
障害や病気と共に働き続けたいと考えたとき、「自分に合った職場はどこだろう」「障害に理解のある会社で働きたい」と、多くの方が職場探しに悩まれることでしょう。そんな選択肢の一つとして、近年注目されているのが「特例子会社」という働き方です。この名前を聞いたことはあっても、具体的にどのような会社で、一般企業の障害者雇用と何が違うのか、給料や仕事内容はどんなものなのか、詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。この記事では、特例子会社の基本的な仕組みから、働く上でのメリット・デメリット、給料や仕事内容、そして求人の探し方や面接のポイントまで、分かりやすく解説していきます。あなたらしいキャリアを考える上で、ぜひ参考にしてください。
特例子会社とは?
特例子会社は、障害のある方の雇用を促進し、その能力を最大限に発揮できる環境を提供するために、特別な配慮のもとに設立された会社です。
障害のある方の雇用を促進するために設立された子会社
特例子会社とは、企業が障害のある方の雇用を促進する目的で特別に設立した子会社のことです。「障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)」に定められた一定の要件を満たし、厚生労働大臣の認可を受けることで設立できます。親会社は、特例子会社で雇用している障害のある方を、自社で雇用しているものとして合算し、法律で定められた法定雇用率に算入することが認められています。
つまり、企業にとっては、障害のある方が働きやすい専門の環境を子会社として作ることで、社会的な責任を果たしやすくなるというメリットがあります。働く側にとっては、障害への理解と配慮に特化した企業で、安心して能力を発揮できるというメリットがあります。
特例子会社の目的と制度の仕組み
特例子会社制度の最も大きな目的は、障害のある方の安定した雇用の場を創出することです。多くの障害のある方は、一般の職場環境では能力を発揮しにくいという課題を抱えています。そこで、障害者雇用に特化した子会社を作り、そこに設備やノウハウ、支援体制を集中させることで、障害のある方一人ひとりが安心して、かつ能力を最大限に発揮できる環境を効率的に実現しようというのが、この制度の仕組みです。
設立のための主な要件
特例子会社として国の認可を受けるためには、障害者雇用促進法に基づき、以下のような親会社・子会社双方の要件を満たす必要があります。
- 親会社の要件
- 子会社の意思決定機関(株主総会など)を支配していること。
- 子会社の要件
- 親会社からの役員派遣など、人的な関係が緊密であること。雇用される障害のある方が5人以上で、全従業員に占める割合が20%以上であること。また、障害のある従業員の雇用管理を適正に行う能力があること。
- 施設や設備の要件
- 障害の特性に配慮した施設や設備が整備されていること。
これらの要件は、特例子会社が単なる数合わせではなく、実質的に障害のある方の安定雇用に貢献する場であることを担保するために定められています。
特例子会社で働くメリット・デメリット
特例子会社で働くことには、多くのメリットがある一方、いくつかのデメリットも存在します。両方を理解した上で、自分に合った働き方かどうかを判断することが大切です。
メリット:障害への理解や配慮を得やすい環境
最大のメリットは、会社全体が障害のある方を雇用することを前提に設立・運営されているため、障害への深い理解と手厚い配慮がある点です。
- 物理的な配慮
- バリアフリー設計のオフィスやトイレ、分かりやすい表示など、誰もが働きやすい環境が整備されています。
- 業務上の配慮
- 一人ひとりの障害特性や能力に合わせて、業務内容や仕事量が調整されます。図やマニュアルを用いた分かりやすい指示、定期的な面談など、安心して仕事に取り組める工夫がされています。
- 体調への配慮
- 定期的な通院のための休暇が取りやすかったり、体調が優れないときに休憩できるスペースが設けられていたりと、健康面へのサポートが充実しています。
- 人的なサポート体制
- 障害に関する知識を持つ上司や同僚が多く、専門の支援スタッフ(相談員やジョブコーチなど)が常駐している場合もあり、仕事上や生活上の悩みを気軽に相談できます。
メリット:定着率が高く安心して長く働ける
上記のような手厚いサポート体制があるため、特例子会社は従業員の定着率が非常に高い傾向にあります。一般企業では、職場の無理解やミスマッチから、早期に離職してしまうケースも少なくありません。しかし、特例子会社では、同じように障害のある仲間が多く働いており、お互いの状況を理解し合えるという心理的な安心感もあります。困ったときにはすぐに相談できる環境と、支え合える仲間がいることで、ストレスを溜めずに安心して長く働き続けることが可能です。
デメリット:求人が少なく職種が限定される傾向
一方で、デメリットも存在します。まず、特例子会社の絶対数がまだ少なく、求人自体が限られているという点が挙げられます。特に地方では、都市部に比べて特例子会社が少ないため、希望しても通勤圏内に見つからない場合があります。また、職種が事務補助や軽作業、清掃などに限定されやすい傾向もあります。専門的なスキルやキャリアを活かしたい、多様な業務にチャレンジしたいという方にとっては、仕事内容に物足りなさを感じてしまう可能性も考えられます。
デメリット:給料が比較的低い場合がある
給料面も、デメリットとなり得る点です。後述するように、法律で定められた最低賃金は保障されますが、一般企業の給与水準と比較すると、全体的に低めの傾向にあると言われています。これは、業務内容が定型的なものが中心であることや、キャリアアップの機会が限られていることなどが理由として考えられます。安定した環境を重視するか、給与やキャリアアップを重視するか、ご自身の価値観と照らし合わせて検討する必要があります。
特例子会社の給料(給与)と仕事内容
実際に特例子会社で働く場合、どのくらいの給料で、どのような仕事をするのでしょうか。
給料は最低賃金以上が保証される
特例子会社も、親会社とは別の法人格を持つ会社であり、従業員とは雇用契約を結びます。そのため、給料は労働基準法に基づいて、各都道府県が定める最低賃金額以上の金額が必ず支払われます。給与形態は月給制が多く、賞与(ボーナス)が支給される会社もあります。ただし、給与水準は、親会社の規模や業務内容によって大きく異なります。一般的には、地域の最低賃金レベルからスタートすることが多いようです。
主な業務内容は事務や軽作業など
特例子会社の業務内容は、親会社やグループ会社から委託されたサポート的な業務が中心となります。
【主な仕事内容の例】
- 事務系業務
- データ入力、書類のファイリング・スキャン、郵便物の仕分け・発送、名刺作成、経費精算の補助など
- IT・Web関連業務
- パソコンのセットアップ、社内ヘルプデスクの補助、Webサイトの簡単な更新作業、データのバックアップなど
- 軽作業・製造系業務
- 部品の組み立て、製品の検品・梱包、パンやお菓子の製造、書類の電子化(スキャニング)など
- サービス・清掃系業務
- オフィスの清掃、社内カフェの運営、社内便の配達、緑地の管理、マッサージ(ヘルスキーパー)など
一般企業の障害者雇用との違い
特例子会社と、一般企業が障害のある方を雇用する「障害者雇用」は、どちらも障害のある方のための働き方ですが、職場環境やサポート体制に大きな違いがあります。
障害に特化した環境とサポート体制
最大の違いは、職場にいる人の大半が障害への理解を持っているかどうかです。一般企業の障害者雇用の場合、配属される部署の上司や同僚が、必ずしも障害に関する深い知識や理解を持っているとは限りません。一方、特例子会社は、経営陣から現場の社員まで、ほとんどの人が障害者雇用を前提として関わっています。障害があることが「当たり前」の環境なので、お互いの特性を理解し、自然な形で助け合う文化が根付いています。
雇用形態とキャリアパス
雇用形態については、一般企業の障害者雇用では正社員での採用も多いのに対し、特例子会社では、まずは契約社員やパートタイマーとしてスタートするケースが多い傾向にあります。これは、まずは本人がその職場環境に無理なく適応できるかを見極める期間を設けるためです。しかし、これはキャリアアップが閉ざされているという意味ではありません。多くの特例子会社では、勤務状況や本人の希望、能力に応じて正社員へ登用する制度を設けています。
入社後は、リーダーやサブリーダーといった役職に就き、新人教育や業務の進捗管理を任されるなど、ステップアップの道も用意されています。また、資格取得支援制度などを活用してスキルを磨き、より専門的な業務へ挑戦することも可能です。
特例子会社の求人を探す方法
特例子会社で働きたいと思った場合、どうやって求人を探せばよいのでしょうか。
ハローワークの障害者相談窓口
最も基本的な方法が、ハローワークの専門援助窓口(障害者相談窓口)を利用することです。障害のある方の就職を専門にサポートする職員がおり、特例子会社の求人情報も豊富に集まっています。
障害者専門の転職エージェント
民間の障害者専門の転職エージェントに登録するのも有効な方法です。専門のキャリアアドバイザーが、あなたの希望やスキルをヒアリングした上で、非公開求人を含む多くの求人の中から、あなたに合った特例子会社を紹介してくれます。
就労移行支援事業所の活用
就労移行支援事業所は、一般企業への就職を目指す障害のある方が、職業訓練や就職活動のサポートを受けられる福祉サービスです。多くの事業所は地域の特例子会社と連携しており、実習の機会などを通じて、実際の職場を体験した上で応募を検討できます。
求人を探す際のポイント
特例子会社の求人を探す際は、給与や勤務地だけでなく、以下の点も確認すると、より自分に合った職場を見つけやすくなります。
- 具体的な業務内容
- 同じ「事務補助」でも、会社によって内容は様々です。自分ができそうなこと、挑戦してみたいことが含まれているか確認しましょう。
- 障害への配慮
- 求人票に書かれている配慮事項が、自分の希望と合っているか。「通院への配慮」「業務量の調整」など、具体的な記述があるかを見ましょう。
- サポート体制
- 相談員やジョブコーチの有無、定期的な面談の頻度など、サポート体制の手厚さを確認しましょう。
- キャリアパス
- 正社員登用の実績や、入社後のキャリアモデルが示されているか。将来の働き方をイメージできるかどうかも大切なポイントです。
面接で準備しておくこと
特例子会社の面接では、一般的な質問に加えて、障害の特性や必要な配慮について尋ねられることが多くあります。事前に自分の言葉で説明できるよう準備しておくことが重要です。
- 自分の障害特性について
- 得意なこと、苦手なことを具体的に説明する。「集中力は高いですが、同時に複数の指示を受けると混乱することがあります」など、客観的に伝えましょう。
- 希望する配慮
- なぜその配慮が必要なのか、理由とセットで伝える。「疲れやすいため、1時間に5分程度の休憩をいただけると、集中力を維持して業務に取り組めます」といった形です。
- 体調管理の方法
- 安定して働き続けるために、自身で工夫していること(服薬管理、通院、睡眠時間の確保など)をアピールしましょう。
- 仕事への意欲
- 「なぜこの会社で働きたいのか」「仕事を通じてどうなりたいか」といった前向きな姿勢を伝えることも大切です。
いきなり企業で働くのは不安…まずは就労継続支援B型事業所オリーブで準備を
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データ入力や軽作業など、ストレスの少ない仕事を通じて、まずは安定した生活リズムを築き、働くことへの自信を少しずつ取り戻していくことができます。特例子会社や一般企業への就職を目指す前の、「働くためのリハビリ」の場として、多くの方が利用されています。
いきなり企業で働くことに不安を感じたら、まずはオリーブで、あなたらしい働き方の第一歩を踏み出してみませんか。見学や相談はいつでも受け付けています。ご連絡を心よりお待ちしています。