
精神科や心療内科への通院が必要になったとき、医療費の負担が心配になる方も多いのではないでしょうか。継続的な治療が必要な場合、その経済的な負担は決して軽くありません。そのようなときに活用できる公的な医療費助成制度が「自立支援医療制度」です。この制度を利用すると、医療費の自己負担が原則1割に軽減され、さらに所得に応じた上限額も設定されるため、負担を大きく減らせる可能性があります。しかし、制度の対象者や申請方法など、複雑で分かりにくい点も少なくありません。
このコラムでは、自立支援医療制度の中でも特に利用者の多い「精神通院医療」を中心に、制度の概要から対象者、自己負担額、申請・更新の手続き、利用する上での注意点まで、誰にでも分かるように詳しく解説します。この記事を読めば、自立支援医療制度の全体像を理解し、ご自身が制度を利用できるかどうか、どのように手続きを進めればよいかが明確になるでしょう。
自立支援医療制度とは?
医療費の自己負担を軽くする公的な制度
自立支援医療制度は、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法)」に基づき、心身の障害がある方の医療費の自己負担を軽減する公的な制度です。この制度の目的は、心身の障害の除去・軽減を図るための医療について、医療費の自己負担を軽減することで、必要な治療を受けやすくし、もって自立した日常生活または社会生活を営むための支援を行うことにあります。
通常、公的医療保険(健康保険など)を利用した場合、医療費の自己負担はかかった医療費の3割(年齢や所得による)ですが、自立支援医療制度を適用すると、この自己負担が原則として1割にまで軽減されます。継続的な通院や服薬が必要な方にとって、経済的な負担を大きく減らすことができる重要な制度です。
精神通院医療・更生医療・育成医療の3種類
自立支援医療制度は、対象となる障害や治療内容によって、以下の3種類に分けられます。それぞれの制度で対象となる方や支援の内容が異なります。
- 精神通院医療
- 精神疾患(てんかんを含む)の治療のために、指定の医療機関へ通院する方の医療費を助成する制度です。精神科や心療内科への通院、デイケア、訪問看護などが対象となります。入院医療費は対象外です。
- 更生医療
- 18歳以上の身体障害者手帳を所持している方が、その障害を除去・軽減する手術等の治療により、職業能力の回復や向上など、確実な治療効果が期待できる場合に医療費を助成する制度です。例えば、関節機能障害に対する人工関節置換術や、視覚障害に対する角膜移植術などが対象です。
- 育成医療
- 18歳未満の身体に障害のある児童で、その障害を除去・軽減する手術等の治療により、確実な治療効果が期待できる場合に医療費を助成する制度です。例えば、口唇口蓋裂に対する形成術や、肢体不自由に対する関節形成術などが対象となります。
このように自立支援医療には3つの種類がありますが、それぞれ対象者や目的が明確に分かれています。
このコラムでは精神通院医療を中心に解説
前述の通り、自立支援医療には3つの区分がありますが、精神疾患を抱える方が利用する機会が最も多いのは「精神通院医療」です。就労継続支援B型事業所の利用を検討されている方の中には、精神的な不調を抱えながら通院を続けている方も少なくありません。そこで、このコラムでは、3種類の中でも特に「精神通院医療」に焦点を当て、その制度内容や手続きについて詳しく解説していきます。更生医療や育成医療については、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口へお問い合わせください。
自立支援医療(精神通院医療)の対象者と適用範囲
対象となる人
自立支援医療(精神通院医療)の対象となるのは、何らかの精神疾患(てんかんを含む)により、通院による治療を継続的に必要とする方です。この制度を利用するにあたり、障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)の所持は必須ではありません。医師の診断に基づき、継続的な通院治療が必要と判断されれば対象となります。
対象となる精神疾患の範囲は「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)第5条」に規定されており、具体的には以下のような疾患が挙げられます。
- 統合失調症
- うつ病、双極性障害などの気分障害
- パニック障害、社会不安障害などの不安障害
- 薬物やアルコールなどの精神作用物質による急性中毒又はその依存症
- 知的障害、心理的発達の障害
- 自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)などの発達障害
- てんかん
- 高次脳機能障害 など
これらの疾患により、通院による精神医療を継続的に必要とする状態の方が、精神通院医療の対象者です。入院中の方は対象外ですが、退院後に通院治療が必要となる場合には申請が可能です。ご自身の状態が対象となるか不明な場合は、かかりつけの医師や医療機関のソーシャルワーカー、お住まいの市区町村の担当窓口に相談してみましょう。
利用できるのは指定自立支援医療機関のみ
自立支援医療制度を利用する上で非常に重要な注意点として、この制度が適用されるのは、都道府県または指定都市が指定した「指定自立支援医療機関」に限られるという点です。指定自立支援医療機関には、病院・診療所(クリニック)、薬局、訪問看護ステーションの3種類があります。制度を利用する際には、申請時にこれらの医療機関の中から、ご自身が利用する病院・診療所、薬局などを原則としてそれぞれ1ヶ所ずつ指定して届け出る必要があります。
したがって、現在通院している医療機関や利用している薬局が指定を受けていない場合、自立支援医療制度を利用するためには、指定を受けている別の医療機関等に変更するか、現在の医療機関に指定申請をしてもらう必要があります。指定自立支援医療機関は、お住まいの都道府県や市区町村のウェブサイトで一覧を確認できます。また、医療機関の窓口や受付に制度の対象機関である旨の掲示がある場合も多いです。申請前に必ず確認しておきましょう。
制度の適用対象となるもの・ならないもの
自立支援医療(精神通院医療)は、精神疾患の治療に関連するすべての医療費が対象になるわけではありません。適用対象となる費用と、ならない費用を正しく理解しておくことが大切です。
【適用対象となるもの】
精神疾患の治療のために、指定自立支援医療機関で受ける以下の医療が対象です。
- 通院:診察、検査など
- 薬剤:処方された薬の費用(薬局での調剤費)
- デイケア:精神科デイケア、デイナイトケアなどの費用
- 訪問看護:精神科訪問看護の費用
- てんかんの治療:精神科以外の科(脳神経外科など)でてんかんの治療を受ける場合の医療費
これらの費用について、自己負担が原則1割に軽減されます。
【適用対象とならないもの】
以下の費用は自立支援医療の対象外です。
- 入院医療費:精神科病棟への入院費用は対象外です。
- 精神疾患と関係のない病気やケガの治療費:例えば、風邪で内科を受診したり、ケガで整形外科にかかったりした場合の医療費は対象になりません。
- 公的医療保険が適用されない治療や費用:保険適用外のカウンセリング、診断書などの文書作成料、差額ベッド代などは対象外です。
- 指定自立支援医療機関以外で受けた医療:申請時に届け出た医療機関・薬局以外で受けた医療費は、原則として対象になりません。
このように、制度の適用範囲には限りがあります。ご自身の治療内容が対象になるか分からない場合は、医療機関や市区町村の窓口で事前に確認することをおすすめします。
自己負担額はいくらになる?
原則1割負担に軽減される
自立支援医療制度の最も大きなメリットは、医療費の自己負担割合が軽減される点です。通常、会社の健康保険や国民健康保険などの公的医療保険では、窓口での自己負担は3割(未就学児は2割、70歳以上は所得に応じて1〜3割)ですが、この制度を利用すると自己負担が原則1割になります。
例えば、医療費の総額が10,000円だった場合、通常は3割負担で3,000円の自己負担となりますが、自立支援医療を適用すると1割負担となり、自己負担額は1,000円にまで軽減されます。継続的な通院や服薬が必要な精神疾患の治療において、この負担軽減は経済的に大きな支えとなります。診察代だけでなく、処方される薬代も対象となるため、毎月の医療費を大幅に抑えることが可能です。
所得に応じた自己負担上限額
原則1割負担となることに加え、自立支援医療制度には、世帯の所得に応じて1ヶ月あたりの自己負担額に上限が設けられています。これにより、医療費が高額になった場合でも、上限額を超えて支払う必要がなく、安心して治療に専念できます。自己負担上限月額は、受診者と同じ医療保険に加入している「世帯」の市町村民税(所得割)の課税額に応じて、以下の表のように区分されます。
所得区分 | 世帯の所得状況(市町村民税の課税状況) | 月額自己負担上限額 |
---|---|---|
生活保護 | 生活保護世帯 | 0円 |
低所得1 | 市町村民税非課税世帯で、本人の収入が年80万円以下 | 2,500円 |
低所得2 | 市町村民税非課税世帯で、本人の収入が年80万円を超える | 5,000円 |
中間所得層1 | 市町村民税(所得割)の課税額が3万3千円未満 | 5,000円 |
中間所得層2 | 市町村民税(所得割)の課税額が3万3千円以上23万5千円未満 | 10,000円 |
一定所得以上 | 市町村民税(所得割)の課税額が23万5千円以上 | 制度の対象外※ |
※「重度かつ継続」に該当する場合は20,000円
「重度かつ継続」に該当する方への特例
「中間所得層1・2」および「一定所得以上」の区分に該当する方のうち、症状が重く、継続的な治療が必要と判断される「重度かつ継続」の対象となる場合は、自己負担上限月額が軽減される経過的特例が設けられています。
【重度かつ継続の対象範囲】
- 疾患によるもの
- 統合失調症、うつ病、双極性障害、てんかん、認知症等の脳機能障害、薬物関連障害(依存症等)など、特定の疾患に該当する方。
- 医療費によるもの
- 申請前の12ヶ月間で、高額療養費の支給を3回以上受けた方。
この特例に該当する場合、「中間所得層1」は5,000円、「中間所得層2」は10,000円、「一定所得以上」でも20,000円の上限額が適用されます。ご自身が該当するかどうかは、申請時に医師の診断書等で判断されます。
自立支援医療の申請・更新手続き
申請から自立支援医療受給者証交付までの流れ
自立支援医療制度を利用するためには、お住まいの市区町村の担当窓口(障害福祉課など)で申請手続きを行う必要があります。申請から利用開始までの大まかな流れは以下の通りです。
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- 市区町村の窓口で相談・書類の入手
まずはお住まいの市区町村の障害福祉担当窓口へ行き、自立支援医療制度を利用したい旨を相談します。そこで制度の説明を受け、申請に必要な書類(申請書など)を受け取ります。
- 市区町村の窓口で相談・書類の入手
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- 医師に診断書の作成を依頼
申請には、主治医による診断書(自立支援医療(精神通院)用)が必要です。市区町村の窓口で受け取った診断書の用紙をかかりつけの医療機関に持参し、作成を依頼します。診断書の作成には費用がかかり、医療機関によって金額は異なります。
- 医師に診断書の作成を依頼
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- 必要書類を揃えて窓口に提出
診断書が完成したら、申請書やその他必要な書類と一緒に、再度市区町村の窓口へ提出します。提出する書類に不備がないか、事前にしっかり確認しましょう。
- 必要書類を揃えて窓口に提出
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- 審査
提出された書類をもとに、都道府県または指定都市の審査機関で、制度の対象となるかどうかの審査が行われます。審査には通常1〜2ヶ月程度の時間がかかります。
- 審査
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- 自立支援医療受給者証と自己負担上限額管理票の交付
審査の結果、承認されると「自立支援医療受給者証」と、該当者には「自己負担上限額管理票」が交付され、自宅に郵送されます。これらが手元に届いた時点から、制度を利用して医療を受けることができます。受給者証に記載された有効期間や指定医療機関を必ず確認してください。
- 自立支援医療受給者証と自己負担上限額管理票の交付
申請に必要な書類
申請時に必要となる書類は、自治体によって若干異なる場合がありますが、一般的には以下の通りです。事前に市区町村の窓口に確認しておくとスムーズです。
- 支給認定申請書:市区町村の窓口で入手できます。
- 診断書(自立支援医療・精神通院医療用):主治医に作成を依頼します。診断書の有効期間は作成日から3ヶ月以内とされていることが多いため、入手後は速やかに申請しましょう。
- 健康保険証の写し:受診者本人と、同じ医療保険に加入している家族全員分が必要です。国民健康保険の場合は世帯全員、会社の健康保険の場合は被保険者と受診者本人のものが求められます。
- 世帯の所得状況が確認できる書類:市町村民税の課税証明書など。ただし、マイナンバーを提示することで省略できる場合があります。
- マイナンバー(個人番号)が確認できる書類:マイナンバーカード、通知カード、またはマイナンバーが記載された住民票の写しなど。
- 印鑑
これらの書類は、制度を正しく適用するために不可欠なものです。特に、健康保険証の写しは「世帯」の範囲を確認し、所得区分を決定するために重要となります。不明な点があれば、ためらわずに窓口の担当者に質問しましょう。
有効期間と更新手続きについて
自立支援医療受給者証には、原則1年間の有効期間が定められています。有効期間が終了した後も制度の利用を継続したい場合は、更新手続きが必要です。更新手続きは、有効期間が終了する3ヶ月前から申請することができます。手続きを忘れて有効期間が切れてしまうと、再度新規申請扱いとなり、承認されるまでの間は医療費が3割負担に戻ってしまうため、早めの手続きを心がけましょう。
更新手続きに必要な書類は、新規申請時とおおむね同じですが、病状に変化がない場合など、医師の診断書の提出が2年に1度で済む場合があります。この取り扱いは自治体によって異なる可能性があるため、更新の案内が届いたら内容をよく確認し、市区町村の窓口に問い合わせるのが確実です。更新申請が受理されれば、有効期間内に新しい受給者証が届きます。継続的な治療が必要な方にとって、更新手続きは非常に重要ですので、スケジュール管理をしっかり行いましょう。
知っておきたいデメリット
医療費の負担を大きく軽減できる自立支援医療制度ですが、利用する上で知っておきたい注意点もいくつかあります。これらを「デメリット」と捉えるかどうかは人によりますが、事前に理解しておくことで、スムーズな制度利用につながります。
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- 利用できる医療機関・薬局が限定される
前述の通り、この制度は指定された医療機関・薬局でしか利用できません。申請時に登録した場所以外では適用されないため、転居や転院の際には、その都度、指定医療機関の変更手続きが必要になります。この手続きを忘れると、新しい医療機関では制度が使えないため注意が必要です。
- 利用できる医療機関・薬局が限定される
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- 申請や更新の手続きに手間がかかる
申請には、役所へ足を運んだり、医師に診断書を依頼したりと、一定の手間と時間がかかります。特に初回の申請時は、揃えるべき書類も多く、煩雑に感じることがあるかもしれません。また、1年ごとの更新手続きも必要です。
- 申請や更新の手続きに手間がかかる
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- 受給者証が届くまで制度を利用できない
申請してから受給者証が交付されるまでには、1〜2ヶ月程度の審査期間があります。この間にかかった医療費は、さかのぼって助成を受けることができません(一部自治体では特定の条件下で還付制度がある場合もありますが、原則は適用外です)。
- 受給者証が届くまで制度を利用できない
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- 受診時に受給者証と上限額管理票の提示が必要
指定医療機関の窓口で会計をする際には、健康保険証と一緒に「自立支援医療受給者証」を提示する必要があります。上限額が設定されている方は「自己負担上限額管理票」も必要です。これらを忘れると、その場では1割負担が適用されず、一度3割負担で支払うことになる場合があります。
- 受診時に受給者証と上限額管理票の提示が必要
これらの注意点を理解し、計画的に手続きを進めることが、制度を有効に活用する鍵となります。
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