お役立ち情報 治療法・リハビリ 精神疾患 診断基準(DSM-5, ICD-10)

恐怖症とは?主な種類や診断基準・治療方法について解説

クモや犬、雷や高所、飛行機や狭い場所。——誰にでも「苦手なもの」や「怖いもの」はあります。しかし、その恐怖が度を越して強く、対象となるものを目にしただけでパニックになったり、それを避けるために日常生活に大きな支障が出たりする場合、それは単なる「苦手」ではなく、「恐怖症」という治療可能な不安障害の一種かもしれません。「自分のこの恐怖は、もしかしたら病気なのだろうか」「どうすれば克服できるのか」と一人で悩んでいませんか。この記事では、恐怖症の基本的な知識から、その主な種類、原因や症状、そして専門家による診断や治療法までを、分かりやすく解説していきます。恐怖症を正しく理解し、つらい症状から解放されるための一歩を踏み出しましょう。

恐怖症(限局性恐怖症)とは|特定の対象への強い恐怖

恐怖症とは、特定のある一つの対象や状況に対して、現実の危険性とは不釣り合いな、著しく強い恐怖や不安を感じる状態のことです。精神医学的には、主に「限局性恐怖症(Specific Phobia)」と呼ばれます。誰でも怖いと感じることはありますが、恐怖症の方が感じる恐怖は、その対象に遭遇すると、ほとんど常に即座に強い不安やパニック発作を引き起こすほど強烈です。そして、その恐怖を避けるために、生活や行動が大きく制限されてしまうのが特徴です。

例えば、「犬が苦手」というレベルではなく、「犬の絵を見ただけで動悸がする」「犬がいそうな公園には絶対に近づけない」といった状態であれば、それは恐怖症の可能性があります。ご本人は、自分の恐怖が過剰であると分かっている場合が多いにもかかわらず、自分の意思でコントロールすることが難しいのです。

恐怖症の主な種類

恐怖症の対象となるものは多岐にわたりますが、アメリカ精神医学会の診断基準「DSM-5」では、主に以下の4つのタイプに分類されています。

動物型|クモや犬など

特定の動物に対して強い恐怖を感じるタイプです。

    • クモ(クモ恐怖症)
    • 犬(犬恐怖症)
    • ゴキブリなどの昆虫
    • ヘビや鳥など

 

幼少期に発症することが多く、最も一般的な恐怖症の一つとされています。

自然環境型|高所や雷など

自然界の特定の環境や現象に対して恐怖を感じるタイプです。

    • 高所(高所恐怖症)
    • 雷や嵐(雷恐怖症)
    • 水(水恐怖症、特に深い場所や海など)
    • 暗闇(暗所恐怖症)

 

こちらも、動物型と同様に、幼少期に発症することが多いとされています。

血液・注射・外傷型

血を見たり、注射をされたり、けがをしたりすることに対して、強い恐怖や嫌悪感を感じるタイプです。このタイプは他の恐怖症と異なり、恐怖を感じた際に、心拍数や血圧が急激に低下し、脳貧血を起こして失神(気を失う)しやすいという特有の身体反応が見られます。そのため、健康診断や歯科治療、予防接種などを避けてしまい、健康管理上の問題につながることもあります。

状況型|飛行機や閉所など

特定の状況に身を置くことに対して恐怖を感じるタイプです。

    • 飛行機に乗ること(飛行機恐怖症)
    • エレベーターやMRI、満員電車など、閉鎖された空間(閉所恐怖症)
    • 橋を渡ること
    • トンネルの中を通過すること

 

このタイプは、幼少期と思春期以降の成人期の、2つの時期に発症しやすいと言われています。

恐怖症の原因と症状

なぜ、特定の物事に対して、これほど強い恐怖を感じるようになるのでしょうか。その原因と、恐怖に直面した際の主な症状について解説します。

原因は過去の体験や学習などが関係

恐怖症の明確な原因は、まだ完全には解明されていませんが、主に以下のような要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。

過去のトラウマ体験(直接的条件づけ):
実際にその対象によって怖い思いをした経験(例:子供の頃に犬に噛まれた、エレベーターに閉じ込められた)が、直接的な原因となることがあります。

 

観察学習(モデリング):
自分自身は直接経験していなくても、親や友人などが特定の対象をひどく怖がる様子を繰り返し見ることで、その恐怖が自分にも刷り込まれてしまうことがあります。

 

情報による学習:
テレビや本、インターネットなどで、特定の対象に関する怖い情報(例:飛行機事故のニュース、クモの毒に関する特集)に繰り返し触れることで、恐怖が植え付けられることがあります。

 

遺伝的・体質的要因:
もともと不安を感じやすい、怖がりであるといった、生まれ持った気質が関係している可能性も指摘されています。

 

主な症状|動悸やめまい・回避行動

恐怖の対象に直面した時、あるいは直面することを想像しただけで、心身に様々な症状が現れます。

【身体症状】

これらは、危険を察知した脳が体を「闘争か逃走か」の状態にするために起こる、パニック発作と同様の症状です。

    • 動悸、心拍数の増加
    • 発汗
    • 身体の震え
    • 息苦しさ、窒息感
    • めまい、ふらつき
    • 吐き気、腹部の不快感

 

【精神症状】

    • 強い恐怖感、不安感
    • 「死んでしまうのではないか」「気が狂うのではないか」といったコントロールを失う感覚

 

【行動面の症状】

    • 回避行動:恐怖の対象となるものを、徹底的に避けようとします。この回避行動こそが、恐怖症の症状を維持・悪化させ、日常生活に最も大きな支障をきたす原因となります。

 

恐怖症の診断基準|専門家による判断が必要

「自分のこの恐怖は、ただの苦手意識なのか、それとも病気としての恐怖症なのか」と悩んだら、自己判断せず、精神科や心療内科といった専門の医療機関に相談することが大切です。医師は、丁寧な問診を通じて、アメリカ精神医学会の診断基準「DSM-5」などに基づき、総合的に診断を下します。

【限局性恐怖症の主な診断基準(DSM-5より要約)】

    • 特定の対象や状況(例:飛行機、動物、注射)に対して、著しい恐怖または不安を感じる。
    • その対象に直面すると、ほとんど常に即時的な恐怖や不安が引き起こされる。
    • その対象を、積極的に避けようとする。
    • その恐怖や不安は、実際の危険性や社会文化的な背景に照らして、不釣り合いなほど過剰である。
    • その恐怖、不安、回避は持続的で、通常6ヶ月以上続く。
    • その恐怖、不安、回避によって、社会生活や職業(学業)など、重要な領域で著しい苦痛や機能の障害を引き起こしている。

 

重要なのは、「日常生活にどれだけ支障が出ているか」という点です。この支障が著しい場合に、病気としての「恐怖症」と診断されます。

恐怖症の主な治療方法

恐怖症は、根性や気合で克服するものではなく、適切な治療によって克服することが可能な病気です。主な治療法には、「精神療法」と「薬物療法」があります。

中心となるのは精神療法(曝露療法など)

恐怖症の治療の中心的かつ最も効果的な方法は、認知行動療法の一種である「曝露療法(ばくろりょうほう)」です。これは、専門家のサポートのもとで、あえて恐怖の対象に、安全な環境で直面する練習を繰り返す治療法です。恐怖を避ければ避けるほど、不安は雪だるま式に大きくなっていきます。曝露療法は、この「回避」の悪循環を断ち切り、「思ったほど怖くない」「何も危険なことは起こらない」ということを、心と体で学んでいくプロセスです。

【曝露療法の進め方の例(高所恐怖症の場合)】

    • 不安階層表の作成:不安の低い状況(例:ビルの1階の窓から下を見る)から、最も不安の高い状況(例:展望台のガラスの床に立つ)までを、0点から100点で点数付けしながら、段階的にリストアップします。
    • 段階的な曝露:まずは、不安が低く、克服できそうな段階(例:20~30点程度の状況)から挑戦します。セラピストと一緒に、ビルの低い階から下を見る練習をします。
    • 不安への直面:不安を感じても、その場から逃げずに、不安が自然に和らぐまでとどまります。
    • 反復とステップアップ:同じ段階を繰り返し練習して慣れてきたら、次の段階(例:もう少し高い階から下を見る)へと進んでいきます。

 

この練習を根気強く続けることで、恐怖の対象に対する不安を克服していきます。

症状を和らげるための薬物療法

恐怖症そのものを根本的に治す薬はありませんが、症状を一時的に和らげ、曝露療法などの精神療法を受けやすくするために、補助的に薬物療法が用いられることがあります。

抗不安薬:
恐怖の対象に直面しなければならない場面(例:飛行機に乗る前、歯科治療の前)で、一時的に不安を抑えるために頓服として使われることがあります。

 

抗うつ薬(SSRIなど):
不安や恐怖感が非常に強く、日常生活全般に影響が出ている場合に、不安のレベルを全体的に下げる目的で継続的に服用することがあります。

 

薬物療法は、あくまで治療の補助的な役割です。根本的な克服のためには、曝露療法に取り組むことが不可欠です。

恐怖症のある方が利用できる支援や制度

恐怖症の症状が重く、仕事や生活に大きな支障が出ている場合、様々な公的支援や制度を利用できる可能性があります。

休職中の生活を支える傷病手当金

恐怖症の治療のために会社を休職し、給与が支払われない場合、加入している健康保険から「傷病手当金」が支給される可能性があります。これは、最長で通算1年6ヶ月間、給与のおおむね3分の2が支給される制度で、休職中の経済的な不安を和らげてくれます。

医療費の負担を軽減する自立支援医療制度

恐怖症の治療のために精神科や心療内科へ継続的に通院する場合、「自立支援医療制度(精神通院医療)」を利用することで、医療費の自己負担を軽減できます。通常3割負担の医療費が原則1割負担になり、所得に応じて月々の負担上限額も設定されます。

働き方をサポートする就労移行支援・就労継続支援

恐怖症が原因で離職し、再就職に不安がある場合や、現在の働き方に困難を感じている場合は、障害福祉サービスである就労移行支援就労継続支援の利用も選択肢となります。

就労移行支援:
一般企業への就職を目指し、職業訓練や就職活動のサポートを受けられます。

 

就労継続支援:
すぐに一般企業で働くのが難しい場合に、サポートのある環境で働く場を提供します。

 

恐怖症と向き合いながら働きたいあなたへ|就労継続支援B型事業所オリーブ

特定の状況や場所への恐怖から、「通勤電車に乗れない」「高層階のオフィスビルに入れない」など、働くこと自体に大きな困難を感じている方もいらっしゃるかもしれません。もしあなたが、恐怖症の症状と向き合いながら、自分のペースで安心して働ける場所を探しているなら、就労継続支援B型事業所オリーブという選択肢があります。

オリーブは、雇用契約を結ばず、あなたの体調や症状を最優先に考え、週に1日、1日2時間といったごく短い時間からでも利用できる場所です。恐怖の対象を避けられるような作業環境の調整や、不安が強くなった時の休憩など、一人ひとりの状況に合わせた柔軟な対応が可能です。まずはオリーブという安心できる環境で、働くことへの自信と生活リズムをゆっくりと取り戻すことから始めてみませんか。関西エリア(大阪、兵庫、京都、奈良)で、あなたらしい働き方の第一歩を踏み出したいとお考えなら、ぜひ一度、オリーブにご相談ください。

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