
一見して健康そうに見えても、内部障害や難病、精神疾患など、目に見えない障害や困難を抱えている方がいます。満員電車で立っているのがつらい、災害時にどう行動すればいいか分からない、緊急時に自分の状態をうまく説明できない、といった悩みを抱えているかもしれません。そのような、外見からは分かりにくいけれど「援助や配慮を必要としている」ことを、周囲の人に知らせるための印が「ヘルプマーク」です。
この記事では、ヘルプマークの基本的な意味から、対象となる方、関西エリア(大阪・兵庫・京都・奈良)での具体的な入手方法までを詳しく解説します。さらに、精神障害や発達障害のある方がどのように活用できるか、そして私たちがヘルプマークを付けている人を見かけたときに何ができるかについても、一緒に考えていきましょう。このマークへの正しい知識が、思いやりのある社会への第一歩となります。
ヘルプマークとは?
街中や交通機関で、赤地に白い十字とハートが描かれたストラップを見かけたことはありませんか。それが「ヘルプマーク」です。これは、援助や配慮を必要とする方と、手助けをしたいと考える人々をつなぐ、大切なコミュニケーションツールです。
援助や配慮を必要とすることを周囲に知らせるマーク
ヘルプマークは、義足や人工関節を使用している方、内部障害や難病の方、または妊娠初期の方など、外見から分からなくても援助や配慮を必要としている方々が、そのことを周囲に知らせることで、援助を得やすくするために作成されたマークです。「電車で席を譲ってほしい」「困っているときに声をかけてほしい」「災害時に避難を手伝ってほしい」といった、声に出して助けを求めることが難しい方の「見えないSOS」を、このマークが代弁します。当事者と、手助けをしたいという思いやりの心を持つ人々とをつなぐ役割を担っています。
ヘルプマークが誕生した背景と普及
ヘルプマークは、2012年(平成24年)に東京都が作成し、都営地下鉄大江戸線での配布を開始したのが始まりです。当時、義足を使用していた都議会議員が「外見では分からず、電車で席を譲ってもらえない」という経験をしたことが、開発のきっかけの一つとされています。この取り組みは多くの人々の共感を呼び、2017年にはJIS規格(案内用図記号 JIS Z8210)に追加され、全国的な標準となりました。現在では、ほとんどの都道府県や多くの市区町村へと普及が進んでいます。
ヘルプマークと障害者差別解消法
ヘルプマークは、2016年に施行された「障害者差別解消法」の理念とも深く関わっています。この法律は、障害を理由とする不当な差別を禁止し、行政機関や事業者に対して、障害のある人から意思の表明があった場合に「合理的配慮」を提供することを義務付けています。ヘルプマークを身につけることは、この「合理的配慮」を必要としているという意思表示の一つの手段となり得ます。もちろん、マークがなければ配慮を求められないわけではありませんが、口頭で伝えることが困難な方にとって、マークは配慮を求める意思を円滑に伝える助けとなります。企業や交通機関でもヘルプマークへの理解と対応に関する研修が進められており、社会全体で支える基盤が整いつつあります。
ヘルプマークの対象者とヘルプカードとの違い
「自分はヘルプマークをもらってもよいのだろうか」と悩む方もいるかもしれません。対象者の範囲や、似た目的で使われる「ヘルプカード」との違いを理解しましょう。
対象者に明確な基準はなく誰でも利用可能
ヘルプマークの利用対象者に、障害者手帳の有無や特定の病名といった明確な基準は設けられていません。義足や人工関節、内部障害、難病、精神障害、発達障害、知的障害、妊娠初期の方など、援助や配慮を必要とする方であれば、誰でも利用することができます。最も大切なのは、「自分自身が、日常生活や災害時などに、何らかの援助や配慮を必要としているか」という点です。もしあなたが目に見えない困難を抱え、助けが必要だと感じているのであれば、ためらうことなくヘルプマークを活用することが推奨されます。
精神疾患や発達障害のある方も対象
うつ病やパニック障害、統合失調症といった精神疾患のある方や、ASD(自閉スペクトラム症)やADHD(注意欠如・多動症)といった発達障害のある方も、もちろんヘルプマークの対象者です。
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- パニック障害のある方: 「電車内で発作が起きたらどうしよう」という予期不安を抱える方にとって、マークを身につけることは安心材料となり、外出へのハードルを下げてくれることがあります。
- 発達障害のある方: 感覚過敏で人混みがつらい、あるいは予期せぬ出来事で混乱してしまった際に、周囲に「少し配慮してほしい」と伝えるきっかけになります。
- うつ病などで体力が低下している方: 見た目では分からなくても、長時間立っていることが困難な場合に、交通機関で席を譲ってもらうきっかけになります。
ヘルプカードとの違いと効果的な使い方
ヘルプマークと似たものに「ヘルプカード」があります。これは、緊急連絡先や必要な支援内容などを具体的に記載できるカード型のツールです。
ヘルプマーク | ヘルプカード | |
---|---|---|
形状 | ストラップ型 | カード型(財布やパスケースなどで携帯) |
主な役割 | 視覚的なサイン:援助や配慮が必要であることを、遠目からでも周囲に知らせる。 | 情報伝達ツール:具体的な支援内容や緊急連絡先、病名などを詳細に伝える。 |
【使い分けのポイント】
ヘルプマークとヘルプカードは、両方を組み合わせて使うのが最も効果的です。まず、カバンなどにヘルプマークを付けておくことで、周囲の人が「何か手伝うことはありますか?」と声をかけるきっかけを作ります。そして、実際に声をかけられたり、緊急事態に陥ったりした際に、ヘルプカードを提示することで、口頭でうまく説明できなくても、必要な情報を正確に伝えることができるのです。ヘルプカードは各自治体のウェブサイトから書式をダウンロードして自作することも可能です。
ヘルプマークの入手方法と使い方
ヘルプマークは、お住まいの地域の自治体などが無料で配布しています。ここでは、関西エリアでの主な配布場所や、具体的な使い方について解説します。
関西(大阪・兵庫・京都・奈良)での主な配布場所
ヘルプマークは、主に市区町村の役所(障害福祉担当課など)、保健所、一部の鉄道会社の駅務室などで配布されています。自治体によって配布場所が異なるため、事前に各自治体のウェブサイトで確認することをお勧めします。
<関西エリアの主な配布場所の例(2025年7月時点)>
- 大阪府: 各市区町村の担当窓口、府立障害者自立相談支援センター、大阪シティバス営業所、一部の鉄道駅など
- 兵庫県: 各市町の担当窓口、県健康福祉事務所、県立障害者リハビリテーション中央病院など
- 京都府: 各市町村の担当窓口、府保健所、府立精神保健福祉総合センター、京都市営地下鉄の駅(一部を除く)など
- 奈良県: 各市町村の担当窓口、県障害福祉相談所、県精神保健福祉センターなど
※配布場所は変更される可能性があるため、詳細は各自治体の公式情報をご確認ください。
受け取りに障害者手帳や診断書は必要?
ヘルプマークを受け取る際に、障害者手帳や診断書などの提示は、原則として必要ありません。多くの配布窓口では、利用したい旨を申し出るだけで、誰でもその場で受け取ることができます。事前の申請や予約も不要です。この利用しやすさが、ヘルプマークの普及を後押ししています。
裏面に記載する内容と活用方法
ヘルプマークの裏面には付属のシールを貼り、自分に必要な情報を書き込むことができます。書く内容は自由ですが、緊急時や困ったときに役立つ情報を記載しておくことが重要です。
【記載内容の例】
- 基本情報: 氏名、住所、血液型など
- 緊急連絡先: 家族や支援者など、すぐに連絡してほしい人の連絡先
- 医療情報: かかりつけ医、障害名・病名、アレルギーや服薬情報
- 手伝ってほしいこと(最重要):
- 「パニック発作が起きたら、静かな場所で休ませてください」
- 「大きな音や光が苦手です。配慮をお願いします」
- 「話しかけるときは、ゆっくり、はっきりとお願いします」
- 「道に迷ったら、〇〇駅までの行き方を教えてください」
- 支援機関の連絡先: 相談支援事業所や通所している福祉サービス事業所の連絡先など
記載した内容は重要な個人情報のため、付属の保護シールなどを貼って安易に見えないようにしておきましょう。ヘルプマークは、カバンの持ち手など、日常的に人の目にとまりやすい場所に付けるのが基本です。
ヘルプマークを付けている人を見かけたらできること
ヘルプマークは、それを見かけた周りの人の手助けがあって、初めてその役割を十分に果たします。もし、ヘルプマークを付けている人を見かけたら、私たちは何ができるのでしょうか。大切なのは、「何か特別なことをしなければ」と気負わず、思いやりのある行動を自然に行うことです。
電車やバスの中で見かけたら席を譲る
外見では分からなくても、長時間立っているのがつらい内部障害や難病を抱えている方、疲労感が強い精神障害の方、体幹が弱く疲れやすい発達障害の方かもしれません。もしあなたが席に座っていて、近くにヘルプマークを付けた人がいたら、「どうぞ」と一言、席を譲ることを申し出てみてください。その行動が、当事者の心身の負担を大きく和らげることがあります。
駅や商業施設内で困っている様子なら声をかける
駅の構内で立ち往生していたり、お店の中で落ち着かない様子だったり、もしヘルプマークを付けた人が困っているように見えたら、「何かお困りですか?」「お手伝いできることはありますか?」と、優しく声をかけてみてください。発達障害のある方は情報過多で混乱することがあり、精神障害のある方は不安で動けなくなっているのかもしれません。あなたのその一声が、パニックを防ぎ、落ち着きを取り戻すきっかけになる可能性があります。
災害時や避難時にできるサポート
地震や火事などの災害時、ヘルプマークを付けた人は、状況の理解や安全な場所への移動に困難を抱えている可能性があります。視覚的な情報が理解しにくい、聴覚的な指示が聞き取りにくい、パニックで動けなくなってしまうなど、その困難は様々です。避難場所などでヘルプマークを付けた人を見かけたら、「大丈夫ですか?一緒に避難しましょう」と声をかけ、行政からの指示を分かりやすく伝え、安全な場所まで誘導するなど、可能な範囲でのサポートをお願いします。
ヘルプマーク以外のサポートを必要とするマーク
私たちの周りには、ヘルプマーク以外にも、様々なサポートを必要としていることを示すマークがあります。代表的なものを知ることで、さらに理解と思いやりの輪が広がります。
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- ハート・プラスマーク: 心臓や呼吸器、腎臓など、体の内部に障害があることを示します。外見では分かりにくいため、「疲れやすい」「長時間立っていられない」といった困難を抱えています。
- マタニティマーク: 妊娠中であることを示します。特に、お腹が目立たない妊娠初期は体調が不安定な時期ですが、周囲からは気づかれにくいものです。
- 耳マーク: 耳が聞こえない、聞こえにくいことを示します。このマークを見かけたら、口を大きく開けてはっきり話したり、筆談や身振りでコミュニケーションをとったりするなどの配慮が求められます。
外に出ることに不安を感じたら 就労継続支援B型事業所オリーブという選択肢
ヘルプマークは、目に見えない障害や困難を抱える方が、安心して外出し、社会参加をするための心強いお守りのような存在です。しかし、それでもなお、「一人で外出するのが怖い」「社会との接点を持つことに不安を感じる」という方もいらっしゃるでしょう。そのような、社会復帰への第一歩に不安や困難を感じている方のために、私たち「就労継続支援B型事業所オリーブ」はあります。
オリーブは、大阪、兵庫、京都、奈良の関西エリアで、精神障害や発達障害など、様々な生きづらさを抱える方が、ご自身のペースで社会とのつながりを取り戻すためのお手伝いをしています。ヘルプマークを付けて電車に乗る練習として、まずは週に1日、オリーブに通うことから始めてみませんか。事業所という「安心できる目的地」があるだけで、外出へのハードルはぐっと下がります。
オリーブでは、データ入力や軽作業など、一人ひとりの特性に合わせた仕事を通じて、働く自信と生活のリズムを育んでいきます。スタッフは、あなたの障害特性を理解し、必要な配慮を提供することに努めます。ここでは、ヘルプマークがなくても、誰もが「助けが必要なときはお互いさま」という雰囲気の中で、安心して過ごすことができます。あなたの「外に出てみたい」という気持ちを、オリーブで形にしてみませんか。ご見学やご相談を、心よりお待ちしております。