
障害者総合支援法とは?
障害や病気のある方が利用できる福祉サービスには、「就労継続支援」や「グループホーム」など様々な種類があります。これらの多様なサービスを一つの法律で支えているのが「障害者総合支援法」です。
この法律は、障害のある方が自分らしい生活を送るための、いわば「社会のインフラ」として重要な役割を担っています。しかし、「法律」と聞くと、少し難しく感じてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
この記事では、障害者総合支援法の目的、対象者、サービス内容、利用手続き、費用といった基本を、初心者の方にも分かりやすく解説します。法律の全体像を理解することで、あなたやご家族が必要とするサポートを見つけやすくなるはずです。
障害のある方の自分らしい生活を支えるための法律
障害者総合支援法の正式名称は、「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」です。その名の通り、障害のある方が日常生活や社会生活を送る上で必要な支援を総合的に提供し、自立した生活を営めるように支援することを目的としています。
以前は「障害者自立支援法」という名称でしたが、2012年に成立した改正法により、2013年4月1日から現在の名称となり、支援の対象となる人の範囲が広げられました。
法律の基本的な理念
障害者総合支援法は、重要な理念に基づいています。その根幹にあるのは、「すべての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重される」という考え方です。
- 障害の有無によって分け隔てられることなく、互いに人格と個性を尊重し合う「共生社会」の実現
- 必要な支援が、できる限り身近な場所で受けられる体制の整備
- どこで誰と生活するか、本人の意思で選択する機会の確保
- 社会生活を送る上での妨げとなる「社会的障壁」の除去
これらの理念は、国や地方自治体がサービスを提供する上での基本方針となっています。
法律の対象者
- 身体障害者
- 身体障害者手帳を持つ18歳以上の方
- 知的障害者
- 療育手帳を持つ18歳以上の方
- 精神障害者
- 精神障害者保健福祉手帳を持つ18歳以上の方(発達障害者を含む)
- 難病患者など
- 治療法が確立していない特定の疾病により、一定程度の障害がある方
- 障害児
- 上記の障害のある18歳未満の児童
障害者手帳を所持していない場合でも、医師の診断書や意見書などに基づき、市区町村がサービスの必要性を認めれば対象となることがあります。
障害者総合支援法で定められた主なサービス
障害者総合支援法が提供するサービスは、「自立支援給付」と「地域生活支援事業」の2つで構成されています。
自立支援給付
自立支援給付は、個々の利用者の心身の状況やニーズに応じて提供される、全国一律のサービスです。これはさらに「介護給付」と「訓練等給付」に分けられます。
介護給付:日常生活に必要な介護を支援
主に、日常生活を送る上で身体的な介助を必要とする方に提供されるサービスです。
-
- 居宅介護(ホームヘルプ):自宅での入浴、排泄、食事などの介護や、調理、洗濯、掃除といった家事の支援を行います。
- 重度訪問介護:重度の肢体不自由または知的・精神障害があり常に介護を必要とする方に、長時間の見守りや介護を総合的に提供します。
- 同行援護:視覚障害により、移動に著しい困難を有する方の外出をサポートします。
- 行動援護:知的障害や精神障害により、行動上著しい困難がある方の外出時の危険回避などを支援します。
- 施設入所支援:施設に入所している方に対し、夜間を中心に介護や生活に関する支援を行います。
訓練等給付:自立や就労のための訓練を支援
地域社会で自立した生活を送る能力や、働くためのスキルを身につけるためのサービスです。
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- 自立訓練(生活訓練・機能訓練):金銭管理や家事、コミュニケーション能力などを高めるための訓練や、身体機能の維持・向上を目指す訓練を行います。
- 就労移行支援:一般企業への就職を目指す方が、必要な知識やスキルを学ぶための訓練や、職場探し、定着支援を行います。
- 就労継続支援(A型・B型):一般企業で働くことが困難な方が、支援を受けながら働く機会を得るための場所です。
- 共同生活援助(グループホーム):地域のアパートや一戸建てで、数人の仲間と共同生活を送りながら、日常生活の相談や支援を受けられます。
地域生活支援事業
地域生活支援事業は、全国一律の自立支援給付とは異なり、市区町村や都道府県が、それぞれの地域の実情に応じて柔軟に実施するサービスです。相談支援事業や移動支援事業などがこれに含まれます。
就労支援サービスの種類と違い
「働きたい」という思いを支える訓練等給付の中でも、特に「就労移行支援」と「就労継続支援(A型・B型)」は、それぞれの目的や対象者が異なります。自分に合ったサービスを選ぶために、違いを理解しておくことが重要です。
就労継続支援B型:自分のペースで働く準備を
就労継続支援B型は、事業所と雇用契約を結ばずに利用します。そのため、週1日や1日数時間といった短時間からの利用が可能で、自分の体調やペースに合わせて通いやすいのが特徴です。作業の対価として「工賃」が支払われます。
年齢や体力の面で一般企業への就職が不安な方や、就労経験が乏しくまずは働くことに慣れたい方、生活リズムを整えるところから始めたい方などが主な対象です。
就労継続支援A型との違い
就労継続支援A型は、事業所と雇用契約を結んで利用するサービスです。雇用契約があるため、労働基準法が適用され、都道府県の最低賃金以上の「給与」が保障されます。勤務時間も原則として週20時間以上となります。
B型に比べて、より安定した収入と一般就労に近い働き方ができる一方、一定の業務をこなす能力や、継続して勤務できる体力などが求められます。
就労移行支援との違い
就労移行支援は、その名の通り「一般企業への就職(移行)」を最終目標とするサービスです。利用期間は原則2年間と定められており、その間にビジネスマナーやPCスキルなどの職業訓練、求職活動のサポート、就職後の職場定着支援などを受けます。
一方、就労継続支援は、働く「場所」や「機会」を提供すること自体が主目的であり、利用期間に定めはありません。移行支援を利用したけれど就職に至らなかった方や、福祉的なサポートのある環境で働き続けたい方が利用します。
障害福祉サービスの利用には、費用がかかる場合があります。ただし、負担が過重にならないよう、所得に応じた仕組みが設けられています。
原則1割負担と「利用者負担上限月額」
サービスの利用にかかる費用のうち、原則として1割を利用者が負担します。例えば、1ヶ月に10万円分のサービスを利用した場合、自己負担は1万円となります。
しかし、所得に応じて「利用者負担上限月額」が定められており、ひと月に利用したサービス量にかかわらず、その上限額を超える負担は発生しません。この仕組みにより、安心してサービスを利用できます。
所得区分ごとの負担上限月額
所得区分 | 対象となる世帯 | 負担上限月額 |
---|---|---|
生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 |
低所得 | 市町村民税非課税世帯 | 0円 |
一般1 | 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満) | 9,300円 |
一般2 | 上記以外(所得割16万円以上) | 37,200円 |
※入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者は「一般2」の区分にはなりません。
サービス利用料金以外の費用
上記の利用者負担額とは別に、事業所で提供される昼食の食費や、創作活動で使う材料費、レクリエーションの参加費などは、実費負担となる場合があります。何が実費となるかは事業所によって異なるため、利用前に確認することが大切です。
障害福祉サービスの利用手続きと流れ
障害福祉サービスを利用するためには、原則としてお住まいの市区町村の窓口で手続きを行う必要があります。
ステップ1:市区町村の窓口や相談支援事業者に相談
まずは、市区町村の障害福祉担当窓口や「指定特定相談支援事業者」に相談することから始まります。指定特定相談支援事業者は、サービス利用に関する専門知識を持つ相談員が、利用者の良きパートナーとなってくれる存在です。
ここでは、悩みや希望する生活について伝えることで、利用できそうなサービスの情報提供を受けたり、事業所の見学調整を手伝ってもらえたりします。何から始めればよいか分からない場合でも、課題の整理からサポートしてくれます。
ステップ2:サービスの利用申請
利用したいサービスが決まったら、市区町村の窓口に利用申請を行います。申請時には、マイナンバーがわかるものや本人確認書類、障害者手帳などが必要になる場合があります。
ステップ3:障害支援区分の認定調査
介護給付サービス(居宅介護、施設入所支援など)の利用を希望する場合には、「障害支援区分」の認定が必要です。市区町村の認定調査員が利用者と面会し、心身の状況について聞き取り調査を行います。この調査結果と医師の意見書などを基に、支援の必要度合いが区分1~6(または非該当)で判定されます。
※訓練等給付(就労継続支援など)の利用では、原則として区分認定は不要です。
ステップ4:サービス等利用計画案の作成
サービスの支給決定に先立ち、「サービス等利用計画案」を作成し、市区町村に提出する必要があります。これは、本人が希望する生活を実現するために、どのようなサービスをどう利用するかを具体的に示す計画書です。通常、ステップ1で相談した指定特定相談支援事業所の相談支援専門員が、本人や家族の意向を踏まえて作成します。
ステップ5:支給決定とサービスの利用開始
提出された書類や障害支援区分の結果などを基に、市区町村がサービスの支給量を決定し、「障害福祉サービス受給者証」が交付されます。この受給者証を利用したい事業所に提示して契約を結ぶことで、サービスの利用を開始できます。
近年の法改正と今後の動向
2024年4月に施行された主な改正点
- 精神障害者の支援体制強化:「入院者訪問支援」の創設により、退院後の地域生活を見据えた支援を強化。
- 地域生活支援体制の強化:市区町村主体で地域生活を支える拠点整備が進行。
今後の主な改正予定
- 就労選択支援の創設(2025年10月施行予定):就労アセスメントを活用し、本人に合った就労支援を行う新サービスの導入。
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ここまで見てきたように、障害者総合支援法は、障害のある方の生活を様々な角度から支える、幅広く重要な法律です。その中で、「働きたい」という思いに応えるサービスの一つが、私たち就労継続支援B型事業所オリーブです。
オリーブは、障害者総合支援法に定められた「訓練等給付」であり、法律の理念に基づいて運営されています。あなたの「自分らしくありたい」という思いを尊重し、ご自身の体調やペースに合わせた働き方を提案します。
法律の全体像を知ることは、自分に合ったサービスを見つけるための羅針盤となります。もしあなたの羅針盤が「働く」という方向を指しているのであれば、ぜひ一度オリーブにご相談ください。法律という大きな支えのもと、私たちがあなたの具体的な一歩をサポートします。