変わると、ご本人は混乱し、不安になります。できるだけ穏やかに、いつもと変わらない態度で接することを心がけましょう。
    • 約束を守る:小さな約束でも守ることで、「この人は信頼できる」という安心感につながります。
    • 本人のペースを尊重する:無理に話を聞き出そうとしたり、励ましたりするのではなく、本人が話したくなった時に耳を傾ける姿勢が大切です。

 

あなたが安心できる「安全基地」のような存在になることが、一番のサポートになります。

本人の言動をありのまま受け止める

人格が交代したり、記憶がなかったりする様子を目の当たりにすると、驚いたり、嘘をつかれているように感じたりするかもしれません。しかし、それらは全て、ご本人が体験している紛れもない現実です。

    • どの人格も否定せず、尊重する:交代人格は、つらい体験を引き受けてくれた「その人自身の一部」です。どの人格に対しても、一人の人間として敬意を持って接しましょう。
    • 人格の交代を責めない:人格の交代は本人の意思でコントロールできるものではありません。「また変わったの?」などと責めるような言動は避けましょう。
    • 記憶喪失を疑わない:「本当に覚えていないの?」と問い詰めることは、本人を深く傷つけます。記憶がないことを前提に、「〇〇の件だけど…」と、必要な情報を補ってあげると良いでしょう。
    • 興味本位で尋ねない:「今の人格は何歳?」「他の人格を見せて」などと、興味本位で尋ねることは絶対にやめましょう。

 

あなたの「ありのままを受け止める」という姿勢が、ご本人が自分自身の多様性を受け入れ、回復に向かうための大きな支えとなります。

解離性同一性障害と向き合いながら働きたいあなたへ|就労継続支援B型事業所オリーブ

解離性同一性障害(解離性同一症)と向き合いながら、社会の中で働きたいと願う時、症状の波や対人関係への不安から、大きな壁を感じることがあるかもしれません。そんな時は、一般の職場で無理に頑張るのではなく、まずは心と体を守りながら働ける環境に身を置いてみませんか。

私たち就労継続支援B型事業所オリーブは、障害や心身の不調を抱える方々が、安心して自分のペースで働ける場所を提供しています。オリーブでは、解離性同一性障害という複雑でデリケートな状態への深い理解に基づいたサポートを行っています。

    • 安全で予測可能な環境:穏やかで変化の少ない作業環境を提供し、あなたが安心して過ごせる「安全基地」であることを目指します。
    • 体調や心の状態を最優先:人格の交代や記憶喪失、体調不良などがあっても、それを責めることは決してありません。その日のあなたの状態に合わせて、無理なく作業に取り組めます。
    • 個別性の尊重:支援員があなたの特性や状況を丁寧にヒアリングし、あなたに合ったサポートを一緒に考えていきます。
    • 相談できる相手がいる安心感:仕事上の不安だけでなく、日常生活での困りごとについても、経験豊富な支援員が親身に相談に応じます。

 

治療と両立しながら、社会とのつながりを持ち、自分のペースで働く喜びを感じたい。そう願うあなたを、オリーブは全力でサポートします。まずは見学や相談から、一歩を踏み出してみませんか。ご連絡を心よりお待ちしています。

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