
障害のある方の一般企業への就職をサポートしてくれる「就労移行支援」。このサービスを利用するためには、「受給者証」という証明書が必要不可欠です。利用を決めたものの、「受給者証って何?」「申請手続きが複雑そうで不安…」「どこで、どうやって申し込むの?」といった疑問や不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
受給者証の申請は、就職に向けた大切な準備の一つですが、確かに少し複雑な手続きも含まれます。しかし、手順を一つひとつ理解すれば、決して難しいものではありません。この記事では、就労移行支援の利用に必須の「受給者証」について、その役割から、申請・発行までの具体的な流れ、必要な書類、更新手続きまで、全体像を分かりやすく解説します。このガイドを読めば、あなたが次に行うべきことが明確になり、安心して手続きの第一歩を踏み出すことができます。
就労移行支援の受給者証とは サービスの利用許可を証明するもの
就労移行支援の利用を考え始めると必ず耳にする「受給者証」。これは一体どのようなものなのでしょうか。一言でいうと、受給者証は、就労移行支援をはじめとする「障害福祉サービス」を、公的な給付を受けながら利用することを許可する「証明書」です。つまり、受給者証は、あなたが公的なサポートを受けながら、安心して就職に向けたトレーニングに取り組むための「パスポート」のようなもの、と考えると分かりやすいでしょう。
正式名称は「障害福祉サービス受給者証」
普段は「受給者証」という通称で呼ばれることが多いですが、その正式名称は「障害福祉サービス受給者証」と言います。この名前が示す通り、この受給者証は就労移行支援のためだけのものではありません。
- 就労継続支援(A型・B型)
- 自立訓練(機能訓練・生活訓練)
- 共同生活援助(グループホーム)
- 居宅介護(ホームヘルプ)
など、障害者総合支援法に定められた様々な障害福祉サービスを利用する際に、共通して必要となる証明書です。受給者証には、利用が許可されたサービスの種類や量(月に利用できる日数など)、利用者負担額などが記載されています。
利用者負担額の仕組み
障害福祉サービスの利用にかかる費用の大部分は国と自治体が負担するため、利用者の自己負担は原則1割です。さらに、所得に応じて1ヶ月あたりの自己負担上限額が定められており、それを超える金額を支払う必要はありません。
所得区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限月額 |
---|---|---|
生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 |
低所得 | 市町村民税非課税世帯 | 0円 |
一般1 | 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満) | 9,300円 |
一般2 | 上記以外 | 37,200円 |
この仕組みにより、多くの方は無料または非常に低い自己負担で就労移行支援などのサービスを受けることができます。
受給者証の申請から発行までの流れ6ステップ
受給者証の申請手続きは、相談から発行まで、一般的に1ヶ月から2ヶ月程度の時間が必要とされています。利用したい事業所が決まったら、早めに手続きを始めることが大切です。ここでは、申請から発行までの標準的な流れを6つのステップに分けて詳しく解説します。
※手続きの細かな流れや名称は自治体によって異なる場合があります。
ステップ1:自治体の障害福祉窓口へ相談
すべての手続きは、お住まいの市区町村の役所にある「障害福祉課」などの担当窓口へ相談することから始まります。可能であれば、ご家族や相談支援専門員など、あなたの状況をよく知る人と一緒に行くと、よりスムーズに話を進められます。利用したい事業所がいくつか決まっている場合は、そのパンフレットなどを持参すると、話が具体的に伝わりやすくなります。
ステップ2:申請書類を提出
ステップ1で受け取った申請書類や、指示された必要書類を準備し、窓口に提出します。どのような書類が必要かについては、後のセクションで詳しく解説しますが、事前にリストアップして漏れなく準備することが、手続きをスムーズに進めるコツです。
ステップ3:認定調査(聞き取り調査)
申請書類を提出すると、後日、市区町村の認定調査員による面接(聞き取り調査)が行われます。この面接では、現在の心身の状況や普段の生活の様子、就労移行支援を利用したい理由などを質問されます。見栄を張ったりせず、ありのままの状況を正直に伝えることが非常に重要です。この調査結果と提出書類をもとに、サービスの必要性や適切なサービス量を判断するための審査が自治体内部で行われます。
ステップ4:サービス等利用計画案の作成・提出
サービスの支給決定を受けるためには、「サービス等利用計画案」という書類を作成し、提出する必要があります。これは、あなたが「どのような生活を送りたいか」という目標を定め、その実現のために「どのようなサービスを、どのくらいの頻度で利用したいか」を具体的に記した、いわば「支援の設計図」です。作成方法は、専門の「相談支援専門員」に無料で作成を依頼する「計画相談支援」と、ご自身で作成する「セルフプラン」から選べます。多くの方は、地域の福祉サービスに精通し、客観的な視点で計画を立ててくれる相談支援専門員に依頼します。
ステップ5:暫定支給の決定(お試し利用)
サービス等利用計画案を提出し、自治体の審査でサービスの利用が適当と判断されると、多くの場合、まず「暫定支給」が決定されます。これは、本契約の前に、最長2ヶ月間の「お試し期間」が設けられる制度です。この期間中に、あなたが利用を希望している就労移行支援事業所に実際に通ってみて、事業所との相性などをじっくりと確認します。
暫定支給期間中に確認したいポイント
- プログラムの内容は、自分の目標に合っているか
- 事業所の雰囲気や、他の利用者さんの様子はどうか
- スタッフとの相性は良さそうか、相談しやすいか
- 自宅からの通勤は無理なく続けられそうか
このお試し期間を経て、あなた自身と事業所、そして自治体の三者が「このまま本格的に利用して問題ない」と合意した場合に、正式な支給決定へと進みます。
ステップ6:受給者証の交付とサービス利用開始
暫定支給期間が無事に終了し、正式な支給が決定されると、いよいよあなたの自宅に「障害福祉サービス受給者証」が郵送で届きます。この受給者証が手元に届いたら、利用したい就労移行支援事業所にそれを提示し、正式な利用契約を結びます。これで、ようやくサービスの利用をスタートすることができます。
受給者証の申請手続きに必要な書類
申請手続きには、いくつかの書類を準備する必要があります。ここでは、一般的に必要とされる書類をご紹介しますが、自治体によって必要書類や様式の名称が異なる場合があるため、必ず、事前にご自身の市区町村の窓口で確認してください。
① 申請書など(役所の窓口で受け取る書類)
- 支給申請書兼利用者負担額減額・免除等申請書
- 世帯状況・収入等申告書
② 障害の状況を証明する書類
障害の状況を公的に証明するための書類として、以下のいずれかが必要となります。
- 身体障害者手帳
- 療育手帳(愛の手帳、みどりの手帳など)
- 精神障害者保健福祉手帳
- 自立支援医療受給者証(精神通院)
もし、これらの手帳をお持ちでない場合でも、「医師の診断書」や「意見書」で代用できることがあります。診断書で申請可能かどうかは、自治体の判断となるため、必ず窓口で相談しましょう。
③ 本人確認書類や印鑑など
上記に加えて、身元や所得を確認するための書類も必要です。
- マイナンバーが確認できる書類
- 身元確認書類
- 印鑑
- 所得を証明する書類(※マイナンバーの提出で省略できる場合があります)
受給者証の有効期限と更新手続き
受給者証は、一度発行されたら永続的に使えるわけではありません。定期的な更新が必要になることを覚えておきましょう。
有効期限は原則1年間
受給者証に記載されている支給決定期間、つまり有効期限は、原則として1年間です。ただし、これはあくまで「受給者証自体の有効期限」です。就労移行支援というサービス自体を利用できる期間は、原則として最長2年間と定められています。そのため、2年間の利用期間中に、少なくとも1回は受給者証の更新手続きが必要になります。
更新手続きは有効期限の約3ヶ月前から
有効期限が近づくと、期限が切れる約3ヶ月前を目安に、お住まいの自治体から更新手続きのお知らせが郵送で届くのが一般的です。お知らせが届いたら、再び障害福祉窓口へ行き、更新のための申請手続きを行います。手続きの基本的な流れは、新規で申請した時とほとんど同じです。更新手続きを忘れてしまうと、サービスが利用できなくなってしまうため、速やかに行動しましょう。
受給者証申請でよくある質問(Q&A)
- Q1. 申請すれば、必ず受給者証はもらえますか?
- A1. 必ずしも発行されるわけではありません。市区町村の審査会で、申請者の状況やサービス等利用計画案などを基に、サービスの必要性が総合的に判断されます。サービスの必要性が低いと判断された場合などには、支給が認められないこともあります。
- Q2. 働きながら(休職中など)でも申請できますか?
- A2. 自治体の判断によりますが、一般企業に在籍中(休職中)の方でも、復職を目指すリハビリの一環として就労移行支援の利用が認められるケースがあります。また、パートやアルバイトとして働いている方でも、退職して一般就労を目指す意向が明確であれば、対象となる場合があります。まずは窓口でご自身の状況を正直に相談してみることが大切です。
- Q3. 引越しをした場合、受給者証はどうなりますか?
- A3. 受給者証は、住民票のある市区町村が発行するため、他の市区町村へ引っ越した場合は、それまで使っていた受給者証は無効になります。サービスを引き続き利用したい場合は、転居先の市区町村の障害福祉担当窓口で、新たに申請手続きを行う必要があります。
就職への一歩を踏み出すあなたへ|就労継続支援B型事業所オリーブという選択肢
受給者証の申請手続きを進めることは、あなたの「働きたい」という気持ちを具体的な行動に移す、大きな一歩です。一方で、「手続きは分かったけれど、いきなり週5日、決まった時間に通う就労移行支援を利用するのは、まだ少し不安…」と感じている方もいらっしゃるかもしれません。
長年のブランクがあったり、体調に波があったりして、「まずは自分のペースで生活リズムを整えることから始めたい」とお考えなら、就労継続支援B型事業所オリーブという選択肢もぜひご検討ください。
就労継続支援B型も、今回ご説明した「障害福祉サービス受給者証」を使って利用するサービスです。就労移行支援と違い、週1日、1日2時間といった短時間の利用から始めることができ、ご自身の体調に合わせて無理なく働くことに慣れていくことができます。
オリーブのようなB型事業所で自信をつけてから、次のステップとして就労移行支援に挑戦することも可能です。あなたにとって最適な支援の形は一つではありません。選択肢の一つとして、ぜひ一度オリーブの見学・相談にお越しください。