
重度の障害があり、日常生活において常に特別な介護を必要とする方の経済的な負担を軽減するため、国が設けている「特別障害者手当」という制度があります。この手当は、障害年金など他の手当とは別に受給できる可能性があり、在宅で生活する重度の障害のある方にとって、生活の安定を図る上で非常に重要な支えとなります。しかし、制度名は知っていても「自分は対象になるのか」「いくら支給されるのか」「申請方法は?」など、具体的な内容はあまり知られていないのが実情です。この記事では、特別障害者手当の支給額や対象者の条件、所得制限、申請から受給までの流れ、そして他の経済的支援制度との関係性まで、網羅的かつ分かりやすく解説します。
特別障害者手当とは?
特別障害者手当は、「特別障害者手当等の支給に関する法律」に基づき、精神または身体に著しく重度の障害があるため、日常生活において常時特別な介護を必要とする20歳以上の方に支給される手当です。障害の程度が特に重い方の負担を軽減し、福祉の向上を図ることを目的としています。この手当は、障害者手帳の等級だけで自動的に決まるものではなく、国が定める認定基準に基づき、個別の状態に応じて支給が判断されます。また、原則として障害者支援施設などに入所しておらず、在宅で生活していることが支給の条件です。
支給金額は月額28,840円(令和6年度)
特別障害者手当の支給額は、物価の変動に応じて毎年度改定されます。令和6年度(2024年度)の支給月額は28,840円です。この金額が、年に4回(2月、5月、8月、11月)に分けて、指定した本人名義の口座に振り込まれます。介護用品の購入費や、日常生活で必要となる様々な費用に充てることができる、大切な収入源となり得ます。
対象者は20歳以上で著しく重度の障害がある在宅の方
特別障害者手当の対象となるのは、以下のすべての条件を満たす方です。
- 20歳以上であること
- 精神または身体に著しく重度の障害があること
- 上記障害により、日常生活において常時特別な介護を必要とすること
- 日本国内に住所(住民登録)があること
- 原則として、障害者支援施設や特別養護老人ホームなどの施設に入所していないこと
- 病院または診療所に継続して3ヶ月を超えて入院していないこと
最も重要な要件は、「著しく重度の障害があり、常時特別な介護を必要とする状態」である点です。国が示す認定基準では、「身体障害者手帳の等級で概ね最重度の1級または重度の2級に相当する障害が、2つ以上重複しているか、それと同等以上に重いと認められる状態」が目安とされています。
認定基準の具体例
以下のような障害の状態が複数ある、もしくはいずれか一つでも同等以上に重いと判断される場合に、対象となる可能性があります。
-
- 両眼の視力がそれぞれ0.03以下のもの
- 両耳の聴力が100デシベル以上のもの
- 両上肢の機能に著しい障害を有するもの
- 両下肢の機能に著しい障害を有するもの
- 体幹の機能に座っていることができない、または立ち上がることができない程度の障害を有するもの
- 身体機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が、上記と同程度以上と認められる状態であって、日常生活の用を弁ずることができない程度のもの
- 精神の障害で、上記と同程度以上と認められる程度のもの
ご自身の状態が対象となるかどうかは、専門医が作成した診断書に基づいて市区町村が審査・判断します。まずは、お住まいの自治体の障害福祉担当窓口で相談することが第一歩です。
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特別障害者手当の支給条件
手当を受給するには、障害の程度に加え、所得が一定額未満であることや、入院・入所に関する条件を満たす必要があります。
本人・配偶者・扶養義務者の所得制限
特別障害者手当には、受給者本人、その配偶者、および生計を同一にする扶養義務者(同居の父母、子、兄弟姉妹など)の所得が、下表の限度額を超えている場合に支給が停止される「所得制限」が設けられています。
所得制限限度額(令和6年度の例)
(単位:円)
対象 | 扶養親族等の数 | 0人 | 1人 | 2人 | 3人 |
---|---|---|---|---|---|
本人 | 所得額 | 3,604,000 | 3,984,000 | 4,364,000 | 4,744,000 |
配偶者・扶養義務者 | 所得額 | 6,287,000 | 6,536,000 | 6,749,000 | 6,962,000 |
※所得額は、給与所得者の場合は給与所得控除後の金額から、さらに医療費控除や障害者控除などを差し引いた後の金額です。※扶養親族等の数に応じて限度額は加算されます。毎年、所得状況を確認するための「現況届」の提出が必要です。
支給停止となるケース(入院・施設入所)
特別障害者手当は在宅生活を支援する趣旨のため、以下の場合には支給が停止されます。
- 病院または診療所に継続して3ヶ月を超えて入院した場合
- 障害者支援施設、特別養護老人ホームなどの施設に入所した場合
ただし、退院または退所した場合は、手続きをすれば再び手当を受け取ることができます。
他の制度との併給について
障害年金との併給は可能
公的年金である「障害基礎年金」や「障害厚生年金」と特別障害者手当は、制度の目的が異なるため、両方を同時に受給することが可能です。障害年金を受給していても、特別障害者手当の支給額には影響しません。
障害児福祉手当との併給は不可
20歳未満を対象とする「障害児福祉手当」を受給している方が20歳になった場合、特別障害者手当の支給要件を満たしていれば、切り替えの手続きを行う必要があります。両方の手当を同時に受給することはできません。
特別障害者手当の申請方法と支給日
特別障害者手当は、自動的に支給されるものではなく、本人または家族による申請が必要です。
申請から認定までの流れ
手当の申請窓口は、お住まいの市区町村の障害福祉担当課などです。
- 窓口での相談・書類受領
- まず市区町村の窓口で受給希望を伝え、制度説明を受け、申請書類一式を受け取ります。
- 診断書の作成依頼
- 指定様式の診断書をかかりつけ医に作成してもらいます。日頃の介護の状況などをメモにして渡すと、医師が状態を把握しやすくなります。
- 必要書類の提出
- 診断書、所得状況届など、全ての必要書類を揃えて窓口に提出します。
- 審査・認定
- 提出書類に基づき、市区町村(場合によっては都道府県)が審査を行います。
- 支給決定
- 審査の結果、認定されると自宅に決定通知書が届きます。申請から認定通知までは数ヶ月かかることがあります。
申請が認定されると、申請した月の翌月分から手当の支給対象となるため、対象になると思われる方は早めに相談・申請することが重要です。
申請に必要な主な書類
一般的に必要となる書類は以下の通りですが、自治体によって異なる場合があるため、必ず窓口で確認してください。
- 特別障害者手当認定請求書
- 特別障害者手当認定診断書(所定の様式)
- 所得状況届
- 同意書(所得確認用)
- 本人名義の預金通帳の写し
- 身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳(所持している場合)
- 本人の戸籍謄本または抄本
- 年金証書など、受給中の公的年金額がわかるものの写し
- マイナンバー(個人番号)が確認できる書類
※診断書の作成には、医療機関所定の文書料(自己負担)がかかります。
支給月と支給日
手当は、毎年2月、5月、8月、11月の年4回、各支給月の前月分まで(通常3ヶ月分)がまとめて振り込まれます。例えば、5月の支給日には、2月・3月・4月分が支給されます。支給日は自治体により異なり、多くは10日前後に設定されています。
よくある質問(Q&A)
Q1. 更新手続きは必要ですか?
A1. はい、必要です。受給資格があるかどうかを毎年確認するため、原則として毎年8月に「現況届」を提出する必要があります。また、障害の状態によっては、一定期間ごとに診断書を再提出して有期認定の更新手続きが必要な場合があります。
Q2. 障害者手帳を持っていませんが、申請できますか?
A2. 申請は可能ですが、認定は困難な場合があります。手当の認定は、手帳の等級とは別の基準で行われますが、審査の際には手帳の情報も参考にされます。手帳がない場合は、診断書の内容がより重要になりますが、手当の対象となる「著しく重度の障害」の状態にあることを客観的に証明する必要があります。
Q3. 申請すれば必ず受給できますか?
A3. 必ずしも受給できるとは限りません。医師の診断書の内容が認定基準に満たない場合や、本人・配偶者・扶養義務者の所得が制限額を超えている場合は、申請しても認められない(却下される)ことがあります。
障害のある方が利用できるその他の経済的支援
障害のある方の生活を支える経済的支援は、他にもあります。目的や対象者が異なるため、併用できる制度がないか確認しましょう。
- 障害年金
- 病気やけがで生活や仕事が制限される場合に支給される公的年金。「障害基礎年金」と「障害厚生年金」があります。
- 傷病手当金
- 会社員などが業務外の病気やけがで仕事を休み、給与が得られない場合に、健康保険から最長1年6ヶ月支給される手当。
- 労災保険
- 業務中や通勤中のけが・病気に対して治療費や休業中の所得を補償する制度。
- 生活保護
- あらゆる制度を利用しても生活が困難な場合に、最低限度の生活を保障し、自立を助ける制度。
在宅生活から社会とのつながりへ 就労継続支援B型事業所オリーブ
特別障害者手当は、重度の障害がある方の在宅生活を支える重要な経済的基盤です。日々の生活が安定する中で、「何か社会とつながりを持ちたい」「短時間でも働いてやりがいを感じたい」という思いが生まれることもあるでしょう。しかし、常時介護が必要な状態では、一般の企業で働くことは極めて困難です。そのような方々の「働きたい」という気持ちに応える場所の一つが、就労継続支援B型事業所オリーブです。
オリーブは、大阪、兵庫、京都、奈良の関西エリアで、障害のある方がご自身の体調やペースに合わせて無理なく働ける場所を提供しています。データ入力や軽作業など、座ったまま行える仕事や、一人ひとりの能力に合わせて取り組める多様な作業をご用意しています。
雇用契約を結ばないため、週1日、1日1時間といったごく短い時間から利用を開始できます。在宅での生活を続けながら、少しの時間だけ外に出て社会と関わる機会を持つことは、生活に新たなリズムや張り合いをもたらすきっかけになります。
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