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高次脳機能障害とは?主な症状や原因・リハビリや支援制度を解説

「事故や病気の後、なんだか人が変わったようだ」「約束をすぐに忘れる」「段取りが悪く、簡単な作業もできない」——。もし、ご家族や身近な人にこのような変化が見られたら、それは「高次脳機能障害」が原因かもしれません。

高次脳機能障害は、交通事故による頭部の損傷や、脳梗塞・脳出血といった病気によって脳がダメージを受けることで発症します。記憶、注意、思考、感情のコントロールといった高度な精神活動に問題が生じますが、身体的な麻痺とは異なり、外見からは分かりにくいため「見えない障害」「見えにくい障害」とも呼ばれます。

その特性ゆえに、周囲から「やる気がない」「性格が変わった」と誤解されたり、ご本人でさえも自身の変化に戸惑い、深く苦しんだりすることが少なくありません。この記事では、高次脳機能障害の主な症状や原因から、回復に不可欠なリハビリテーション、利用できる公的な支援制度、そしてご家族の関わり方まで、網羅的に、そして分かりやすく解説します。

高次脳機能障害とは 脳の損傷によって生じる「見えない障害」

高次脳機能障害とは、病気や事故によって脳の一部が損傷を受け、人間らしい知的で豊かな活動を支える機能に障害が生じた状態を指します。私たちの脳は、手足を動かすといった基本的な指令だけでなく、物事を記憶し、言葉を操り、計画を立てて実行し、感情をコントロールするなど、社会生活を送る上で欠かせない非常に高度な働きを担っています。この働きを「高次脳機能」と呼びます。

この高次脳機能が損なわれると、日常生活や社会生活の様々な場面で困難が生じます。しかし、手足の麻痺のように外見からすぐに分かる障害ではないため、その大変さが周囲に理解されにくいという大きな課題があります。「忘れっぽい」「怒りっぽい」「だらしない」といった個人の性格や気持ちの問題だと誤解され、ご本人やご家族が社会的に孤立してしまうケースも少なくありません。誰にでも起こりうる障害だからこそ、社会全体で正しく理解することが求められています。

高次脳機能障害の主な症状

高次脳機能障害の症状は、脳のどの部分がどの程度損傷したかによって、一人ひとり異なります。複数の症状が重なって現れることも多く、その複雑さがご本人やご家族を悩ませる一因となります。ここでは、代表的な症状を解説します。

記憶障害:新しいことを覚えられない・出来事を忘れる

記憶障害は、高次脳機能障害で最も多く見られる代表的な症状です。日常生活や仕事において、深刻な支障をきたすことがあります。具体的な症状の例

    • 何度も同じことを質問したり、話したりする
    • 新しい人の顔や名前、仕事の手順が覚えられない
    • 大切な約束やスケジュールを忘れてしまう
    • 物の置き場所を忘れて、いつも探し物をしている
    • 自分が体験した出来事(食事をしたこと、誰かに会ったこと)自体を忘れてしまう

 

このような症状によってご本人は常に混乱し、周囲との円滑なコミュニケーションが難しくなります。記憶障害は、主に脳が損傷した時点を境に「前向性健忘」と「逆行性健忘」に分けられます。

前向性健忘(ぜんこうせいけんぼう):
脳損傷後の新しい出来事や情報を記憶できない状態です。数分前に話した内容も覚えられず、「記憶がどんどん消えていく」ような感覚に陥り、強い不安を感じます。

 

逆行性健忘(ぎゃっこうせいけんぼう):
脳損傷以前の過去の記憶を思い出せない状態です。事故の状況や、自分の経歴、家族との思い出の一部または全部が抜け落ちてしまいます。

 

これらの記憶障害に対しては、メモ帳やスマートフォンのアラーム機能を活用したり、一日の行動をパターン化して習慣にしたりするなど、失われた記憶機能を補う工夫(代償手段)が有効です。

注意障害:集中力が続かない・ミスが増える

注意障害は、物事に集中したり、必要な情報に意識を向け続けたりすることが難しくなる症状です。一つのことに集中できない、または注意を切り替えられないため、ミスが増えたり、作業が長続きしなくなったりします。具体的な症状の例

    • ぼんやりしていて、大事なことを聞き逃してしまう
    • 周囲の小さな物音や人の動きにすぐ気を取られ、作業が中断してしまう
    • 二つのことを同時にしようとすると混乱する(例:電話をしながらメモを取る)
    • ケアレスミス(計算間違い、誤字脱字など)を頻繁に繰り返す
    • 会話の途中で話が飛んでしまい、本題に戻れない

 

注意障害のある方に対しては、周囲の環境調整が非常に重要です。静かで刺激の少ない場所で作業する、一度に一つの作業に集中できるようタスクを細かく分ける、指示は短く簡潔に伝える、などの配慮が求められます。

遂行機能障害:計画を立てて物事を実行できない

遂行機能とは、目標を達成するために計画を立て、段取りを考え、状況に合わせて柔軟に実行していく一連の能力のことです。この機能が障害されると、物事を順序立てて効率的に行うことが困難になります。具体的な症状の例

    • 自分で計画を立てることができず、行き当たりばったりの行動になる
    • 誰かに指示されないと、何をしていいか分からずに行動を開始できない
    • 物事の優先順位がつけられず、重要でないことから始めてしまう
    • 要領が悪く、非効率なやり方に固執してしまう
    • 予期せぬ出来事(電車の遅延など)が起こると、パニックになってしまう

 

例えば、「夕食にカレーライスを作る」という作業には、「献立を決める→材料をリストアップする→買い物に行く→野菜を切る→肉を炒める→煮込む」といった一連の段取りが必要ですが、遂行機能障害があると、この手順が分からなくなってしまうのです。周囲が手順をマニュアル化して提示したり、一緒に計画を確認したりするサポートが有効です。

社会的行動障害:感情や行動のコントロールが難しい

社会的行動障害は、感情や欲求をコントロールしたり、その場の状況に合わせた適切な行動をとったりすることが難しくなる症状です。脳の前頭葉という、理性や判断力をつかさどる部分の損傷で起こりやすいとされています。具体的な症状の例

    • 易怒性(いどせい):些細なことで激しく怒ったり、大声を出したりする。
    • 感情失禁:急に泣き出したり、大声で笑い出したりして感情のコントロールができない。
    • 脱抑制:欲求を我慢できず、思ったままに行動してしまう(万引きなどにつながることも)。
    • 固執:一つのことにこだわり、考えや行動を柔軟に切り替えられない。
    • 意欲・発動性の低下:自発性がなくなり、一日中なにもせずに過ごすなど無気力になる。
    • 対人関係の問題:相手の気持ちを察することができず、失礼なことを言ってしまう。

 

これらの行動は、まるで性格が変わってしまったかのように見えるため、ご家族や周囲の人が最も戸惑う症状かもしれません。しかし、これも脳の損傷による症状であり、本人が意図して行っているわけではないことを理解し、冷静に対応することが極めて重要です。

その他の症状(失語症・失行症・失認症)

上記の他にも、脳の損傷部位によって以下のような特有の症状が現れることがあります。

失語症:
「聞く・話す・読む・書く」といった、言葉を操る能力全般が障害される状態です。言いたい言葉が出てこない、相手の言うことが理解できない、文字が読めないなど、様々なタイプがあります。

 

失行症:
手足の麻痺はないにもかかわらず、これまで当たり前にできていた一連の動作や、道具の使い方が分からなくなってしまう状態です。歯ブラシを渡されても歯を磨く動作ができなかったり、服の着方が分からなくなったりします。

 

失認症:
視力や聴力に問題はないのに、見たり聞いたりしたものが何であるか認識できなくなる状態です。毎日会っている家族の顔を見ても誰だか分からなかったり(相貌失認)、目の前にある物が何か分からなかったりします。

 

高次脳機能障害の主な原因

高次脳機能障害は、脳に物理的な損傷が加わることで引き起こされます。その原因は大きく分けて、交通事故などの「脳外傷」と、脳卒中などの「脳の病気」があります。

交通事故や転落による「脳外傷」

交通事故(自動車、バイク、自転車)、仕事中や日常生活での転倒・転落、スポーツ中の衝突、暴力など、頭部に強い衝撃が加わることで脳が損傷するケースです。特に若い世代では、交通事故が原因となることが多く報告されています。頭を打った箇所だけでなく、頭全体が強く揺さぶられることで、脳の神経線維が広範囲に傷つく「びまん性軸索損傷」が生じることもあります。

脳梗塞や脳出血などの「脳血管障害(脳卒中)」

脳の血管が詰まる「脳梗塞」や、血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」によって、脳細胞に酸素や栄養が行き渡らなくなり、脳組織が部分的に壊死してしまう病気です。これらは「脳卒中」とも呼ばれ、特に高齢者に多く見られますが、生活習慣病などを背景に若年層で発症することもあります。損傷を受けた脳の部位に応じて、様々な高次脳機能障害の症状が現れます。

その他、脳炎や髄膜炎といった感染症や、心停止などによって脳への酸素供給が一時的に途絶える「低酸素脳症」なども原因となります。

診断後の流れとリハビリテーション

高次脳機能障害からの回復と社会復帰には、早期の正確な診断と、一人ひとりの症状に合わせた専門的なリハビリテーションが極めて重要です。診断から退院後の生活まで、一連の流れの中で切れ目のない支援を受けることが大切です。

診断からリハビリ開始までの流れ

高次脳機能障害の診断は、脳神経外科やリハビリテーション科、精神科、神経内科などの専門医が行います。CTやMRIといった画像検査で脳の損傷部位を確認するとともに、本人や家族から事故・発症後の変化を詳しく聞き取る問診や、専門家による「神経心理学的検査」が非常に重要になります。

神経心理学的検査は、臨床心理士や作業療法士などが、質問への回答、図形の模写、パズルなど様々な課題を通して、記憶力、注意力、遂行機能などを客観的に評価するものです。これらの結果を総合的に判断し、診断が下されます。

診断後は、一般的に「急性期」→「回復期」→「生活期(維持期)」という段階を経てリハビリテーションが進められます。

医学的リハビリテーションの具体的な内容

主に病院で行われるリハビリで、心身の機能回復を目的とします。理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)などの専門職がチームを組み、個別のプログラムを作成します。

理学療法士(PT):
歩行訓練や筋力トレーニングなど、基本的な動作能力の回復を支援します。

 

作業療法士(OT):
食事、着替え、入浴といった日常生活動作(ADL)の訓練や、記憶障害・注意障害などに対する認知リハビリテーション、復職に向けた職業前訓練などを担当します。

 

言語聴覚士(ST):
失語症の方に対する言語訓練や、嚥下(飲み込み)に問題がある場合の摂食嚥下訓練などを行います。

 

社会的リハビリテーションと生活への移行

退院後の地域生活や社会復帰を目指すリハビリです。障害福祉サービスなどを利用し、日常生活のスキル向上(生活訓練)や、就労に向けたトレーニング(職業訓練)などを行います。障害の特性を理解し、メモの活用法や対人関係スキルなど、社会生活で必要となる具体的な対処法を身につけることも含まれます。

高次脳機能障害の方が利用できる支援制度

高次脳機能障害のある方が安心して地域で生活し、社会参加を続けていくためには、公的な支援制度の活用が不可欠です。様々な制度がありますので、積極的に情報を集め、専門機関に相談しましょう。

障害者手帳の取得

高次脳機能障害は、その症状によって「精神障害者保健福祉手帳」の交付対象となります。この手帳を取得することで、様々な福祉サービスや税制上の優遇措置、各種割引などを受けられるようになります。申請窓口はお住まいの市区町村の障害福祉担当課で、専門医による診断書が必要となります。

経済的な負担を軽減する制度

障害年金:
病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に受け取れる年金です。高次脳機能障害も対象となり、障害の程度に応じて支給されます。

 

自立支援医療(精神通院医療):
高次脳機能障害の治療のために精神科等へ通院する際の医療費自己負担額を、原則1割に軽減する制度です。

 

これらの制度を利用するには申請と審査が必要ですので、市区町村の窓口や医療機関のソーシャルワーカーにご相談ください。

就職や働き続けるための就労支援サービス

「働きたい」という意欲のある高次脳機能障害の方を支援するための、専門的な就労支援サービスがあります。

就労移行支援:
一般企業への就職を目指す方が、職業訓練や求職活動、職場定着のサポートを受けられるサービスです(原則2年間)。

 

就労継続支援(A型・B型):
すぐに一般企業で働くことが難しい方が、支援を受けながら働く場です。A型は雇用契約を結び、B型は雇用契約を結ばずにご自身のペースで働きます。

 

高次脳機能障害支援拠点機関:
都道府県や指定都市に設置されており、専門的な相談支援や関係機関との連携調整など、地域における支援の中心的役割を担います。

 

障害者就業・生活支援センター:
就職から職場定着まで、仕事と生活の両面から一体的なサポートを提供します。

 

ハローワーク(公共職業安定所):
障害のある方向けの専門窓口があり、求人紹介や就職相談に応じています。

 

ご家族や周囲の人ができること

高次脳機能障害のある方を支える上で、ご家族や職場の同僚など、周囲の人の理解と協力が何よりも重要です。

障害の特性を「知る」こと

まず大切なのは、ご本人が見せている様々な変化が、性格や意欲の問題ではなく「脳の損傷による症状」であると正しく理解することです。なぜ約束を忘れるのか、なぜ怒りっぽくなったのか、その背景にある障害の特性を知ることで、冷静に対応できるようになります。

一人で抱え込まず、相談窓口を活用する

ご本人を支えるご家族は、身体的・精神的に大きな負担を抱えがちです。決して一人で抱え込まず、支援者を増やすことが大切です。前述の「高次脳機能障害支援拠点機関」は、ご本人だけでなくご家族からの相談も受け付けています。また、同じ悩みを持つ家族が集う「家族会」に参加し、情報交換をしたり悩みを共有したりすることも、大きな支えとなります。

高次脳機能障害と向き合いながら働きたいあなたへ|就労継続支援B型事業所オリーブ

高次脳機能障害の症状、特に「疲れやすさ」「注意散漫」「段取りが立てられない」「感情のコントロールが難しい」といった特性は、一般企業で求められるスピードや正確性、複雑な対人関係の中で、大きな困難となって現れることがあります。

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就労継続支援B型事業所オリーブは、関西(大阪、兵庫、京都、奈良)を中心に、高次脳機能障害をはじめ、様々な障害のある方の「働きたい」という気持ちをサポートしています。私たちは、一人ひとりの症状や特性、その日の体調を何よりも大切にした支援を心がけています。

    • 週1日、1日だけの短時間からでも利用可能です。
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    • 作業は一つひとつ丁寧に、あなたのペースに合わせて説明します。
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「もう一度、働く自信を取り戻したい」「社会との接点がほしい」——。その想いを、ぜひ一度私たちに聞かせてください。就労継続支援B型事業所オリーブでは、見学やご相談をいつでも歓迎しています。あなたらしい働き方を見つけるための一歩を、私たちが全力で応援します。

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