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【等級別】精神障害者手帳のメリットとは?1級・2級・3級の違いと申請方法を解説

うつ病や統合失調症、発達障害などの精神的な不調や特性を抱えながら生活する中で、「精神障害者保健福祉手帳」という言葉を耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。「手帳を持つと、どんな良いことがあるの?」「そもそも、自分の症状で申請できるのだろうか」「等級によって何が違うの?」「申請するのは大変そうで、一歩が踏み出せない」など、様々な疑問や不安な気持ちがあるかもしれません。
この記事では、精神障害者保健福祉手帳がどのようなものなのか、1級・2級・3級といった等級の具体的な基準、そして手帳を取得することで得られるメリットや福祉サービスについて、深く掘り下げて分かりやすく丁寧に解説します。手帳は、決して「障害者」のレッテルではなく、あなたが社会の中でより安心して、自分らしく生活し、働くための大切なツールです。この記事が、あなたの次の一歩を考えるための、信頼できる情報源になれば幸いです。
精神障害者保健福祉手帳とは?
まずは、この手帳がどのような目的で作られ、誰が対象となるのか、基本的な知識から見ていきましょう。正式名称は「精神障害者保健福祉手帳」ですが、一般的に「精神障害者手帳」と略して呼ばれることも多くあります。
精神障害のある方の自立と社会参加を支援する手帳
精神障害者保健福祉手帳は、なんらかの精神疾患があるために、長期にわたって日常生活や社会生活に制約がある方に対して交付される、全国共通の証明書です。この手帳を持つことで、一定の精神障害の状態にあることを公的に証明し、様々な支援策を利用しやすくなります。それにより、障害のある方の自立した生活と、社会への参加を促進することが、この制度の大きな目的です。
制度の歴史と背景
この手帳制度は、1995年の精神保健福祉法の改正によって創設されました。それ以前の日本の精神保健福祉は、入院医療が中心でしたが、この法改正を機に、地域社会で生活する精神障害のある方を社会全体で支えていこうという「ノーマライゼーション」の理念が重視されるようになりました。手帳制度は、精神障害のある方が地域で当たり前に暮らしていくための、重要な社会基盤の一つとして位置づけられているのです。
対象となる精神疾患の例
手帳の対象となるのは、原則として全ての精神疾患です。具体的には、以下のような疾患が含まれます。
- 統合失調症
- うつ病、双極性障害などの気分障害
- てんかん
- 薬物やアルコールによる依存症
- 高次脳機能障害: 交通事故による脳外傷や脳血管障害(脳梗塞・脳出血)の後遺症として生じる記憶障害や注意障害など。外見から分かりにくいため「見えない障害」とも言われ、手帳の存在が支援を受ける上で重要になります。
- 発達障害: ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)、学習障害(LD)など。発達障害そのものによる社会生活の困難さに加え、不安障害やうつ病などの二次障害を伴うことも多く、手帳の対象となります。
- その他の精神疾患: ストレス関連障害(PTSDなど)、パニック障害、強迫性障害など。
もし、知的障害(知的発達症)も併せ持っている場合は、「療育手帳」と精神障害者保健福祉手帳の両方を取得することも可能です。
精神障害者手帳の等級(1級・2級・3級)の違いと基準
精神障害者保健福祉手帳には、障害の程度に応じて1級、2級、3級の3つの等級があり、受けられるサービスの内容が変わることがあります。
障害等級を判定する基本的な考え方
等級の判断は、提出された医師の診断書をもとに、「精神疾患(機能障害)の状態」と「能力障害(活動制限)の状態」の2つの側面から総合的に評価されます。
- 精神疾患(機能障害)の状態
- うつ状態や幻覚・妄想、意欲の低下といった、病気の症状そのものの重さ。
- 能力障害(活動制限)の状態
- 症状によって、日常生活や社会生活を送る能力がどれくらい制限されているかの度合い。
特に「能力障害の状態」は、診断書において以下の8項目で具体的に評価され、等級判定の重要な資料となります。
- 適切な食事摂取
- 身辺の清潔保持、規則正しい生活
- 金銭管理と買い物
- 通院と服薬
- 他人との意思伝達・対人関係
- 身辺の安全保持・危機対応
- 社会的手続きや公共施設の利用
- 趣味・娯楽への関心、文化的社会的活動への参加
【等級別】認定基準の目安
1級の認定基準
「精神障害であって、日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの」と定義されています。他者の援助がなければ、食事や入浴、着替えといった基本的な日常生活を送ることがほとんど不可能な状態を指します。常に誰かの援助が必要で、一人での外出も極めて困難な状態です。
2級の認定基準
「精神障害であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの」と定義されています。必ずしも他者の援助が必要とは限りませんが、一人で安定して日常生活を送ることが難しく、様々な場面で支障をきたす状態です。例えば、身の回りのことはできても計画的な金銭管理が困難であったり、対人関係のストレスから集団活動に参加できなかったりします。働くことにも大きな支障がある状態です。
3級の認定基準
「精神障害であって、日常生活もしくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの」と定義されています。日常生活は概ね自立して送れますが、職場での急な予定変更への対応や、複雑な対人関係の調整など、社会生活において困難が生じる状態です。働く上で一定の配慮が必要とされます。
等級ごとに受けられるサービスやメリット
手帳を取得することで、経済的な負担の軽減や、就労の機会拡大など、生活の安定につながる様々なメリットを受けることができます。
税金の控除や公共料金の割引
税金の控除・減免
手帳を持っている本人、またはその人を扶養している家族は、所得税や住民税の「障害者控除」を受けることができます。
障害の区分 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 |
---|---|---|
特別障害者 (1級) | 40万円 | 30万円 |
同居特別障害者 | 75万円 | 53万円 |
普通障害者 (2級・3級) | 27万円 | 26万円 |
※同居特別障害者とは、納税者自身または配偶者、扶養親族が1級の手帳を持ち、常に同居している場合を指します。このほか、相続税や贈与税、自動車税などの減免制度もあります。
公共料金などの割引
-
- 公共料金: NHK放送受信料が等級や世帯の課税状況により半額または全額免除されます。また、自治体によっては上下水道料金が割引になる場合があります。
- 公共交通機関: 都営交通や多くの自治体のバス・路面電車などで運賃の割引が受けられます。JRの運賃割引は対象外ですが、一部の私鉄やタクシー会社では割引が適用されます。
- その他の割引: 美術館や博物館、映画館などの入場料割引や、大手携帯電話会社の障害者割引サービスなどを利用できます。
障害者雇用枠での就職・転職
働く意欲のある方にとって、就労面でのサポートは大きなメリットです。「障害者雇用促進法」により、企業は常時雇用する労働者数に対し、一定の割合(法定雇用率)以上の障害者を雇用することが義務付けられています。
- 障害者雇用枠への応募: この法律に基づき、企業は一般の採用枠とは別に、障害者手帳を持つ人を対象とした「障害者雇用枠」を設けています。この枠に応募できることが最大のメリットです。
- 合理的配慮: 企業から障害への「合理的配慮」(業務内容の調整、通院への配慮、ラッシュを避けた時差出勤など)を受けながら働けるため、安定して長く働きやすいという利点があります。
障害福祉サービスの利用
手帳を持つことで、必要に応じた様々な障害福祉サービスを利用しやすくなります。
- 自立支援医療(精神通院医療): 精神科の通院医療費や薬代の自己負担を、原則1割に軽減する制度です。
- 就労支援サービス: 一般企業への就職を目指す「就労移行支援」や、支援を受けながら働ける「就労継続支援(A型・B型)」といったサービスを利用できます。
- 生活支援サービス: 自立した生活を送るための「自立訓練」や、日中の居場所となる「地域活動支援センター」、共同生活を送る「グループホーム」など、生活を支えるための様々なサービスがあります。
精神障害者手帳の申請・更新手続き
ここでは、実際に手帳を申請したり、更新したりする際の、具体的な流れとポイントを解説します。
申請から交付までの基本的な流れ
- 市区町村の窓口で相談・書類入手: お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口に相談し、申請書と診断書の用紙を受け取ります。
- 主治医に診断書の作成を依頼: かかりつけの精神科の主治医に、手帳申請用の診断書の作成を依頼します。
- 必要書類を窓口に提出: 申請書、診断書、顔写真、マイナンバーがわかるものなどを揃えて、再度窓口に提出します。
- 審査・交付: 都道府県・政令指定都市の精神保健福祉センターで審査が行われます。審査には2〜3ヶ月程度かかり、交付が決定すると自宅に通知が届き、窓口で手帳を受け取ります。
申請の重要ポイント:診断書の依頼方法
等級は診断書の内容に大きく左右されるため、医師に自分の状態を正確に伝えることが非常に重要です。しかし、診察の短い時間で全てを話すのは難しいものです。そこで、事前に「日常生活での困りごと」をメモにまとめて医師に渡すことをお勧めします。特に、前述の「能力障害の8項目」に沿って、各項目で「できること」「助けがあればできること」「できないこと」を具体的に書き出しておくと、医師が診断書を作成する際の大きな助けとなり、実態に即した等級判定につながりやすくなります。
2年に一度の更新と等級変更・不服申し立て
手帳の有効期限は交付日から2年間で、継続して利用するには2年ごとの更新が必要です。更新申請は有効期限の3ヶ月前から可能です。また、障害の状態が変化した場合は、有効期間内でも等級の変更を申請できます。万が一、決定された等級に納得がいかない場合は、結果を知った日の翌日から3ヶ月以内であれば、都道府県知事に対して不服申し立て(審査請求)を行うこともできます。
手帳を持つことのデメリットはある?
手帳を持つこと自体に制度上の明確なデメリットは基本的にありません。手帳を持っていることを自分から伝えなければ他人に知られることはありませんし、サービスを利用するかどうかも本人の自由です。ただし、以下のような点をデメリットと感じるかもしれません。
- 申請・更新の手間と費用: 役所での手続きや、診断書の作成費用(数千円程度)がかかります。
- 心理的な抵抗感: 「障害者」というレッテルを貼られるようで抵抗を感じる方もいます。しかし近年は、プライバシーに配慮し、障害名などが記載されないカード形式の手帳を選択できる自治体も増えています。
- 保険加入への影響: 民間の生命保険や住宅ローンでは、加入が難しくなったり、条件が付いたりする場合があります。これは保険会社が統計リスクに基づき判断するためですが、近年は持病があっても加入しやすい「引受基準緩和型保険」なども増えています。
手帳の取得を機に自分らしい働き方を 就労継続支援B型事業所オリーブで
精神障害者保健福祉手帳の取得は、あなたの生活を支え、可能性を広げるための一つの有効な手段です。特に「働く」ということについて、手帳があることで、これまで諦めていた選択肢が見えてくるかもしれません。手帳は、あなたを定義するラベルではなく、新しい扉を開けるための「鍵」なのです。
「障害者雇用に興味はあるけれど、すぐに企業で働くのは不安」「まずは自分のペースで働くことに慣れ、自信を取り戻したい」と感じている方は、就労継続支援B型事業所オリーブで、働く準備を始めてみませんか。
オリーブでは、精神障害者保健福祉手帳をお持ちの方々が、それぞれの体調やペースを大切にしながら、データ入力や軽作業などの仕事に取り組んでいます。雇用契約を結ばないため、週1日・短時間からでも利用でき、安定した生活リズムを作りながら、働くことへの自信と喜びを育んでいくことができます。手帳の取得を機に、ご自身の新しい可能性を探したい方は、ぜひ一度、お近くのオリーブへ見学・相談にお越しください。