
うつ病や双極性障害などの「気分障害」と診断されたとき、治療に専念したい気持ちと共に、「仕事はどうすればいいのだろう」という大きな不安に直面する方は少なくありません。治療と仕事の両立は、心身ともに大きな負担がかかり、まるで綱渡りのように感じられることもあるでしょう。しかし、適切な治療を受け、日々の過ごし方を工夫し、そして利用できるサポートを上手に活用することで、気分障害と付き合いながら働き続けることは十分に可能です。
この記事では、気分障害の基本的な知識から、治療と仕事を両立させるための5つの具体的なコツ、そして、どうしてもつらい時に頼れる支援制度や専門機関までを、網羅的に解説します。一人で抱え込まず、あなたに合った働き方を見つけるための道しるべとして、ぜひお役立てください。
気分障害とは?主な種類と仕事への影響
気分障害は、感情や気分のコントロールがうまくいかなくなり、日常生活や社会生活に大きな支障が生じる精神疾患の総称です。主に「うつ病性障害」と「双極性障害」の2つのタイプに大別されます。
うつ病性障害(うつ病)
うつ病は、強い気分の落ち込み、興味や喜びの喪失、意欲の低下といった精神症状に加え、不眠や食欲不振、疲労感などの身体症状が長く続く病気です。
- 反復性うつ病性障害
- うつ病のエピソードを何度も繰り返すタイプです。
- 持続性気分障害(気分変調症)
- うつ病ほど症状は重くないものの、比較的軽い抑うつ状態が2年以上という長期間にわたって慢性的に続くタイプです。
双極性障害(双極症・躁うつ病)
双極性障害は、気分が異常に高揚し、活動的になる「躁(そう)状態」と、気分がひどく落ち込む「うつ状態」という、両極端な気分の波を繰り返す病気です。以前は「躁うつ病」と呼ばれていました。躁状態の程度によって、社会生活に大きな支障をきたす「双極I型障害」と、比較的軽い躁状態(軽躁状態)が現れる「双極II型障害」などに分けられます。
躁状態・うつ状態が仕事に与える影響
気分障害の症状は、仕事のパフォーマンスに直接的な影響を及ぼすことがあります。
うつ状態の時の影響
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- 集中力や思考力が低下し、普段ならしないようなミスが増える。
- 意欲が湧かず、仕事に取り組むのに非常に時間がかかる。
- 何事にも悲観的になり、決断ができない。
- 疲労感が強く、遅刻や欠勤が増える。
躁状態の時の影響
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- 根拠のない自信に満ち溢れ、無謀な計画を立てたり、大きな契約を結んだりしてしまう。
- 些細なことでイライラし、同僚や上司に攻撃的になることがある。
- 次々とアイデアが浮かぶが、一つのことに集中できず、仕事を完成させられない。
- 休憩を取らずに働き続け、結果的に心身を消耗させてしまう。
これらの状態は本人の意思でコントロールできるものではなく、病気の症状であることを、ご本人も周囲も理解することが重要です。
気分障害の治療と仕事を両立させるための5つのコツ
治療を続けながら、仕事をうまく両立させていくためには、いくつかの大切なコツがあります。ここでは、特に意識してほしい5つのポイントをご紹介します。
コツ1:自己判断で治療や服薬をやめない
これは最も重要なポイントです。気分障害の治療、特に薬物療法では、症状が良くなったと感じても、自己判断で薬の量を減らしたり、服薬を中断したりしない ことが鉄則です。気分が安定してきたのは、薬が効いて、脳内の神経伝達物質のバランスが整えられているからです。服薬をやめてしまうと、このバランスが再び崩れ、症状が再発・悪化するリスクが非常に高くなります。薬の調整は、必ず主治医と相談の上、慎重に行いましょう。
コツ2:生活リズムを整え、体調の波を安定させる
気分障害は、生活リズムの乱れによって、症状の波が大きくなりやすい特徴があります。規則正しい生活は、それ自体が有効な治療の一つです。
- 睡眠
- 毎日なるべく同じ時間に寝て、同じ時間に起きることを心がけましょう。休日に寝だめをすると、かえってリズムが崩れる原因になります。
- 食事
- 1日3食、栄養バランスの取れた食事を、なるべく決まった時間にとりましょう。
- 日光
- 朝起きたら、カーテンを開けて太陽の光を浴びる習慣をつけましょう。体内時計がリセットされ、気分の安定につながります。
- 適度な運動
- ウォーキングや軽いジョギングなどのリズミカルな運動は、気分転換になるだけでなく、睡眠の質を高め、気分を安定させる効果が期待できます。
コツ3:無理な残業は避け、休息を最優先する
気分障害の治療中は、心身ともにエネルギーが低下している状態です。以前と同じように働こうと焦ったり、周りに迷惑をかけたくないという思いから無理をしたりすると、症状の悪化につながりかねません。残業は極力避け、定時で帰宅することを基本としましょう。仕事が終わった後や休日は、仕事のことは考えず、心と体をゆっくりと休ませる時間を意識的に作ることが、結果的に、長く働き続けるための土台となります。休息は「怠け」ではなく、大切な「治療」の一部です。
コツ4:職場に相談し、自分に合った働き方(合理的配慮)を見つける
一人で無理を抱え込まず、職場に相談し、必要な配慮を得ることも、両立のための重要な鍵です。信頼できる上司や人事担当者、産業医などに相談し、主治医の意見書などを添えて、ご自身に合った働き方を一緒に見つけていきましょう。
働き方の工夫(合理的配慮)の例
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- 業務量の調整(責任の重い業務から一時的に外してもらうなど)
- 勤務時間の短縮や、時差出勤、フレックスタイム制度の活用
- 在宅勤務(テレワーク)の導入
- 定期的な面談の実施
- 指示の明確化や、業務の優先順位の確認
相談する際は、「〇〇という症状のため、△△の業務で困難があります。つきましては、□□のような配慮をいただけると、安心して業務に取り組めます」と具体的に伝えることが、円滑なコミュニケーションにつながります。
コツ5:ストレスとの上手な付き合い方(ストレスコーピング)を知る
ストレスは、気分障害の症状を悪化させる大きな引き金となります。ストレスをゼロにすることはできませんが、その影響を和らげるための自分なりの対処法(ストレスコーピング)を見つけておくことが大切です。
- リラックス法の実践
- 深呼吸、瞑想、ヨガ、アロマテラピーなど。
- 趣味や好きなことに没頭する時間を作る
- 音楽を聴く、映画を観る、散歩するなど。
- 自分の感情や考えを書き出す
- 不安や怒りなどをノートに書き出すことで、客観的に自分の状態を把握し、気持ちを整理できます。
- 完璧を目指さない
- 「60点できれば上出来」くらいの気持ちで、物事のハードルを下げてみましょう。
- 再発のサインを知っておく
- 「眠れない日が続く」「些細なことでイライラする」など、ご自身の不調のサインに早めに気づき、休息を取ったり、主治医に相談したりする準備をしておくことも重要です。
休職や退職も選択肢|利用できる経済的な支援制度
様々な工夫をしても、どうしても治療と仕事の両立が困難な場合もあります。そんな時は、無理をし続けるのではなく、一度仕事から離れることも、自分を守るための大切な選択肢です。
つらいときは無理せず休職し、治療に専念する
「休職したら、キャリアに傷がつく」「周りに迷惑をかけてしまう」と、休むことに罪悪感を感じるかもしれません。しかし、つらい状態で働き続けることは、症状をさらに悪化させ、回復を長引かせることにつながります。思い切って休職し、仕事のプレッシャーから解放された環境で、治療に専念する時間を持つことは、決して遠回りではありません。それは、その後の人生をより良く生きるための、前向きで戦略的な選択なのです。
休職や退職時に利用できる支援制度一覧
仕事から離れる際の経済的な不安を支えるため、様々な公的制度が用意されています。
制度名称 | 制度の概要 |
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傷病手当金 | 在職中に会社の健康保険に加入している方が、病気やけがのために4日以上仕事を休み、給与が支払われない場合に利用できる制度です。最長で通算1年6ヶ月間、給与のおおむね3分の2が支給されます。 |
自立支援医療制度 | 気分障害の治療のために、精神科や心療内科へ継続的に通院する場合、医療費の自己負担額を通常3割のところを1割に軽減できる制度です。薬局での薬代も対象となります。 |
精神障害者保健福祉手帳 | 気分障害の症状が一定の基準を満たす場合、交付を受けられます。税金の控除や公共料金の割引、障害者雇用枠での就職活動など、様々な福祉サービスを利用できるようになります。 |
生活保護 | 病気やその他の理由で収入が途絶え、資産などを活用してもなお生活に困窮する場合に、国が最低限度の生活を保障する制度です。 |
ご家族や周囲の方ができること
ご本人が治療と仕事の両立に悩んでいるとき、ご家族や職場の同僚など、周りの人の理解とサポートが大きな支えとなります。
- 病気を正しく理解する
- まずは、気分障害が「気分の波」を特徴とする病気であり、「怠け」や「性格」の問題ではないことを理解しましょう。
- 話をじっくり聴く
- アドバイスや意見を言う前に、まずは本人のつらい気持ちを否定せずに受け止め、共感的に耳を傾けましょう。
- 安易に励まさない
- 「頑張れ」という言葉は、特にうつ状態の本人をさらに追い詰めてしまうことがあります。
- 生活リズムの安定をサポートする
- 特に双極性障害の方にとって、規則正しい生活は非常に重要です。一緒に散歩をする、決まった時間に食事をとるなど、さりげなくサポートしましょう。
- 専門家への相談を勧める
- 本人が一人で抱え込んでいる場合は、「一緒に病院に行ってみようか」「相談窓口に電話してみようか」と、具体的な行動を後押ししてあげましょう。
仕事復帰や就職をサポートする専門機関
治療によって症状が安定し、再び働くことを考え始めた際には、一人で悩まずに専門機関の力を借りましょう。
- ハローワークの専門援助窓口
- 全国のハローワークには、障害のある方の就職を専門にサポートする窓口があります。病状に理解のある相談員が、求人紹介や就職活動のアドバイスを行ってくれます。
- 障害者就業・生活支援センター
- 仕事の悩みだけでなく、日常生活の困りごとまで、一体的に相談できる身近な支援機関です。就職から職場定着まで、継続的なサポートを受けられます。
- 就労移行支援事業所
- 一般企業への就職を目指し、最長2年間、職業訓練や就職活動の支援を受けられます。
- 就労継続支援事業所
- すぐに一般企業で働くのが難しい場合に、サポートのある環境で働く機会を提供します。
気分障害と向き合いながら働きたいあなたへ|就労継続支援B型事業所オリーブ
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