
会社から「産業医と面談してください」と言われたり、職場の掲示で「産業医相談日」のお知らせを見かけたりしたことはありませんか。「産業医ってどんな人?」「何を話せばいいの?」「話した内容が会社に筒抜けになるのでは…」と、不安や疑問を感じる方も少なくないでしょう。産業医面談は、決して怖いものではありません。むしろ、あなたが心身ともに健康で、安全に働き続けるために、会社が設けている大切なサポート制度の一つです。この記事では、産業医面談とは何か、その目的や産業医の役割、どんな時に面談が行われるのかを詳しく解説します。さらに、面談は拒否できるのか、主治医との違い、そして面談で話した内容がどう扱われるのかまで、あなたの不安を解消するための情報を網羅的にお届けします。この制度を正しく理解し、ご自身の健康を守るために上手に活用しましょう。
産業医面談とは?従業員の健康と安全を守るための面談
産業医面談とは、従業員が抱える仕事上のストレスや健康問題について、企業が選任した「産業医」という医師と面談し、専門的な助言や指導を受ける機会のことです。その目的は、従業員が心身の健康を維持・増進し、安全で快適な職場環境で働き続けられるようにサポートすることにあります。労働安全衛生法に基づき、常時50人以上の従業員を使用する事業場では、産業医を選任することが義務付けられています。産業医面談は、法律で定められた、労働者の健康と安全を守るための重要な制度なのです。
産業医の役割:治療ではなく「働く」を支える中立な専門家
産業医は会社に所属する医師ですが、その役割は病気を「治療」することではありません。会社と従業員のどちらか一方の味方をするのではなく、医学的な専門知識を持つ「中立な立場」から、従業員が健康に働けるようサポートすること が最大の役割です。
-
- 従業員に対して: 健康問題に関する相談に応じ、セルフケアの方法や専門医療機関への受診勧奨など、専門的なアドバイスを行います。
- 会社に対して: 従業員の健康を守るために、職場環境の改善や、働き方への配慮(就業上の措置)などについて、専門的な見地から勧告・指導を行います。
つまり、産業医は「治療の専門家」である主治医とは異なり、「職場における健康管理の専門家」と言えます。
オンラインでの面談も可能
近年では、テレワークの普及などに伴い、対面だけでなく、パソコンやスマートフォンを使ったオンラインでの産業医面談も増えています。場所を選ばずに相談できるため、遠隔地の事業所で働く方や、体調により外出が難しい方でも、気軽に専門家のサポートを受けやすくなっています。
産業医と主治医(かかりつけ医)の役割の違い
「主治医に相談しているから、産業医は必要ない」と考える方もいるかもしれませんが、両者の役割は明確に異なります。
比較項目 | 産業医 | 主治医(かかりつけ医) |
---|---|---|
目的 | 仕事と治療の両立支援 、職場における健康管理・安全配慮 | 病気やケガの 治療 |
立場 | 中立 (会社と従業員の間) | 患者の味方 |
専門性 | 労働衛生、メンタルヘルスなど「働くこと」に関する医学 | 各診療科(内科、精神科など)の臨床医学 |
判断の視点 | 職場の状況や業務内容を考慮し、「安全に働けるか」を判断 | 患者の日常生活における状態を基に「療養が必要か」「復職可能か」を判断 |
主治医が発行する「復職可能」という診断書は、「日常生活を送る上では支障がない状態まで回復した」という判断が主です。しかし、職場での業務遂行や人間関係のストレスに耐えられる状態かまでは分かりません。そこで産業医は、主治医の意見を尊重しつつ、職場の具体的な状況を踏まえて「どのような業務なら可能なのか」「どのような配慮が必要か」を専門的に判断し、会社に助言します。両者がそれぞれの専門性を活かして連携することで、より安全でスムーズな治療と仕事の両立が可能になるのです。
産業医面談はどんなときに行われる?主な5つのケース
具体的にどのような場合に、産業医面談が行われるのでしょうか。法律で定められているケースや、本人の希望によるケースなど、主に5つのパターンがあります。
ケース1:長時間労働が続いているとき
時間外・休日労働が1ヶ月あたり80時間を超え、疲労の蓄積が認められる従業員から申し出があった場合、事業者は産業医による面談指導を実施する義務があります。これは、長時間労働による脳・心臓疾患(過労死)や、精神障害の発症を防ぐための極めて重要な措置です。
ケース2:ストレスチェックで高ストレスと判定されたとき
年に1回実施が義務付けられている「ストレスチェック」の結果、「高ストレス者」と判定された従業員から申し出があった場合も、事業者は産業医による面談指導を実施する義務があります。面談では、ストレスの原因や状況について話し合い、メンタルヘルス不調を未然に防ぐためのアドバイスを受けます。
ケース3:健康診断の結果に所見があったとき
定期健康診断の結果、血圧や血糖値などに異常な所見(有所見)が見つかった従業員に対し、産業医はその結果を基に必要な指導を行います。必要に応じて面談を設定し、生活習慣の改善指導や、業務との関連性を考慮した上で、専門医への受診を勧めるなどの対応がとられます。
ケース4:休職や復職をするとき
心身の不調により休職する場合や、休職後に職場復帰(復職)をする際には、産業医との面談が重要な役割を果たします。
-
- 休職時: 主治医の診断書を参考に、本人が療養に専念できるよう、会社の対応について助言します。
- 復職時: 主治医の意見に加え、産業医が本人と面談し、「業務を遂行できる状態まで回復しているか」を客観的に判断します。その上で、復職後の働き方(時短勤務や業務内容の制限など)について、会社に具体的な意見を述べます。
ケース5:従業員本人が面談を希望するとき
上記のケース以外でも、従業員自身が「最近よく眠れない」「仕事のプレッシャーで体調が悪い」「職場の人間関係で悩んでいる」など、心身の不調を感じ、産業医に相談したいと希望すれば、いつでも面談を申し込むことができます。
面談を有効活用するための準備と当日の流れ
産業医面談は、限られた時間の中で行われます。事前に準備をしておくことで、よりスムーズに、かつ有意義な時間とすることができます。
面談前に準備しておくと良いこと
面談で「何を話せばいいかわからない」とならないよう、以下の点をメモなどにまとめておくことをお勧めします。
-
- 相談したいことの整理: 一番困っていることは何か、いつから、どのような状況で症状が出るか、などを時系列で整理する。
- 体調や生活の記録: 睡眠時間、食事、飲酒、休日の過ごし方などの記録。
- 仕事の状況: 業務内容、労働時間、人間関係、ストレスの原因など。
- 求める配慮の具体化: 「どうしてほしいか」を具体的に考える(例:「〇時以降の残業をなくしたい」「〇〇の業務を減らしてほしい」)。
- 関連書類の用意: 主治医の診断書や意見書、お薬手帳、健康診断の結果など。
面談当日の流れ
一般的に、面談は以下のような流れで進みます。
-
- アイスブレイク: 簡単な自己紹介や世間話で、緊張をほぐします。
- 現状のヒアリング: 産業医から、準備したメモの内容に沿って、体調や仕事の状況について質問されます。
- 相談・質疑応答: 本人から、一番聞きたいことや不安な点を相談します。
- 助言・指導: 産業医から、セルフケアの方法、職場環境の改善点、会社に求めるべき配慮などについて、専門的な助言を受けます。
- 今後のアクションの確認: 次回の面談の要否や、会社への報告内容について確認します。
産業医の「守秘義務」と会社への「報告義務」
面談で話した内容が、会社にどう伝わるのかは多くの方が心配する点です。ここでは、産業医が負う2つの義務について解説します。
話した内容は「守秘義務」で固く守られる
大前提として、産業医には医師として厳しい守秘義務が課せられています。面談で話した個人の病名やプライベートな悩みといった健康情報が、本人の同意なく会社(人事担当者や上司)に伝えられることは絶対にありません。安心して、正直に自分の状況を話すことが、適切なサポートを受けるための第一歩です。
会社への報告は「安全に働くための配慮」に限定
一方で、産業医には、従業員の健康確保に必要な措置について、会社に意見を述べる「報告義務」もあります。ただし、この報告内容は、あくまで「従業員が安全に働くために、会社が配慮すべき事項」に限定されます。
報告書には、診断名や相談の詳細といった個人情報が記載されることはなく、「残業を月〇時間以内に制限することが望ましい」「当面の間、軽作業への業務転換が望ましい」といった、医学的な見地からの意見が述べられます。そして、この意見書を会社に提出する際にも、原則として本人の同意が必要となります。
産業医面談は拒否できる?
「会社から面談を指示されたけれど、行きたくない」と感じる方もいるかもしれません。結論から言うと、長時間労働や高ストレスを理由に従業員から申し出があった場合などを除き、従業員に面談を受ける法的な義務はありません。
しかし、会社には従業員の心身の安全に配慮する「安全配慮義務」があります。そのため、特に休職・復職時や、健康状態に懸念がある場合に会社が面談を指示したにもかかわらず、正当な理由なく拒否を続けると、会社は安全配慮義務を果たせないと判断し、就業規則に基づいて「業務命令」として面談を命じる可能性があります。面談を拒否することは、自身の健康状態を客観的に把握し、適切なサポートを受ける機会を失うことにも繋がるため、まずは一度相談してみることが重要です。
面談後の流れと会社の対応
産業医面談は、単に話を聞いてもらうだけで終わりではありません。面談での助言を基に、具体的な職場環境の改善へと繋げていくことが重要です。
-
- 産業医から会社への意見書提出: 面談後、産業医は「従業員が安全に働くための配慮」についてまとめた意見書を作成します。前述の通り、この意見書を会社に提出する際には本人の同意が必要です。
- 会社による就業上の措置の検討・実施: 産業医から意見書を受け取った会社は、その意見を尊重し、具体的な措置(労働時間の短縮、業務内容の変更、配置転換など)を検討します。会社には産業医の勧告を尊重するよう努めることが求められており、これを無視して健康問題が悪化した場合、安全配慮義務違反として責任を問われる可能性があります。
- 本人へのフィードバック: 会社は、講じた措置について本人にフィードバックします。場合によっては、人事担当者や上司、本人、産業医を交えた三者面談で、今後の働き方について話し合うこともあります。
- フォローアップ面談: 措置が開始された後も、産業医は定期的に面談を行い、「措置は適切か」「新たな問題は生じていないか」などを確認し、必要に応じて再度の助言を行います。このように、産業医は継続的に従業員の健康を見守り続けます。
産業医がいない場合の相談先
常時50人未満の事業場では、産業医の選任義務がありません。社内に相談できる産業医がいない場合でも、利用できる相談先はあります。
-
- 地域産業保健センター(さんぽセンター): 50人未満の事業場で働く人を対象に、健康相談や産業医面談などを 無料 で提供している公的な機関です。
- かかりつけ医: 自分の体調をよく知るかかりつけの医師に相談し、仕事上の配慮について「意見書」を書いてもらい、会社に提出するという方法もあります。
- リワーク支援プログラム: 休職からの復帰を目指す場合、医療機関や地域障害者職業センターなどが実施している「リワーク支援」を利用することも有効です。
- 就労移行支援などの障害福祉サービス: 休職・離職し、新たな職場で働くことを目指す場合は、就労移行支援や就労継続支援といった障害福祉サービスを利用する道もあります。
休職後の社会復帰を焦らず考えたいあなたへ 就労継続支援B型事業所オリーブ
産業医面談などを経て、一度仕事から離れて休職し、心身の回復に専念した。そして、そろそろ社会復帰を考え始めたけれど、「元の職場のようなペースで働く自信はない」「再就職活動も、プレッシャーでつらい」と感じていませんか。そんな、焦らず、自分のペースで社会復帰の第一歩を踏み出したいと願うあなたに、就労継続支援B型事業所オリーブという選択肢があります。
オリーブは、雇用契約を結ばず、あなたの体調や気持ちを最優先に、週に1日、1日2時間といったごく短い時間からでも利用できる場所です。まずは、決まった時間に家を出て、安心できる居場所に行く、という習慣から始められます。軽作業などを通じて、働くことの達成感や、人との穏やかなつながりを感じながら、少しずつ自信を取り戻していくことができます。関西エリア(大阪、兵庫、京都、奈良)で、あなたのペースに合わせた社会復帰の形を探しているなら、ぜひ一度、オリーブにご相談ください。