
病気やけが、失業、家庭の事情など、様々な理由で収入が途絶え、生活に困窮してしまうことは、誰の身にも起こりうることです。貯金を切り崩して生活していても、いずれ限界が訪れます。「この先どうすればいいのだろう」と、一人で不安を抱えていませんか。
日本には、そのような状況に陥った方を支えるための「最後のセーフティネット」として、「生活保護制度」があります。これは、日本国憲法で保障された、すべての国民が持つ「権利」です。しかし、制度の詳しい内容や、自分が利用できるのかどうか、よく分からないという方も多いでしょう。この記事では、生活保護とはどのような制度か、利用するための条件、支給される金額、そして申請手続きの流れや相談先まで、分かりやすく丁寧に解説していきます。正しい知識を身につけ、ご自身の生活を立て直すための一歩としてください。
生活保護とは 健康で文化的な最低限度の生活を保障する制度
生活保護とは、日本国憲法第25条「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という理念に基づき、国が定める制度です。資産や働く能力など、あらゆるものを活用してもなお生活に困窮する方に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するとともに、その自立を助けること を目的としています。これは、特別な人だけが受ける「恵み」や「施し」ではなく、生活に困窮するすべての国民が、無差別平等に利用できる「権利」です。
生活を支える8種類の扶助の内容
生活保護では、生活の様々な場面に対応するため、以下の8種類の「扶助(ふじょ)」が設けられています。世帯の状況に応じて、必要な扶助が組み合わせて支給されます。
- 生活扶助
- 日常生活に必要な食費、被服費、光熱費などの費用です。
- 住宅扶助
- アパートなどの家賃、地代、契約更新料などの費用です。定められた上限額の範囲内で、実費が支給されます。
- 教育扶助
- 義務教育(小・中学校)を受けるために必要な、学用品費、給食費、通学費などの費用です。
- 医療扶助
- 病気やけがの治療で医療機関を受診する際の費用です。医療費の自己負担分が、福祉事務所から直接医療機関に支払われます(現物支給)。
- 介護扶助
- 介護保険のサービスを利用する際の費用です。介護サービスの自己負担分が、直接事業者に支払われます(現物支給)。
- 出産扶助
- 出産にかかる費用です。定められた範囲内で、実費が支給されます。
- 生業扶助
- 就職に必要な技能の習得費用(高校の授業料や専門学校の授業料など)や、就職準備費用(スーツ代など)です。
- 葬祭扶助
- 葬儀を行うための費用です。定められた範囲内で、実費が支給されます。
生活保護を受給するための3つの要件
生活保護は、国の定める要件を満たす限り、誰でも申請する権利があります。制度は「補足性の原理」に基づいており、ご自身の持っている資産や能力、そして他の制度などを最大限に活用してもなお生活が困窮する場合に、その不足分を補う形で支給されます。そのために、主に以下の3つの要件を満たす必要があります。
要件1:資産の活用
預貯金や生命保険、土地・家屋、自動車、有価証券といった資産は、まず生活のために活用することが求められます。
- 預貯金
- まず生活費に充てます。
- 生命保険
- 解約返戻金がある場合は、原則として解約し、生活費に充てる必要があります。
- 自動車
- 原則として保有は認められません。売却して生活費に充てます。ただし、障害のある方の通院や、公共交通機関が極端に不便な地域での通勤など、生活維持に不可欠と判断された場合は、例外的に保有が認められることがあります。
- 土地・家屋
- 現在住んでいる家は、資産価値が極端に高くなければ、住み続けることが認められる場合が多いです。しかし、利用していない土地や家屋は、売却して生活費に充てる必要があります。
要件2:能力の活用
働くことが可能な方は、その能力に応じて働くことが求められます。病気や障害がなく、働く能力があるにもかかわらず働く意思がない場合は、生活保護の対象とはなりません。もちろん、病気やけが、障害、あるいは幼い子どもの育児や家族の介護など、様々な事情で働きたくても働けない方のために、この制度はあります。
要件3:あらゆるものの活用
ご自身の資産や能力以外に、活用できる他の制度や、家族からの援助を先に受けることが求められます。
- 他の社会保障制度
- 年金や雇用保険(失業給付)、傷病手当金、児童扶養手当など、他の法律や制度で受けられる給付がある場合は、それらを優先して活用する必要があります。
- 扶養義務者からの援助
- 親子、兄弟姉妹などの「扶養義務者」から援助を受けられる場合は優先します。申請すると、福祉事務所から扶養義務者へ援助の可否を尋ねる「扶養照会」が行われることがあります。ただし、DV加害者のように照会が申請者の自立を妨げる場合や、長年音信不通の場合、扶養義務者が援助を断った場合などは、援助がなくても保護を受けることができます。扶養照会は、生活保護の申請を妨げるものではありません。
生活保護の金額はいくら?受給金額の計算方法
生活保護の支給額は、国が定める「最低生活費」から、世帯の「収入」を差し引いた差額分です。
計算式
生活保護費 = 最低生活費 – 世帯の収入
例えば、国が算定した最低生活費が13万円の世帯で、就労収入や年金が合わせて5万円ある場合、差額の「13万円 – 5万円 = 8万円」が生活保護費として支給されます。収入が全くない場合は、最低生活費の満額(この例では13万円)が支給されます。
最低生活費は地域や世帯の状況により異なる
計算の基準となる「最低生活費」は、世帯の状況によって細かく定められています。
- お住まいの地域
- 家賃や物価などを考慮し、地域ごとに「級地」という区分が定められています。
- 世帯の人数・年齢
- 1人世帯か、2人世帯か、また年齢構成によっても金額が変わります。
- 個別の事情(加算)
- 障害のある方がいる(障害者加算)、母子家庭である(母子加算)、冬期の暖房費が必要(冬季加算)など、特別な事情に応じて最低生活費が上乗せされる「加算」制度があります。
最低生活費のモデルケース(2024年4月時点の概算)
- 東京都区部在住・35歳単身世帯:約13万円(生活扶助 約8万円 + 住宅扶助 約5万円)
- 地方都市在住・高齢者単身世帯:約11万円(生活扶助 約7万円 + 住宅扶助 約4万円)
- 地方都市在住・母子2人世帯(子1人):約17万円(生活扶助 約12万円 + 住宅扶助 約5万円 + 母子加算)
※上記はあくまで目安であり、個別の状況によって金額は異なります。
生活保護の申請手続きと審査の流れ
ステップ1:事前相談
まず、お住まいの地域を管轄する福祉事務所の生活保護担当窓口へ行き、現在の生活困窮状況を相談します。この段階で、制度の仕組みや利用できる他の制度などについて説明を受けます。
ステップ2:保護の申請
相談の結果、生活保護を利用したいという意思が固まったら、「保護申請書」を提出します。生活保護の申請は国民の権利であり、福祉事務所は申請の意思が示された場合、必ず申請書を交付し、受け付けなければなりません。口頭で「申請します」と伝えるだけでも有効です。
ステップ3:調査・審査
申請を受け付けると、福祉事務所は保護が必要な状態かどうかの調査を開始します。担当ケースワーカーが、家庭訪問での生活状況の確認や、預貯金等の資産調査、扶養義務者への照会などを行います。
ステップ4:保護の決定と受給開始
調査結果をもとに、福祉事務所は保護を開始するかどうかを、申請日から原則14日以内(最長30日以内)に決定します。保護開始が決定すると、決定通知書が届き、定められた日から保護費の支給が始まります。
生活保護に関するよくある質問(Q&A)
Q1. 親族に連絡が行くのが嫌で申請をためらっています。
A1. いわゆる「扶養照会」のことですね。扶養義務者への照会は行われるのが原則ですが、照会が本人の自立を妨げる可能性がある場合(例:DV加害者である、長年音信不通、親族から虐待を受けていたなど)は、照会を行わない配慮がなされます。扶養はあくまで任意協力であり、親族に扶養能力がない、または扶養を拒否したからといって、保護が受けられないわけではありません。
Q2. 働いて収入を得ると、その分保護費が減るなら働かない方が得ですか?
A2. いいえ、そんなことはありません。働いて得た収入は申告が必要ですが、全額が保護費から差し引かれるわけではありません。収入額に応じて一定額を保護費から差し引かずに手元に残せる「勤労控除」という仕組みがあります。これは、就労意欲を高め、自立を助けるための制度です。
Q3. 借金があると生活保護は受けられませんか?
A3. 借金があること自体は、生活保護の受給要件とは直接関係ありません。ただし、生活保護費を借金の返済に充てることは認められていません。そのため、申請と並行して、法テラスや弁護士、司法書士などに相談し、自己破産などの債務整理手続きを行うよう指導されるのが一般的です。
生活保護の相談先・申請窓口
- お住まいの地域を管轄する福祉事務所
- 相談・申請の正式な窓口です。市役所や区役所内に設置されています。
- 生活困窮者自立支援制度の相談窓口
- 生活保護に至る前の段階の方を支援する制度で、福祉事務所への申請に同行してくれることもあります。
- 民生委員や民間の支援団体
- 福祉事務所へ一人で行くのが不安な場合、地域の民生委員や、生活困窮者支援を行うNPO法人などに相談することも有効です。
生活の安定から就労へ 就労継続支援B型事業所オリーブという選択肢
生活保護は、生活を立て直すための重要な第一歩です。生活が安定したら、多くの方が「働きたい」という気持ちを持つようになります。しかし、長年のブランクや病気・障害から、すぐに一般企業で働くことに不安を感じるかもしれません。
そんな時、就労継続支援B型事業所オリーブは、あなたにとって最適な「リハビリの場」「次へのステップ」となることができます。
オリーブは、雇用契約を結ばず、ご自身の体調やペースに合わせて、週に1日、1日2時間といったごく短い時間からでも利用できる福祉サービス事業所です。軽作業などを通じて、まずは「決まった時間に、家以外の場所に行く」習慣を取り戻し、働くことへの自信と生活リズムを、ゆっくりと着実に作っていくことができます。
生活保護を受給しながら、オリーブで工賃を得ることも可能です。得た工賃は収入として福祉事務所に申告する必要がありますが、前述の「勤労控除」により、働いた分だけ手元に残る金額が増え、生活にゆとりが生まれます。関西エリア(大阪、兵庫、京都、奈良)で、就労への一歩を踏み出したいとお考えなら、ぜひ一度、オリーブにご相談ください。