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SST(ソーシャルスキルトレーニング)とは?対人関係への効果と仕事で実践する方法

SST(ソーシャルスキルトレーニング)とは?

「職場の雑談の輪に入れない」「上司への報告・相談が苦手でタイミングを逃してしまう」「頼み事を断れず、一人で仕事を抱え込んでしまう」。このような対人関係の悩みから、仕事に困難を感じていませんか?もし、あなたがこのような悩みを抱えているなら、「SST(ソーシャルスキルトレーニング)」が解決の手がかりになるかもしれません。SSTは精神論や性格改善ではなく、対人関係を円滑にするための具体的な「スキル(技術)」を、練習を通して身につけるプログラムです。この記事では、SSTの基本的な考え方から具体的な訓練内容、仕事や日常生活にもたらす効果について、分かりやすく解説します。対人関係の「苦手」を「できる」に変えるための一歩を、ここから踏み出してみましょう。

社会生活技能を向上させる心理社会的療法

SST(Social Skills Training)は、1970年代にアメリカのUCLAのロバート・リバーマン教授らによって、精神障害を持つ方の社会復帰を支援するために開発された心理社会的療法の一つです。現在では、統合失調症だけでなく、うつ病や双極性障害、発達障害、不安障害など、対人関係に困難を抱える幅広い方々を対象に、医療、福祉、教育、労働の各分野で活用されています。SSTは、対人関係を円滑にするための具体的なスキルを、練習を通して習得することを目指す、構造化されたプログラムです。

円滑な対人関係に欠かせないソーシャルスキル

SSTの「ソーシャルスキル」は、日本語で「社会生活技能」と訳され、人が社会の中で他者と関わりながら、その人らしく生きていくために必要なスキルの総称です。これには、以下のような要素が含まれます。

言語的コミュニケーション
話す言葉の内容、声のトーン、大きさ、速さなど。

 

非言語的コミュニケーション
表情、視線、身振り手振り、相手との物理的な距離の取り方など、言葉以外の全ての要素。

 

社会的認知
その場の雰囲気や暗黙のルールを理解し、相手の気持ちや意図を推測する力。

 

これらのスキルが不足していると、本人に悪気がなくても相手に誤解を与えたり、不快な思いをさせたりして、対人関係がうまくいかなくなることがあります。SSTは、こうしたスキルを一つひとつ具体的に練習していくトレーニングです。

「小さな成功体験」を積み重ねるのが基本

SSTの最終的な目的は、参加者が日常生活や社会生活で直面する困難を減らし、その人らしい安定した生活を送れるようにすることです。そのために、「小さな成功体験を積み重ね、自己肯定感を高める」という考え方を重視しています。SSTは、できないことを責めたり、無理に性格を変えさせたりするものではありません。対人関係の様々な場面を「料理のレシピ」のように捉え、「この場面では、こういう手順で、こういう言動をすればうまくいきやすい」という具体的な方法を学び、練習します。練習がうまくいけば褒められ、自信がつく。その自信をもとに、実生活で試してみる。この「練習→成功→自信→実践」という肯定的な循環を通じて、少しずつできることを増やしていくのがSSTの基本的なアプローチです。

SSTの具体的な訓練内容と進め方

SSTは通常、指導者2名と5〜10人程度のグループで行われ、決まった流れに沿って進められます。ここでは、SSTの基本的なステップと、訓練で扱われるテーマの例を見ていきましょう。

SSTの基本となる5つのステップ

SSTのセッションは、一般的に以下の5つのステップで構成されています。

ステップ1:目標設定と課題の明確化

まず、参加者の中から一人が、練習したい対人関係の場面(課題)を提案します。例えば、「来週、先輩に仕事の進め方について相談したい」といった具体的な目標を設定し、その達成に必要なスキルをグループで話し合います。

ステップ2:モデリング(お手本の提示)

次に、SSTのリーダー(指導者)や他のメンバーが「上手なお手本(モデル)」として、目標とする行動を実演します。参加者はその手本を見て、具体的な言動や表情、声のトーンなどを観察し、良い点を学び取ります。

ステップ3:ロールプレイング(役割演技)

お手本を見た後、課題を提案した本人が、練習相手(他のメンバーやリーダー)と共に設定した場面を演じます(ロールプレイング)。ここでは完璧にこなすことよりも、まずは「やってみること」が重視され、周りのメンバーは温かい雰囲気で見守ります。

ステップ4:フィードバック

ロールプレイングが終わったら、見ていた他のメンバーからフィードバックを受けます。SSTのフィードバックは、決して批判やダメ出しではありません。「〇〇さんの、しっかり相手の目を見て話そうとしていた点が良かったです」「次は、もう少し声のトーンを上げると、もっと自信があるように聞こえるかもしれません」といった、具体的で前向きな、行動改善につながる言葉が中心となります。

ステップ5:宿題と般化(はんか)

最後に、練習したスキルを実生活の場で試す「宿題」が設定されます。例えば、「明日、職場のAさんに練習した通りに声をかけてみる」といった具体的な行動目標です。そして次回のSSTで結果を報告し、うまくいった点や難しかった点を共有し、次の練習につなげます。練習で学んだことを実生活に応用し、定着させるこのプロセスを「般化(はんか)」と呼びます。

職場で実践できる訓練テーマの例

SSTで扱うテーマは、参加者の悩みや目標に応じて様々です。

挨拶や雑談などの日常的なコミュニケーション

職場での人間関係を円滑にする上で、挨拶や短い雑談は重要な潤滑油です。「おはようございます」に加えて、「今日は良い天気ですね」と一言添える練習や、相手の話にうなずきや相づちを打ちながら聞く「傾聴」の練習などを行います。

上手な頼み方・断り方(アサーション)

自分の気持ちも相手の気持ちも大切にする自己表現「アサーティブ・コミュニケーション(アサーション)」を学びます。

頼み方の練習
「申し訳ないのですが、今少しだけお時間よろしいでしょうか?」と切り出し、「〇〇について、教えていただけると大変助かります」と、丁寧かつ具体的に依頼する練習をします。

 

断り方の練習
「お誘いいただきありがとうございます。ただ、今日は別の予定があり、参加が難しいです」のように、相手への感謝や配慮を示しつつ、自分の状況を正直に伝えて断る練習をします。

 

報告・連絡・相談(報連相)

仕事の基本である「報連相」もSSTの重要なテーマです。「結論から先に話す」「事実と自分の意見を分けて話す」「悪い報告ほど早くする」といった、効果的な報告の仕方をロールプレイングで具体的に練習します。

SSTが対人関係や仕事にもたらす3つの効果

SSTに取り組むことで、対人関係のスキルが向上するだけでなく、心理的にも良い影響が期待できます。

効果1:状況に応じた適切な言動が身につく

SSTを通じて、様々な対人場面での「行動のレパートリー」が増えます。これまで「どうして良いか分からない」と感じていた場面でも、「この場合は、こう言えばいいんだ」という具体的な対応パターンが身につくため、自信を持って行動できるようになります。これにより、対人関係での失敗が減り、成功体験が増えていきます。

効果2:ストレスが減り自己肯定感が高まる

対人関係の悩みが減ることで、日々のストレスは大幅に軽減されます。また、SSTのロールプレイングで「できた」という小さな成功体験を積み重ね、仲間から温かいフィードバックをもらうことで、「自分もやればできる」という自己肯定感が高まります。「どうせ自分なんて」という否定的な考えから、「次はこうしてみよう」という前向きな思考へと変化していくことが期待できます。

効果3:職場での孤立を防ぎ就労が安定する

職場でのコミュニケーションが円滑になることで、同僚との良好な関係を築きやすくなります。分からないことを質問できたり、困った時に助けを求められたりするようになれば、仕事の効率も上がり、職場での孤立を防げます。安心して働ける環境は、仕事のパフォーマンス向上と、長期的な就労の安定(職場定着)に直結します。

SSTはどこで受けられる?主な実施場所を紹介

SSTは、様々な場所で受けることができます。場所によって目的や対象者が異なるため、自分に合った場所を選ぶことが大切です。

医療機関(精神科・心療内科など)

精神科や心療内科のデイケアや、リワークプログラムの一環としてSSTが実施されています。医師の管理のもと、治療的な側面を重視して行われるのが特徴で、各種健康保険や自立支援医療制度が適用される場合があります。

障害福祉サービス事業所

障害のある方の就労をサポートする事業所でも、SSTは積極的に取り入れられています。

就労移行支援事業所
一般企業への就職を目指す方が、就職に必要なコミュニケーションスキルを身につけるためにSSTを学びます。

 

就労継続支援事業所
B型などの事業所で、実際の業務や他の利用者との関わりを通して、安定して働き続けるための対人スキルを実践的に学びます。

 

公的な支援機関

各都道府県に設置されている地域障害者職業センターなどでも、職業リハビリテーションの一環としてSSTが実施されています。ハローワークと連携し、就職に向けた専門的なサポートを提供しています。

SSTを受ける際のポイントと他のアプローチ

SSTの効果を最大限に引き出すためには、いくつかのポイントがあります。また、他の心理的アプローチとの併用も有効です。

SSTが特に効果を発揮しやすいケース

SSTは、特に以下のような特性や状況を持つ方に有効とされています。

発達障害(ASD・ADHDなど)のある方
自閉スペクトラム症(ASD)の特性である「暗黙のルールの理解」や「相手の意図の推測」の難しさを、具体的な行動パターンを学ぶことで補います。注意欠如・多動症(ADHD)の特性である衝動性や不注意を、行動レベルでコントロールする練習に役立ちます。

 

対人関係に強い不安を感じる方
失敗が怖い、人からどう見られるかが過度に気になる、といった不安に対し、安心できる環境で練習を重ねることで、対人場面での成功体験を積み、不安を和らげます。

 

精神的な不調から回復期にある方
うつ病などで休職し、復職を目指す際に、職場でのコミュニケーションに対する不安を軽減し、スムーズな職場復帰を支援します。

 

SSTとあわせて知りたい心理的アプローチ

認知行動療法(CBT)
その人の「考え方(認知)」の癖に働きかける心理療法です。「失敗したら笑われるに違いない」といった認知の歪みを修正し、行動を変えるSSTと組み合わせることで、相乗効果が期待できます。

 

アンガーマネジメント
怒りの感情と上手に付き合うためのプログラムです。衝動的な怒りによる対人トラブルを防ぐために、怒りのメカニズムを理解し、対処法を学びます。

 

マインドフルネス
「今、ここ」の自分の体験に意図的に注意を向け、客観的に観察する練習です。感情の波に飲まれにくくなり、対人関係でも冷静な対応がしやすくなります。

 

安心できる環境で対人スキルを身につけるならオリーブへ

SSTで学ぶスキルは、実際の職場で使えなければ意味がありません。しかし、いきなり一般企業の複雑な人間関係の中で試すのは、ハードルが高いと感じる方も多いでしょう。就労継続支援B型事業所オリーブは、仕事をするだけの場所ではなく、日々の業務を通じて、自然な形でソーシャルスキルを学び、実践できる「トレーニングの場」としての役割も担っています。

    • 朝、スタッフや他の利用者に「おはようございます」と挨拶する練習
    • 分からない作業について、スタッフに「すみません、ここを教えてください」と質問する練習
    • 自分の作業が終わったら、「何か手伝うことはありますか?」と同僚に声をかける練習

 

オリーブでは、このような日々の小さなコミュニケーションの一つひとつが、大切なSSTの実践の機会となります。専門のスタッフがあなたの状況を理解し、一人ひとりに合ったサポートを提供します。失敗を恐れずに、安心して対人スキルを身につけ、働く自信を育んでいきたい方は、ぜひ一度、お近くのオリーブへ見学・相談にお越しください。

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