
「新しい仕事に就きたいけれど、アピールできるスキルや経験がない」「未経験の業界にチャレンジしたいけど、何から始めればいいか分からない」そんな再就職への不安を抱えている方にとって、心強い味方となるのが、国が設けている公的な就職支援制度「職業訓練(ハロートレーニング)」です。
職業訓練は、希望する仕事に就くために必要なスキルや知識を、原則無料で習得できる制度です。さらに、一定の条件を満たせば、訓練期間中の生活を支える給付金や手当を受けながら学ぶことも可能です。この記事では、職業訓練の詳しい内容やメリット・デメリット、受給できる給付金、具体的なコースの例、そして申し込みから受講開始までの流れまで、網羅的に分かりやすく解説します。この制度をうまく活用し、あなたのキャリアチェンジや再就職を成功させるための一歩を踏み出しましょう。
職業訓練(ハロートレーニング)とは?2つの種類とメリット
職業訓練(ハロートレーニング)は、希望する仕事に就くために必要な職業スキルや知識を習得するための公的な制度です。この制度は、大きく分けて2つの種類があります。ご自身がどちらの対象になるかを確認することが、最初のステップとなります。
職業訓練の2つの種類
職業訓練は、主に離職された方の再就職を支援することを目的としており、雇用保険(失業保険)の受給資格があるかどうかによって、受けられる訓練の種類が異なります。
1. 公共職業訓練(離職者訓練)
主に、雇用保険(失業保険)を受給している方向けの訓練です。会社を退職し、ハローワークで失業保険の受給手続きをしている方が対象となります。これまで雇用保険料を納めてきた方が、その権利として利用できる制度と考えると分かりやすいでしょう。訓練期間は、3ヶ月程度の短いコースから、1年~2年の専門的なコースまで幅広く設定されています。
2. 求職者支援訓練
主に、雇用保険(失業保険)を受給できない方向けの訓練です。具体的には、雇用保険に加入していなかった方(フリーランス、自営業だった方など)、加入期間が足りなかった方、受給期間が終了してしまった方、新卒で就職先が決まっていない方などが対象です。このように、公共職業訓練の対象とならない方でも、スキルアップと再就職を目指せるよう設けられたセーフティネットです。訓練期間は、2ヶ月~6ヶ月の比較的短いコースが中心です。
職業訓練を受ける3つのメリット
職業訓練には、独学や民間のスクールにはない、大きなメリットがあります。
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- 原則無料で受講できる: 最大のメリットは、受講料が原則として無料である点です。民間のスクールでは数十万円かかる専門スキルも、経済的負担を大幅に抑えて学べます。(※ただし、教科書代や作業服、資格試験の受験料などは自己負担となる場合があります。)
- 給付金や手当で生活を支えられる: 一定の要件を満たすことで、訓練期間中の生活費を心配せずにスキル習得に集中できるよう、給付金や手当が支給されます。
- 就職に有利なサポートが充実: 地域の求人ニーズに基づいた実践的なコース設定に加え、専門のキャリアコンサルタントによる就職相談や応募書類の添削、面接指導といった手厚い就職サポートを受けられます。
職業訓練の給付金と手当
職業訓練の大きな魅力の一つが、訓練中の生活を支える給付制度です。これも訓練の種類によって内容が異なります。
公共職業訓練(離職者訓練)の手当
雇用保険(失業保険)を受給している方が公共職業訓練を受ける場合、失業手当(基本手当)に加えて、以下のような優遇措置があります。
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- 基本手当の継続支給: 訓練期間中は、失業の認定を受けなくても、基本手当が継続して支給されます。
- 給付制限の免除: 自己都合で退職した方の場合、通常は2ヶ月間の給付制限がありますが、訓練を受ける場合はこれが免除され、訓練開始日から手当を受け取れます。
- 訓練延長給付: 所定給付日数(失業手当を受け取れる日数)が訓練期間の途中で終了しても、訓練が終了する日まで基本手当の支給が延長されます。
- 通所手当・寄宿手当: 訓練施設への交通費(月額最高42,500円)や、遠方で入寮する場合の手当(月額10,700円)も支給されます。
求職者支援訓練の「職業訓練受講給付金」
雇用保険を受給できない方が求職者支援訓練を受ける場合、一定の要件を満たすと「職業訓練受講給付金」が支給されます。
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- 職業訓練受講手当: 月額10万円
- 通所手当: 訓練施設への交通費(上限あり)
- 寄宿手当: 月額10,700円(条件を満たす場合)
ただし、この給付金を受け取るには、本人の収入が月8万円以下、世帯全体の収入が月25万円以下、世帯全体の金融資産が300万円以下など、かなり厳格な支給要件があります。また、訓練実施日のすべてに出席すること(やむを得ない理由でも出席率8割以上)も求められます。もし給付金の要件を満たさなくても、無料で訓練を受けることは可能です。
職業訓練のコース内容
職業訓練では、現在の求人市場で需要の高い、多種多様なコースが用意されています。ここでは、人気のコースをいくつか紹介します。
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- Web系コース: Webサイト制作に必要なデザインソフトやプログラミング言語(HTML/CSS, Java, Pythonなど)を学ぶ、人気のコースです。
- 事務系コース: Word、Excel、PowerPointなどのPCスキルを学ぶOA事務科や、簿記の知識を学ぶ経理・会計科など、どの業界でも通用するスキルを習得します。
- 資格取得を目指すコース: 介護職員初任者研修(介護サービス科)、第二種電気工事士(ビル管理科)、宅地建物取引士(宅建科)など、専門職に直結する資格取得を目指します。
これらのコースは、ハローワークインターネットサービスで全国の訓練コースを検索できます。ご自身の興味や地域の求人状況に合わせて探してみましょう。
知っておきたい職業訓練の注意点・デメリット
多くのメリットがある職業訓練ですが、注意すべき点も存在します。事前に理解しておくことで、ミスマッチを防ぎましょう。
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- 選考に合格する必要がある: 誰でも受講できるわけではなく、人気のコースは倍率が高く、筆記試験や面接による選考に合格しなければなりません。
- 希望のコースが常にあるとは限らない: 訓練コースは時期によって募集内容が異なります。受けたいコースが希望するタイミングで募集されているとは限りません。
- 訓練内容のレベルが合わない可能性: 基礎的な内容が中心のため、ある程度知識のある方には物足りなく感じたり、逆についていくのが大変だったりする可能性があります。
- クラスでの人間関係: 様々な年齢や経歴の人が集まるため、クラス内でのコミュニケーションやグループワークが負担になる可能性も考慮しておく必要があります。
職業訓練の受講の流れと選考対策
職業訓練を受けるためには、ハローワークでの手続きが必要です。一般的な受講開始までの流れと、重要な選考対策について解説します。
受講開始までの4ステップ
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- ハローワークで求職申し込み・相談: まず、お住まいの地域を管轄するハローワークへ行き、「求職の申し込み」を行います。その上で、職業訓練の相談窓口で担当者と相談し、自分に合った訓練コースを探します。
- コースへの申し込み: 受講したいコースが決まったら、ハローワークで受講申込書を受け取り、必要事項を記入して申し込みます。
- 選考試験の受験: 訓練実施施設(職業能力開発校や専門学校など)で、選考試験を受けます。
- 合格後の手続き: 合格したら、合格通知書を持って再びハローワークへ行き、「受講あっせん」を受けます。その後、訓練施設での入学手続きを行い、受講開始となります。
選考試験の対策(筆記・面接)
選考では、訓練への意欲や就職への熱意が最も重視されます。
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- 筆記試験: 国語(漢字の読み書き、文章読解)と数学(基本的な計算)の中学校卒業レベルの問題が一般的です。市販のSPI対策問題集などで復習しておくと安心です。
- 面接: 最も重要な選考プロセスです。「なぜこの訓練を受けたいのか(志望動機)」「訓練で学んだことを今後の就職にどう活かしたいか」「訓練終了後、速やかに就職する意思があるか」といった質問を通して、就職への本気度が確認されます。これまでの経歴と結びつけ、具体的で前向きな回答を準備しておくことが合格の鍵です。
障害のある方向けの職業訓練と支援サービス
障害のある方が、その特性に合ったスキルを身につけ、安心して就職を目指すための専門的な訓練や支援も用意されています。
障害者職業能力開発校の専門コース
一般の職業訓練とは別に、障害のある方を対象とした専門の「障害者職業能力開発校」が各都道府県に設置されています。ここでは、障害特性を理解した専門のスタッフから、よりきめ細やかな指導を受けられます。手話通訳者の配置や、PCの音声読み上げソフトの導入など、個々の障害に合わせた合理的配慮が提供されるため、安心してスキル習得に集中できます。
職業訓練と就労移行支援の違い
障害のある方の就職をサポートする制度として、職業訓練と並行して検討したいのが「就労移行支援」という障害福祉サービスです。職業訓練が特定の「スキル習得」に重点を置くのに対し、就労移行支援は、より幅広く「働くための総合的な準備」をサポートします。
職業訓練 | 就労移行支援 | |
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目的 | 就職に必要な職業スキルの習得 | 障害のある方が働くための総合的な準備と就職・定着支援 |
支援内容 | 専門スキルの講義・実習が中心 | 職業スキル訓練、自己管理能力の向上、職場体験実習、就職活動支援、定着支援など |
対象者 | 主に離職者全般 | 障害のある方(65歳未満) |
利用期間 | 3ヶ月~2年 | 原則、最長2年間 |
「特定のスキルを集中して学びたい」場合は職業訓練、「働くこと自体に不安があり、総合的なサポートを受けたい」場合は就労移行支援、といった使い分けが考えられます。
職業訓練と合わせて検討したい就労継続支援B型事業所オリーブ
職業訓練や就労移行支援は、いずれも一般企業への就職を目指すためのサービスであり、決まったカリキュラムに沿って、毎日通所することが基本となります。
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- 「すぐに就職を目指すのは、体力的にまだ不安」
- 「まずは生活リズムを整えるところから始めたい」
- 「自分のペースで、働くことに慣れていきたい」
もしあなたがそう感じているなら、「就労継続支援B型事業所オリーブ」という選択肢も、ぜひ知ってください。
オリーブは、大阪、兵庫、京都、奈良の関西エリアで、障害のある方がご自身のペースを大切にしながら、安心して働ける場所を提供する就労継続支援B型事業所です。雇用契約を結ばないため、週に1日、1日1時間といったごく短い時間の利用からスタートできます。データ入力や軽作業など、ストレスの少ない仕事を通じて、まずは安定した生活リズムを築き、働くことへの自信を少しずつ取り戻していくことができます。
職業訓練でスキルを学ぶ前の「準備運動」として、あるいは、社会復帰への「第一歩」として。オリーブは、あなたの「働きたい」気持ちを、無理のない形からサポートします。まずはお気軽に見学・ご相談ください。