
お子さんの就学先を考えるとき、「特別支援学校」という選択肢について、「一体どんなところなのだろう?」「うちの子は入れるの?」「普通学校の特別支援学級とはどう違うの?」など、様々な疑問や不安が浮かぶ保護者の方は多いのではないでしょうか。大切なお子さんが、自分らしく、生き生きと学べる場所を選ぶために、まずは特別支援学校がどのような役割を持ち、どんな教育を行っているのかを正しく知ることが大切です。
この記事では、特別支援学校の基本的な役割から、入学の条件、具体的な授業内容、そして誰もが気になる卒業後の進路まで、網羅的に分かりやすく解説していきます。お子さんの未来の可能性を広げるための大切な情報として、ぜひ最後までお役立てください。
特別支援学校とは?養護学校や特別支援学級との違い
特別支援学校は、障害のある子どもたちのための学校ですが、その目的や位置づけについて、よく似た名称の「特別支援学級」との違いも踏まえながら見ていきましょう。
障害のある子どもの自立や社会参加を目的とした学校
特別支援学校は、学校教育法に基づき、視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、または病弱の子どもたちに対して、幼稚園、小学校、中学校または高等学校に準ずる教育を施すとともに、 障害による学習上または生活上の困難を克服し、自立を図るために必要な知識技能を授けること を目的として設置された学校です。単に教科の勉強をするだけでなく、一人ひとりの障害の特性や発達段階に応じて、社会で生きていくための力を育むことを大きな目標としています。専門的な知識を持つ教員や、障害に配慮された施設・設備が整っているのが大きな特徴です。
2007年から養護学校・ろう学校・盲学校が一本化
以前は、障害の種類によって「盲学校(視覚障害)」「ろう学校(聴覚障害)」「養護学校(知的障害、肢体不自由、病弱)」と、それぞれ別々の学校として設置されていました。しかし、2007年の学校教育法の改正により、これらの学校が「特別支援学校」として一本化されました。これは、複数の障害を併せ持つ子どもが増えてきたことや、それぞれの学校が持つ専門性を相互に活かし、より質の高い教育を提供することを目的としたものです。
一本化された後も、それぞれの学校は対象とする障害の専門性を維持しており、多くの場合「〇〇特別支援学校(視覚支援)」「〇〇特別支援学校(聴覚支援)」のように、どの障害に対応しているかが分かるようになっています。
幼稚部から高等部までの一貫した教育
特別支援学校は、年齢に応じて「幼稚部」「小学部」「中学部」「高等部」で構成されています。これにより、幼児期から青年期まで、お子さんの発達段階に応じた一貫した教育・支援を受けることができます。すべての学校に全ての学部が設置されているわけではありませんが、地域のニーズに応じて、例えば小学部と中学部が設置されている学校、高等部のみの学校など、様々な形態があります。また、高等部卒業後の進路として、さらに専門的な知識や技術を学ぶための「専攻科」が設けられている学校もあります。
特別支援学級との違い
特別支援学校とよく混同されがちなのが、地域の小・中学校内に設置されている「特別支援学級」です。どちらも障害のある子どもたちのための学びの場ですが、いくつかの点で違いがあります。
特別支援学校 | 特別支援学級 | |
---|---|---|
設置場所 | 独立した学校として設置 | 地域の小・中学校内の一学級として設置 |
対象 | 比較的、障害の程度が重い子ども | 比較的、障害の程度が軽い子ども |
教員の専門性 | 障害種別の特別支援学校教諭免許状を持つ教員が中心 | 小・中学校の教員免許状を持つ教員が中心 |
施設・設備 | バリアフリー、専門的な訓練機器など、障害に特化した設備が充実 | 通常の学校の設備が基本 |
通学 | 学区が広く、スクールバスで通学することが多い | 地域の学校の学区内に居住する子どもが通学 |
簡単に言えば、専門的な設備や人員が整った独立した学校で、手厚い支援を受けられるのが「特別支援学校」、地域の学校の中で、通常学級と交流しながら、個別のニーズに応じた支援を受けられるのが「特別支援学級」とイメージすると分かりやすいでしょう。
特別支援学校の入学条件と就学までの流れ
特別支援学校に入学するためには、一定の条件を満たしている必要があり、就学相談を経て入学が決定します。
入学対象となる障害の程度と就学基準
特別支援学校の入学対象となる障害の程度は、学校教育法施行令第22条の3において、以下のように定められています。
- 視覚障害者
- 両眼の視力がおおむね0.3未満のもの、または視力以外の視機能障害が高度のもの
- 聴覚障害者
- 両耳の聴力レベルがおおむね60デシベル以上のもの
- 知的障害者
- 知的発達の遅滞があり、他人との意思疎通や日常生活に頻繁に援助を必要とする程度のもの
- 肢体不自由者
- 補装具の使用によっても歩行・筆記などが困難な程度のもの
- 病弱者(身体虚弱者を含む)
- 慢性の疾患により、継続して医療または生活規制を必要とする程度のもの
発達障害の子どもは入学できるのか
自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)などの「発達障害」は、上記の法令には直接的な規定がありません。そのため、「発達障害」という診断名だけで特別支援学校の入学対象となることはありません。ただし、発達障害に加えて、上記の基準に該当する知的障害などを併せ持っている(重複障害)と判断された場合には、特別支援学校(知的障害)への入学が検討されることがあります。
就学相談から入学決定までのスケジュール
お子さんの就学先は、保護者の希望だけで決められるものではなく、お住まいの市区町村の教育委員会が行う「就学相談」を通じて決定されます。
- 就学相談の開始
- 年長児の5月~10月頃に、教育委員会の窓口や、園を通じて就学相談を申し込みます。
- 学校見学・体験入学
- 夏~秋頃に、地域の小・中学校や、候補となる特別支援学校などを実際に見学します。
- 行動観察・発達検査
- 秋頃に、必要に応じて、専門家がお子さんの様子を観察したり、発達検査を行ったりします。
- 教育支援委員会での審議
- 秋~冬頃に、専門家で構成される委員会が、お子さんにとって最も適切な教育の場はどこかを審議します。
- 就学先の決定通知
- 10月~1月頃に、審議結果に基づき、教育委員会が最終的な就学先を決定し、保護者に通知します。
- 入学説明会・入学準備
- 1月~3月に、決定した学校の入学説明会に参加し、入学に向けた準備を進めます。
特別支援学校の授業内容とカリキュラム
個別の教育支援計画に基づいた指導
特別支援学校では、在籍するすべての子どもに対して「個別の教育支援計画」が作成されます。これは、お子さん一人ひとりの障害の状態や発達段階、学習のニーズに応じて、長期的な視点から教育の目標や支援の内容を具体的に記した計画書です。保護者や医療・福祉関係者とも連携しながら作成され、この計画に基づいて日々の授業や指導が進められます。
障害による困難を改善・克服するための「自立活動」
特別支援学校の教育課程における最大の特徴が「自立活動」です。これは、各教科の学習とは別に設けられた、障害による様々な困難を主体的に改善・克服するために必要な知識やスキル、態度を養うための特別な指導です。「個別の教育支援計画」に基づき、一人ひとりに合った目標を立てて、個別または小グループで指導が行われます。
【自立活動の指導内容の例】
- 健康の保持
- 病気の状態を自己管理する、体を動かして体力をつける など
- 心理的な安定
- 感情をコントロールする、リラックスする方法を身につける など
- 人間関係の形成
- 自分の気持ちを伝える、相手の気持ちを理解する、集団のルールを学ぶ など
- 環境の把握
- 白杖を使って安全に歩行する(視覚障害)、補聴器を適切に管理・使用する(聴覚障害) など
- 身体の動き
- 姿勢を保持する、手先を上手に使う、日常生活に必要な基本動作を身につける など
- コミュニケーション
- 発音・発語の練習、手話や絵カードなどのコミュニケーション手段を学ぶ など
特別支援学校卒業後の進路
特別支援学校高等部を卒業した後の進路は、大きく分けて「進学」と「就職」があります。卒業後を見据えたキャリア教育や進路指導が、早い段階から手厚く行われるのも特別支援学校の特徴です。
手厚い進路指導と「産業現場等における実習」
特別支援学校の高等部では、生徒一人ひとりが自分に合った進路を選択し、卒業後に円滑に社会生活へ移行できるよう、非常に手厚い進路指導が行われます。その中心となるのが「産業現場等における実習(現場実習)」です。
これは、生徒が在学中に実際の企業や福祉事業所などへ赴き、一定期間(1~2週間程度)、仕事を体験するものです。高等部の3年間で複数回実施されることが多く、この実習を通じて、生徒は自身の仕事への適性や興味、課題を具体的に把握します。同時に、受け入れ先の企業側も生徒の障害特性や能力への理解を深めることができ、卒業後の就職のマッチング精度を高める上で非常に重要な役割を果たしています。
大学や専門学校などへの進学
高等部卒業後、大学や短期大学、専修学校(専門学校)へ進学する道があります。文部科学省の令和4年度の調査によると、特別支援学校高等部卒業者全体のうち、大学・短大・専修学校などへ進学する人の割合は合わせて数パーセント程度ですが、障害のある学生への支援体制が整った大学も増えており、進学は多様な選択肢の一つとなっています。
一般企業や福祉的就労での「就職」
卒業生の多くは、社会に出て働く道を選びます。就職には、大きく分けて「一般就労」と「福祉的就労」の2つの形があります。
【卒業後の就職の形】
- 一般就労
- 一般企業に就職して働く形です。企業の障害者雇用枠に応募して就職する場合がほとんどです。在学中から、ハローワークと連携したり、前述の職場実習を重ねたりしながら、本人に合った職場を探していきます。
- 福祉的就労
- 障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスを利用しながら、支援のある環境で働く形です。
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- 就労移行支援:一般企業への就職を目指し、最長2年間、職業訓練などの支援を受ける。
- 就労継続支援A型:事業所と雇用契約を結び、支援を受けながら働く。
- 就労継続支援B型:雇用契約は結ばず、体調や能力に合わせて、比較的簡単な作業を短時間から行う。
- 生活介護:常に介護が必要な人が、日中の活動の機会を得る。
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卒業後の就職をサポート|就労継続支援B型事業所オリーブという選択肢
特別支援学校高等部を卒業し、社会へ一歩踏み出すとき、「すぐに企業で働くのは、少し不安がある」「まずは自分のペースで、働くことに慣れていきたい」と考えるご本人やご家族は少なくありません。
そのようなとき、就労継続支援B型事業所は、卒業後の最初のステップとして非常に有効な選択肢の一つです。
私たち 就労継続支援B型事業所オリーブ は、大阪、兵庫、京都、奈良の関西エリアで、障害のある方の「働きたい」という気持ちを、一人ひとりのペースを大切にしながらサポートしています。
データ入力や軽作業など、個々の能力や特性に合わせて取り組める仕事を提供しており、週に1日、1日1時間といった短時間の利用から始めることが可能です。学校とは違う「社会」という環境の中で、働くことのルールや楽しさを学びながら、次のステップ(就労継続支援A型や一般就労など)に進むための自信とスキルを身につけることができます。
特別支援学校卒業後の進路の一つとして、ぜひオリーブの見学・相談にお越しください。お子さんの新しい未来を、一緒に考えていきましょう。