
「好きなことをしている時は元気なのに、仕事や学校に行こうとすると体が鉛のように重くなる」「人からの一言にひどく傷つき、何日も落ち込んでしまう」このような症状に心当たりはありませんか? それはもしかしたら、「非定型うつ病」かもしれません。
非定型うつ病は、「新型うつ病」とも呼ばれ、一日中気分が落ち込む従来のうつ病とは異なる特徴を持つため、周囲から「怠けている」「わがまま」と誤解されたり、ご自身を責めてしまったりすることも少なくありません。この記事では、非定型うつ病とはどのような病気なのか、従来型のうつ病との違い、具体的な症状、原因や治療法、そして周囲の人ができるサポートについて詳しく解説します。この病気への正しい理解を深め、適切な対処法を見つけるための一助となれば幸いです。
非定型うつ病とは?従来のうつ病とは異なる症状が特徴
非定型うつ病は、うつ病の一種ですが、一般的に知られている「うつ病(従来型うつ病/メランコリー型うつ病)」とは症状の現れ方に違いがあります。特に、気分の変動や食欲、睡眠のパターンが対照的であることが多く、その特徴から周囲に理解されにくいという側面も持っています。まずは、従来型うつ病や他の精神疾患との違いを明確に理解することが重要です。
非定型うつ病と従来型うつ病の症状の違い
非定型うつ病と従来型うつ病の最も大きな違いは、「気分反応性」の有無です。非定型うつ病では、何か良いことや楽しいことがあると一時的に気分が明るくなるのに対し、従来型うつ病では良いことがあっても気分は晴れません。その他にも、以下のような対照的な症状が見られます。
<非定型うつ病と従来型うつ病の主な違い>
症状の側面 | 非定型うつ病 | 従来型うつ病(メランコリー型) |
---|---|---|
気分の変動 | 良いことがあると気分が良くなる(気分反応性) | 良いことがあっても気分は落ち込んだまま |
気分の時間帯 | 夕方から夜にかけて悪化することが多い(夕方悪化) | 朝方に最も気分が落ち込み、夕方にかけて少し改善することが多い(日内変動) |
食欲 | 増加し、特に甘いものなどを過食する傾向がある | 低下し、食事がとれなくなることが多い |
睡眠 | 睡眠時間が長くなる、寝過ぎてしまう(過眠) | 寝付けない、夜中や早朝に目が覚めてしまう(不眠) |
体重 | 増加する傾向がある | 減少する傾向がある |
対人関係 | 他者からの拒絶や批判に非常に敏感(拒絶過敏性) | 他者との関わり自体を避ける傾向 |
自責感 | 自分ではなく他者や環境のせいだと考える傾向(他責的) | 何でも自分のせいだと責めてしまう傾向(自責的) |
身体症状 | 手足が鉛のように重く感じる「鉛様麻痺」 | 全身の倦怠感や疲労感 |
双極性障害(躁うつ病)との違い
非定型うつ病は、気分の浮き沈みがあるため、双極性障害と間違われることがあります。双極性障害は、気分の高揚(躁状態)と落ち込み(うつ状態)を繰り返す病気です。非定型うつ病の「気分が明るくなる」状態と、双極性障害の「躁状態」は根本的に異なります。非定型うつ病の気分の高揚は、あくまで楽しい出来事に対する反応であり、その出来事が終われば元の抑うつ気分に戻ります。
一方、双極性障害の躁状態は、特に理由がなくても異常に気分が高揚し、眠らなくても平気になったり、次々とアイデアが浮かんでじっとしていられなくなったり、高額な買い物をしたりと、社会生活に大きな支障をきたすほどの状態が続きます。治療薬も異なるため、専門医による正確な鑑別診断が不可欠です。
「怠け」「性格の問題」と誤解されやすい病気
非定型うつ病の症状は、その特徴から本人の「怠け」や「性格の問題」、「わがまま」だと誤解されてしまうことが少なくありません。
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- 好きなことや楽しいことに対しては元気になるため、「都合のいい時だけ元気になる」と見られてしまう。
- 仕事や学校など、やるべきことの前に体が動かなくなるため、「責任感がない」「やる気がない」と思われてしまう。
- 他者からの批判に過敏に反応し落ち込む姿が、「打たれ弱い」「大げさだ」と捉えられてしまう。
- 過食や過眠が、「自己管理ができていない」と非難されてしまう。
このような周囲からの誤解は、本人をさらに苦しめ、孤立させてしまいます。非定型うつ病は、本人の意思ではコントロールできない脳機能の不調が関係している病気です。気力や根性で解決できるものではないという正しい理解が、本人にとっても周囲にとっても重要になります。
非定型うつ病の4つの特徴的な症状
非定型うつ病には、診断基準にも含まれるいくつかの特徴的な症状があります。これらの症状は、日常生活や社会生活に大きな影響を及ぼします。
① 気分反応性:楽しいことには気分が明るくなる
「気分反応性」は、非定型うつ病を最も特徴づける症状です。憂うつな気分が基本にありながらも、友人との食事、趣味の時間、恋人と過ごすひとときなど、本人にとってポジティブな出来事があると、一時的に気分が普段通りに明るくなります。しかし、これは病気が治ったわけではありません。楽しい出来事が終わると、再び深い憂うつな気分に戻ってしまいます。この気分の振り幅の大きさは、本人にとっても大きなエネルギーを消耗させます。
② 過食と過眠:食欲と睡眠の増加
従来型のうつ病とは逆に、「過食」と「過眠」が顕著に現れます。過食:食欲が抑えられなくなり、特にチョコレートなどの甘いものや、ポテトチップスのような炭水化物を無性に食べたくなり、際限なく食べてしまうことがあります。これにより、急激な体重増加につながり、自己嫌悪に陥るという悪循環を生むことも少なくありません。過眠:夜に10時間以上眠っても、日中に強い眠気に襲われ、起きているのがつらい状態です。いくら寝ても寝足りないと感じ、場合によっては1日の大半を寝て過ごしてしまうこともあります。
③ 鉛様麻痺(なまりようまひ)感:手足が鉛のように重い
「鉛様麻痺感」も、非定型うつ病に特徴的な身体症状です。実際に麻痺しているわけではないにもかかわらず、手や足に鉛の重りをつけられたかのように、ずっしりと重く、動かすのが非常につらく感じる状態を指します。特に、仕事や学校に行かなければならない朝や、気が進まない用事の前などに強く現れる傾向があります。ベッドから起き上がることができず、腕を上げるのさえ億劫になります。
④ 拒絶過敏性:対人関係に極度に敏感になる
対人関係において、他者からの拒絶や批判に対して極度に敏感になり、過剰に傷ついてしまうのも非定型うつ病の大きな特徴です。上司からの些細な注意や、同僚の何気ない一言を、自分への全否定と捉えてしまう。友人からのメールの返信が少し遅いだけで、「嫌われたのではないか」と極度の不安に陥る。人からどう見られているかを常に気にしてしまい、人と会うのが怖くなる。この拒絶過敏性のために、対人関係を避けるようになり、社会的に孤立してしまうケースも少なくありません。本人は、自分が過剰に反応していると頭では分かっていても、感情のコントロールが難しいのです。
非定型うつ病の原因と診断
原因はまだ特定されていない
現時点では、非定型うつ病の明確な原因は特定されていません。しかし、感情や意欲をコントロールするセロトニンやドーパミンといった脳内の神経伝達物質の機能不全が関係しているという説が有力です。また、遺伝的な要因や、幼少期の体験、ストレスの多い環境、個人の気質(対人関係に敏感など)なども発症に影響を及ぼす可能性が指摘されていますが、まだ研究段階です。
専門医による慎重な診断が必要
非定型うつ病の症状に心当たりがある場合、自己判断はせず、必ず精神科や心療内科などの専門医に相談してください。診断は、アメリカ精神医学会の診断基準『DSM-5』などに基づき、医師が問診を通じて慎重に行います。問診では、症状や気分の変化、日常生活への支障の程度、過去の病歴などを詳しく尋ねられます。事前に症状や気分の変化をメモしておくと、診察時に役立ちます。
非定型うつ病の主な治療方法
非定型うつ病の治療は、一つの方法だけで行うのではなく、「薬物療法」「精神療法」「生活習慣の改善」を組み合わせて、総合的に進めていくのが一般的です。
薬物療法:症状を和らげる
薬物療法は、脳内の神経伝達物質のバランスを整え、つらい症状を和らげることを目的とします。非定型うつ病では、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬が用いられることが多いですが、従来型のうつ病で使われる三環系抗うつ薬は効果が出にくい、あるいは副作用が強く出ることがあると言われています。薬の種類や量は、医師が慎重に調整します。自己判断で服薬を中断せず、必ず医師の指示に従ってください。
精神療法:考え方の癖を修正する(認知行動療法など)
精神療法、特に「認知行動療法(CBT)」は、非定型うつ病の治療において非常に有効なアプローチとされています。認知行動療法は、物事の受け取り方や考え方(認知)の偏りに気づき、それをより現実的でバランスの取れたものに変えていくことで、つらい気分や行動を改善していく心理療法です。例えば、拒絶過敏性に対しては、自分の考え方のパターンを客観的に見つめ直し、別の考え方を探すトレーニングを繰り返すことで、ストレスへの対処スキルを高め、対人関係での生きづらさを軽減していきます。
生活習慣の改善:心身のバランスを整える
不規則な生活は、心身のバランスを崩し、症状を悪化させる一因となります。薬物療法や精神療法と並行して、生活習慣を見直すことも非常に重要です。規則正しい睡眠:過眠の症状があっても、できるだけ決まった時間に起き、決まった時間に寝ることを心がけましょう。日中に眠気がある場合は、15〜20分程度の短い昼寝が効果的です。バランスの取れた食事:過食の衝動があっても、1日3食、栄養バランスの取れた食事を基本としましょう。血糖値の急な変動は気分の不安定につながるため、甘いものや炭水化物の摂りすぎには注意が必要です。適度な運動:ウォーキングなどの軽い運動は、気分をリフレッシュさせ、セロトニンの分泌を促す効果が期待できます。
非定型うつ病の方への周囲のサポートと接し方
非定型うつ病は誤解されやすい病気だからこそ、ご家族や職場の上司・同僚など、周囲の人の理解とサポートが本人の回復に大きな影響を与えます。
望ましい接し方
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- 話をじっくり聴く:アドバイスや意見を言う前に、まずは本人が何に悩み、どう感じているのかを、遮らずに傾聴しましょう。「つらいんだね」と共感的に受け止めてもらえるだけで、本人の安心感につながります。
- 病気の特性を理解する:「怠けているわけではない」ことを理解し、気分の波があることを受け入れましょう。
- 本人のペースを尊重する:無理に活動を促さず、本人が「できそう」と思える範囲で行動できるよう見守りましょう。
- 専門家への相談を促す:本人が一人で抱え込んでいる場合は、「専門家に相談してみない?」と受診を勧めることも重要なサポートです。
避けるべき接し方
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- 安易な励まし:「頑張れ」「気合が足りない」といった言葉は、本人を追いつめます。
- 原因の追及:「なぜできないんだ」と問い詰めることは、本人を責めることにつながります。
- 他人との比較:「あの人はもっと大変なのに」など、他人と比較することは百害あって一利なしです。
- 過干渉:過度に心配し、何でも先回りしてやってしまうと、本人の自尊心を傷つけ、回復の機会を奪うことにもなりかねません。
非定型うつ病の方が利用できる公的支援
非定型うつ病と診断された場合、治療や生活を支えるための様々な公的制度を利用できる可能性があります。
- 自立支援医療(精神通院医療):
- 精神科への通院にかかる医療費の自己負担額を、通常3割のところを1割に軽減できる制度です。
- 精神障害者保健福祉手帳:
- 症状の程度によっては交付対象となり、税金の控除や公共料金の割引、障害者雇用枠での就職活動が可能になるなどのメリットがあります。
- 傷病手当金:
- 会社員や公務員で、療養のために仕事を休む場合に、給与のおおよそ3分の2が支給される制度です。
- 就労支援サービス:
- 就労移行支援事業所や就労継続支援事業所など、社会復帰や働き続けるためのサポートを受けられる福祉サービスです。
これらの制度の利用については、主治医や病院のソーシャルワーカー、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口にご相談ください。
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