知能検査とは?目的・種類・受けられる場所・費用を解説

「知能検査」や「IQテスト」という言葉を聞いて、あなたはどのようなイメージを持ちますか。「頭の良さを測るテスト」「なんだか難しそう」といった印象があり、自分には関係ないと感じている方も多いかもしれません。しかし、知能検査は単に「頭が良いか悪いか」を判定するためのものではありません。実は、私たちが物事をどのように理解し、考え、処理しているのか、その「知能の個性」や「得意・不得意のバランス」を客観的に理解するための、非常に有用なツールなのです。
特に、仕事や日常生活で「なぜかうまくいかない」と感じていることの背景に、ご自身の認知機能の特性が関係していることもあります。この記事では、知能検査とは何か、その目的やメリット、代表的な検査の種類、そしてどこで受けられて、費用はどのくらいかかるのかを、分かりやすく解説していきます。
知能検査とは?
知能検査は、個人の知的な能力を客観的に測定するために、専門家によって開発された心理検査の一種です。様々な課題を通して、記憶力、思考力、言語能力、空間認識能力といった、知能を構成する複数の側面を評価します。その最大の目的は、IQ(知能指数)という一つの数値で優劣をつけることではありません。むしろ、知能全体のバランスを見て、どの能力が高く、どの能力に課題があるのか、その「認知のプロフィール(得意と不得意のパターン)」を明らかにすることにあります。
このプロフィールを理解することで、本人が感じている「生きづらさ」の原因を探ったり、その人に合った学習方法や、働きやすい環境を見つけたりするための、具体的な手がかりを得ることができます。特に、発達障害の診断においては、診断を補助するための重要な情報の一つとして活用されています。
知能検査でわかる「IQ(知能指数)」とは?
IQ(Intelligence Quotient)は、知能検査の結果を数値で表したものです。同年齢の人たちの中で、その人がどの程度の位置にいるかを示す相対的な指標であり、平均が100になるように設定されています。多くの人はIQ85~115の範囲に収まるとされています。IQは「頭の良さ」そのものではなく、あくまで検査で測定された知的能力の一側面を示すものと理解することが大切です。
知能検査を受けるメリット
知能検査を受けることには、ご自身の人生にとって多くのメリットがあります。
- 自己理解が深まる:「なぜか人の話を覚えられない」「段取りを立てるのが苦手」といった漠然とした悩みの原因が、「ワーキングメモリーが低いから」「処理速度がゆっくりだから」というように、客観的な特性として理解できます。これにより、「自分はダメな人間だ」と責めるのではなく、「自分にはこういう特性があるんだ」と前向きに受け入れられるようになります。
- 周囲に自分の特性を説明しやすくなる:検査結果は、自分の得意・不得意を、家族や職場、支援者などの周囲の人に客観的なデータとして説明するための助けになります。これにより、「怠けている」「やる気がない」といった誤解を解き、必要な配慮やサポートを得やすくなります。
- 具体的な対策や工夫が見つかる:自分の苦手な部分が分かれば、それを補うための具体的な工夫や対策を立てることができます。例えば、ワーキングメモリーが低いなら「指示はメモを取る」、処理速度がゆっくりなら「時間に余裕を持ったスケジュールを立てる」など、生活や仕事がスムーズになるような対処法が見つかります。
- 必要な支援につながる:知能検査の結果は、発達障害の診断を受ける際や、障害者手帳の申請、障害福祉サービスを利用する際の重要な参考資料となります。検査を受けることで、自分に必要な公的な支援やサービスにつながるきっかけになります。
知能検査の種類と内容
知能検査にはいくつかの種類がありますが、ここでは日本で広く使われている代表的な検査を紹介します。
成人用:WAIS-Ⅳ(ウェイス・フォー)
WAIS(ウェクスラー成人知能検査)は、世界で最も標準的に使用されている成人(16歳~90歳11か月)向けの知能検査です。現在は改訂版である「WAIS-Ⅳ」が主流となっています。WAIS-Ⅳは、10~15種類の多様な下位検査(パズルや単語問題、計算など)を通して、知能を以下の4つの指標で評価します。
指標の名称 | 測定する能力 | この指標が低いと見られる困難さの例 |
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言語理解指標(VCI) | 言葉による理解力、表現力、知識、論理的思考力など、言語的な能力を測定します。 | ・言葉での説明や指示の理解が苦手 ・自分の考えを言葉でまとめるのが難しい ・場の空気を読むのが苦手 |
知覚推理指標(PRI) | 目で見た情報を理解し、論理的に考え、問題を解決する力。いわゆる「見て考える力」を測定します。 | ・図やグラフの読み取りが苦手 ・地図を読むのが難しい ・物事の全体像を把握するのが苦手 |
ワーキングメモリー指標(WMI) | 注意を向けながら、一時的に情報を記憶し、同時に処理する能力。「脳のメモ帳」のような働きです。 | ・口頭での指示を覚えられない ・話が長くなると要点が分からなくなる ・計算ミスや書き写し間違いが多い |
処理速度指標(PSI) | 簡単な視覚情報を、素早く、正確に、たくさん処理する能力。単純作業のスピードや正確さに関わります。 | ・単純作業でも時間がかかり、ミスが多い ・板書やメモを取るのが追いつかない ・複数の選択肢から素早く選ぶのが苦手 |
これらの4つの指標の得点から、全検査IQ(FSIQ)という、いわゆる総合的なIQが算出されます。しかし、発達障害の特性を理解する上では、このFSIQの数値そのものよりも、4つの指標の得点のばらつき(ディスクレパンシー)の方がはるかに重要です。例えば、「言語理解は非常に高いのに、処理速度が極端に低い」といった大きな差がある場合、そのギャップが本人の「できること」と「できないこと」の差を生み、生きづらさの原因となっていると考えられます。
子ども用:WISC-V(ウィスク・ファイブ)
WISC(ウィスクラー児童用知能検査)は、WAISと同じウェクスラー式の知能検査で、子ども(5歳0か月~16歳11か月)を対象としています。最新版は「WISC-V」です。大人の発達障害の診断では、子どもの頃の様子を知ることが重要になるため、過去にWISC検査を受けたことがある場合は、その結果が貴重な参考資料となります。
田中ビネー知能検査Ⅴ
田中ビネー知能検査も、日本で古くから使われている代表的な知能検査です。最新版は「田中ビネー知能検査Ⅴ(ファイブ)」で、2歳から成人までという非常に幅広い年齢層に適用できるのが特徴です。年齢ごとに難易度が設定された問題で構成されており、子どもの発達段階を細かく評価するのに適しています。
知能検査を受けられる場所
知能検査は、専門的な知識と技術を要するため、どこでも受けられるわけではありません。主に、病院や専門の支援機関で受けることになります。
- 病院で受ける場合:精神科や心療内科、一部の神経内科などで受けることができます。ただし、すべての病院で実施しているわけではないため、事前に「大人の知能検査(WAIS-Ⅳなど)を行っていますか?」と電話やホームページで確認することが必須です。
- 支援機関で受ける場合:各都道府県・指定都市に設置されている発達障害者支援センターや、地域の精神保健福祉センターなどで、相談の一環として知能検査を受けられる場合があります。
- カウンセリングルームで受ける場合:医療機関ではありませんが、臨床心理士などが運営する民間のカウンセリングルームでも受けることができます。費用は自費になりますが、比較的早く予約が取れる場合があります。
注意点として、検査結果に基づく「診断」ができるのは医師のみです。支援機関などで検査を受けた場合でも、確定診断が必要な場合は、医療機関を受診する必要があります。
知能検査にかかる費用
知能検査にかかる費用は、健康保険が適用されるかどうかで大きく変わります。
- 保険適用の場合:医師が診察の結果、うつ病や発達障害などの診断のために「検査が必要」と判断した場合は、健康保険が適用されます。その場合の自己負担額は、3割負担の方で数千円~1万5千円程度が目安となります(診察料、検査料、結果説明などすべて含む)。
- 自費(保険適用外)の場合:診断目的ではなく、自己理解のためなどに本人の希望で検査を受ける場合や、カウンセリングルームなどで受ける場合は、自費となります。費用は機関によって大きく異なりますが、WAIS-Ⅳの場合、報告書作成料も含めて2万円~5万円程度かかるのが一般的です。
費用については、事前に検査を希望する機関に直接問い合わせて、保険適用の可否や、自費の場合の総額をしっかり確認しておくことが大切です。
知能検査の結果をどう活かすか?
検査を受けて結果を知ることはゴールではありません。その結果をどう活かして、今後の生活や仕事に役立てていくかが最も重要です。
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- 報告書を読み込み、自己理解を深める:検査結果は、数値だけでなく、得意な点や苦手な点、それを補うためのアドバイスなどが書かれた詳細な報告書として渡されます。自分の「取扱説明書」として、しっかり読み込みましょう。
- 支援者と一緒に振り返る:医師やカウンセラー、支援機関の担当者など、専門的な知識を持つ人と一緒に結果を振り返り、具体的な対策を相談することが有効です。
- 具体的な対策をリストアップする:「ワーキングメモリーが低い→指示はメモを取る、復唱確認する」「処理速度が遅い→作業時間を多めに見積もる、チェックリストを作る」など、具体的な行動プランに落とし込みましょう。
- 職場への伝え方を工夫する:特性について職場に伝える際は、「〇〇が苦手です」というネガティブな情報だけでなく、「△△は得意なので、貢献できます」というポジティブな情報もセットで伝えましょう。また、「〇〇が苦手なので、△△のように配慮していただけると助かります」と、具体的な配慮の内容を提案することも大切です。
知能検査の結果を踏まえた就労相談は就労継続支援B型事業所オリーブへ
知能検査を受けて、ご自身の得意なことや苦手なこと、認知の特性が客観的に分かった。それは、自分らしい働き方を見つけるための、非常に大きな一歩です。「検査結果を、どう仕事に活かせばいいんだろう?」「自分の特性に合った職場って、どんなところだろう?」そのように、検査結果を踏まえた次のステップについて考え始めたとき、私たち就労継続支援B型事業所オリーブが、あなたの力になれるかもしれません。
オリーブは、大阪、兵庫、京都、奈良の関西エリアで、障害のある方がご自身のペースを大切にしながら、安心して働ける場所を提供しています。私たちは、知能検査の結果のような客観的なデータを尊重し、一人ひとりの認知特性に合わせた仕事の提供や、環境設定を心がけています。
例えば、
- 「ワーキングメモリーが低く、口頭指示が苦手」な方には…視覚的なマニュアルを用意し、一度に一つの作業に集中できる環境を整えます。
- 「処理速度がゆっくりで、スピードを求められるのが苦手」な方には…自分のペースで、正確さを重視して取り組めるデータ入力や軽作業を提供します。
オリーブは、検査で分かった「自分の取扱説明書」を、実際の仕事の場面でどう活かしていくかを、支援員と一緒に試行錯誤できる場所です。まずは週1日、1時間から。あなたの「できること」を活かせる働き方を、オリーブで見つけてみませんか。見学や相談はいつでも歓迎しています。