
障害のある方の一般企業への就職をサポートする「就労移行支援」。利用を検討する際、多くの事業所の中から自分に合った場所を見つけることは、就職活動の成功を左右する非常に重要なステップです。そこで欠かせないのが「体験利用」という機会です。体験利用とは、正式に利用を開始する前に、事業所のプログラムや雰囲気を実際に試すことができる制度のこと。ウェブサイトやパンフレットだけでは分からない「事業所のリアル」を知り、自分との相性を見極める絶好のチャンスです。
この記事では、就労移行支援の体験利用について、そのメリットから当日の流れ、気になる服装や持ち物、申し込み方法までを網羅的に解説します。「体験って何をするの?」「参加するのが少し不安…」と感じている方も、この記事を読めば、安心して体験利用への一歩を踏み出せるようになります。
体験利用する事業所の選び方|3つのチェックポイント
体験利用を申し込む前に、まずはどの事業所を試してみたいか、候補を絞り込む必要があります。ウェブサイトやパンフレットを見ながら、以下の3つのポイントをチェックしてみましょう。
ポイント1:自分の障害特性や目標との一致
就労移行支援事業所は、それぞれに特色があります。ご自身の障害特性や、就職に関する目標と、事業所の方針が合っているかを確認することが大切です。
- 障害への専門性
- 精神障害のサポートに強い、発達障害の方向けのプログラムが充実しているなど、事業所ごとの専門性を確認しましょう。
- 訓練内容
- 事務職を目指すならPCスキルの講座が豊富な事業所、専門職を目指すならプログラミングやデザインが学べる事業所など、ご自身の希望職種に合った訓練が受けられるかを確認します。
- 支援方針
- 一人ひとりに合わせた個別支援を重視しているか、グループワークを通じてコミュニケーション能力を高めることを重視しているかなど、事業所の支援方針がご自身の希望と合うかを見極めましょう。
ポイント2:就職実績と定着支援
就労移行支援の最終的なゴールは「就職し、長く働き続けること」です。そのため、事業所の就職実績や、就職後のサポート体制も重要なチェックポイントです。
- 就職実績
- これまでに何人が就職したか(就職率)、どのような企業や職種に就職しているかなどを確認します。ご自身の希望する働き方に近い実績があるかは、大きな参考になります。
- 定着支援
- 就職後に、職場に慣れるまでの期間、スタッフが定期的に面談を行ったり、職場を訪問したりしてくれる「定着支援」というサポートがあります。この定着支援に力を入れている事業所は、長期的な視点であなたを支えてくれる可能性が高いと言えます。
ポイント3:事業所の場所と通いやすさ
意外と見落としがちですが、継続して通うためには「通いやすさ」も非常に重要です。自宅からの距離、交通手段、乗り換えの回数、最寄り駅からの距離などを確認しましょう。特に、体力に不安のある方や、公共交通機関に苦手意識のある方は、無理なく通える範囲の事業所を選ぶことが、訓練を続けるための大前提となります。
就労移行支援の体験利用とは?事業所との相性を確認する機会
就労移行支援の「体験利用」とは、その名の通り、事業所と正式な利用契約を結ぶ前に、お試しで事業所に通い、実際のサービスを体験できる制度です。期間は事業所によって異なりますが、1日から数日間、場合によっては1週間程度、他の利用者の方と一緒にプログラムに参加します。この体験利用の最大の目的は、「あなたと事業所との相性を確認すること」です。就労移行支援は、原則として最長2年間という限られた期間で利用するサービス。この貴重な時間を有意義なものにするためには、自分に合わない場所を選んでしまう「ミスマッチ」を避けることが何よりも大切ですのです。
「見学」との違いは?
多くの事業所では、「見学」と「体験利用」を段階的に設けています。
- 見学
- 30分~1時間程度で、スタッフから説明を受けたり、施設内を見て回ったりする「受動的」な活動です。まずは事業所の概要を知るためのステップです。
- 体験利用
- 半日~数日間にわたり、実際のプログラムに参加する「能動的」な活動です。見学で興味を持った事業所を、より深く理解するためのステップです。
体験利用のメリット:プログラムや雰囲気がわかる
体験利用には、自分にぴったりの事業所を見つけるためのヒントがたくさん詰まっています。
- プログラム内容を具体的に確認できる
- PCスキル訓練、ビジネスマナー講座など、実際のプログラムに参加することで、内容が自分の目標と合っているか、興味を持って続けられそうかを判断できます。
- 事業所の「生」の雰囲気を体感できる
- スタッフと利用者の会話の様子、休憩時間の過ごし方など、パンフレットだけでは伝わらない「空気感」を肌で感じることができます。
- スタッフとの相性をチェックできる
- 親身に話を聞いてくれるか、質問しやすいかなど、支援の質やスタッフの人柄を確認する絶好の機会です。
- 無理なく通えるか判断できる
- 自宅から事業所までを実際に通ってみることで、電車の混雑状況や所要時間などを具体的に把握し、継続して通えるかをシミュレーションできます。
- 自分の得意・不得意を再発見できる
- 実際にプログラムに取り組む中で、自分の新たな一面や、就職に向けた課題に気づくことがあります。
体験利用と「暫定支給」の関係
体験利用は、事業所が独自に行う無料のサービスである場合と、市区町村の「障害福祉サービス受給者証」の申請プロセスの一環である「暫定支給」として行われる場合があります。
暫定支給とは、受給者証の正式な発行前に、最長2ヶ月間の「お試し期間」として、サービスの利用が認められる制度です。この期間を通じて、利用者は事業所との相性をじっくり見極め、市区町村はそのサービスが本当に本人にとって必要かつ適切かを判断します。
短期間の体験利用を経て、利用の意思が固まった後、この暫定支給のプロセスに進むのが一般的です。つまり、体験利用は、より長期的な視点で自分に合った支援を見つけるための、重要な入り口の役割も担っているのです。
就労移行支援の体験利用の流れ
ここでは、一般的な体験利用の1日の流れを、順を追って詳しくご紹介します。事業所によって内容は異なりますので、あくまで一例として参考にしてください。
ステップ1:体験前の面談
体験利用の初日、多くの場合、まずはスタッフとの個別面談から始まります。あなたの現在の状況(体調、生活リズムなど)、就職に関する希望や目標、障害の特性や必要な配慮について、リラックスしてありのままを話してみましょう。事前にご自身の経歴や希望、不安な点をメモにまとめておくと、よりスムーズに伝えることができます。
ステップ2:プログラムの体験
面談が終わると、いよいよ実際のプログラムに参加します。他の利用者の方々と一緒に、その日予定されているカリキュラムを体験します。
プログラムの具体例
- PC訓練(Word/Excel)
- ビジネスマナー講座
- コミュニケーション訓練(SST)
- 自己分析ワーク
- 軽作業など
憩時間の様子
訓練プログラム以外の時間も、事業所の雰囲気を知るための貴重な情報源です。昼食のとり方や、休憩スペースでの他の利用者の過ごし方などを観察し、「自分もここでやっていけそうか」を判断する材料にしましょう。
ステップ4:体験後の振り返り面談
体験利用の最終日には、必ず振り返りのための面談が行われます。体験を通じて感じたことや疑問点をスタッフと共有し、今後の方向性を確認します。
振り返り面談で質問したいことの例
- 「体験中の様子を見て、私にはどのような強みや課題があると感じましたか?」
- 「もし利用する場合、どのような支援計画(カリキュラム)が考えられますか?」
- 「私と同じような障害のある方の、就職実績はどのくらいありますか?」
この面談で、疑問や不安を全て解消することが大切です。無理にその場で利用を決める必要はありませんので、持ち帰ってじっくり考える時間をもらいましょう。
体験利用の服装と持ち物
服装は「オフィスカジュアル」が無難
特に指定がない場合、「オフィスカジュアル」を意識した服装で行くのが最も無難です。就労移行支援は「就職を目指す場所」ですので、職場に行くことを想定した清潔感のある服装を心がけましょう。
- 良い例
- 襟付きのシャツ、ブラウス、チノパン、スラックス、きれいめのスニーカーなど。
- 避けるべき例
- ジャージ、ダメージジーンズ、サンダル、露出の多い服装など。
必要な持ち物リスト
- 必須の持ち物
- 筆記用具(ボールペン、メモ帳)、昼食・飲み物(提供がない場合)、障害者手帳や身分証明書、事業所の連絡先
- あると便利な持ち物
- A4サイズのクリアファイル、常備薬、ハンカチ・ティッシュ、羽織るもの、印鑑
就労移行支援の体験利用の申し込み方法
電話やWebサイトから直接申し込む
ほとんどの就労移行支援事業所は、公式ウェブサイトに「お問い合わせフォーム」を設置しています。また、電話番号も掲載されています。ご自身のやりやすい方法で、「体験利用を希望したい」と連絡してみましょう。
事業所の「見学」時に申し込む
多くの場合、体験利用の前に、まずは短時間の「見学」から始めることが推奨されています。この見学の際に、事業所の雰囲気が自分に合いそうだと感じたら、その場で「ぜひ体験利用もさせていただきたい」とスタッフに申し出るのが、非常にスムーズな流れです。
体験利用が終わった後にやること
- 感想を整理して記録する
- 忘れないうちに、良かった点、気になった点、スタッフや事業所の雰囲気などをメモにまとめます。
- 複数の事業所を比較検討する
- 一つの事業所だけでなく、できれば2~3ヶ所の事業所を体験利用し、それぞれの特徴を比較検討することをお勧めします。
- 家族や支援者と相談する
- ご家族や、いる場合は相談支援専門員などに体験の感想を話し、客観的な意見をもらうことも、後悔のない選択をするために役立ちます。
- 利用を決めたら、受給者証の手続きへ
- 「この事業所を利用したい」と決めたら、お住まいの市区町村の窓口で、受給者証の申請手続きを進めましょう。
自分に合う事業所探しのために まずは見学・体験から|就労継続支援B型事業所オリーブのご案内
ここまで、就労移行支援事業所を選ぶ際の体験利用の重要性について解説してきました。自分に合った環境で、着実にステップアップしていくためには、様々な選択肢を検討することが大切です。
中には、「いきなり一般企業への就職を目指す就労移行支援は、少しハードルが高いかもしれない」「まずは週に数日から、自分のペースで働くことに慣れたい」と感じる方もいらっしゃるでしょう。
そのような方は、 就労継続支援B型事業所オリーブ の見学・体験も検討してみませんか?
オリーブは、ご自身の体調やペースに合わせて、週1日・短時間からでも通うことができる就労継続支援B型事業所です。軽作業などを通じて、無理なく働く習慣を身につけながら、生活リズムを整え、働くことへの自信と喜びを取り戻すことができます。
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