
病気やケガ、あるいはメンタルヘルスの不調で、どうしても仕事を続けるのがつらくなってしまったとき。会社を休むという選択肢が頭に浮かびますが、「休職」「休業」「欠勤」など、似たような言葉が多くて、その違いや手続きについてよく分からない、という方も多いのではないでしょうか。特に「休職」は、長期的に療養に専念し、再び元気に働くための大切な制度です。しかし、その間の給与や社会保険料がどうなるのか、どうやって申請すればいいのかといった、お金や手続きに関する不安は尽きないものです。
この記事では、「休職」とは何かを、「休業」「欠勤」との違いから分かりやすく解説します。さらに、休職中の給与や社会保険料の扱い、生活を支える「傷病手当金」制度、そして申請から復職までの流れについても、詳しくご紹介します。正しい知識を身につけて、不安を解消し、安心して心と体の回復に専念するための第一歩を踏み出しましょう。
休職とは?休業・欠勤との違い
会社を休むと言っても、その理由や期間によって、法律上・会社内での扱いは大きく異なります。まずは、「休職」「休業」「欠勤」の3つの言葉の違いを正確に理解しましょう。
休職 | 休業 | 欠勤 | |
---|---|---|---|
休む理由 | 自己都合 (病気、ケガ、留学など) |
会社都合 または 法律に基づく権利 (業績不振、育児・介護など) |
自己都合 (体調不良、私用など) |
期間 | 比較的 長期 (数週間〜数年) |
法律や会社の規定による | 比較的 短期 (1日〜数日) |
位置づけ | 会社の 制度 (法律上の義務ではない) |
法律上の権利 、または会社の命令 | 労働契約の不履行 |
給与 | 原則、 支払い義務なし 理由により手当や給付金あり |
原則、 支払いなし (ノーワーク・ノーペイ) |
休職:自己都合による長期の休み
休職とは、従業員側の個人的な事情により、会社に在籍したまま、長期間にわたって労働を免除してもらうことを指します。最も多いのが、心身の病気やケガの治療に専念するための「傷病休職」です。重要なのは、休職制度は法律で義務付けられたものではなく、会社が独自に就業規則で定めている制度であるという点です。そのため、休職できる期間や条件は、会社によって大きく異なります。
休業:会社都合や法律に基づく休み
休業とは、会社側の事情や、法律に基づく従業員の権利として、労働が免除されることを指します。
- 会社都合の例
- 会社の業績不振や機械の故障などで、従業員を一時的に休ませる場合。この場合、会社は従業員に「休業手当」を支払う義務があります。
- 法律に基づく例
- 「育児休業」や「介護休業」がこれにあたります。これらは、従業員の権利として法律で保障されており、条件を満たせば、雇用保険から「育児休業給付金」などが支給されます。
欠勤:届け出のない、または有給休暇を消化した後の短期の休み
欠勤とは、本来、働く義務のある日に、自己都合で仕事を休むことを指します。一般的には、事前の届け出なく休んだ場合や、有給休暇を使い切った後で、やむを得ず休む場合などがこれにあたります。通常は1日〜数日程度の短い休みを指します。
休職中のお金の話|給与・社会保険料・傷病手当金
長期間の休みとなる休職。その間の生活を支えるお金事情は、最も気になるポイントだと思います。
給与やボーナスの支払いは、原則として無い
労働契約の基本は「ノーワーク・ノーペイの原則」、つまり「働いていない時間については、給与を支払う義務はない」という考え方です。そのため、自己都合の休みである休職期間中は、給与やボーナスは支払われないのが一般的です。ただし、会社によっては独自の規定を設けている場合もあるため、ご自身の会社の就業規則を必ず確認しましょう。
社会保険料・住民税は、休職中も支払いが必要
給与の支払いがなくても、会社に在籍している限り、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料(40歳以上)といった 社会保険料 は、毎月支払う義務があります。これは、休職中も被保険者としての資格が継続しているためです。また、前年の所得に対して課税される 住民税 も、納付が必要です。通常は給与から天引き(特別徴収)されていますが、休職中は天引きできないため、ご自身で納付書を使って支払う「普通徴収」に切り替わるか、会社が立て替えるなどの対応が必要になります。社会保険料と住民税の支払い方法については、事前に会社の担当者(人事・総務など)とよく相談しておきましょう。
生活を支える「傷病手当金」制度
休職中の収入がゼロになると、安心して療養に専念できません。そんな時に、生活を支える大きな助けとなるのが、健康保険から支給される「傷病手当金」です。
傷病手当金の支給条件
以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。
- 業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
- 仕事に就くことができないこと(医師の証明が必要)
- 連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと(待期期間の完成)
- 休業した期間について給与の支払いがないこと
支給額と期間
- 支給額
- おおよそ、月給の3分の2程度が支給されます。
- 支給期間
- 支給が開始された日から、 通算して最長1年6ヶ月 です。途中で一時的に復職し、再度同じ病気で休職した場合でも、休職期間を合算して1年6ヶ月分支給される仕組みになっています。
退職後も傷病手当金はもらえる?(継続給付)
傷病手当金は、一定の条件を満たせば、会社を退職した後も継続して受け取ることができます。これを「継続給付」と呼びます。休職期間満了に伴い退職する場合など、知っておくと非常に重要な制度です。
退職後に継続給付を受けるための主な条件
- 退職日までに継続して1年以上の被保険者期間があること
- 退職日に傷病手当金を受給しているか、または受給できる状態であること (待期期間を終え、労務不能で休んでいる状態)
特に重要なのは2つ目の条件です。退職日に挨拶などで出勤してしまうと、「労務不能」とは見なされず、継続給付の権利を失ってしまうため注意が必要です。
休職の申請から復職までの流れ
実際に休職し、職場に復帰するまでには、どのようなステップを踏むのでしょうか。
休職の申請方法と引き継ぎのコツ
休職するための一般的な手続きの流れは以下の通りです。
- 医師の診察を受ける
- まずは、心身の不調について、専門の医療機関を受診します。
- 診断書をもらう
- 医師から、休養が必要であるとの診断を受けた場合、「診断書」を作成してもらいます。
- 上司・会社への相談
- 直属の上司に、病状と休職したいという意向を伝えます。その際、診断書を提示すると、スムーズに話が進みます。
- 休職届の提出
- 会社所定の「休職届」や、診断書などの必要書類を、人事・総務部門に提出します。
- 業務の引き継ぎ
- 体調に無理のない範囲で、後任者への引き継ぎを行います。
- 休職開始
- 書類が受理されれば、正式に休職開始となります。
体調が悪い中での引き継ぎは大きな負担ですが、口頭だけでなく、誰が見ても分かるように業務内容や手順を文書(マニュアル)として残しておくと、後々の問い合わせも減り、安心して療養に入れます。全てを一人で抱え込まず、上司に相談し、同僚に協力を仰ぎながら進めることも大切です。
休職期間の目安と段階的な過ごし方
休職できる期間の上限は、会社の就業規則によって定められています。実際の休職期間は、診断書に基づき、回復状況に応じて医師と相談の上で決まります。休職期間は、回復段階に応じて3つの時期に分けて過ごすのが良いとされています。
- 休養期(急性期)
- 休職開始直後の最もつらい時期。仕事のことは一切忘れ、十分な睡眠をとり、心と体の回復に専念します。
- リハビリ期(回復期)
- 少しずつ意欲が戻ってくる時期。決まった時間に起きる、軽い散歩をするなど、生活リズムを整え、徐々に活動量を増やしていきます。
- 復職準備期
- 復職を具体的に考える時期。図書館で過ごしたり、通勤練習をしたりして、復職後の生活に近いリズムで過ごします。
復職に向けた準備とサポート(リワーク支援)
症状が回復してきたら、いよいよ復職に向けた準備を始めます。
- 主治医との相談
- 自己判断で復職を決めるのは危険です。必ず主治医と相談し、「復職可能」という診断書をもらいましょう。
- 会社との面談
- 診断書を基に、会社の上司や人事担当者、産業医などと面談し、復職日や、復職後の働き方(時短勤務、業務内容の調整など)について具体的に話し合います。これを「復職プラン」と呼ぶこともあります。
- リワーク支援の活用
- スムーズな職場復帰に不安がある場合は、専門の支援機関が行う「リワーク支援」プログラムを利用するのも有効です。通勤訓練や、ストレス対処法などを学び、再発を防ぎながら、安定して働くための準備を整えることができます。
休職中のご家族や周囲の方へ|望ましい関わり方
ご本人が休職しているとき、ご家族など周囲のサポートが大きな力になります。
- 本人の決断を尊重する
- 休職は、ご本人が悩み抜いて出した決断です。「もう少し頑張ってみたら?」などと安易に言うのではなく、まずはその決断を受け止め、「ゆっくり休んでいいんだよ」と安心できる言葉をかけましょう。
- そっと見守る
- 特に休養期には、過度に干渉せず、安心して休める環境を整えることが何よりのサポートです。
- 情報収集を手伝う
- ご本人は心身のエネルギーが低下し、必要な情報を調べることも困難な場合があります。傷病手当金の手続きなどについて、代わりに調べて教えてあげることも大きな助けになります。
休職後の働き方をサポートする専門機関
休職を経て、元の職場に戻るだけでなく、「これを機に、自分に合った働き方を見つけたい」と考える方もいるでしょう。そんな時に頼りになる専門機関があります。
- ハローワーク
- 障害のある方向けの専門窓口があり、病状や特性に合わせた仕事探しをサポートしてくれます。
- 地域障害者職業センター
- ハローワークと連携し、より専門的な職業評価や、職業準備支援、そして前述のリワーク支援などを提供しています。
- 障害者就業・生活支援センター
- 「なかぽつ」の愛称で知られ、仕事の悩みだけでなく、金銭管理や体調管理といった、働くための土台となる生活面の相談にも、一体的に乗ってくれます。
- 就労移行支援・就労継続支援事業所
- 一般企業への就職を目指すための訓練を行う「就労移行支援」や、支援を受けながら自分のペースで働き、工賃を得ることができる「就労継続支援」があります。
休職後の社会復帰に不安があるあなたへ|就労継続支援B型事業所オリーブ
休職という経験を経て、「元の職場に戻るのは怖い」「また同じように、心身のバランスを崩してしまうかもしれない」「いきなりフルタイムで働く自信がない」
そんな風に、休職後の社会復帰に、大きな不安を感じていませんか。
その不安な気持ちのまま、焦って復職や転職をする必要はありません。まずは、ご自身の心と体のペースに合った、緩やかなリハビリから始めてみませんか。
私たち「就労継続支援B型事業所オリーブ」は、休職を経験された方などが、安心して社会復帰への第一歩を踏み出すための場所です。
オリーブは、大阪、兵庫、京都、奈良の関西エリアで、障害のある方の「働きたい」という気持ちを、その人らしいペースでサポートしています。雇用契約を結ばずに利用できるB型事業所なので、週1日・1日1時間といった、ごく短い時間からスタートでき、体調が悪い日は、気兼ねなく休むことができます。軽作業やPC作業などを通じて、働くことへの自信と生活リズムを少しずつ取り戻せます。
休職は、これまでの働き方を見つめ直し、自分らしい人生を再設計するための、大切な時間です。その次の一歩として、オリーブという選択肢を考えてみませんか。